まだ発表という名のリンチが待っていますが、これからまた更新を再開していこうと思います。
アザゼル先生と一悶着が起きてから数日、会長と副会長を除いたシトリー眷属全員がアザゼル先生から訓練場に呼び出されていた。
「お前らに良い知らせだ。人工神器の試作品が出来た」
「ほ、本当ですか!?」
アザゼル先生の言葉に仁村が真っ先に反応する。
他のメンバーも思わぬ知らせに目を輝かせている。
「これからデータを取って調整していく必要はあるが、お前らの要望に応えつつも実践には耐えられるレベルになっている筈だ」
「ありがとうございます!!……でも、試作品が出来るのはもう少しかかると言ってませんでした?」
「ああ、本当ならその予定だったんだが、急ピッチで創った。英雄派が暴れている今、お前らの戦力増強は急ぐべきだと判断した」
花戒の疑問に答えると、ジト目で俺を睨む。
先日アザゼル先生と一悶着あったが、不思議とギクシャクすることは無かった。
俺の包帯が巻かれた右腕を見るたびに何か考えてるように見えたが、それ以外はいつもと変わらずに接してくれた。
「だが、急いで創った分不具合は多いだろう。暴発する危険はないが、そこら辺は覚えといてくれ」
アザゼル先生はそれぞれに自分の創った人工神器を渡していく。
仁村は脚甲、花戒は腕輪、草下は仮面、由良は盾、巡は刀を手に持つ。
本人たちがどんな要望を出したのかは知らないから、どんな能力を持っているのかは予想がつかない。
「仁村に渡した人工神器の名前は『
「きゃあああああああああ!?」
ドォオオオオオン!!
アザゼル先生が能力の説明をしようとしたところで、仁村が装着している脚甲から凄まじいほどのオーラが噴出し、猛スピードで壁に突っ込んだ。
「――機動力の強化だ」
「……もっと早く説明してくださいよぉ」
顔面から突っ込んだらしく、痛そうに鼻をさすっている。
「人が説明する前に使おうとするからだ。お前の要望は近接戦闘が出来るように武器で脚甲だったから、ついでに機動力も強化をつけておいた。機動力が高ければ力の強い相手にも十分やりあえるからな」
「ッ!?ありがとうございます!!」
力の強い相手にも十分やりあえると聞いて、仁村の目に一瞬炎が灯ったように見えた。
確かに今のスピードで戦われたら、正直やりにくい。
テクニック思考のシトリー眷属には御誂え向きだ。
「花戒に渡したのは『
「は、はい!!」
花戒がつけている腕輪が一瞬光ると、俺達全員を青色の結界が覆う。
「花戒は結界型を要望していたからな。特別な能力があるわけじゃないが、その分広範囲を守ることが出来る」
防御結界の人工神器か。優しい花戒にピッタリの能力だな。
「次に草下に渡したものだが、名前は『
「凄いよ!!仮面からの情報が頭に流れ込んでくる!!」
渡された神器の中でも一番なんに使えるのか分からなかった物だが、花戒とはまた違ったサポート能力だ。
花戒は防御の特化型、草下は索的・諜報・守備が出来る応用範囲の広い人工神器。
『僧侶』二人は直接的な戦闘をしないから、そういった物を要望したんだな。
「そんじゃ次、由良に渡したものは『
「……普通に盾ですね」
手に持った『
「そんな期待外れみたいな目をするなよ。それの能力は精霊との契約によって多様な防御特性を発揮する事だ。そのままヨーヨーのような飛び道具としても使えるから、お前の『戦車』としての能力を発揮できるっていう要望はちゃんと叶えてるぞ?」
攻守一体の『戦車』である由良はその特性を生かせるものを要望していたらしい。
貰ったものは盾で残念そうにしていたが、今は要望通りの物を貰えて嬉しそうだ。
「さて、最後に巡の物だが……」
「待ってました!!」
散々焦らされ、期待に満ち溢れた様子の巡。
「実はかなりの自信作でな。俺が創った物の中でも間違いなく最強クラスだ」
満面の笑みのアザゼル先生。
どうやら本当に自信作らしい。
「本当ですか!?」
「それの名前は――」
「名前は?」
「――『
「……へ?へぇえええええええええええ!?」
名前を聞いて素っ頓狂の声を上げる巡。
たしか兵藤から聞いたことがある。まだアザゼル先生が天界に居た頃、中二病満載の名前がと設定が書かれたレポートがあったとか。
多分それが元なんだろうけど、他にもっとなかったのか?
「……なんか素直に喜べない」
「いいじゃない、アザゼル先生も自信作って言っていたんだから。……ぷっ」
「笑うなぁあああああああああ!!」
巡はからかってきた由良をポカポカと殴る。
確かに名前は少しアレだが、機能だけなら今回の中では間違いなく一番だろう。
なんたってアザゼル先生のお墨付きだからな。
しかし、人工神器を渡すくらいなら俺が居なくても良かったはずだ。
「……ところで俺はなんで呼ばれたんですか?まさか神器の使い方を、俺を使って実践させる気じゃないでしょうね?」
それは色んな意味で困るんだが……。
「ンな訳ないだろうが。『今のお前』をアイツらの訓練相手なんて危険すぎてさせられるか。お前は別件だ」
「別件……ですか?」
俺の言葉にアザゼル先生は頷く。
「その話は後だ。取り敢えず人工神器を渡した奴らは能力の詳細を書いたものを渡しておくから、これから人工神器の使い方の訓練を始めろ。使った後はレポートの提出と何か不具合があれば些細な事でも報告するように。――以上だ」
『はい!!ありがとうございました!!』
アザゼル先生にお礼を言ってから、五人は訓練場を出ていこうとする。
「あら?元士郎は帰らないの?」
一人動かずこの場に留まっていた俺に気が付き、由良が声をかけてくる。
「俺は別件らしい。先に帰っててくれ」
「そう、わかったわ」
由良はそれ以外特に何もいう事なく出ていく。全員少し早歩きだったことから、早く人工神器の性能を試したくて仕方ないのだろう。
そして五人が出ていき、訓練場には俺とアザゼル先生が残された。
まぁ、二人きりの時点である程度話の内容は予想がつくが。
「さて、これで二人きりで話せる訳だが……。お前、力の加減はできるのか?」
「……正直に言うと、出来ません。体と能力の変化が大きすぎて、頭が追いついていない状況です。能力の制御なら、少し訓練すれば何とかなるんですが……」
「どうせ、肉体自体の力が強くなっているんだろう?その右腕を見れば察しが付く。人間ベースのお前にとっては力が強すぎて制御が難しいはずだ」
だから皆の訓練の相手はできない。
冗談とかじゃなくて、本当に皆を殺してしまうから。
「そして今のシトリー眷属じゃ、お前の力を真正面から受ける事ができる奴らが居ない。だから力の加減を覚えることもできない、違うか?」
「……その通りです」
「……ハァ」
気まずそうにしている俺を見て、アザゼル先生はため息をつく。
「そんな事だろうと思ったよ。だから、そんなお前に特別メニューを準備した。……そろそろ来るだろう」
そろそろ来る?……誰が?
「なんだ、珍しく察しが悪いじゃあないか。居るだろ?身近に。今のお前の全力を受けることが出来るパワー馬鹿が」
「それって、まさか――」
ガチャリと訓練室のドアが開けられる。
視線をそちらに移すと、ある人物が入ってくる。
「そうか、お前か……!!」
一度目の勝負では辛勝だった。しかし、それはレーティングゲームのルールを利用し、禁手が不完全だったからだ。勝ちは勝ちだが、僅か数パーセントの奇跡をもぎ取ったに過ぎない。
二度目は圧勝だった。それは、相手が全力を出せない状況だったからだ。まったく自慢にもならないし、どれだけ俺があの男の背中に近づけたかなんてわかりやしない。
そもそも、俺達が一緒に訓練するという事はあまりなかった。
それはシトリー眷属と、相手に大きな差があったからだ。
部屋に入ってきた相手が此方へ近づいてきた。
男は俺の目の前まで来ると、拳をパキパキと鳴らしながらニヤリとする。
「よう、匙。リベンジマッチだ」
――そこには兵藤一誠が立っていた。