ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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42話 決戦前

『アザゼル先生から聞きましたよ。また面倒事に巻き込まれたそうですね?』

 

「ええ、まぁ」

 

異空間が解除された後、色々と大変だったらしい。

当然だろう。実際の時間は進んでいないので、他の人たちから見たら体を袈裟切りにされた奴が急に現れて倒れてるんだから。

 

『折角の修学旅行というのに、貴方達はとことん不運ですね。……いえ、兵藤君には悪いけれど彼が、と言えばいいのでしょうか』

 

アザゼル先生が、異空間が解除されたと同時に速攻で俺を回収して事なきを得たらしい。

ホテルで治療を受けて、小一時間ほどで目が覚め、今は此方の状況を知らされた会長と電話越しに話していた。

 

「強い力を持った龍を内に秘めてる奴は良くも悪くも人を惹きつけますからね。まったく、巻き込まれる俺達の身にもなって欲しいですよ」

 

『……強い龍を内に秘めているのは貴方も同じでは?』

 

つまり会長は今回皆を巻き込んだ原因は兵藤だけでなく俺にもあると言いたいんですね。

否定したいけど、完全に否定できないのはやはりどこかに自覚があるのかもしれない。

 

『それよりも、体の方はどうですか?聖槍に斬られたと聞きましたよ?』

 

「大丈夫ですよ。先生達が早めに治療してくれたおかげで大事には至りませんでした」

 

『そう……ですか。まったく、あまり心配をさせないでください。無事とは聞いていましたが、貴方の声を聴くまで気が気でありませんでした』

 

どうやらかなり心配されていたらしい。

声も最初のころと比べると、どこかホッとしたような声になっている。

 

『そうそう、もう一つアザゼル先生から聞きました。――昨日は随分『お楽しみ』だったそうですね?』

 

ゾッ!!

 

さっきまでの優しい雰囲気から、底冷えするような雰囲気に変わる。

電話越しでも会長がどんな顔をしているのか分かる。

きっと凄い笑顔なんだろうな。

 

「えっと、いや……その……」

 

こんな時なんて言えばいいのだろうか?

 

『ええ、帰ってきたら、その件については、た――っぷりと聞かせていただきます。……だから皆で無事に帰ってきなさい。良いですね?』

 

「分かりました」

 

『よろしい……』

 

そこで会長との電話が切れる。

なんか最後の方にブツブツ何かを言ってた気がするけど、気のせいかな。

 

「匙、愛しの主様との連絡は終わったのか?」

 

「ええ、終わりました。とても余計な事を言ってくれてありがとうございます」

 

一体いつから部屋に入って来たのか、入り口付近にはアザゼル先生が立っていた。

 

「おいおい、そんな事言うなよ。これでも大怪我のお前を此処まで連れてくるのは大変だったんだぞ?」

 

「それについては感謝してますよ」

 

実際、アザゼル先生が連れて帰ってくれなければ大変な事になっていた。

 

「……ふむ」

 

「何ですか?」

 

「いや、いくら治療が早かったと言っても、ここまでピンピンしてることが不思議でな。まだ『フェニックスの涙』も使ってないんだぞ?」

 

「身体は昔から丈夫なんですよ」

 

「いや、その回復力はどう考えたって変だと思うんだがなぁ」

 

アザゼル先生は納得していないようだ。

顎に手をやり、ウンウンと悩んでいる。

 

「……使う必要があるのかは分からんが、魔力回復の為に使っておけ。お前には悪いが、まだ働いてもらわないといけないからな」

 

先生から『フェニックスの涙』を渡される。

使わない理由はないので、その場で使う。

 

「……ふぅ、ありがとうございます。……まだ何かあるんですか?」

 

今度は真剣な表情になっているアザゼル先生。

なんとなく、次に何を言われるのか理解できた。

 

「匙、曹操を吹き飛ばした時の力は何だ?」

 

ほら、やっぱり。

 

「さぁ?巡を助けるのに必死であんまり覚えてないんですけど……」

 

「とぼけるな!!お前が気が付いてない訳がないだろうが!!」

 

「いや、そんなに怒られても分からないものは分かりませんよ。それより、ロスヴァイセさんはホテルに居ますか?」

 

「ああ、アイツなら自分の部屋に居るだろうよ。って、そうじゃない!!話をそらすな!!おい!!……本当に気が付いてないのか?いや、アレは……」

 

アザゼル先生を無視して、部屋を出る。

 

『……我が分身よ』

 

「分かってるよ」

 

誰もいないホテルの廊下でヴリトラが話しかけてくる。

何が言いたいのか分かってる。

 

「少し頭に血が上ってたみたいだ。気を付けるよ」

 

『ならばいい。だが忘れるな。アレは使えば使うほどに我が分身の基礎能力は強くなるだろうが、力と代償に魂と体を蝕むだろう。ほんの僅かな時間と言えど……な』

 

「その結果が今回の異常な回復力って訳か。ははは、見方によっちゃあ良いこと尽くしなんだけどな……ごめん、冗談だよ」

 

アレは俺達の『切り札』であり『諸刃の剣』でもあるんだ。

使いどころは見極めないとな。

 

「ロスヴァイセさん?入りますよ?」

 

廊下を歩きながら話していたら、いつの間にかロスヴァイセさんの居る部屋まで着いていた。

ノックをしても返事がないが、鍵はあいているようだ。

 

「ロスヴァイセさん?」

 

「うぷっ……駄目じゃないですか、女性の部屋に勝手に入ってくるなんて……おぇえええ!!」

 

目的の人物は目の前に居た。ポリバケツを抱えて……。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ええ、だいじょう……おぇえええ。大丈夫です」

 

いや、どう見たって大丈夫じゃないでしょ。

 

「まいったな。ロスヴァイセさんに話があったのに……」

 

今夜、曹操達は二条城で実験を行うと言っていた。

先手を打たれたのは迂闊だったが、そう何度もあの男のペースに乗るわけにはいかない。

どこまで出来るのかは分からないけど、魔術に優れたロスヴァイセさんの協力が必要不可欠だ。

 

「大丈夫ですよ。今、酔い覚ましの薬を飲んだので、そろそろ効きはじめる筈です。うぷっ……話してください」

 

「……そうですか?」

 

これはあまり期待できないかもしれない……

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

就寝時間前に兵藤の部屋に集まって、今回の作戦を話していた。

 

シトリー眷属は京都駅周辺、このホテルの警備。

グレモリー眷属と紫藤、俺は二条城の方へ向かうことになった。

 

「今回、残念な知らせがある。支給された『フェニックスの涙』は三つだけだ。しかもその内の一つは匙の回復に使ったから、残りは二つだけだ」

 

「そんな!?流石に少なくないですか!?」

 

アザゼル先生の知らせに声を上げる兵藤。

あっちこっちでテロが起こってる所為で需要が高まり、元々量産できる物でもないので『フェニックスの涙』の供給が悪くなっているらしい。

 

「だが良い知らせもある。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。間違いなく最強の助っ人だ。それが加われば奪還の可能性は高くなる」

 

ここまで言うのだから、相当の人物が来るのだろう。

 

「――俺からの作戦は以上だ。俺も京都の上空から独自に奴らを探す。各自一時間後にはポジションについていてくれ。怪しい者を見かけたら、ソッコーで連絡だ。――死ぬなよ?修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。――京都は俺たちが死守する。いいな?」

 

『はい!』

 

これからどのように動いていくのかを話し合ってから、作戦会議は終わった。

 

 

「元士郎」

 

作戦会議の後、戦う準備を終えて兵藤達と合流しようかと思ったら、由良達に呼び止められた。

 

「元ちゃん、無理しないでね?」

 

「そーだよ元ちゃん。明日は皆で会長たちのお土産を買いに行くんだから」

 

「分かってるよ、花戒、草下」

 

「元士郎、あの曹操とか言う奴に一泡吹かせて来なさいよ?」

 

「ああ、任せとけ」

 

「……」

 

「ほら、巴柄も何か言ってあげなさいよ」

 

巡は申し訳なさそうに、目を伏せている。

俺が庇って傷を負った事をずっと気にしているらしい。

 

「……危なくなったら逃げるのよ?」

 

「大丈夫だよ。それぐらいは見極められるつもりだ。――行ってくる」

 

四人の見送りを受けて、兵藤達と合流する。

 

「何だよ、もういいのか?」

 

「十分すぎるくらいだ」

 

兵藤がニヤニヤしながら此方を見てくる。

正直、鬱陶しい。

 

そして、今度は木場が声をかけてくる

 

「傷の方は大丈夫なのかい?」

 

「『フェニックスの涙』のおかげでピンピンしてるよ。貴重な三つの内一つを使ったんだ。その分の働きはさせてもらうさ。――試したいこともできたしな」

 

 

何より、あの男は俺の仲間に手を出そうとしたんだ。

 

その報いはキッチリ受けてもらわないとな。

 




ソーナside

ソ「……まったく、油断も隙もないですね」

椿「会長?どうかしたのですか?」

ソ「何でもありません!」

椿「(サジ、一体何をしたんですか……)」


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