ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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匙君が久しぶりに活躍(次回)するお話。


65話 『元』婚約者襲来 1

それはオカ研やアザゼル先生達と集まって会議をしているときだった。突然会議室に魔法陣が生じ、乱入者が現れたのだ。

 

「あの紋章は……」

 

魔法陣から出てきたのはスラリと背の高い男性。それを見て俺以外のシトリー眷属がもの凄く嫌そうな顔をしている。知り合いか?

 

「お初にお目にかかります。私、クァマセ・ナベリウスと申します」

 

「ナベリウスの三男坊か……」

 

アザゼル先生が突然現れてきた男を見て、顎鬚をさすりながらニヤリと笑う。あの顔は何か面白いものを見つけたか、傍迷惑なことを考えている時の顔だ。

 

「知合いですか?」

 

「直接はあったことはないが、名前くらいはな。俺に聞くより、ソーナの方が詳しいんじゃないか?」

 

俺の問いにニヤニヤしながら答えると、ソーナの席に顔を向ける。俺もソーナの席に向き直すと、男がソーナの手を握っていた。

 

「やあ、ソーナ。久しぶりじゃないか。今日も美しいね」

 

「クァマセ、一体何をしに来たのですか?今は会議中ですよ。早々に立ち去りなさい」

 

淡々と答えるソーナの背後で眷属全員が臨戦態勢に入っている。よっぽどこの男の事が嫌いらしい。

 

「おいおい、酷いじゃないか。僕は君の婚約者だろう?」

 

「『元』婚約者です。貴方との婚約は破棄したはずですが?」

 

ああ、成程。

ソーナに婚約者が居ることは当然ながら聞いていた。リアス先輩にも婚約者が居たのだから、ソーナに婚約者が居ても不思議ではない。

 

しかしその婚約も少し前に婚約破棄を賭けたチェス勝負でボコボコにして白紙になった筈だが……。

 

「ははは、何の話だい?確かに何やら賭けチェスをした覚えはあるが……非公式だろう?公式な婚約破棄がたかがチェスで決められるわけないじゃないか。――君も、君の眷属も、婚約者である私の物だ。これだけの上物揃い、そうやすやすと逃すわけがないだろう?」

 

「貴方という人はッ!!」

 

最後の方の言葉はソーナにのみ聞こえるように言ったのだろうが、俺には全部聞こえている。皆がこの男を嫌う理由が分かった。

 

 

――こいつはクズ野郎だ。

 

 

そうと分かればやることは簡単だ。元々イラついていた感情にストッパーをかける必要もない。男の手をソーナの手から強引に引き離し、間に割って入る。

 

「元士郎!!」

 

「なんだい、君は。無礼じゃないか」

 

「それは失礼しました。私、ソーナ・シトリー様の『兵士』、匙元士郎と申します。そしてもう一つ。――汚い手で『ソーナ』に触れるなクズ野郎。消し炭にするぞ」

 

眼帯を外し、両目を龍眼に変化させ睨み付ける。

 

「……今お互いの事を呼び捨てにしていたね。つまりはそういう事だと受け取っても構わないのかな?」

 

「そうだな。ついでに言うなら他の眷属も……だけどな」

 

「ほう……」

 

クァマセの目が細くなる。

微かだが歯ぎしりの音が聞こえた。内面では腸が煮えくり返っているのだろう。そんなの知ったことではないが。

 

「……」

 

「なんか言ったか?」

 

「……下級悪魔風情が粋がるなよ!!貴様の一人や二人、どうとでもすることは出来るんだ!!何が五大龍王の一角だ!!二天竜に遥か劣る下位存在がこのクァマセ・ナベリウス様の計画を邪魔するな!!」

 

『(我を愚弄するか、悪魔風情がッ!!)』

 

落ち着け、ヴリトラ。

やっとこのクズ野郎が本性を現したんだ。暴れるのはもう少し話を進めてからだ。

 

「おいおい、こんなところでドンパチなんてやめてくれよ。ここは三大勢力にとって重要な場所なんだ。そんなにやりたければ俺が準備してやるよ」

 

どうせこうなるだろうと思ってたんでしょ?だからコイツが来た時に笑ってたんだ。

 

「どうする?リアスの時みたいにレーティングゲームで決着をつけるか?それとも個人の勝負として扱うか?いずれにせよ俺がいる限り非公式なんて言い訳はさせないぜ?」

 

「コホン、そうですね。私はレーティングゲームでも構いませんが、ソーナは駒が全て揃っていない。そんな状況で駒が足らなかったから負けたと後々文句を言われては困りますが……ねぇ?」

 

クァマセが指を鳴らすとその眷属が現れる。当然のことながら駒は全て揃っている。揃ってはいるが、これは……。

 

「ふふん、どうだい?私のそろえた精鋭たちは。私はプロでもそれなりに勝ち星をあげている。ルーキーズフォーなどと持てはやされていても所詮は最近始めたばかりの素人だ。私の勝ちは見えているがね」

 

……ヴリトラ、どう思う?

 

『我も我が分身と同意見だな』

 

だとすれば態々レーティングゲームなんかしなくてもいい。

 

「アザゼル先生、俺から提案が」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「面倒なんで勝負にしましょう。これはある意味俺とコイツの問題だ。ソーナを賭けて俺一人の方がシンプルでいい」

 

「ちょっと元士郎!?」

 

アザゼル先生が無言でクァマセに視線を向ける。

 

「私もその方が楽でいい。黒トカゲ一人倒せば全てが解決するんだ」

 

「なら、俺から一つ要求がある。――ハンデをつけてもらおうか」

 

俺の言葉に周りがシーンとなる。

 

「……くく」

 

『はははははははは!!』

 

クァマセとその眷属たちが笑いをあげる。

 

「ず、図々しいにも程がある!!ハンデなど馬鹿か「誰がハンデが欲しいなんて言った?」……なんだと?」

 

「逆だよ、お前にハンデを付けてやろう」

 

 

 

「――俺一人でお前とお前の眷属全員相手してやるよ。それならお前は一切言い訳も何もできないだろ?」

 

 

親指を下に向け、振り下ろす。

 

 

「テメェ等全員纏めてぶっ倒してやるよ」

 

俺の挑発に口元をひくつかせるクァマセ。

 

「こ、この……いいだろう!!その勝負受けてやる!!負けたらソーナも、ソーナの眷属も私が貰うぞ?」

 

さりげなく賭けの対象を増やすクズ野郎。

 

まぁ、負けなければいいんだ。

 

「ちょっと!!私はそんなの同意してないですよ!?」

 

「別に元ちゃん一人でやらなくてもいいじゃない!!」

 

本人達を置いてけぼりにして、その上賭けの対象にされてはたまったものではないだろう。

 

「匙を信用してないのか?」

 

「そんな事はありませんが……一人で全員を相手にするのは無茶です!!まだ退院してからそんなに時間が経っていないというのに……」

 

「まぁ、そうなんだろうがな。匙の観察眼は本物だ。本人が出来ると判断したのなら出来るんだろうよ」

 

「それは……」

 

「男が女のために体を張るんだ。任せてやれ。」

 

「……」

 

ソーナ達がアザゼル先生に説得され、静かになる。

 

「話は纏まった。日にちは三日後、匙一人対ナベリウス眷属全員の勝負だ!!場所は思い切り暴れれるところを準備してやるよ」

 

 

「おい!!……おい、匙!!」

 

「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、兵藤」

 

兵藤が怒りの表情で俺の胸ぐらを掴む。

 

「テメェ……一人で相手を全員相手にするとか、何ハンデを付けてんだよ!!もし負けたらどうするつもりだ!!」

 

「負けたら?負けねぇよ、あんな奴には絶対にな」

 

兵藤の手を振り払い、襟を正す。

 

『なんだ、赤龍帝には分からなかったのか?』

 

『相棒はそういう事には鈍いんだ。許してやってくれ』

 

「ドライグまで!?何でそう言い切れるんだよ!!」

 

「取りあえずお前は黙ってろ。これは俺たちの問題だ。何より腹が立ってるのはお前だけじゃないんだ」

 

 

何よりあの男が纏っていた気配が気になる。ディオドラがアーシアを欲しがって色々とやらかした件もあるし、あまり皆をあの男に近づけない方がいい。

 

……問題ない。勝てる自信はある。

 

そして潰すならトラウマを植え付けるほど徹底的にだ。俺の大切なものに手を出そうとしたこと、俺たちに喧嘩を売ったこと、死ぬほど後悔させてやるよ。

 

 

 




クァマセ・ナベリウス

ナベリウス家の三男坊でクズ。ライザーポジションだけど、もう出番は来ないであろう使い切りキャラ。

名前の由来は……もう一度名前を読んでみましょう。

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