ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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54話 捕捉

「おい、ヴァーリ!!俺っちはこんな禍々しい気を持つ奴を仲間にするのは反対だぜぃ!!」

 

「私も嫌!!考え直すにゃヴァーリ!!」

 

ヴァーリ以外の二人は俺の勧誘を強く拒否しているが、手を引かないところを見ると本気で勧誘しているらしい。

 

「どうした、何を迷う必要がある?」

 

「俺は……」

 

「俺も気まぐれでこんなことをしている訳じゃないんだ。このままだと君という才能は埋もれてしまう。力を求めるのならこの手を取るべきだ」

 

確かに力を求めるならばヴァーリについていくべきなのだろう。だがそれを選択するならば、俺は会長たちを裏切らないといけない。

 

「君はある意味『異端者』だ。そんな生温い世界で腐っていくなんて勿体無い。全てを捨てれば楽になるぞ?」

 

楽になる……か。

そうかもしれない。全てを捨ててしまえば、全てを忘れてしまえばこんな苦痛から抜け出せるのかもしれない。

 

 

差し出されたヴァーリの手に俺の手が段徐々に伸びていく。

 

 

「そうだ。言っただろう?君の居場所は此方側なんだ」

 

 

――『貴方の……匙元士郎の居場所はここにある』

 

 

「――ッ!?」

 

伸びた右手はヴァーリの手を掴むことなく、それを弾くことで拒否の意を示す。

 

「……俺の事を何も知らない奴が俺の居場所を語るんじゃねぇよ」

 

勧誘を拒否されたヴァーリは弾かれた右手を少し見つめると、無言で踵を返して歩いて行く。

 

「残念だ、匙元士郎。兵藤一誠と同じく君には期待していたんだが……。その道を進むと言うのなら止めはしない」

 

興味が失せてしまったかのように、背を向けたまま俺に向けて言葉を放つ。

 

「お前にそんな事を言われる筋合いなんてない。俺の事は俺が決める」

 

「ふっ、確かに少々御節介だったな。……なら最後にもう一つ、リアス・グレモリー達が此方に向かってきている。逃げるのなら早くした方が良いだろう」

 

ヴァーリはそう言うと転移の光に包まれて他の二人と共に消えていった。俺も転移で逃げたいところだが、思った以上に体の消耗が激しくてできそうにない。

 

気配も近づいているのが分かるが、今からなら逃げられなくもない。夜は出歩かないようにと言われたばかりなのだから、見つかれば当然怪しまれる。今回は見つかるわけにはいかない。

 

俺は重い体に鞭をうち、夜の闇にまぎれるようにその場から立ち去った。

 

 

ヴァーリから勧誘を受けた翌日、また襲撃があったと会議が行われた。

 

「……で、今回も収穫はなしか」

 

「ええ、異変があった所にいち早く向かったのだけれど、それでも一足遅かったみたい」

 

アザゼル先生の言葉にガックリと項垂れてリアス先輩が答える。

 

「別にお前を責めてないさ。残念ながら俺の方も収穫がなかったからな。珍しくヴァーリが犯人探しに協力してくれているんだが……」

 

アザゼル先生には何の情報も言っていないらしい。黙っておくと言う約束をキチンと守ってくれていたようで何よりだ。

 

「白龍皇まで動いているのに犯人の動向すらつかめないと言うのは少々厄介ですね。ほんの少しでも情報があればいいのですが……」

 

「……そう言えば複数の人物が歩いた様な跡はあったわね」

 

「では犯人は複数存在する?……でも目的が全然わからないですね。いったい何の為に襲撃を繰り返しているのでしょうか?私たちには被害は出ていませんし、単純に悪魔や堕天使への私怨ではなさそうですが……」

 

リアス先輩の言葉でロスヴァイセさんは更に眉間に皺をよせる。

 

「痕跡は殆ど残っていない、全く私たちに被害はない、襲われているのは襲っても全く問題のない相手だけ……ですか」

 

「会長?どうかしましたか?」

 

目をつぶって静かに考えている会長に副会長が声をかける。

 

「……何か、何か引っかかるのです。痕跡を残さないのは当然と言えば当然ですが、そこに犯人へのヒントが隠されていそうで……」

 

相変わらず恐ろしい人だ。蜘蛛の糸を手繰り寄せるように、僅かの情報で俺にたどり着こうとしている。

 

「どうだ、ソーナ?何か分かりそうか?」

 

「ごめんなさい。もう少しなのだけれど……」

 

「十分だ。もしかしたら犯人の手掛かりがつかめるかもしれない」

 

皆が犯人の手掛かりがつかめそうで、どこかホッとしているような状態の中、約一名だけ俺にずっと視線を向けている人物がいた。

 

「子猫?」

 

「……(フイッ)」

 

リアス先輩に声を掛けられて塔城は俺から視線を外した。一体何があったというのだろうか。

 

「よし、犯人の手掛かりも掴めそうだし、今日はこの程度にしておくか」

 

アザゼル先生の一言で会議は終了となった。此処まではいつも通りだった。

 

「匙先輩」

 

一ついつもと違う事があったとすれば塔城が珍しく俺に声をかけてきた事だろうか。

 

「調子が悪そうですけど、昨日は何をしていたんですか?」

 

「何って、特に何もしていないけど?」

 

よくこんな嘘が平然と出てくるな、とは思う。だが、今に始まった事じゃない。

 

「……そう、ですか。すみません気のせいだったみたいです」

 

塔城はそう言うとリアス先輩たちを追いかけてどこかへ行ってしまった。

 

一瞬だが塔城の眼は俺を疑っているようにも見えた。気が付かれた?いや、まさか。痕跡も残していないし、俺だと気が付かれる要素はない筈だ。

 

だが警戒しておくに越したことは無いか……。

 

 

今日も一人、無音の森の道なき道を歩く。体は怠いが、動けないほどじゃない。

 

『……体調が戻りきっていないと言うのに今日も出るのか?』

 

「ああ、警戒がより強くなる前に一匹でも多く吸収しとかないとな」

 

昨日より今日、今日より明日と警戒は強くなっていく。どれだけ隠れていてもいつかは見つかる。今日でしばらく活動は止めなければならないだろう。

 

『後戻りはできぬのだな……』

 

「もう抑えられないんだよ」

 

湧き上がる黒い感情が、力への渇望が止められない。もうこの感情を抑える事なんて出来ないんだ。

 

「……?」

 

ほんの少しの違和感に、歩いていた足を止める。

 

「……鳥や虫の音が聞こえないのはまだ分かる。それでも木々の音すら聞こえないのは少し変だな」

 

やっぱり変だ。

これは結界?いつの間に……。

 

「信じたくはなかったけど、匙君が犯人だったんだね……」

 

「意外だな。こんなことをするような奴には見えなかったが……」

 

「匙君、どうしてこんな事を……」

 

背後に突如現れる木場、ゼノヴィア、ロスヴァイセさんの気配。此処まで接近されるまで気が付かなかったのは、ここに張られた結界が何か影響を与えている可能性が高い。

 

結界が張られた事にすら気が付かなかったのは既に張られていたから。最初から罠が張られてたんだろう。思ってたより手が早かったな。

 

「ある程度気がついていたみたいだけど、何で俺だって分かったんだ?」

 

「最初に気づいたのは子猫ちゃんだよ。最近、匙君が禍々しい気を纏っているからもしかしたらってね。まぁ、実際に君を見るまで信じてなかったんだけど」

 

成程ね。あの時点で目星はついていたのか。塔城はヴァーリの仲間の妹と聞いたことがある。同じ妖怪ならば俺が禍々しい気を纏っていると気づいても仕方ない。

 

「痕跡を残さないのは私たちに可能な限り気づかれない為、私たちが襲われなかったのはそもそも身内の犯行だったから、となれば最後のはぐれ悪魔ばかりの理由も納得です。匙君、悪いことは言いません。大人しく投降してください」

 

「そう言われて、はいそうですかって投降する奴がどこにいるんですか?そもそもはぐれ悪魔を狩って何が悪いんですか?」

 

「……今の貴方の暴走は目に余ります。ソーナさん達にはこのことは伝えていませんし、他グレモリー眷属の人達は貴方が此処に居るとは知りませんが、直に此方に着くでしょう。大人しく下るのなら今ですよ?」

 

つまりは今ここで下れば全てを黙っておいてやると言いたいのか。だが、甘いな。俺の邪魔をするのなら、立ちふさがるのなら例え誰だろうが容赦はしない。此方に向かっているグレモリー眷属は俺が此処にいると知らないのなら、もう一つだけ手段がある。

 

「残念だよ。兵藤以外のグレモリー眷属は嫌いじゃなかったんだが……」

 

 

――援軍が来るまでに、この場で全員喰っちまえばいい。

 

 

「……下る気はないようですね」

 

「最初っからボコボコにして縛れば良かったのさ。そっちの方が楽でいい」

 

ゼノヴィアはデュランダルの剣先を此方に向けて言い放ち、それを見た残りの二人も戦闘態勢に入る。

 

「僕たち三人を相手にできると思うのかい?」

 

「おいおい、随分余裕じゃないか。兵藤以上の脳筋な『騎士』にスピードだけが取り柄の『騎士』、攻撃だけで防御力のない『戦車』。一体何処に俺が負ける要素があるんだ?」

 

俺の挑発に三人とも口元がピクリと動く。

 

 

「――来いよ。テメェ等全員、俺が喰ってやるよ」

 

 




匙君の理不尽な暴走の矛先がグレモリー眷属に向けられました。

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