ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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美人だろうが容赦なくぶん殴る。
匙君無双、始まります。


66話 『元』婚約者襲来 2

『さて、準備はいいか?』

 

アザゼル先生のアナウンスが限りない荒野に流れる。

 

「問題ありません」

 

「私も、特に問題はありません。……ひひっ」

 

不気味な笑いしているクァマセ。

その眷属たちは全員見た目の美しい女性ばかり。兵藤から聞いたライザーによく似ている。

 

「それにしても総督殿も可哀想なことをする。隠れる場所のない荒野など、数の利が明らかに出るフィールドではないか!!残念だったな黒トカゲ。この勝負、どうやら私の勝ちのようだ!!ソーナもその眷属も全員私の物だ!!」

 

「ぐだぐだうるさいな。あんまり言いすぎると負けた時が惨めだぞ?あと口に出している時点で馬鹿丸出しだ」

 

鼻で笑い飛ばして挑発すると、意外にものってこなくて余裕の笑みが止まっていない。

 

「強がりはよすといい。君の戦い方は分析済みだ。パワーよりもその多彩な能力を使って戦うテクニックタイプ。だが、いくらテクニックタイプとはいえ隠れる場所もない、使うべき地利もない。私の勝ちは決定したようなものだ!!」

 

やれやれ、随分舐められたもんだな。まぁ、レーティングゲームで成果を上げたのは兵藤を倒したことぐらいで、あまり俺には実績というものがない。今回はこの油断に感謝して、今の俺自身の能力を確かめさせてもらうか。

 

 

『――それでは、始め!!』

 

 

開始の合図とともに、八人の『兵士』が俺を取り囲む。全員投入すると思っていたが、どうやら俺をゆっくり、そして存分に痛めつけるさまをソーナ達に見せたいらしい。

 

趣味が悪いねぇ。

 

「さ、ヴリトラ。存分に暴れようじゃないか」

 

『待ちかねたぞ、我が分身よ!!この愚か者どもを我が邪炎の塵にしてくれるわ!!』

 

ヴリトラの怒りが神器を通してヒシヒシと伝わってくる。ドラゴンはプライドの塊。それはヴリトラも例外じゃない。黒トカゲや二天龍の下位存在などと言われてキレない筈がない。

 

神器を発動させ、黒炎を滾らせる。精密なコントロールは出来ないが、周りは敵しかいない。これならやりたい放題だ。

 

「アンタは駒四つ消費の『兵士』。それに対して私たちは『兵士』が八人。個人個人の力は劣るかもしれないけど、数で勝る私たちに勝てない道理はない!!」

 

「貴方の戦闘データは解析済み。内に宿しているのは五大龍王の中でも『最弱』のヴリトラじゃあ、私たちには勝てない!!」

 

兵士A、Bがそう叫びながら剣を俺に向けて振りかざしてくる。躱せばその隙をついて他の奴らが攻撃するつもりなのだろうが、こんな揃っていないうえに遅い攻撃を躱す必要なんかない。

 

「――え!?」

 

 

そもそも俺に通常の『刃物』は効かないのだから。

 

 

ギャリンッ!!と兵士Aの剣を防いだ右腕が音をたてる。そしてすぐさま向かってくる兵士Bの腹に蹴りを決め、数メートル先までぶっ飛ばす。その様子を見て、他の『兵士』は警戒して俺から距離をとる。

 

「なんだ?この『鱗』についてはデータがなかったか?」

 

ニヤニヤしながら挑発する俺を見て、全員が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。出来る限り隠そうとしているのだろうが、明らかに焦っている。この程度で焦るなんて案外面白味のない奴等だったな。

 

 

「じゃあ、今度は俺の番……だな!!」

 

「――ガッ!?」

 

先ほど蹴り飛ばした兵士Bとの距離を一瞬で詰め、その顔面を『そこそこの力』で殴りつける。その端正な顔立ちに拳がめり込み、地面を何度もバウンドしながら数十メートルの位置で停止し、体が光に包まれる。

 

戦闘不能になれば強制的に転移されるのはレーティングゲームと変わらないらしい。

 

「どうも勘違いしているようだな。確かにヴリトラは五大龍王の中でも『単純な力は弱い』龍だが、『最弱』ではない。それに単純な力が弱いのは五大龍王の中であって、通常の龍とは比べ物にならないくらいの力は持っている」

 

『……ッ!?』

 

「教えてやるよ、お前たちの主が一体どんな存在に喧嘩を売ったのか……タップリとな!!」

 

残っている『兵士』に対してラインを放ち、俺から距離をとることができないようにする。雑魚を一人ずつ相手にするのは面倒だ。さっさと纏めて始末してしまおう。

 

「くっ!?切れない!?」

 

「無駄だ。木場の聖魔剣でも切断できなかったんだ。そんななまくらじゃあ俺のラインは切れないな」

 

「だが距離をとれないのは貴様も同じ――カハッ!?」

 

兵士Aの鳩尾を的確に殴りつける。

腹を押さえうずくまったところを今度は頭を蹴り飛ばし、兵士Aは光に包まれて消えていった。

 

「お前らは力関係を理解していないらしい。『兵士』八人で仕掛ければ勝てると思ったのか?何で俺が多対一でやろうと言ったと思う?お前ら全員を合わせても俺には敵わないと判断したからだ。数の利でも覆せないほどの絶対的な力の差が俺とお前らにはあるんだよ」

 

聖魔剣の木場、デュランダルのゼノヴィア、魔術の天才のロスヴァイセさんの三人を同時に相手することに比べればこいつ等の相手なんか全力を出さなくても問題ないくらいだ。

 

「だが、周りの迷惑を一切考えずに戦えるのは滅多にないからな。だからちょっとだけ本気を見せてやるよ」

 

変化した右腕に黒炎を集中させ、密度を上げていく。右腕の黒炎が通常よりも熱量を上げ、より一層漆黒の炎、本来のヴリトラが持つ炎に近くなっていく。

 

 

「消え失せろ――フランブレイブ!!」

 

 

漆黒の炎を纏った腕を魔力強化も含め、ただ『全力』で振り上げる。

 

龍の爪が空を裂き、漆黒の炎がうねりを上げながら周囲の敵を包み込む。ラインで繋がれた彼女たちは回避することなど不可能だ。

 

炎が収まった後に残ったのは抉れ、漆黒の炎で焼き尽くされた大地のみ。周囲の気配も少なくなったし、『兵士』は全員始末できただろう。

 

残るは――

 

「今度はアンタらが相手してくれるのか?」

 

「チィッ!?」

 

背後から迫る鋭い蹴りを左手で受け止める。この感触から『戦車』か?塔城や翼紗の蹴りに比べたら屁でもない。

 

「調子に乗らないことね。強いと言っても所詮は『兵士』。『女王』の私に、『戦車』二人、『騎士』二人を相手出来ると思っているのかしら?」

 

「さっきの見てよくそんなことが言えるな?」

 

「確かに凄まじい一撃だったけど、見たところ乱発出来るものでもないでしょう?それにあれだけの衝撃、その右腕はしばらく使えないんじゃないのかしら。今の蹴りも右で防いだ方が早かったのにわざわざ左で防いだのはそういう事なのでしょう?」

 

……驚いたな。今のだけでそこまで分析されたのか。どうやら敵方も馬鹿ばかりではないらしい。

 

確かにあの『女王』の言う通り、あの一撃で右腕はしばらく使えない。使えないが、だからと言って俺が負ける理由にはならないな。

 

「所詮は『兵士』か……。ならお前らはアレだな。所詮『兵士』に毛が生えた程度の能力しかない雑魚ってことだな」

 

ブチリと何かが切れる音がした。

 

「い、いい度胸ね!!余程死にたいのかしら?」

 

『女王』を含め、残りの眷属全員が怒りの表情で戦闘態勢に入る。

 

「……頭はキレても簡単に挑発に乗るか。やっぱりお前らじゃ俺には敵わないな」

 

『我が力の一端を見ただけで判断せぬことだ。我らはまだ全ての力を見せたわけではないぞ?』

 

手の平を上にして、クイクイと指を折り曲げる。

 

 

「体も温まってきたところだし、この程度じゃ俺の苛立ちは収まらない。もうちょっとだけ遊んでやる。――せいぜい俺を楽しませろ」

 

 

 




折角の無双回だ。もうちょっとだけ付き合ってもらおうか。

……ということで前編後編のつもりでしたが、ちょっと長くなります。具体的に言うとあと2話ぐらい。

終了まで匙君の活躍はまだまだ続きます。

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