ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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一誠の後輩が猫属性なら匙の後輩は犬……なんでもありません。


50話 デート

生徒会室でいつものごとく作業をして、少し休憩に入っている時だった。

意を決した表情で仁村が俺に向かって歩いてきて、座っている机をバンッと叩く。

 

「匙先輩ッ!!」

 

「い、いきなりどうした?」

 

「次の日曜日、お暇ですか?」

 

「え?ああ……いや、どうだったかな。何もなかったとは思うけど」

 

特に何かあるわけではないが、いつものごとく自主練をするつもりだったんだけど……とは口が裂けても言えない。先日、休日はしっかり休んでいると言ったばかりなのだ。うっかり口にすれば何を言われるか分からない。

 

「じゃあ、暇なんですね!?」

 

「……ひ、暇かな?」

 

それ以外に答えようがなかった。

というより、そうとしか答えられないような雰囲気を仁村が纏っていた。

 

「本当ですか!?だったら――」

 

次の仁村発言で生徒会室の空気が凍りついた。

 

 

「――二人っきりで遊びに行きませんか?」

 

 

ついでに複数の絶対零度の視線が俺に突き刺さる事になった。

 

 

次の日曜日、俺は待ち合わせの所に来ていた。

 

「……やれやれ」

 

仁村には悪いが、遊びに出る時間がもったいない。それだけやれることは沢山ある。

ただ、仁村の誘いが嫌だったわけでもない。あそこで断ることはできたかもしれないが、仁村を傷つける結果になるし、それは不本意でもあった。

 

つまり、結局誘いを断ることが出来ずに今日この日が来てしまった。

 

チラリと腕時計の時間を確認する。

待ち合わせ時間は11時で、今はその15分程前だ。

流石に男が時間ギリギリに来るのは間違いだろうと思い、今の時間に着いたが逆に丁度良かったらしい。

 

「ハァ……ハァ……待たせちゃいましたか?」

 

先に俺がいる事に気が付いたらしく、走ってきたようだ。

仁村は当然私服姿でいつも見る制服じゃないから、少しだけ新鮮味がある。

 

「大丈夫。俺も今来たところだから」

 

「……えへへ」

 

息が整った仁村は俺がそう答えると嬉しそうな表情に変わる。

一体何が嬉しかったのやら……。

 

「すみません、こういうシチュエーションにちょっと憧れていたので……。じゃあ行きましょうか。匙先輩、行きたいところありますか?」

 

「俺は特にないから、仁村が行きたいところでいいよ」

 

「だったら近くのショッピングモールに行きましょう!!買いたいものとかもあるので……どうかしました?」

 

「いや、何でもない。行こうか」

 

「はい!!」

 

近くに見知った気配が4人、ついでにさっきからずっと同じ所に居て此方を凝視している鳥が一匹。気配を感じるのは巡、由良、花戒、草下の四人。あの鳥は以前も見たことがある。確か会長の使い魔だった筈だ。

何をやっているんだか……

 

「匙先輩!!はーやーくー」

 

「ああ、今行く」

 

少しだけ視線がピリピリしている気がしないでもないが、気が付いていない仁村は楽しそうだし、直接害があるわけでもない。

 

……まぁ、いいか。

 

 

そのまま俺達はグレモリーとのレーティングゲームの会場になっていたショッピングモールに来ていた。

今回は戦いに使えそうな物じゃなくて、小物や服のコーナーを回っているが。

 

「~♪~♪」

 

「……楽しそうだな?」

 

「え?えへへ。はい!!今日を凄く楽しみにしていたので!!」

 

「そっか」

 

仁村は活発で良く笑うイメージではあったが、今日はいつもより笑顔だ。

更に話しかけるととても嬉しそうな表情になる。

一瞬だけ、ピコピコ動く犬の耳とブンブン振られている尻尾が見えたのは気のせいだと信じたい。

 

『……なんか見てて腹立つわね』

 

『……ここは我慢だよ、巴柄ちゃん』

 

『……何か探偵みたいだねー』

 

『……憐耶は呑気ね』

 

待ち合わせの場所からこっそりついてきている四人。会長の使い魔は店の中まで入ってこないと思ったら人型になってまでついてきている。

仁村は全然気が付いていないみたいだが、俺は気が付かないとでも思っているのだろうか?

 

ぐぅ~

 

隣にいる人物のお腹から可愛らしい音が響く。

顔を真っ赤にしてお腹を押さえているが、それが自分のお腹が鳴ったことを証明していることにまでは気がまわらなかったらしい。

 

「あ、あはは……」

 

「そろそろ昼飯にしようか」

 

「うぅ……すみません」

 

俺に聞かれたのが恥ずかしかったからか、仁村はがっくりと項垂れる。

 

『二人が動くよ!!』

 

『ちょっと、桃!!声が大きいわよ!!』

 

『巴柄もね。ほら、憐耶も行くわよ』

 

『あー!!このキーホルダーかわい……むぅ、殴らなくても良いでしょー?』

 

……暇だな、お前らも。

 

仁村は食べる所はここが良いというので、その店に入った。

お互いに注文した料理を食べ終えた頃に、注文もしていないパフェが置かれる。

 

「あの?こんなの注文してないんですけど?」

 

俺の質問に店員はにこやかに答える。

 

「実は今サービス中でして。カップルでご来店されたお客様にはパフェを一つ無料で食べられるんです」

 

……なんて傍迷惑なサービスだ。

客が甘い物嫌いだったらどうするつもりなんだ。

 

「か、カップルだなんて、そんな……」

 

「いえいえ、お似合いですよー。それでは彼氏さん、パフェをスプーンでひとすくい」

 

「……?……?」

 

勝手に手を取られ、スプーンの先が仁村の口元に固定される。

 

「はい、彼女さん。あーん」

 

 

ビキッ!!

 

 

『ああ!!お客様、コップが割れて……』

 

『スミマセン、ヒビでも入ってたんですかね?』

 

背筋が凍るほどの殺気を感じるんだけど……。

 

「あ、あーん」

 

仁村は顔を真っ赤にしてそれを食べる。

 

「お次に彼女さんも……はい、彼氏さん。あーん」

 

今度は俺の口元にスプーンの先が来る。

 

 

メキッ!!

 

 

『お、お客様?スプーンが……』

 

『ゴメンナサイ、力ガ入リ過ギタモノデ……』

 

これは一口食べなければ終わりそうにないな。

仁村も恥ずかしさのあまり顔が先程以上に真っ赤だ。

 

「……あーん」

 

パシャッ!!

 

スプーンを咥えた瞬間、店員がどこからか取り出したカメラで写真をとった。

 

「はい、ありがとうございましたー。この写真は現像してお店に飾らせていただきます」

 

「は!?ちょっと!?」

 

「ではでは~」

 

そう言うと店員はそそくさと居なくなってしまった。

何だったんだ、あの店員……。

 

「とりあえず、これを食べないとな……仁村?」

 

「ひゃい!?そ、そそそ、そうですね!!早く食べないと!!」

 

そうだな。早く食べてここを出ないと、そろそろ不味い気がしてきた。

俺と仁村の為だけじゃなくて、この店の為にも。

 

 

昼食を食べた後も、ショッピングモールの中を歩き回っていたらいつの間か夕暮れ時になっていた。そして最後に仁村と近くの公園まで来ていた。

 

「えへへ、楽しかったですね匙先輩!!」

 

「ああ、そうだな」

 

そう答えると仁村の晴れやかな笑顔が急に曇る。

 

「……本当に楽しかったですか?」

 

「……勿論」

 

「嘘ですね」

 

仁村は俺の返事をバッサリと切り捨てる。

 

「女の子はそういう事に敏感なんですよ?匙先輩があんまり楽しんでなかった事ぐらい御見通しです。今日だけじゃなくて、最近いっつもそうです。普通に話しているように見えて、頭の中では何か悩んでる」

 

「……ちなみになんでそう思うんだ?」

 

「だって修学旅行から帰って来た匙先輩は――なんだか怖いです」

 

怖い……か。

 

「……私は匙先輩の悩んでいることまでは分かりません。でも、少しくらい悩みを聞くことくらいはできると思います。ううん。私は匙先輩の支えになってあげたいです。だって私――」

 

仁村の顔が赤く見えるのは夕日だけの所為じゃない。

これから何を言おうとしているのかが分かってしまった。

 

「私、元士郎先輩の事が――」

 

止めてくれ……。その先は――。

 

『巴柄ちゃん!!お、押さないでよ!!』

 

『私じゃないわよ!!憐耶が!!』

 

『私じゃないよー!!翼紗ちゃんがー』

 

『あら、私は何もしてないけど?』

 

「す……」

 

今まで隠れていた四人が物陰から出てくる。

 

「……え?……えぇえええええええええええ!?」

 

仁村はいきなり出てきた四人を二度見して驚きの声を上げる。

 

「偶然だね!!」

 

「いやぁ、本当に偶然ね!!」

 

「ねー!!」

 

「凄い偶然もあるものね」

 

最初からついてきてたくせに、白々しい嘘をつくなよ。

 

「な、ななななななんで先輩たちがここに!?もしかしてついて来てたんですか!?いいい、いつから!?」

 

「『ハァ……ハァ……待たせちゃいましたか?』辺りかしら?」

 

「おもいっきり最初からじゃないですか!!もぉおおおおおおおおおおお!!」

 

サラリと答える由良にポカポカと殴りかかる。

 

「留流子ちゃん、抜け駆けは駄目だと思うな!!」

 

「色々と聞きたい事もあるしね、留流子?」

 

「特にあのカップル限定のサービス。どこにも書いてなかったけど、本当にそんなのあったのー?あの店員さんもどこかで見たことあるような――」

 

「わぁあああああああああああ!!先輩!!駄目です!!それ言っちゃ駄目ですぅうううううううううううう!!」

 

仁村は弄られ、涙目であたふたし始める。

 

「先輩たちの……先輩たちの馬鹿ぁああああああああああああ!!」

 

仁村が泣き叫んでいる中、肩をポンと叩かれる。

 

「助けてあげるのはこれが最初で最後だからね?」

 

「……今回ばかりは感謝するよ、由良」

 

「貴方がどうしようが勝手だけど、全員が傷つく決断だけはしないでよね」

 

由良はそう言うと泣いている仁村を弄っている輪に戻っていく。

 

……やれやれ、全部御見通しですってことか。

 

既に日は沈んでいて、溜息と共に出た白い息は空中に溶けるように消えていった。

 




――裏話

「で?私があそこまで協力してあげたのに何も言えなかったと?この根性なし」

「うぅ……先輩たちの邪魔が入って」

「あっそ。あとこれ、あの時の写真」

「あ、ありがとう!!……えへへ」

「(……私にはあの怖い先輩の良さがサッパリわからんわ)」

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