ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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意外とラスボスの第二形態って第一形態よりも弱かったりするよね。


57話 禁忌

「ははは、ははははははは!!スゲェ……力が溢れてくる!!」

 

「何だよ……それ……」

 

『アレは……まさか龍になったのか!?それこそ有り得ない!!』

 

右手に軽く炎を燈そうとすると、今までとは比較にならないほどの炎が燃え上がる。

 

「そうだ、本来なら不可能だ。でも何事にも例外はあると思わないか?」

 

『……例外だと?』

 

「『オーバーライズ』は『龍王変化』の延長線さ。本来なら魂と神器には越えられない壁があるが、グリゴリから改造手術なんていうものを受けた俺は例外だった。俺達にはその壁が存在しなかったんだ。だからこそ可能な『龍王変化』によって俺はヴリトラの姿になれた」

 

一歩、また一歩と兵藤に近づいていく。

 

「だが『龍王変化』は不完全な物だった。俺の魂が、体が無意識的にリミッターをかけていたから炎の龍という形を成していた。だからヴリトラの本来の力も発揮できなかったんだ。そして『オーバーライズ』は魂も肉体もヴリトラと一体化することで俺自身を龍と化す『禁忌』の力。今の俺は匙元士郎であって、黒邪の龍王ヴリトラでもある。――さぁ、決着をつけようじゃないか、兵藤ォォォォォォォ!!」

 

兵藤との距離を一瞬で詰め、全力で拳をふるう。

 

「なッ!?ぐぁあああああああああ!?」

 

纏っている鎧が粉々になりながら兵藤が吹き飛んでいく。兵藤は地面を何回かバウンドして態勢を立て直し、俺の方を向く。

 

「ペッ……弱くなったな、匙」

 

「――あァ!?」

 

弱くなった?俺が?

 

「強がりはよせよ、兵藤。俺の何処が弱くなったって言うんだよ?今さっき鎧を粉々にして吹っ飛ばされたのをもう忘れたのか?」

 

「一回吹っ飛ばしたぐらいで調子に乗るなよ。今の攻撃、ただ力が強いだけで昔のレーティングゲームの時の匙よりもずっと弱い。やっぱり弱くなったよ、お前」

 

コイツは何を言っているんだ?あのころに比べれば俺はずっと強くなっているのに。意味が分からない……。

 

「なぁ、匙。今のお前の拳は誰の為にふるわれているんだ?誰の為に戦おうとしているんだ?誰の為に強くなろうとしていたんだ?……今のお前の拳は『軽い』よ。あの頃の拳の方が何倍も痛かった」

 

「フン!!お得意の精神論かよ」

 

「精神論……ね。俺はあの頃のお前から学んだのに、お前は忘れちまったんだな。そんなんだからいつまでたっても俺に勝てないんだ。――来いよ、匙。今度は俺がお前に教えてやる」

 

 

我、目覚めるは

王の真理を天に掲げし赤龍帝なり

無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く

我、紅き龍の帝王と成りて

汝を真紅に光り輝く天道へ導こう

 

 

兵藤の呪文が響き、真っ赤な鎧が真紅の鎧に変化する。ようやく本気を出すようだ。

 

「――『真紅の赫龍帝』ッ!!」

 

兵藤が今まで以上のスピードで俺に向かってくるが、今の俺なら反応できない速度じゃない。返り討ちにしてやろうとタイミングを合わせて拳を振り下ろす。

 

「ガァッ!?……ゴホッ!!ゲホッ!!」

 

しかし振り下ろした拳は躱され、カウンターで俺の腹に兵藤の拳が食い込む。鱗で包まれている体の内部までダメージが通る。

 

「どうした?この程度かよ?」

 

「舐め……るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

お返しとばかりに兵藤に何度も殴りかかろうとするが全部躱され、逆に俺が何度もカウンターをもらう。

 

「何でだ!!何で、何で何で何で!?」

 

近距離戦では無理だと思って、≪崩≫や≪虚空≫を放っても全て防がれる。≪砕羽≫で切りかかればアスカロンで防がれ、≪焔群≫は切られる。攻撃が全然当たらない。

 

「何で何で何で何で何で!!」

 

強くなっている筈なのに、なんで勝てない!!

 

「何で勝てないんだよォォォォォォォ!!」

 

「今のお前は怖くない!!どれだけ強くなっても、背負うものが何もないお前に俺は絶対に負けない!!匙ィィィィィィ!!」

 

龍殺しの力の宿った拳が俺を捉え、成す術もなくその場に倒れこむ。

 

「ガフッ!!……何で、何でだよぉ」

 

全身に駆け巡る苦痛。

例え強化されていなくても龍と化している今の体には十分すぎる程だった。

 

「……」

 

『……相棒、辛いのは分かるが情けをかけるな。今すぐ止めを刺さないと被害が拡大するぞ?』

 

「……ああ」

 

兵藤がアスカロンの刃を振り下ろし、俺に止めを刺そうとしたその時だった。

 

 

――ドクン

 

 

「あぁ……アァアアアアアアァァアアアアアアアアア!!」

 

「くッ!?」

 

俺を中心に勢いよく広がっていく黒炎。呪いの力を帯びた黒炎は草木を燃やし、大地を焦がす。対象を燃やし尽くすまで消えない炎はどんどん燃え広がっていく。

 

「アァアアアアアアアアアアァァアアアア!?」

 

「おい、匙!!しっかりしろ!!匙!!」

 

体が熱い。まるで内側から燃やされているような感覚にその場でのた打ち回る。

 

「ガァアアアアアアァァアアアアアアアア!!」

 

コントロールもままならない上に湧き上がる力を抑えることが出来ない。

 

これが龍の力?

 

……龍と軽々しく同化しようとしたのがいけなかったんだ。神すら凌駕しうる可能性を持った存在の力の全てを俺がコントロールできるはずがなかったんだ。自分で言ったじゃないか、『禁忌』の力だって。

 

今更後悔しようがもう遅い。完全に発動した今となっては後戻りなんかできない。これは俺の『罰』だ。自分勝手に散々暴れ回ってヴリトラの忠告を聞かなかった俺への、この世界が俺に与えた『罰』。

 

 

「――本当に手が掛かる子ですね、貴方は」

 

 

「……え」

 

体を誰かに強く抱きしめられる。いや、誰かなんて分かりきっている。

 

「なん……で、会長が……」

 

「貴方が此方に居るかもしれないとリアスに聞いて飛んできたのですよ?」

 

「ッ!?会長、炎が……」

 

俺を抱きしめている会長の体には黒炎が燃え移っている。もしかしてこの黒炎の中を突っ切って来たのか?なんて無茶をするんだ!?

 

「……これくらい、貴方の苦しみに比べればどうって事ないです。ごめんなさい、貴方の苦しみに気が付いてあげられなくて。貴方の変化にはずっと前から気が付いていたのに、肝心な事に気が付いてあげられなかった私は『王』失格ですね」

 

「そんな事はどうだって良いんです!!今の俺は能力のコントロールが出来ていないんです!!早く逃げないと会長が!!」

 

「馬鹿ですね。私が居なくなったら、貴方はまた一人になるじゃないですか。いつも一人で悩んで、一人で苦しんで、挙句の果てに一人で勝手に暴走して。そんな貴方を置いてなんかいけません。リアス達には私も一緒に謝るから、貴方が罪を負うなら私も一緒に背負いますから。――だから、ね?一緒に帰りましょう?」

 

……ああ、貴方は本当にズルい人だ。普段は誰よりも厳しいくせに、こういう時に限って誰よりも優しい言葉をかけてくれる。

 

俺は会長を、他の皆を守りたかっただけなのに。その為に強くなろうと決意しただけなのに、一体何処で道を踏み外したのかな。こんなくだらない事に『オーバーライズ』を使って、俺は何がしたかったのかな。

 

『……酷い状態だな』

 

「ヴリトラ?」

 

『……すまない、『オーバーライズ』の影響でこちら側に出て来るのに時間がかかった。それともう一つ、あと少しはもつだろう』

 

……そっか。

わかった。教えてくれてありがとう。

 

ヴリトラの意識が戻ったおかげか、体の熱さが無くなり、力の抑制とコントロールが出来るようになった。

 

「会長、熱いでしょう?今すぐ炎を消してあげますから」

 

最初に会長の炎を消す。火傷をしているが、アーシアの治癒能力があればきっと大丈夫だろう。俺はあたり一面の炎を何とかしなければならない。

 

「さて、『最期』の仕事をしようか、ヴリトラ」

 

『分かった。なに、少々範囲は広いが問題はない』

 

「……ごめんな、俺の自分勝手に巻き込んで」

 

俺の一番近くに居て、俺の変化をずっと見ていたのに、俺はヴリトラの忠告を無視した。

 

『……本音を言うと、寂しかった。それと同時に我には我が分身を止める手段はないから歯がゆくも思った。だがな、龍である我にとってすれば僅かな時間だったが、未だかつてない程に楽しかった。……ありがとう』

 

俺も感謝してるよ。お前と会えて本当に良かった。

 

意識を広がった黒炎に集中して、徐々に勢いを弱めていく。かなりの範囲に広がった所為で一気に消すのは難しいな。まぁ自分がやったんだから最後まで責任を持たないとな。

 

「……ん。どうだ?」

 

『全部問題なく消せたようだ』

 

良かった。まだ問題はたくさん残ってるけど、一番やらなければならない事はすんだ。

 

「……匙」

 

「兵藤か」

 

黒炎が消えて真っ先に目に入ったのはつい先ほどまで殴りあっていた兵藤だった。既に鎧も解除して、通常の状態に戻っているようだが。

 

兵藤は無言で俺に近づいてきて、右手を差し出す。

 

「……?」

 

「お前が三人を傷つけた事実は変わらないし、俺はそれを許す事は出来ない。……それでも、やっぱり最初は仲直りからだろ?」

 

いつものごとく人のよさそうな笑みを俺に向ける。

 

「……お前は本当に甘いな」

 

「うっせぇ」

 

俺も右手を差し出し、兵藤の手を――

 

 

「あ……れ……?」

 

 

――取ることはできなかった。

 

 

「サジ!?」

「匙!?」

 

視界が歪み、自分の足で立てなくなってしまい、その場に倒れる。

 

「は……はは、もう少し……もつと思ったん……だけどな」

 

「サジ!?どうかしたのですか!?」

 

会長が俺を抱きとめるが、まともに返事もできない。

 

「おい!!一体何があった!?」

 

「サジ!?」

「元士郎!?」

「元士郎先輩!?」

「「「元ちゃん!?」」」

 

少し遅れてこの場に到着するアザゼル先生と他のシトリー眷属の皆。

 

「アザゼル先生!!サジが……サジが!!」

 

『……その事については、我が説明しよう』

 

喋る事もままならない俺に代わって、ヴリトラが答える。

 

『現在、我が分身の魂と肉体は我と同化状態にある。だが、転生悪魔とはいえ元は人間。中途半端に『オーバーライズ』を発動しても右腕は龍と化していたのだ。完全に龍の魂と肉体に同化してしまえば耐えきれるわけがない』

 

「何を……言っているのですか?」

 

『既に我が分身の体はボロボロ、そして魂は消滅寸前。簡潔に言うなら、我が分身はもうじき――死ぬ』

 

 

『――え?』

 

 

「……う、嘘ですよね?嘘だと言ってください!!」

 

「……この馬鹿やろうが」

 

すみません、アザゼル先生。以前忠告された通りになっちゃいました。俺は力を求めて力に溺れた。強くなりたかった理由を後回しにして、単純に力だけを求めていってしまった。

 

「いや、いやです!!私の夢を叶えてくれるんじゃなかったのですか?私の隣を歩いて行ってくれるんじゃなかったのですか?」

 

ああ、そんな事言ったなぁ。それすらも俺は忘れていたんだ。そりゃあ兵藤にいつまでたっても勝てないだろうさ。

 

「お願い……ですから……」

 

ごめん、会長。

 

「貴方が居なくなったらどうするのですか、サジ!!」

 

ごめん、副会長。

 

「……なんで人の忠告を聞かないのよ」

 

ごめん、由良。

 

「ヒック……いやだよぉ」

 

ごめん、仁村。

 

「……馬鹿」

 

ごめん、巡。

 

「……なんで?なんでこんなことになったの?」

 

ごめん、花戒。

 

「……しっかりしてよ、元ちゃん」

 

ごめん、草下。

 

 

これが力に溺れた馬鹿の末路か……。今となっては後悔しか残っていないが、どうしようもできない。もう意識が霞んできてるんだ。

 

『少し疲れたのだろう。ずっと走り続けていたのだ。ゆっくり休め』

 

ああ、そうだな。

 

 

「いやぁ……いやぁあああああああああああああああ!!」

 

 

意識の途切れる寸前に聞こえたのは、会長の悲痛な叫びだった。

 




終わりませんよ?
凄くBADエンドの空気ですけど、まだまだ続きます。

魂がなくなったら救いようがないけど、夢オチとかいう反則技が存在するのです!!使いませんけど!!

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