ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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48話 遠い背中

「これからお前らで模擬戦をしてもらう。基本的に明確なルールはないから好きなだけ暴れればいい。なに、いざとなったら止めに入るから安心しろ」

 

「わかりました」

 

「良いのかよ?お前、まだ禁手に至ってないんだろ?」

 

兵藤が心配している様子を見せるが、優しい言葉とは裏腹に表情は真剣そのもの。

手を抜くつもりは一切ないらしい。

 

「兵藤、余計な心配はいらない。俺はお前を殺すつもりで行く。手を抜いたりしたら絶対許さないからな」

 

力の制御を学ぶためだけじゃない。自分自身がどれだけその背中に追いつけたのかを確かめるためにも。

 

『相棒、強力な龍の力を感じる。以前の匙とは別人だと思った方が良いだろう』

 

「ああ、俺も嫌ってくらい感じてるよ。前と一緒にしてたら痛い目を見そうだ。――禁手化ッ!!」

 

兵藤が鎧を纏い、俺から距離をとる。

俺も神器を発動させ、黒炎を滾らせる。

 

 

「お互い準備はできたな?それじゃ、始めッ!!」

 

 

「先手必勝!」

 

アザゼル先生の合図とともに兵藤が猛スピードで突撃して左手で攻撃してくる。

俺は勢いのついた拳を躱す事もせず、左手で易々と受け止める。

 

「はぁ!?嘘だろ!?」

 

「初撃だ。喰らっとけ!!」

 

「クッ!?ぐぁああああああ!!」

 

驚愕して動きの止まった兵藤を空いている右手で兵藤を殴り飛ばす。

繰り出された拳は兵藤の鎧を破壊するまではいかなかったが、その真っ赤な鎧の上からそれなりのダメージを与えることはできたらしい。

殴り飛ばされた兵藤は一瞬で体制を立て直し此方に向きなおすが、殴られた個所を痛そうに押さえている。

 

「ゲホッ……なんだよ、その力!?どう考えてもおかしいだろ!!」

 

『ああ、これは異常だ。しかしどうやって――』

 

「呑気に話している場合か?」

 

先程殴った際に繋げていたラインから力を吸収し始める。

 

「いつの間に!?でも――アスカロン!!」

 

繋げたラインは兵藤の左手から伸びた剣で簡単に切り裂かれる。

 

「へへっ、今回はちゃんとアスカロンを持って来ているからな。ラインで力を吸収なんてさせないぜ!!」

 

『龍殺しの聖剣……厄介だな』

 

ああ、だが剣の扱いは素人だ。

例え振り回されたとしても『騎士』である巡の剣捌きに比べれば躱せないものじゃない。

何より俺達の攻撃の手段はまだ幾らでもある。

 

「次はこっちの番だな。ドライグ!!」

 

『explosion!!!』

 

再度兵藤が拳を繰り出してくる。

力の上がった状態の攻撃だ。流石にそれを簡単に防ぐ事は出来ないな。

 

「オラァッ!!」

 

「……チィッ!?」

 

完全に防いだと思ったが、思ったより力が強かったため今度は俺の体が吹き飛ばされる。

やっぱり力が強くなっているとはいえ、赤龍帝相手に単純な力の押し合いは分が悪いな。

 

「……腕を折るつもりだったんだけどな」

 

「この程度じゃやられやしないさ。まだ始まったばっかりなんだ。直ぐに終わったら面白くないだろう?」

 

俺も兵藤も全力を出し切っていない。

お互い準備運動みたいなものだ。

 

「……そう来なくっちゃな!!」

 

「当然、本番はこれからだ。――龍之炎≪崩≫!!」

 

右腕の黒炎が滾るとともに夥しいほどの炎の玉を作り出す。

そして全ての標準を兵藤に定める。

 

「躱しきれるか?」

 

炎の雨が兵藤に降り注ぐ。

兵藤は数の暴力に負け、≪崩≫に飲み込まれる。

 

「うわっ!?……あれ?」

 

そんな中でも兵藤は鎧の防御力のおかげか平然と立っている。

此方にも手ごたえは全くと言っていいほど感じない。

残念ながら兵藤相手に手数重視の≪崩≫ではあまりダメージは見込めなさそうだ。

まぁ、元々期待はしてなかったからな。

 

「全然効かないぜ、匙!!」

 

「ああ、仕方ない。本命はこっちだからな。龍之炎≪虚空≫!!」

 

≪崩≫を放ったと同時に準備していた≪虚空≫を放つ。

炎のレーザーは標的を貫かんと真っ直ぐ向かっていく。

 

「曹操に使った奴か!?うぉおおおおおおおお!!」

 

「Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!!」

 

兵藤は力を高めて、≪虚空≫を強引に弾いてしまった。

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

思わず顔が引きつる。

必殺の威力がある≪虚空≫を、兵藤はあろうことか真正面から受けて立ち、それを弾いて見せた。

威力が弱かったか?距離があったから力が弱まったか?どらにせよ防がれた事実は変わらない。

これは少々作戦を組み直さなければ……。

 

「スゲェ威力だったけど、案外防げない訳でもなさそうだな」

 

「……このパワー馬鹿が」

 

「褒め言葉として受け取っとくぜ。馬鹿も貫き通せば不可能を可能にするんだ!!」

 

ああ、本当に――俺はお前のそういう所が『大嫌い』だよ。

馬鹿みたいに真っ直ぐで、絶望を知らず、希望に満ち溢れていて、輝いて見える。

それが腹立たしくて、羨ましくて、妬ましい。

 

「龍之炎≪焔群≫!!」

 

右手から噴き出した黒炎は次第に鞭のような形を作り出す。

 

「アレはライン?いや、違う。また別の形の炎だ。次から次へと厄介だな……」

 

どうやら初めて見る≪焔群≫を警戒しているらしい。

そうだ、良く見ておけ。≪焔群≫を意識すればするほど俺の思うつぼだ。

 

「≪崩≫は駄目だったが、これはどうかな?」

 

右手を振り下ろすと≪焔群≫は伸び、しなり、兵藤に襲い掛かる。

 

「よっ!!ほっ!!こんな物、木場のスピードに比べれば止まって見えるぜ!!」

 

兵藤は必要最低限の動きで攻撃を躱し、躱せない攻撃のみを防いで徐々に距離を詰めてくる。

やっぱり攻撃を当てるのに一つじゃ足らないな。今回はこれで良いとしても、まだ改良の余地ありだ。

 

「そうか。なら追加だ」

 

「こんなんじゃあ俺は倒せないぜ?」

 

馬鹿が、余裕ぶっていられるのは今だけだ。

左手から伸ばした≪焔群≫を模したラインが兵藤の足に絡みつく。

 

『相棒!!これは炎の鞭じゃない、ラインだ!!』

 

「ならアスカロンで――」

 

「もう遅い!!」

 

斬る隙を与えず、全力でラインを引っ張り、兵藤のバランスを崩す。

こんな絶好のチャンスを逃すわけがない。

 

「龍之炎≪砕羽≫!!」

 

距離を詰めた俺は左腕から黒炎の刃を作り出し、兵藤を斬りつける。

≪砕羽≫は圧縮された炎の刃だ。刃の形であるため他とは違い接近する必要はあるが、どれだけ鎧が堅牢であろうと、容易く斬れるほどの威力を持っている。

直撃すれば無事ではいない筈だ。

 

「ッ!?ゴフッ!!ガハッ!!」

 

しかし、その油断がいけなかった。

突然の衝撃が何度も体を襲い、地面に叩きつけられる。

 

「あっぶねぇ……。あと少しずれてたらヤバかったな」

 

視線の先にいる兵藤は鎧に斬られた後があるものの、致命傷までは与えきれていなかった。

踏みこみが甘かったらしい。

ヨロヨロとふらつきながらも、何とか立ち上がる。

 

「ゲホッ……ゴホッ……。無防備な状態でお前の攻撃を受けるのは流石に堪えるな」

 

「結構本気で攻撃したつもりなんだけどな。まだ立てんのかよ」

 

「禁手に至っていないとはいえ、俺だってそれなりに鍛えている。そう簡単にはやられないさ!!」

 

もう一度≪砕羽≫を作り出し、兵藤に接近戦を挑む。

≪砕羽≫が兵藤相手にダメージを与える事がわかったのなら使わない手はない。

 

「修学旅行の時から思ってたけど、攻撃の手段が多彩だよな。炎の弾丸と砲撃に、鞭。今度は炎の刃って、一人で何役こなすつもりだよ!!」

 

「力が弱い俺はこんなことでもしないとやっていけないんでな!!」

 

兵藤の攻撃を躱しながら、確実に攻撃を当てていく。

ただでさえ荒い攻撃が、焦りから更に荒れていき、余計に躱しやすくなる。

 

「クソッ!!ちょこまかと躱しやがって!!こっちの攻撃が当たらねぇ!!」

 

「確かにお前の馬鹿力は恐ろしいが、精度は低い。要は当たりさえしなければ問題ないのさ。相手と同じ土俵で戦わず、相手の得意な土俵に持ち込ませず、相手の意表を突く。それが俺の戦い方だ!!」

 

俺が徐々におしていき、≪砕羽≫が完全に兵藤を完全にとらえたと、そう思った時だった。

≪砕羽≫が兵藤の鎧を斬ることが出来ず、分厚い鎧の途中で止まった。

 

「……『龍剛の戦車』。聖槍を止めたこの装甲じゃ、その炎の刃も届かなかったな」

 

「くっ!?」

 

止められた≪砕羽≫を消し、いったん距離を置く。

あの力、『赤龍帝の三叉成駒』は厄介だ。

相手の動きを見逃すまいと集中するが、既に赤い鎧に包まれた拳が眼前に迫っていた。

 

「がぁああああああああ!?」

 

「お前がどんな戦い方をしようと、関係ない。俺は俺のやり方を貫く!!俺の得意な土俵で戦えないなら、強引に俺の得意な土俵に持ち込むまでだ!!」

 

……滅茶苦茶な考え方だが、決して間違ってはいない。

どれだけ策を弄しようが、小手先の技術に頼ろうが、圧倒的力の前では無意味だ。

 

きっとこの戦いを見た奴は禁手に至っていないにも関わらず兵藤と戦った俺を褒めるかもしれない。でも、こんなんじゃ俺は満足できない。

 

どれだけ追いかけてもその背中に追いつくことはできない。

一般的な才能なら勝っているはずなのに、どれだけ身を削って強くなっても兵藤はそれ以上に強くなって、結局距離は詰まらない。

それが悔しくて、惨めで、兵藤への強い嫉妬と劣等感は俺が禁手に至ろうとするのを邪魔してくる。

一度は払拭したこの感情をどうにかしなければ禁手には至れないのに、禁手に至らなければ兵藤を越えられない。

この矛盾が俺を更に絶望させる。

 

 

段々と薄れていく思考と視界が自分の限界を感じさせる。

 

 

「ああ……チク……ショウ……」

 

 

――遠い……なぁ。

 




焔群を書くとき炎を纏ったラインと大して変わらない事に気が付きました。
悩んだ末、以下のようになりました。

焔群→攻撃性が強く自在に動かせて、普通の剣でも斬れる。

ライン→拘束具で、絶対に何かに接続しなければならず、普通の剣では斬れない。

残りの型もこれから出していきます。

最早中二っぽいとか一切考えない事にしました(笑)




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