ソーナの眷属悪魔、生徒会の書記として迎え入れられて数日、匙は生徒会室で頭を抱えていた。
その原因はさっそく生徒会の仕事として渡された目の前にある紙の束。
分厚い本一冊ぐらいはできるんじゃないかというくらいの量があるソレは全部生徒たちのクレームで構成されていた。
さらに言うなら全部この学園の女子生徒からであり、クレーム内容はどれも似たようなものだった。
とある男子生徒三名から覗きをうけているからどうにかして欲しい、とのことだ。
「そんなこと言われたって、俺にどうしろって言うんだよ!!」
「サジうるさいですよ。この学園の生徒達の要望に応えるのも生徒会の仕事です」
思わず大きな声を出してしまったので真羅から注意をされる。
たしかにそうなのだろうが、本当にどうすれば良いのだろうか。
男子生徒三人は2年の兵藤、元浜、松田の三人だ。この三人は変態三人組とかよばれている。学園生活に無関心だった匙ですらこの名前を知っている。
いや、この三人を知らない奴なんてこの学園にいるのだろうか?
ほぼ毎日女子生徒に追っかけられているが、まさかこれ程とは思わなかった。
この紙の束を渡してきた数人を恨めしそうに睨む。全員我関せずの顔をしているが、どこか嬉しそうだ。
生徒会として男子生徒を望んでいたのはこのクレームの山が原因なのだろう。
現在生徒会には自身を除けば女子生徒しかいない。
生徒会といっても女子なのだから、変態三人組にはできる限り関わりたくないのだろう。
ソーナは生徒会としても退屈はさせないと言っていた。
確かにその通りで間違ってはいない。ただし本当の事も言っていない。
こんなもの処理させられるのなら生徒会に入ったのは早計だったかもしれない。
「匙先輩、私もサポートしますから頑張りましょう、ね?」
隣で仁村が励ましてくる。流石に一人でやるのは大変だろうからと補助を申し出てきた。
本当にいい後輩だ。
「ありがとう仁村。一通り見た限りで分かるのは、覗きのあった一部の部室とかに穴が開いているかもしれないってことだ。まずはその確認からだな」
「そうですね。部屋の補修に関することは生徒会の仕事の範囲内ですから、そっちから地道に片づけていきましょう」
「会長、そういうことなので少し校内を見て回りたいのですが構いませんか」
黙々と作業をしているソーナに許可を求める。
「構いませんよ。でも下校時間には戻ってきてくださいね?あなたにはまだ説明しなければならないことがありますから」
話とは悪魔に関しての事だろう。昨日はあのまま帰ったが、まだ話があるのか。
「わかりました。会長の許可が出たことだし見回りに行って来よう」
「はい!じゃあ私も行ってきます」
「いってらっしゃい二人とも。元ちゃん二人きりだからって留流子を襲っちゃダメよ?」
にやにやしながら巡が言ってくる。仁村の顔が真っ赤になってチラチラこっちを見てくる。
「そんなことするか。でもお前は後ろから襲われないように気をつけろよ」
きゃーコワい、なんて言いながらもまだニヤニヤしている。いつか本当に殴ってやろうか。
「元士郎、巴柄の相手は時間の無駄だから早くいってらっしゃいな」
「そうするよ由良。馬鹿の相手はいつまでもしていられないので、サッサと行ってきます」
仁村を引き連れ生徒会室を後にする。
なんだか出るときに巡の声が聞こえたが気のせいだろう。
匙と仁村は一番クレームの数が多かった剣道部のいる道場まで来ていた。
「剣道部ねぇ。確かに剣道部の奴らに毎回追いかけられている気がするけど、バレてるのに同じ所で覗きなんてするもんか?」
「私よりも男子の匙先輩の方がわかる気がするんですけど?」
そりゃそうだ。
「俺は色々と感覚がおかしいから、一般的な男子生徒の考えは良くわからない。まぁ、あの三人を一般的な男子生徒と考えていいのかは知らないけどな」
「それもそうですね。でも匙先輩、感覚がおかしいってどういうことですか?」
「っと、余計な事を言ったな。忘れてくれ。それよりも剣道部の奴に話を聞こう」
「……?それもそうですね」
なんだか納得していない表情だが、仕事の方を優先してくれるようだ。
二人で道場に入っていき目的の生徒を探す。
道場内には何名かが練習しており、いきなり入ってきた匙と仁村を見て手を止める。
「邪魔して悪いな。生徒会の者なんだけど、村山と片瀬っているか?覗きの件で聞きたいことがある」
二名の女子に視線が集中する。どうやら彼女たちが村山と片瀬らしい。
「その、覗きをされているとのことですが、具体的にどこら辺であるんですか?」
仁村の問いにとある方向を向きながら答える。
「あっちの更衣室よ。でも……その」
気まずそうにこちらを見る。流石に更衣室に男子を入れたくないのだろう。
「仁村は中に入って話を聞いてくれ。俺は外から穴がないか探してくる」
「わかりました。じゃあ更衣室に行って話を詳しく聞かせてもらえますか?」
「ええ、こっちよ」
仁村は更衣室へ、匙は外から更衣室のある場所へ歩いていく。
外を回りながら道場を見る。外見は綺麗だが、それなりに古い建物らしい。。
覗きができる穴があってもおかしくないかもしれないが、そんなものを見つける根性が凄まじい。
もっとその根性を他の事に生かせないのかと思うが、無理なのだろう。
「匙先輩!いつも声はここら辺から聞こえるらしいです」
仁村が窓から顔をだしながら匙を呼ぶ。
いつのまにか更衣室のある場所についていたらしい。
「窓があるならソコから直接覗いてるんじゃないか?」
「着替える時はちゃんとカーテンを閉めているそうです」
そう単純じゃないらしい。カーテンを閉めても覗きをしているならどこかに穴がある可能性が高い。
「……ん?」
なかなか穴らしい物は見つからないが、時間をかけてようやくそれらしきものを見つけた。
「どうしました?」
「……ビンゴだ。小さいが穴があるしかも二つ。多分ここから覗いてんだろうな」
穴から荷物が置いてある場所が見える。あそこで着替えているのだろう。
「思ったより穴が小さいな。マジでよく見つけ出したなあいつ等」
「私も確認しました。とりあえずテープか何かで塞いでおきましょう」
「わかった。入り口の前で待ってるから、終わったら出てきてくれ」
時計を確認すると下校時間が近い。たかが覗き穴を探すためだけにかなりの時間をかけてしまった。
こんなのがまだ山のように残っているとか気が遠くなる。
入り口で待っていると仁村が出てくる。
「お疲れ様でした。剣道部の方はこれで何とかなったと思います」
「ああ、これで解決してくれないと困る。そろそろ下校時間だから生徒会室にもどろう」
「はい!」
仁村はまだまだ元気そうだが、これからまた長い話が待っていると思うと鬱になりそうだ。