「舐めるなぁあああああああああ!!」
先ほど背後から攻撃してきた『戦車』一人が突出して攻撃を仕掛け、他の眷属達もそれに付いていくように俺に向かって走ってくる。
「俺は事実を言ったまでだ。それに舐めているのお前らの方だろう?」
「――ガッ!?」
『戦車』の攻撃を弾くことで隙を作り、殴り飛ばす。苦しそうにしているが、『兵士』とは違い一撃で沈める事は出来なかったらしい。
「ハァアアアアアアア!!」
続けて来る『騎士』の槍を見切り、一歩踏み込んで弾いて二歩目で撃ち三歩目で次に備える。それを繰り返すことで残り全員の攻撃をしのぎ切る。
「フゥ――」
「なんで!?」
「攻撃が……当たらない!?」
――感覚を研ぎ澄ませろ。もっと、もっと鋭く。
――思い出せ、木場達三人を相手にしたときの感覚を。
いくら纏めて相手をしても問題ないとはいえ、一撃でも食らえばそれは致命傷につながる可能性がある。この後の『可能性』に為にも余力は残しておかなければならない。
――最小限の動きで最大限の結果をだせ。
いくら力が強くなったとしても一撃の重さなら『赤龍帝』の兵藤には絶対に勝てない。スピードなら木場には勝てないし、ヴァーリの様に全てに優れているわけでもない。俺が持ち得るのはこの『頭』と多彩な『手札』。
「すぅ――はぁ――」
視界はクリア、頭はいたって冷静、ダメージは皆無。大丈夫、問題ない。
「でりゃあああああああああ!!」
もう一人の『戦車』が俺めがけて拳を振り下ろしてくる。俺はそれに対抗するかのようにやや軌道をずらして同じく拳で迎え撃つ。
ベキリと骨を折った感触が拳を伝わるとともに、相手の『戦車』の拳を弾く。
「痛ッ!?貴様小指を狙って!?」
悪魔とはいえ人型である限り体の仕組みなんてそうは変わらない。手の中で一番弱い小指を狙うのは喧嘩の常套手段だ。流れ作業の様にややのけぞった状態の『戦車』の顎を殴りつける。
「隙あり!!――え?」
背後から『騎士』の一人が剣を振りかざしてくる。その攻撃に合わせるように『戦車』の髪を掴んで俺と『騎士』の間に滑り込ませ、盾にする。攻撃を止めることが出来なかった『騎士』の剣が切り裂き、『戦車』は仲間の一撃により致命傷を受け、光に包まれて消えていく。
「……まず一人目」
「……貴様ぁあああああああああ!!」
仲間を切ってしまったことに対する自分へ怒りと仲間を盾にされたことに対する俺への怒りで我を失う『騎士』。スピードは上がったが、攻撃が単調すぎる。
「龍之炎≪砕羽≫」
『騎士』の大ぶりな横なぎを屈んで回避し、腕ではなく足に作り出した炎刃で『騎士』の足を切りつけ、バランスを崩したところで追撃を行い、止めを刺す。
「これで二人目。――次」
「これならどうかしら!!」
『僧侶』二名から放たれる複数の魔法。二人分だから数は多いが、この程度なら防げなくもない。
右手を前方にかざし、能力を発動させる。
「龍之炎≪円≫」
生み出されたのは炎の防御結界。炎の結界で閉じ込める『龍の牢獄』を防御用に調節したものだ。こんな豆粒みたいな魔法ではそう簡単には破られる強度ではない。
「そ、そんなものデータには……」
「存在しなかったか?一体いつのデータを解析してきたのかは知らないけど、データってものは常に動くものだ。そろそろそんなデータが役にたっていないことに気付け」
やや大きめの≪崩≫を二発、二人の『僧侶』に向けて放つ。俺のコントロールのもと、逃げ回る二人を正確に追尾する。
「追尾するなら……」
「こっちから撃ち落とすのみ!!」
『騎士』と『戦車』が二人を庇うように立ちふさがる。残念ながらそれも想定済みだ。
「――弾けろ!!」
「へ?きゃあああああああ!?」
二人が撃ち落とそうとした≪崩≫が散弾となって『僧侶』二人も含めた四人に降り注ぐ。突然のことで防ぎきれずに攻撃が直撃した四人は戦闘不能になって消えていく。
「……ラスト一人」
そう言って歯ぎしりしている『女王』に視線を向ける。
「何たる体たらく!!たかが転生悪魔の『兵士』一人にいいようにされるなんて……。クァマセ様になんと言い訳をすればよいのか……!!」
「……ここまで来てその考え方を崩さないのはある意味尊敬できるな」
悔しそうな顔をしていたが、直ぐに余裕そうな表情に変わる。
「……貴方こそ私を舐めているのではなくて?あの子たち全員一人で倒したからと言っていい気にならないことね!!」
『女王』がそう言った途端、魔力が爆発的に膨れ上がる。そして僅かに混ざっている別の存在の気配。クァマセから感じ取ったものと同じものを感じる。
「……どうやら一筋縄にはいかなそうだな」
『……この力、やはり奴か』
直接見るのは初めてだが、これが噂の『蛇』というやつか。
『無限の龍神』オーフィス。そしてそれを抱え込む『禍の団』、『英雄派』に『旧魔王派』。そしてソーナの姉であるセラフォルー様は現魔王でもある。
成程、見えてきたぞ。なかなか面白い奴らがバックについているじゃないか。ソーナから婚約を破断にされてしばらく経ってから何故今なのかと思ったが……。あの男、『禍の団』にそそのかされたな。
『元士郎!?放してください、アザゼル先生!!』
『落ち着けソーナ。匙はこの事も想定済みだ。だからお前らを巻き込まないように一人で勝負を受けたんだろうが!!』
『元士郎先輩!!それでも一人で戦う必要はないじゃないですか!!』
……ああ、これは帰ったら説教コース決定だろうなぁ。声しか聞こえないが、皆の怒りの表情が目に浮かぶ。
『あまり考えに耽るな、我が分身よ。来るぞ!!』
『女王』が巨大なハルバートを持ち、今までとは比べ物にならない凄まじいスピードで俺に向かってくる。やはり『蛇』のおかげで基礎能力も上がっているようだな。
だが――
「ムガッ!?」
「捉えられないスピードでもないな、やっぱり」
ハルバートを躱し、『女王』の顔面を掴んで持ち上げてそのまま大地に叩き付ける。『禍の団』と繋がっているのならば多少やり過ぎても問題ないだろう。
「答えろ、お前らに接触したのは誰だ?」
「だ、誰が答えるものか……ガハッ!?」
「ああ、転移には期待しない方がいい。こうなった場合、転移を出来なくするように言ってあるからな」
暗に答えるまで叩き付けるのを止めない、このままでは死んでしまうぞと伝える。死が怖いのか、その重い口を開こうとする。
「あ……「いけない子だ、私の協力者を明かそうとするなど」……え?」
「チッ!?」
『女王』の体が光を放ち始め、一瞬の判断で掴んでいた手を放し距離をとる。
「お、お待ちください!!私はまだ!!」
「時間稼ぎご苦労。そして役立たずは……死ね」
「そんな!?い、いやぁ……」
強烈な光に包まれ、それが収まったころには『女王』の姿形もなくなっていた。戦闘不能時の転移は発動しない筈だ。ということは……。
「殺したのか?自分の下僕を!!」
「何がおかしい?所有物を生かすも殺すも主の自由だ。だが彼女のおかげで力を十分に貯める時間が稼げたのも事実。だから楽に殺してあげたよ。ああ、たまらなかったなぁ……あの絶望に満ちた顔!!」
恍惚とした表情で自分の下僕を殺したことを話すクァマセ。そして俺の右手に自然と力が入る。
「本当は奪ってゆっくり楽しもうと思っていたが、気が変わった。君を殺して絶望と憤怒に染まったソーナ達の顔が見たくなった。――ッ!?」
俺はほぼ反射的に嬉々とした表情を全力で殴り飛ばす。
「もう喋るな。反吐が出る」
やっぱりソーナ達をここに連れてこなくて正解だった。こんなクズの視界にソーナ達が映ることが不快だ。
「起きろよ、格の違いを教えてやる!!」
次回で終わる……はず。