圧倒的に不利な状況。
そんな中で唯一の希望が赤龍帝であり意外性ならだれにも負けない兵藤だった。
心の中でどこかそう思っている自分がいた。
「どうせ俺も変態ですよぉぉぉおおおおおお!!」
……俺は夢でも見てるのか?
そうだ、きっとそうに違いない。というか、そう思いたい。
誰だって目の前に起きたことが現実だなんて思いたくない。
おっぱいと連呼する人の形を成した何かが円陣を組んだと思ったら、いきなり下着姿のリアス先輩が現れたなんて、自分の目を疑わない方がおかしい。
『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!』
兵藤の体が光りだし、宝玉が壊れたかのようにDを繰り返し始めた。
また胸をつついて新たな力に目覚めたんだろう。
新たな力、『赤龍帝の三叉成駒』に目覚めた兵藤の力は今まで苦戦していた曹操達を圧倒し始めた。
許可もなしにプロモーション出来るとか反則級の力だ。
――あの男は俺の目の前でまた一歩前に進んだ。
新しい力に目覚めて強くなった兵藤を見て嫉妬の炎が燃え上がる。
更に心のどこかで兵藤を頼りにしていた事実が余計に苛立たせる。
――まだだ。まだ力が足りない。
このままだと俺は誰も守れない。
このままだと俺はあの背中に追いつくことなんてできない。
――なぁヴリトラ。
『はぁ……1分だ。まだアレは完全ではないから1分だけなら体も魂も保つことは出来るだろう』
1分か……。
短い気がするけど、体の事を考えれば仕方ないか。
それにたった数秒でも能力が底上げされた。1分なら今以上に強くなれる筈だ。
そう考えていたら、突然ヘラクレスが俺の髪を掴み持ち上げる。
「おい、赤龍帝。お前の仲間がどうなってもいいのか?」
「匙!?テメェ卑怯だぞ!!」
先程まで圧倒していた兵藤の手が止まる。
どうやら一番近くに倒れていた俺を人質として使うことにしたらしい。
でも残念、人質にする相手を間違ったな。
「卑怯?戦いに卑怯も何もねぇだろうが」
「ああ、全く以てその通りだ」
ドス黒い黒炎に体を包んだ俺は、ヘラクレスの片腕を掴み、そのまま握り潰す。
「あぁぁぁぁあああ!?腕がぁぁぁぁあああああ!?」
ヘラクレスは俺の髪を放し、潰された片腕を押さえながらのたうちまわる。
「フンッ……滑稽な姿だな。曹操は腹に穴があいてもそんなに叫ばなかったぞ?」
「テメェエエエエ!!ぶっ殺してやる!!」
『フェニックスの涙』で腕を治すと、無数の突起を体から生み出し、俺に向かってそれが飛んでくる。
それに対して≪崩≫を一つ一つに当て、全弾防ぎきる。
「なっ!?」
「なんだ、この程度なのか?」
俺の挑発に顔を真っ赤にさせ、憤怒の表情になる。
短気だな、兵藤でもここまで簡単に挑発に乗らないというのに。
「加勢するよ、ヘラクレス」
「赤龍帝は曹操が何とかしてくれているわ。先にコイツを倒しちゃいましょう?」
三対一か。
今の状態なら簡単に相手を出来そうだが、ジークフリートの持っている剣の一本から強力な龍殺しの力を感じる。
ジャンヌダルクは聖剣を創り出せるし、接近戦は不利か。
時間もあまりない事だし、大技で早めに決着をつけよう。
俺は羽を広げ、上空に飛ぶ。
「龍之炎≪崩≫――」
「また炎の玉の攻撃か!?」
「ジャンヌ!!上空に居られると僕の剣が届かない!!早く落とせ!!」
「分かってるわよ!!」
聖剣で作られた巨大なドラゴンが飛んでくる。
だが、もう遅い!!
「――連式、龍之炎≪虚空≫!!」
ドォォォオオオオオン!!
生み出された黒炎の玉はただの≪崩≫じゃない。
数は少ないが一つ一つが黒炎を圧縮された物だ。
つまりは、≪崩≫の全てが≪虚空≫を撃ち出すための砲台になる。
大技を放ったと同時に、体を包んでいた炎が消える。
丁度1分経ったらしい。
「ハァ……ハァ……」
あたり一面焼け野原だ。
殺せたかは分からないが、どちらにせよ俺は限界だ。もうこれ以上動けない。
兵藤と曹操はどうなった?九尾の御大将は?
「ヴリトラの坊や、よー頑張った。なかなかの攻撃じゃったぞ。後は助っ人のおじいちゃんに任せておきな」
突然肩に手を置かれ一瞬体が強張るが、助っ人という言葉を聞いてホッとした。
どうやらアザゼル先生の言っていた凄腕の助っ人が間に合ったらしい。
「しかし、凄いのぉ。ここら一帯が消し飛んだぞ。玉龍とは大違いじゃ」
『おいジジイ!!俺だって本気を出せばアレぐらい簡単に出来るぜ!!』
「早く暴れている九尾を止めてこい。これが終わったら京料理をたらふく食わせるぞ?」
『オッシャァァァアアアア!!言ったな、ジジイ!!』
テンション高いな……。
それに、凄腕の助っ人は幼稚園児くらいのとても小さい猿だった。
しかし、纏っている雰囲気が尋常じゃない。今までにあった人物の中でもトップクラスの実力を持っているのが分かる。
もう安心だろう。
『……』
「ヴリトラ、どうした?……ッ!?」
右腕に違和感がある。
見れば本来ある筈の無い物が俺の右腕にあった。
『すまない。1分程度なら大丈夫だと思っていたが……』
「……仕方ないさ。こうなる事を理解した上での『切り札』だ。何より使ったのは俺の判断であって、ヴリトラが悪いわけじゃない」
これは他の奴に見せるわけにはいかないな。
特に会長や生徒会の面々には絶対に見せれない。
「後で包帯を巻いとけばいいか。今は長袖だし怪我とかアザがまた出てきたって言っとけば誤魔化せるだろ」
見れば曹操達が撤退しようとしていた。
他の三人もボロボロながらも無事だったらしい。
……運のいい奴らだ。
「――御咎めなしで帰れると思うのか?こいつは京都での土産だッ!」
兵藤の放った攻撃が曹操の右目に当たる。
曹操は右目から血を流しながら、残った左目で兵藤を睨む。
「……目が……。赤龍帝ぇぇぇっ!!」
狂喜に顔を歪ませた曹操は何かしようとしたようだが、ジークフリートに口と体を抑えられ、霧に包まれて消えていった。
激しい戦いだったが、本当に終わったらしい。
九尾の御大将の方もどうにかなったみたいだし、京都での問題は一段落ついた。
無事、明日は皆とお土産を買って帰ることが出来そうだ。
――駒王学園・生徒会室
「お帰りなさい。全員よく無事に帰ってきてくれました……」
京都から帰って来た俺達は、直ぐに会長たちの待つ生徒会室に向かった。
三人とも連絡を聞いていても俺達の顔を見てホッとしたようだ。
「会長から聞きましたよ。大変な事件に巻き込まれましたね。特にサジはお疲れ様でした」
「……何度も死ぬかと思いました」
『龍王変化』は使えないし、聖槍に斬られたりして本当に良く生きて帰って来たと思う。
しかし、身を削ったが新しい力の使い方を覚えたから、収穫がなかったわけではない。
「あれ?匙先輩、その右腕どうしたんですか?」
「うん?……ああ、ちょっと無理した所為かまたアザが出て来てな。一応包帯を巻いてるんだ」
俺の包帯を巻かれている腕を見て、会長が険しい顔をする。
「……また無理をしたんですね?」
「……ごめんなさい」
言い訳をしても火に油を注ぐだけなので素直に謝っておく。
しかし、それで許してくれる筈もなく、両頬を掴まれ引っ張られる。
「ええ、貴方は本っ当に私の言いつけを守ってくれませんね?なんでですか?もしかしてわざとじゃないんですか?」
「ひふぁいでふ、ふぁいひょふ(痛いです、会長)」
「痛いじゃありません!!いったいどれだけ心配したと思ってるのですか!!」
「ふぉんなふぉふぉひふぁへへふぉ……(そんな事言われても……)」
なかなか会長の怒りが収まってくれない。
というか、マジで痛い……。
「まったく……」
やっと解放された両頬をさする。
とりあえず、許してくれたらしい。
「これぐらいにしておきましょう。皆も疲れたでしょう。アガレスとのレーティングゲームも近いですから、今日は帰ってゆっくり体を休めなさい。いいですね?」
『はい!』
最近色んなことがあり過ぎて忘れてたけど、新人同士のレーティングゲームは続いてるんだった。
兵藤にには負けてられないし、頑張らないとな。
≪崩≫と≪虚空≫の複合火竜は最強。
禁手に目覚めていないのに、匙の殲滅力がどんどんと上げっていきます。
でも、ほら、主人公ですから。元々が雑魚同然だったし、これぐらいやんないとイッセーと張り合えないから……。