ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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53話 捕食

「元士郎?こんな時間にどこ行くのー?」

 

外に出かけようと玄関で靴を履いている俺を見てお袋が声をかけてくる。

 

「ちょっと散歩に行ってくる」

 

「また?最近多いわねぇ。最近物騒なんだから気をつけなさいよ?」

 

「わかってるよ。いってきます」

 

ガチャリとドアを開けると冷たい夜風が頬を撫でる。

空は星できらめき、月が夜道を照らしている

 

「今夜は良い夜だ。こんな日は『出会い』を求めて『散歩』するに限る」

 

 

あァ――本当に良い夜だ……。

 

 

 

時は遡る事数日前、レーティングゲームも忙しかった学園祭も無事終わり、人段落している時だった。アザゼル先生からシトリー眷属、グレモリー眷属とそれに準ずる者達が呼び出されていた。

 

「緊急事態だと仰いましたが、アザゼル先生?いったい何が起きたというのですか?」

 

「それに関しては私から説明するわ、ソーナ」

 

会長の質問にアザゼル先生ではなく、リアス先輩が答える姿勢を見せて席から立ち上がる。

 

「実は最近、この駒王町で不可解な事件が起きていてね。この地に居る悪魔、堕天使が襲われているの。……これは由々しき事態よ」

 

「ええっ!?あ、でも天使は襲われてないんだ。良かったぁ」

 

「良かったじゃねえよ!!悪魔だけじゃなくて堕天使まで襲われてるんだから大事だろ!!」

 

天使が襲われていないと聞き安堵している紫藤に対し声を上げる兵藤。

 

「堕天使が襲われているってことはエクソシストの犯行じゃなさそうですね。『禍の団』の仕業でしょうか?」

 

「ううむ、そう思いたいところなんだが……。リアスの言ったように不可解なんだ。襲われているのははぐれ悪魔、堕天使も俺に反抗的な奴らだけを狙い撃ちしてやがる。もし『禍の団』であったのならそんな事はしない筈だ」

 

「それもそうですね……」

 

木場の質問にアザゼル先生が頭を抱えながら答える。

アザゼル先生も犯人の目的が掴みきれず、かなり迷っているようだ。

 

「匙、お前はどうだ?何かヒントみたいなのつかめないか?」

 

「吸血鬼とかどうですか?」

 

「ぼ、ボクは何もしていないですよぉおおおおお!?」

 

チラリと吸血鬼であるギャスパーに視線を向けると面白いくらいに慌てふためく。

アザゼル先生の方に向きなおすと、先生は少し考え込むような仕草をしていた。

 

「……どうかしました?」

 

「ああ、いや、何でもない。残念だがそれはないだろうな」

 

「でしょうね。言ってみただけです」

 

そもそも吸血鬼が犯人だなんて考えてなかったし。

 

「うーん、サッパリわからん……」

 

「今の所私たちが襲われる心配はなさそうだけど、あまり一人で出歩かないようにしましょうね。私の方も犯人の手掛かりを探してみるわ」

 

リアス先輩のその言葉で会議は終了となった。先輩の判断も妥当だ。

 

まぁ、そう簡単に犯人の手掛かりは掴めないだろう。

 

だって、犯人は――。

 

 

「ははは、やっぱり今日は良い夜だ。見ろ、ヴリトラ。『獲物』が二匹もいるぞ」

 

 

――犯人は『俺』なんだから。

 

 

「しかし、意外だったな。はぐれ悪魔なんてかなり少ないと思っていたが、探せば居るもんだ。上手く隠れているのか、探す方が無能なのかは知らんが、どちらにせよ俺にとってはラッキーだったな」

 

てっきり街の廃墟の中に隠れていると思っていれば、あまり人が入らない森の中にも潜んでいる。隠れる事さえできればどこでもいいのかな。

 

「だ、誰だ、お前は!!」

 

「エクソシスト?……いや、違う。お前も悪魔か!!」

 

「俺の事なんかどうでもいいだろ?……どうせここで死ぬんだからな」

 

両手で太めのラインを二つ作り出す。ラインの形状は既に変わっており、人ひとりは丸のみ出来るような大蛇で、獲物を捕食する口も付いている。元々ラインは攻撃性が皆無な能力だったが、ここ数日で着実に能力が変化していた。

 

「行け、ラインよ」

 

はぐれ悪魔に向かってラインを放つ。

ラインの大蛇は二匹に噛みつかんと追尾していく。

 

「ひ、ヒィイイイイイイイイ!?」

 

「オイ!!置いて行かないでくれ!!ギャアアアアアアア!?」

 

片方のラインが一匹の足に絡みつき、動きを封じる。

ラインは捕まえたはぐれ悪魔を喰らおうと、大口をあける。

 

「い、嫌だ……嫌だぁあああああ「喰らえ」あ……ぁ」

 

バクンッとラインは軽々と捕まえたはぐれ悪魔を飲み込む。

飲み込まれたはぐれ悪魔は徐々に力に変えられ、小さくなりながら俺の方へ流れてくる。

 

『うわぁああああああああ!!』

 

もう片方のラインからも力が流れ込んでくる。どうやら逃げ出した方もラインに捕まったらしい。

 

「ッ!?オェエエエ……ハァ……ハァ。クソッ!!またかよ……」

 

そして突如襲ってくる吐き気と頭痛。

バランスを崩して倒れそうになったが、四つん這いになって何とか堪える。

 

『当然だ。悪魔の生命を力に変換して『吸収』しているのだ。己の生命を力に変換して『放つ』のとは大きく違う。力が大きすぎて完全に変換できていないし、我が分身の体が耐えきれていないのだ』

 

「ハァ……ハァ……この程度、≪記憶≫を自覚し始めた頃に比べれば大したことない。オェエ……こんなんじゃ全然足りない」

 

もっとだ。もっと力を蓄えないと……。

 

『無茶だ!!堕天使を襲って吸収した時など、光の力が体の内側からダメージを与えていたではないか!!』

 

ああ、アレは結構苦しかったなぁ……。

体がダルイ上に体の中を虫が這いずり回っているような不快感だった。

 

「大……丈夫……。まだ……いける」

 

『まだ動いては駄目だ!!もう少し安静にしておかねば!!』

 

「オェエ……お客さんが来てるんだ。こんな状態じゃ……失礼だろう?」

 

視線の先には誰も見当たらない。

だが、そこにいるとなんとなく感じ取れた。

 

「なんだ。気づいていたのか?」

 

声と共に景色が歪み、見たことのある人物が数人ほど現れる。猿の妖怪と黒髪の猫又。そして先頭にいる銀髪で目つきの鋭い男。あんな奴、忘れるはずがない。

 

「お前との出会いは求めてないんだけど。……一体俺に何の用だ、白龍皇ヴァーリ・ルシファー?」

 

「久しぶりだな、匙元士郎。なに、なかなか面白ことをしていると思ってね。折角だから見学させてもらっていた」

 

「見学……ねぇ。ここ最近ずっと俺をつけていたんだ。そろそろ飽きてきただろ?」

 

俺の言葉にヴァーリは笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、どうやら最初っから気づかれていたらしい。黒歌の幻術で隠れていたというのに」

 

「昔から厄介事には事欠かなくてね。他人の気配にはそれなりに敏感なんだよ。こんな世界に足を踏み入れてから、更に敏感になってるんだ。だから幻術で隠れていようが白龍皇みたいな奴が近づけば分かる。……で、俺に何の用だ?」

 

「君に直接用があったわけではないんだ。アザゼルから今回の事件の犯人を捜すように頼まれていてね。本来なら気の乗らない話だが、俺の直感が何か面白い事があると言っていてね。そして犯人を捜していれば君が面白い事をしているじゃないか」

 

成程、アザゼル先生の差し金か。面倒な奴を送ってくれたな……。

 

「じゃあ、俺がやっていることも報告するか?」

 

「どうしようかな。もし俺が報告するならどうする?」

 

「――殺す」

 

俺の一言にヴァーリの瞳が鋭い眼光を放ち、狂気的な笑みを浮かべる。

 

「……と言いたいところだけど、残念ながら俺じゃ力不足だ。自分の力量くらいはわきまえているからな。だが死ぬ気になればそこの二人を重傷に追い込むことぐらいは出来るぜ?」

 

後ろに居る二人が警戒の色を強めるが、それをヴァーリが手を挙げて制す。

 

「安心するといい。アザゼルには報告しないさ。――君と戦えば楽しくて歯止めが効きそうにない」

 

「……あっそ」

 

凄まじい程の悪寒が走る。

平然を装っているが、ヴァーリのプレッシャーに押しつぶされてしまいそうだ。

 

「君を此処で倒す事は出来るが、今の君を倒してしまうのはあまりに勿体無い。アザゼルには悪いが、今回の事は黙っておこう」

 

「……なんだよ、その手は」

 

今回の事を黙っておくと言ったヴァーリはツカツカと俺に近づいてきて手を差しだしてくる。

 

「勧誘さ。やり方はともかく、君の姿勢には好感が持てる」

 

「ちょ、ヴァーリ!?」

 

「本気かにゃ!?」

 

どうやら冗談とかではなくて、本気で俺を迎え入れようとしているらしい。

いったい何が目的だ?

 

「力が欲しいんだろう?君が求めている力はここにはないと思うんだけどね」

 

「……何が言いたい?」

 

 

「全ての『しがらみ』を捨てれば迷いもなくなる。――俺と来い、匙元士郎。君の居るべき場所は此方側だ」

 

 




お、終わりませんよ?
自滅フラグとか家出のお誘いとか来ちゃってますけど……。

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