ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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ついに匙君の右腕の封印(包帯)が……。


55話 対峙

神器を発動させ、全身に黒炎を纏わせる。

 

「……そんな分かりやすい挑発に乗ると思うのかい?」

 

「貴方の手口は想定済みです。今更そんな事で心を乱したりなんかしませんよ?」

 

俺の方だって、こんな分かりきった挑発に二人が乗ってこないことくらい想定済みだ。二人は……な。

 

「……ふふ、ふふふ」

 

ゼノヴィアの前髪が垂れて目もとは良く見えないが、怒っているのは明らかだ。

 

「ゼノヴィアさん?」

 

「いい度胸だ。ボコボコにする程度じゃ物足りない。貴様をこの聖剣デュランダルの錆にしてやろう!!」

 

「ちょっと、ゼノヴィア!?」

 

木場の制止も聞かずにゼノヴィアだけが突進してくる姿を見て、俺はほくそ笑む。単細胞のゼノヴィアの事だ、こんな安い挑発にもお前だけは乗ってくると思っていたよ。

 

自分のやや前方に黒炎を勢いよく放ち、その衝撃で地面に落ちていた葉っぱや砂が舞い上がり少しだけ俺とゼノヴィアの間の視界を悪くする。

 

「ふん、この程度で私の足を止められると思うなよ?」

 

「勿論、そのくらい分かっているさ。――龍之炎≪塁≫」

 

俺は纏っている黒炎を体から切り離し、少しだけ細工を施してからバックステップで距離を取る。視界を悪くしたのはこの作業を可能な限り悟られない為だ。

 

「待って、ゼノヴィア!!罠だよ!!」

 

「でりゃぁあああああああ!!」

 

葉っぱや砂が舞っている中をゼノヴィアが突っ切ってきて、切り離した黒炎に切りかかる。

 

「……む?思ったより手ごたえがないな」

 

施した細工は幻術。俺の実力だと強力な物ではないし精度も悪いが、俺の形をした黒炎に俺の姿を映すことぐらいはできるし、視界が良くなったところで目の前に俺のシルエットが現れれば本能的に切りかかるだろう。

 

「――だからお前は脳筋なんだよ、ゼノヴィア」

 

「ぐッ!?あぁああああああああああああ!?」

 

直ぐに背後に回り込み、隙だらけの背中から全力で蹴り飛ばす。吹き飛ばされた細い体は木にぶち当たってピクリとも動かなくなる。骨を折った感触はなかったが、ヒビくらいははいっただろう。

 

「ゼノヴィア!?」

「ゼノヴィアさん!?」

 

ほぼ一瞬でゼノヴィアが倒されたことで二人の瞳に僅かながら動揺が見て取れる。

 

「確かにお前らは強いさ。三人を同時に相手にするなんて兵藤でも難しい事が俺なんかに出来るわけない。だが足並みを乱して一人ずつ摘んでいくことは出来る」

 

「「……」」

 

「ゼノヴィアなら挑発だと分かっていても突っ込んでくると思ったよ。アイツはそういう奴だからな。三人いれば難なく俺を倒せると思ったか?俺の手口は想定済み?甘いんだよ。そんなのだから簡単に足元をすくわれるんだ」

 

残りは二人だが、俺は絶対に油断しない。万全を尽くして叩きのめす。

 

「……ロスヴァイセさん」

 

「……ええ」

 

静かに怒りの炎を燃やしながらジリジリと俺との距離を詰めてくる。さて、どうやって崩していこうか……。

 

「……ハァ!!」

 

最初に動き出したのは木場だった。凄まじいスピードで俺との距離を詰め、『魔剣創造』によって作り出した剣を振り下ろしてくる。

 

「おっとぉ」

 

兵藤と違って鎧を纏っていない俺が剣で切られると重傷だ。防ぐ手段はあるが、今はその時じゃない。だから一撃たりとももらうわけにはいかない。

 

「何でこんなことを繰り返しているんだい?」

 

「別に、お前には関係ない」

 

木場は剣を振る手を休めずに、俺に問いかけてくる。

 

「……そっか、残念だよ。僕も目の前で仲間がやられたのを見て少し怒っているんだ。可能な限り無傷で連れてくるように言われていたんだけど、それは無理そうだ」

 

木場の持っている剣が創りかえられ、光と闇を纏った剣になる。『魔剣創造』の禁手の『双覇の聖魔剣』によって創りだされた聖魔剣で俺に何度も切りかかってくる。

 

禁手……ねぇ。気に入らないな。

 

「木場君、どけてください!!」

 

後方では一撃の為にずっと準備していたロスヴァイセさんが立っている。最大の一撃を放つ準備を終えたようだ。

 

「おいたをする子にはお仕置きが必要ですね!!」

 

展開している術式が光り始め、強力な魔法が俺に向かって放たれる。これは普通に避けたんじゃ間に合わないな。

 

「ラインよ!!」

 

真横にラインを伸ばして木に巻きつけ、それを縮める事で強引に移動する。ラインでの移動は通常よりも早く動ける分、バランスを崩しやすいのが難点だが、一撃を貰うよりずっといい。

 

「匙君なら躱せると思ってたよ!!」

 

予想外だったのは避けた先に木場が聖魔剣を携えて待ち構えていた事だった。ロスヴァイセさんも既に次の魔法を放つ準備をしている。

 

木場の攻撃を躱せばロスヴァイセさんの魔法が、ロスヴァイセさんの魔法に備えようとすれば木場の剣が俺を確実に捉えるのだろう。バランスを崩している俺にはそのどちらしか選択肢がない……とでも思っているのか?

 

「これで終わりだよ!!」

 

「そうだな。――『俺』以外だったらな」

 

ギャリンッ!!

 

木場の振り下ろした聖魔剣と包帯の巻かれた右腕が固い物をぶつけ合ったかのような音を立てる。

 

「なッ!?」

 

「残念だったな。龍之炎≪虚空≫!!」

 

「きゃあああああああああああ!?」

 

≪虚空≫を、魔方陣を展開して待機していたロスヴァイセさんに向けて放つ。俺が躱さずに受け止めたことで呆気にとられ、魔法を撃てずにいたから簡単に狙うことが出来た。

 

「ロスヴァイセさん!?」

 

「敵が目の前にいるのによそ見なんかするなよ、木場ぁ!!」

 

「くッ!?」

 

「今までずっと躱してきたから、俺に防ぐ手段はないと思ったか?俺があえて防いでこなかったことに気が付かないで、相手の行動から勝手にそうだと決めつける。だからお前らは甘いんだよ」

 

木場に向けて拳を放つが、とっさに剣を盾にされて致命傷を与える事が出来なかった。ほんの一瞬で俺から距離をとった木場の視線が俺の右腕に注がれる。

 

「ああ、コレか?まぁ、今更隠しても意味ないしな」

 

木場の攻撃で既にボロボロになっている包帯を引きちぎり、今まで隠していた物が露わになる。

 

「それはッ!?」

 

木場の表情が驚愕と共に青ざめる。見ていて気味がいいものじゃないから仕方ないと言えば仕方ない。

 

 

だって――俺に右腕には『漆黒の鱗』がビッシリと生えているのだから。

 

 

「龍の腕?……でもイッセー君は龍の腕になっていても鱗なんて生えてなかった!!」

 

「そりゃあそうさ。兵藤みたいに龍に体を売ったんじゃないからな」

 

アイツとはアプローチの仕方が違うんだ。

 

「ヴリトラの鱗は木、石、鉄、乾いた物、湿った物のいずれによっても傷つかない。もちろん龍殺しとなれば話は別だし、傷はつかなくても衝撃は受けるから鉄壁とは言えないけどな」

 

「君は……君はどうしてそんなことしてまで!?」

 

「言っただろう?答える必要はない。それにそんな事を気にしていていいのか?」

 

既にお前は俺の手のひらの上。決着はついているんだからな。

 

「一体何を言って……ッ!?」

 

「俺に迂闊に近づいたのが失策だったな。お前の足にラインをつけさせてもらった。これでお前の機動力は死んだ。ああ、そうそう。剣で切ろうとしても無駄だぜ?聖魔剣なんかじゃもう俺のラインは切ることは不可能だからな」

 

木場の足についているラインは木場の足元に繋がれている。ラインを切ることが出来なければ逃げる事なんかできない。

 

「……ははは、まいったね」

 

捕食用のラインを作り出す。

 

「さよならだ、木場。特別にお前を最初に喰ってやるよ」

 

大蛇が地を這い、木場に近づいていく。そして口をあけ、今まさに捕食しようとしたその時だった。

 

 

突如何かが通り過ぎ、木場に放ったラインが切断された。そして足元に繋がれていたラインも切られていた。

 

 

何が起こったのかよく分からなかったが、瞬時に頭が切り替わる。こんなことが出来るのは俺の知っている限り一人しかいないから。

 

「悪い。遅くなっちまった」

 

「ほんとだよ。今のは流石に危なかったかな……」

 

……そうか、ここには結界が張られているんだったな。おかげで全然気が付かなかった。

 

「木場、ここは俺に任せてゼノヴィアとロスヴァイセさんを頼む。コイツは俺がやる。俺がやらなきゃいけないんだ」

 

まるでピンチに現れるヒーローじゃないか。

 

 

「……本当にお前を見ていると胸糞悪くなるよ。ええ?兵藤ォオオオオオオオオ!!」

 

 

真っ赤な鎧に身を包んだ兵藤一誠はラインを切断したアスカロンを俺に向ける。

 

 

「お前の目を覚ましに来たぜ、匙!!」

 

 




頭は沸いていても戦闘よりの思考になってるだけなので意外とキレがあった匙君。

そしてこんなボロクソに扱ってゴメンよ三人とも……。一番好きなゼノヴィアなんか脳筋扱いして速攻で退場させちゃったよ。

封印(包帯)から解放された匙君の右腕については次回か次々回でちゃんと説明します。取り敢えずそれまでは質問されても基本的にお答え出来ません。ご了承ください。

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