ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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40話 奇襲

――修学旅行三日目・渡月橋

 

渡月橋付近を班員と分かれて一人で歩いていたら偶然兵藤達一行と遭遇した。

どうやらコイツ等も渡月橋に来ていたようだ。

 

「よう、匙。お前もこっち来てたんだな……って、どうしたんだ、その鼻?」

 

「……何でもない」

 

女子と一緒に露天風呂に入って、桶を投げられて怪我したなんて、コイツだけには死んでも言えない。

それより、気になるのは兵藤達と一緒に居る金髪の少女。

 

「兵藤、どこから攫ってきた?親御さんの所へ返して来い」

 

「違うよ!!犯罪者扱いすんな!!」

 

「犯罪者予備軍ではあるだろうが」

 

覗きなんか繰り返してたら本当に捕まるぞ。

 

「(九尾の御大将の娘さんだよ。俺たちを間違って襲撃したお詫びに京都を案内してくれるって)」

 

「(ああ、成程)」

 

兵藤達は京都に着いた初日に、京都の妖怪たちから襲撃を受けていたらしい。

本当に厄介事には事欠かない連中だ。

 

「ところで匙、他の班員はどうしたんだ?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ?って何だよ……」

 

「トイレに行ってたらはぐれたんだよ。今連絡を取り合ってるところだ――ん?」

 

「どうした――ッこれは!?」

 

突然ぬるりと生暖かい感触が全身を包みこんだかと思ったら、突然周りに居た人達が消えた。

いや、全員が消えた訳じゃない。

実際、目の前に居る兵藤達は消えていないし、少し離れた所に木場も確認できる。

そして――

 

「元ちゃん!!」

 

花戒が俺の名前を呼びながら此方に駆け寄ってくる。

他の三人も一緒みたいだ。

 

「い、一体何が起きてるの!?変な感触がしたと思えば、周りに居た人は消えてるし……」

 

「周りには……特に何もないわね。怪しい奴もいないし」

 

「もー、何なのこれー?」

 

巡、由良、草下も今の状態に困惑しているようだ。

全員が何が起こってるのか分からず、あたりを見回している中、兵藤がある事に気が付く。

 

「匙、俺たちの足元にあるこの霧って……」

 

「ああ、多分『絶霧』だな。……やっぱり仕掛けてきたか」

 

くるとは思ってたが、こんな真昼間から仕掛けてくるとは思ってなかった。

 

「お前ら、無事か?」

 

空からアザゼル先生が飛んできている。

先生も此方側に居たみたいだ。

 

「俺達以外の存在はキレイさっぱり消えちまってる。俺たち全員が異空間に転移させられ、閉じ込められたと思って間違いないだろう」

 

これも神滅具であるからこそ……だな。

俺たち全員を、しかも動作を殆ど感じさせずに転移させるなんて……。

 

「なら、レーティングゲームのフィールドみたいにここら一体の景色をトレースしたんですね。こんな事の為に随分手が込んでるな――なぁ、曹操?」

 

渡月橋の方から薄い霧と共に複数の気配を感じて声をかける。

 

「俺の趣向さ。気に入ってくれたかな?」

 

曹操は不敵な笑みで立っている。

 

「初めましてアザゼル総督、赤龍帝。そして久しぶりだね、ヴリトラ君?」

 

「お前が匙達の言っていた英雄派を仕切っている曹操か。『絶霧』『魔獣創造』なんて随分厄介な奴らの頭はどんな奴なのかと思ったが……そうか、ソレを持ってるなら納得がいく」

 

アザゼル先生の視線は曹操の持っている槍に向かっている。

曹操は持っている槍の柄で肩をトントンとしながら顎に手をやる。

 

「……ふむ、ヴリトラ君から色々と聞いてるらしい。少し調子に乗ってヒントを出し過ぎたかな。まぁ、今この場で奇襲を受けてる時点で関係ないか。コレについても知らなかったみたいだし」

 

不敵な笑みを崩さずに、俺達に槍を見せびらかすかのように前に出す。

 

「先生、あの槍は?」

 

「あれも神滅具だ。全員、あの男が持つ槍には気をつけろ。最強の神滅具『黄昏の聖槍』、神をも貫く絶対の神器とされている。神滅具の代名詞になった原物。俺も見るのは久しぶりだが……よりにもよって現在の使い手がテロリストとはな。ったく、死んだ神やミカエル共が知ったらどう思う事やら」

 

最強の神滅具がテロリストの手に……か。

神滅具の三つが、しかも十三種の中でも強力な物が英雄派側にある。

どうやら此方の状況はあまり良くないらしい。

 

「信仰のあるものは強く見つめるなよ!!心を持ってかれるぞ!!」

 

アザゼル先生がシスター三人組に声をかける。

そこまで影響力が有る物なのか……。

 

「貴様!母上を攫ったのはお主たちか!」

 

兵藤達と一緒に転移させられていた九尾の少女が曹操に問いかける。

 

「左様で。お母上には我々のスポンサーの要望を叶えるための、ちょっとした実験にお付き合いをしていただくのですよ。今回はコソコソ隠れる必要もなくなったので実験前の挨拶と相手の力量を確かめておこうと思ったまでです」

 

実験……ね。

何をするつもりなのかは知らないけど、九尾の御大将を簡単には返してくれはしない様だ。

 

「そうか。ならば力ずくででも九尾の御大将を返してもらおうか。彼女がいないと京妖怪たちとの協定が無事に取り付けることが出来ないんでな!!」

 

アザゼル先生の先生の言葉で全員が戦闘態勢に入る。

 

「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

曹操の言葉に、隣に居た男の子は小さく頷くと足元から不気味な影が広がっていき、遂には渡月橋全域を包み込むと、その影が盛り上がり形を成していく。

 

「ギュ」

 

「ギャッ!」

 

「ゴガッ!」

 

これが神滅具『魔獣創造』の能力。

生み出された魔獣の数は既に百を超えている。

そんな中、生み出された魔獣の一匹の口が開き、一筋の閃光が放たれる。

 

ビィィィィィィィィッ!!

 

ドォォォォォォォンッ!!

 

放たれた閃光は建物に当たった途端、大きく爆発する。

 

「光の攻撃ッ!?成程、悪魔用のアンチモンスターの名は伊達じゃないってか?」

 

「ああ、各陣営を襲撃した時に魔獣たちも一緒に送り込んでたんだ。この子はまだまだ成長途中だけど、アンチモンスターの創造には優れていてね。おかげでデータは十分取れたし、悪魔、天使、堕天使、ドラゴンなどメジャーな存在のアンチモンスターは創れるようになった。因みに、その悪魔のアンチモンスターが最大で放てる光は中級天使の光力に匹敵する」

 

中級天使!?

下級天使の光でもそれなりのダメージを受けるのに、それ以上が百体以上も居るのかよ!?

 

「だが曹操、神殺しの魔獣だけは創れないらしいな?」

 

アザゼル先生は曹操にそう問いかけながら、俺に視線を送ってくる。

その意図を察し、曹操の気づかれないように小さく頷く。

これだけの魔獣を広範囲にわたって攻撃できるのはおそらく龍王状態になった俺だけだ。

味方を巻き込むなんて呑気な事を言ってられない。

速攻で全魔獣を全滅させなければ。

 

「……よく分かりましたね」

 

「よくよく考えりゃ分かる事だ。そんな物が創れるんならとっくに各陣営に送ってるだろうよ」

 

「別に大した問題じゃないさ。神はこの槍で貫けばいい」

 

「そうかいそうかい。だが俺たちにとっちゃその確認ができたことはデカい」

 

先生が右手を挙げる。

その合図とともに『龍王変化』を発動させる。

 

「『龍王変化』!!」

 

体が漆黒の炎に包まれていき、徐々に龍の形を成していく。

 

「そうか、それが噂に聞く龍王状態って奴か。だが、残念だけどそれは見逃す事はできないな。――やれ、ゲオルグ」

 

パチンッ!

 

曹操が指を鳴らすと、周囲に黒い霧が立ち込める。

この黒い霧は一体なんだ?

 

『――え!?』

 

すると、俺の体を包んでいた漆黒の炎は霧散し、龍王状態が解除される。

自分の体をペタペタと触る。生身に戻ってる!?

 

「な、なんで!?おい、どうなってる!?」

 

『分からぬ。我らの同調があの黒い霧によって生み出された結界によって邪魔された可能性が高い』

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

不味いぞ。これは不味い!!

 

「曹操!!いったい何しやがった!!」

 

曹操は俺を見てニヤリと笑う。

 

「君はかの赤龍帝をレーティングゲーム内とはいえ、一度破った男だ。そんな奴の対策を練ってないわけないだろう?君の龍王状態は非常に強力だよ。だが、内に居るヴリトラとの同調を不協和音によって防ぐことくらいはできるんだよ。とはいっても、ぶっつけ本番だったから成功してホッとしてるけどね」

 

「ふざけんな!!いつ俺がお前らの前で『龍王変化』を使った!!」

 

英雄派の人間にも、『魔獣創造』によって作られた魔獣にも使った覚えはない。

存在は知ってっても、その対策なんて練りようがない筈なんだ。

 

「もちろん、そんな事は一回もないよ」

 

「ならなんで!?」

 

「おいおい――まさか俺たちがロキとの一戦を監視してないとでも思ったか?」

 

『な!?』

 

その言葉に全員が驚愕する。

 

「まぁ、『絶霧』の所持者が優秀って言うのもあるんだけどね。『絶霧』の禁手、『霧の中の理想郷』をもってすればこれ位難なくやってくれる」

 

 

 

「さ、戦闘だ。――始めよう」

 

 




曹操が原作よりも凶悪に……。
でも曹操なら本当にこれぐらいならやってしまいそうな感じがします。

次回、匙覚醒!!(大嘘)

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