ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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※注意
『激甘警報』が出ています。ブラックコーヒー片手にご覧ください。



59話 告白

「……えーっと、おはようございます?」

 

『(……もう少し言い方はないのか?)』

 

仕方ないじゃないか!!逆になんて言えば良いんだよ!?

 

「……」

 

会長は無言でプルプルと震えている。目もとが暗くてよく分からないが、ビンタは確定だろうな。それだけの事をしてきたのだから、今回は甘んじて受けるしかない。

 

「……サジ!!」

 

「はい!!――あ……」

 

次に頬に来る衝撃に耐えようと目を閉じて衝撃に備えようとしたが、ビンタが来ることは無かった。その代り会長は俺の体に突進してきて強く抱きしめる。

 

「……目が覚めたのですね」

 

「はい、奇跡的に生きていました」

 

会長は俺の胸に顔をうずくめて離れない。俺はそんな会長を優しく抱きしめるとともに。サラサラした黒髪を撫でる。

 

「ヒック……私が……私たちがどれだけ心配したと思っているのですか?グス……ヴリトラからもう一生目覚める事はないかもしれないと聞いた私の気持ちが分かりますか?」

 

「ごめんなさい」

 

嗚咽混じりの声が静かな病室に響く。

 

「何で……何で貴方は私の言う事を聞いてくれないのですか?何でいつも私の言いつけを破るのですか?何で、一人で抱え込むのですか?何で一つも相談してくれないのですか?私は主としてそんなに頼りないですか?何で……何でですか……」

 

そう言って泣きじゃくる会長はいつもの大人びた雰囲気はなくて、年相応の女の子のように感じた。

 

「ごめん……なさい……」

 

小さな小さな会長の体を強く抱きしめる。

 

俺は馬鹿野郎だ。この人はこんなにも俺の事を思ってくれているのに、この人の事が他の何よりも大切だと思っていたのに、この人の夢を叶えてあげたいと思っていたのに、守りたいと思っていたのに……。

 

自分の中の気持ちに嘘をついて、それが俺にとっても会長や皆にとっても一番なんだと言い聞かせていた。それが最終的に皆を傷つけない為だと勝手に思い込もうとしていた。

 

本当に今更自分の本当の気持ちが分かるなんて、人の事を馬鹿だとは言えたもんじゃないな。

 

「会長、少し離れてもらえませんか?」

 

「グス……いやです」

 

俺に引っ付いている会長を引き離そうと肩に手をかけるが、会長は更に強くしがみつき素直に放れようとしてくれない。俺より一つ上なのに、なんだか妹か何かをあやしている気分だ。そんな会長に苦笑いしながらも、優しく声を掛ける。

 

「やれやれ……『ソーナ』」

 

俺の言葉に、抱きしめている小さな主様は一瞬だけピクリと反応する。

 

「大切な話なんだ。これだけはちゃんと顔を合わせて言いたいな」

 

「……」

 

今度はすんなり離れてくれた。目もとが赤く腫れ上がっているが、お互いの目がしっかり合う。これでちゃんと伝えられる。俺の本当の気持ち。

 

「まずは、色々と心配をかけて、勝手に暴走して皆に迷惑をかけた上に傷つけてごめんなさい。……俺はずっと自分一人で何とかしないといけないと思ってた。俺の皆を守りたい気持ちが行き過ぎて、俺がやらなきゃいけない俺が弱いと皆を守れない、もっと強くならなきゃいけないって気持ちが大きくなっていった。その上、兵藤への嫉妬や劣等感が大きくなって抑えきれなくなっていった」

 

「……」

 

「今俺が奇跡的に生きているのも誰かの支えや犠牲によって成り立っている。人は一人で生きてなんか行けない。誰よりも心が弱かった俺は尚更誰かと一緒に居なきゃまた暴走してしまうって思うんだ。だから、貴方には一緒に俺の隣を歩いて、ずっと俺だけを見ていてほしい」

 

少しだけ深呼吸をする。

まさか俺がこんなことを言う日が来るなんて思ってもなかったな。

 

 

「――俺はソーナの事が好きだ。この世の誰よりも、何よりもずっと大切だと思ってる」

 

 

最後まで目をそらさず言いきった。多分以前の俺だったら絶対にこんなことは言わない。顔から火が出るほど恥ずかしいセリフを言っているけど、これが偽らざる本当の気持ちだから、今伝えなきゃいけない事だと思ったから。

 

「グス……ヒック……」

 

「――え?あれ?」

 

いきなり大粒の涙をポロポロと流すソーナに戸惑いを隠せない。

 

「違う、違うの……まさか貴方から告白されるなんて思ってなかったから、その……嬉しくて」

 

ああ、良かった。まさか好意を向けられていたのは気のせいで、泣くほど告白されたのが嫌だったのかと思ってしまった……。

 

 

「私も……私も『元士郎』が好きよ。傍にいて一緒の夢を追いかけていたい。これからも、この先ずっと貴方に寄り添っていたい……」

 

 

自然とお互いの顔の距離は息がかかるほど近くなっていき、その距離がゼロになる。

 

「……ん」

 

お互いの唇が触れ合ったのはほんの数秒。たかが数秒でも、言葉だけじゃ伝わらないお互いの気持ちを確かめ合うには十分だった。

 

「……ふふふ、どういった心境の変化ですか?」

 

「なんて言えば良いのかな。……なんだか心にポッカリ穴があいたような、そんな感じなんだ。ちょっと寂しい気はするんだけど、不思議と全然不快じゃなくて。……その穴から色んな感情が俺に流れ込んでくるんだ」

 

今まで意識なんかしたことが無かったけど、少し寂しく感じるのはずっと俺の中に居た『俺』が本当に居なくなってしまったからだと思う。

 

生きている事への嬉しさに皆を傷つけた自分への怒りと後悔。目の前にいる女性との思いが繋がった事への嬉しさ、愛しさ。俺を犠牲になる事で助けてくれた『俺』への感謝。今まで以上にそういった感情を強く感じるようになった。

 

「そう……。私からすれば嬉しい限りです。貴方を救ってくれた『誰か』に感謝しなければなりませんね」

 

多分ソーナも俺の中の何かが犠牲になったのだと、なんとなく感じ取っているんだろう。

 

「もう俺の命は俺一人だけの物じゃないから、二度とあんな事はしない。今度の約束は絶対に破らないから……」

 

俺がそういうと不機嫌そうにプクッと頬を膨らませそっぽを向かれる。

 

「……貴方との約束は信用できません!!」

 

「えぇ……」

 

いや、確かに大きな約束から小さな約束まで色々と破って来たけど。聖剣に関わらないようにとか三大勢力会談の時とか、命を無駄にしないとか。

 

……うん、この反応は仕方ないぁ。

 

「……だから二度と貴方が道を踏み外さないようにずっと見ていますから。貴方が倒れそうになっても私が支えますから。……もうあんな思いはしたくないの」

 

「ソーナ……」

 

「元士郎……」

 

 

バァアアアアアアンッ!!

 

 

「元士郎先輩!!」

 

「元ちゃん!!」

 

再度お互いの距離が近づこうとしていた時、この病室のドアがかなり乱暴に開かれた音が響き、それと同時に仁村と花戒が俺の体めがけて突進してきた。

 

「うぇええええええん!!よかった、よかったよぉ」

 

「心配したんだよ?凄く凄く心配したんだからぁ……」

 

二人に続いて残りの四人、副会長、由良、巡、草下が泣きながらもどこかホッとしたような表情で入ってくる。

 

「……目が覚めたのですね」

 

「本当に心配をかけさせるんだから……」

 

「グスッ……まったくね」

 

「でも、よかった。本当に……」

 

……俺は本当に馬鹿だ。こんなに俺の事を思ってくれる人たちがいたのに、それを傷つけようとしていたなんて……。何が居場所を守るだ。何が皆の為なら命を削っても構わないだ。そんなのただの俺の我儘じゃないか。

 

「言ったでしょう?貴方の居場所は此処にあると。――おかえりなさい、元士郎」

 

「ただいま、皆」

 

俺は生きている。お前の御蔭でここに帰ってくることが出来たよ。助けてもらったこの命、もう二度と無駄になんかしないから……。

 

 

「……コホン、ところで二人はいつまで元士郎にくっついているつもりですか?」

 

 

先程まで微笑ましく見ていたソーナの目が徐々に徐々につり上がっていく。その視線は未だに離れる事のない二人に注がれる。そんな二人はソーナの静かな怒りの視線を完全に無視して離れる様子はない。

 

「……もう一度言います。私の元士郎から離れなさい!!」

 

「嫌です!!私も元士郎先輩が好きなんですぅぅぅう!!」

 

「そうです!!会長だけが元ちゃんを独占するなんてダメだと思います!!」

 

二人を俺から引きはがそうとするソーナに対し、二人は離れまいと抵抗して強くしがみつき、それがソーナの怒りを加速させる。

 

「さっきまで二人っきりにしてあげたんですからこれくらい良いじゃないですか!!」

 

「私達見てたんですからね!!元ちゃんと会長がイチャイチャしてるところ!!」

 

見られてたのか、さっきの……。

おかしいな、こんな至近距離に居て気づかないなんて感覚鈍ったかな。

 

「ああッ!?何さりげなく三人もくっついているのですか!!」

 

「ごめんなさい、会長。私も負けてられないと思って」

 

「右に同じくー」

 

「まぁ、あれだけ心配させたんだからね。これくらい許してもらわないと」

 

ソーナが二人と言い合っているうちに由良、草下、巡も俺にしがみつく。副会長のみが少し離れた位置で微笑ましげに見つめている。……というか見てるなら助けてくれませんか?

 

「私は関係ありませんから。呪うのなら今まで皆の思いに応えてこなかった自分を呪ってください。それに今藪をつつくと蛇どころか虎が出て来そうなので」

 

俺の助けを求めた視線に気が付いてくれたが、返事はNOだった。……俺だって当事者じゃなかったら関わりたくないさ。

 

「いでででで!?待って!!俺一応怪我人なんだけど!!」

 

これだけの女性に慕われているのはきっと幸運な事なのだろう。それは凄く嬉しいとは思う。そしてこんな『悩み』はとてつもなく贅沢な事なのだろう。それは認めるよ。認めるけどさ……。

 

「離しなさい!!」

 

「嫌です!!」

 

 

……これは色々と『重い』かなぁ

 

 




浄化されて白くなった匙君。ようやく二人をくっつけることが出来ました。あ、ソーナだけじゃないですね。

自分で書いてて画面ぶん殴りそうでした、ハイ。マジでリア充爆発すればいいのに……。

さて、幸せ絶頂期のようですが、散々暴れ回って一切御咎めなしとはいきません。というか許しません。

それについてはまた次回。



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