ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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6話 神器

匙と仁村が生徒会室に戻ると、全員が作業をあらかた片づけてくつろいでいた。

 

「会長遅くなってすみません。思いのほか時間がかかってしまいました」

 

「ずいぶん遅かったねー。……まさか本当に?」

 

「草下、何もしてないから誤解を生むような発言をしないでくれ」

 

そんなに面白くなさそうな顔するなよ。

 

「詳しい話はまた後にしましょう。二人ともお疲れ様でした。」

 

ソーナが労いの言葉に頭を下げる。

 

「今日はサジに悪魔の仕事と、神器の話をしようかと思います。が、二人とも疲れているでしょうし紅茶でも飲んで一休みしませんか?」

 

いきなり話、ということはない様だ。

元気な仁村はともかく疲れている匙にとってはありがたかった。

座るとソーナから紅茶を差し出される。

 

「生徒会としての初仕事はどうでしたか?」

 

「……既に鬱になりそうですが、いろんな意味で退屈はしなさそうですね」

 

ソーナはそうですかと笑いながら仁村にも紅茶を差し出す。

せっかく入れてくれたので、冷める前にいただこう。

ああ、なんかすごく落ち着く。

 

「神器の話って、それ昨日も説明されましたよね?」

 

昨日の長い長い話で匙が神器と呼ばれるものを持っているのは聞いている。

 

「話はしましたが、貴方がどんな神器を持っているのかは知りませんよ?」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、それに神器の出し方なんて知らないでしょう?」

 

そう言われればそうだ

ソーナが話を続ける。

 

「神器を出すためには一番強いと思うものをイメージするのです。一度発動すれば発動も解除も思いのままですから」

 

「強い力のイメージ……」

 

「そうです。ここに立ってやってみてください」

 

そう言って部屋の中心に立たされる。

 

……強い力ねぇ

 

匙は目をつぶってイメージを始める。

 

……龍?

 

安直すぎる気がするが、なんとなくしっくりくる。

 

色は?赤……白……。いや違うそんな綺麗な色じゃない。

 

黒……そう黒だ。黒い色をした龍。

 

真っ黒で、邪悪な竜。

 

自分のバラバラになっているピースが一つになったような感覚がした。

 

ふと左手に違和感を感じる。

見ると左手の甲に黒い色でトカゲの頭のようなものがついていた。

龍をイメージしたのにトカゲってどうなのだろうか。

 

「……これは『黒い龍脈』ですかね?そこまで神器に詳しくないのですが、黒邪の龍王・ヴリトラが封じられた物だったと思います」

 

トカゲにしか見えないが龍らしい。

 

「龍王ってことは珍しいんですか?」

 

「いえ、ヴリトラ系の神器は数があるのでそこまで珍しくないものです」

 

・・・・・・・・・・さいですか。

 

「使い道はこれから探って行くと良いでしょう。思っていたより早く発動ができたので、次の話に行きたいと思います」

 

ドンッと魔方陣らしき物が書かれたチラシが机の上に置かれる。

願い叶えますって書いてある。

すごくあやしいんですけど?

 

「コレなんですか?」

 

「悪魔を召喚させる魔方陣です」

 

なるほど。

 

「ってそうじゃなくて、何のためにこれが必要なんですか?」

 

「最近は魔方陣を書いてまで悪魔を呼び出す人がいないので、このような物を準備して召喚してもらうんです。悪魔は人間から対価をもらうことで力の糧にしますから」

 

なんとなく何が言いたいのか理解した。

 

「今からこれを配って来いと?」

 

「普通は使い魔にやらせることですが、悪魔がどんなことをするのか知る一環として誰しもが通る道なので我慢してください」

 

ものすごい笑顔で行ってこい宣言された・・・。

 

「帰ってきたら、悪魔の駒の説明と簡単な訓練をするので早く帰ってきてくださいね?」

 

スパルタの鬼がいた。

 

 

 

 

「会長、訓練までするのは少々急ぎ過ぎでは?そこまで詰め込みすぎるとサジがかわいそうです。まだ悪魔になったばかりなのに……」

 

おそらくこの場の全員が思っているであろうことを、真羅が尋ねる。

確かに目の前の人物は何事にも厳しいが、これは度が過ぎている。

 

「わかっています。でも少々厄介なことになっていまして……」

 

「厄介な事って、なにかあったんですか?」

 

ソーナの真剣な顔から只ならぬ事情を察し、全員が気を引き締める。

 

「どうも堕天使が数人この町に紛れ込んだようです。さっきリアスから警戒を怠らないよう連絡がありました」

 

「そんな!?それだと尚更サジを一人で行かせたのは不味かったのでは!?」

 

堕天使に遭遇してしまったら今の匙では数分も持たずに消滅させられてしまう。

天使や堕天使の光は悪魔にとっては猛毒なのだから。

 

「サジの周りは使い魔に監視させていますし、いざという時は助けに行けるように準備もしています。それにこの地はグレモリーの管轄ですから、紛れ込んですぐに事を起こすことはないでしょう」

 

「しかし……」

 

「私もサジを殺させるつもりはありませんよ。彼だって大切な私の眷属ですから。しかし、いつでもサジを守ってあげられるわけではありません。だから自分の身はある程度守れるようになっていてもらわなくては困ります」

 

万が一の為に今日訓練させたいらしい。

真羅も納得したのか食い下がることをやめた。

 

「でも匙先輩って、戦闘できるんですかね?そんなイメージないなぁ」

 

仁村のささやかな疑問により話は別方向に変化する。

 

「留流子だってすぐに戦えるようになったわけではないでしょ?訓練すれば誰でもある程度は戦えるって。元ちゃんも体は大きいんだから、慣れれば大丈夫よ」

 

「でも元士郎君って、体は大きいけど二人と比べると運動苦手そう・・・」

 

「そうよねー。勉強できて運動も出来るなら木場きゅんぐらい全校生徒に知られてるハズだもの」

 

「ねー」

 

花戒と草下は自分たちの思い人の事で頭がいっぱいのようだ。とても楽しそうである。

 

「あなた達二人は……。まったくもう」

 

その二人の様子を見て真羅が頭を抱える。

 

「……どうかしらね?」

 

「翼紗?」

 

顎に手をやり何やら考え事をしていた由良が口を開いた。

 

「服でわかりにくいけど、腕をつかんだ限り意外と筋肉はついていた。・・・なかなか悪くないと思うわ」

 

「あーはいはい。あんたの筋肉フェチの話はどうでもいいわ。聞き返した私が馬鹿だった」

 

「……巴柄だってショタコンのくせに」

 

由良の発言で話がヒートアップする。

 

「ちょっと!?誤解の生むようなこと言わないで!!私は保護欲のそそるような人が好みなの!!」

 

「そんなもの子供ぐらいでしょう!?ショタコンと変わらないじゃない!!」

 

「違うわよ!!ガチムチマッチョの好きな変態と一緒にしないで!!」

 

「なによ!!あんたの方は犯罪じゃない!!」

 

巡と由良が喧嘩を初めてしまった。

これを見かねて花戒が止めに入る。

 

「ふ、二人とも落ち着こう?」

 

「「絵にかいたようなイケメン好きは黙ってて!!」」

 

「……いいじゃない!!普通にカッコイイ人が好きで何が悪いの!?」

 

「そーよ!!木場きゅんの悪口は許さないわ!!」

 

止めに入ったはいいが、自分にも喧嘩の火が引火してしまった。

ついでに隣にいた草下も喧嘩に加わる。

 

ソーナの目もとが暗くなる。そのことに気が付いた仁村と真羅がこのままでは大事になると仲裁にはいる。

 

「先輩たち、こんな喧嘩はやめましょ?そろそろ不味いですって」

 

「四人とも落ち着きなさい。みっともないですよ?」

 

しかしそんな事ではヒートアップした四人の喧嘩は止まらない。

逆に止めに入った二人に喧嘩の矛先が向く。

 

「留流子は元ちゃんを追っかけてれば!?物好きはこの会話に入ってこないで!!」

 

「これは恋する乙女の戦争です!!まともに恋愛したことない椿姫先輩は入ってこないでください!!」

 

巡と花戒の言葉でこの二人にも引火してしまう。

 

「物好きはどっちですか!?先輩たちの方こそ現実見ましょうよ!!」

 

「いい度胸ですね……。私に恋愛経験がないなんて決めつけないでもらいますか!!」

 

もはや喧嘩がわけのわからない方向に向かいつつある。

六人の言い争いが始まり、生徒会室は一気に混沌となる。

ヒートアップする中、一人だけどんどん冷めていく人物がいた。

 

「……六人とも」

 

『なに!?』

 

そう言ってハッと気づく。が、もう遅かった。

 

「少し頭を冷やしなさい!!!!!!」

 

六人はソーナの魔力によって生み出された特大の水をかけられた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「チラシ配り終わりましたー。ってなんで皆ずぶ濡れ!?」

 

匙が生徒会室に戻るとソーナ以外の六人がずぶ濡れになって、正座をさせられていた。

 

「おかえりなさい。今この子たちは反省中なので気にしないでください」

 

「え?はい」

 

ソーナの笑顔に怒りを感じ取った匙はそれ以上なにも聞けず、一人だけ頭に疑問符を浮かべていた。

 


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