ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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4話 転生

ソーナが匙と一緒に部屋から出てくる。ソーナの表情は心なしか機嫌がよさそうに見えたので眷属たちは話がいい方向にまとまったのだと察した。

 

「悪魔になることは了承しましたけど、どうやって悪魔になるんですか?まさか一度死ね、なんて言いませんよね?」

 

流石にそれは嫌なんですけど、と匙は不安感をしめす。

先ほど受けた説明では人間などを悪魔に転生させ眷属にするとしか聞いておらず、どうやって悪魔に転生させるのかは聞いていない。

匙の不安そうな表情をみて、ソーナはその必要はありませんと言いながら懐からある物を取り出す。

 

「悪魔に転生させるためにはこの『悪魔の駒』を使います」

 

そう言いながら匙にそれを渡す。

 

「……これチェスで使う兵士の駒ですよね?こんな物で悪魔に転生できるんですか?」

 

どこからどう見ても普通の駒にしか見えない。こんな小さなもので本当に悪魔に転生できるのだろうか。

まぁ、悪魔とかが存在するくらいなのだ。不可能ではないのだろう。

 

「もちろんです。サジは生きているので関係ありませんが、死んだ者でもこれを使用することで悪魔として生き返らせることができるほどの物です。疑うなら試してみますか?」

 

ソーナの眼鏡が不気味にキラリと光る。

 

「死ぬ必要がないなら問題ありません。これをどうすれば良いんですか?」

 

これで試してみるなんて言ったら本当に一度死ぬことになるかもしれない。

匙は冷や汗をかきながら別の質問をする。

 

「それは簡単です。その駒を胸の方に持っていってください」

 

そんな事でいいのか、と思いながら悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を胸の前まで持っていく。

しかし悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は何の反応も示さない。

 

「……何も反応しませんよ?」

 

まさか悪魔に転生出来ませんでしたなんてオチか?

ならば今までの事はなんだったのだろうと遠い目をする匙に二個目の駒が渡される。

 

「……?」

 

「人間を悪魔に転生させる際、転生者の能力次第で消費する駒の数が変わります。兵士(ポーン)一個ではあなたを悪魔に転生させることが出来なかったみたいですね。」

 

能力の高い奴ほど消費する駒が多くなる。世の中そんなに甘くない。

うまい事作ってあるなと思うが、ただ単に能力の高いものほど転生させるのにエネルギーか何かが必要だと勝手に匙は解釈する。

 

「二個目でも反応しないということは、俺が悪魔に転生するのにまだ駒が足りないってことですね」

 

もう一個受け取った結果は最初と変わらなかった。

あまり消費の駒が多いとそれだけの価値があるということなので、プレッシャーがやばい。

いい加減反応してほしいと切実に思う。

 

ソーナから三個目の駒が渡され、胸の前まで持っていく。

 

 

 

現実は残酷だった。

 

 

 

「これは予想外ですね……」

 

ソーナがボソリとつぶやく。

これまでのやり取りを黙って見ていた眷属たちもざわつき始める。

 

次で四個目だ。チェスと駒の数が同じなら次で丁度半分だ。

なんだかさっきからキラキラした目でこっちを見ている子がいる。そんな目で見ないでほしい。

 

ソーナから四個目の駒が渡される。

これで反応しなかったらどうしようかと思うが、余計な心配だった。

 

青い魔方陣が匙の足元に現れ、光が身を包んでいく。

手元にある四つの駒が胸に吸収されるかのように入っていく。痛くはないが、不思議な感覚だ。

 

駒が完全に胸の中に消えていくと足元の魔方陣の光も弱まっていき、こちらも何事もなかったかのように消えていく。

無事に転生出来たのだろうか?一応悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は胸の中に消えていったが、力が湧きあがるとか全然ないのでイマイチ実感がわかない。

 

「悪魔に転生出来たようですね。……正直、神器持ちを考慮しても駒四個消費は予想外でした。サジ、駒四個分の働きを期待しますね?」

 

「……善処します」

 

終わったことは仕方がない。柄じゃないが、失望されないよう頑張るしかない。

それに今日は≪記憶≫にもない、初めて知る事ばかりだ。そしてまだまだ知らないことが数えきれないほどあるのだろう。

ソーナの言うとおり、新しい刺激に満ちた退屈しない日々が送れそうだ。

 

「まずは自己紹介をしないといけませんね。貴方の名前は全員知っていますが、貴方は他の人の名前を知りませんから」

 

「じゃあまず私から!」

 

キラキラした目で見てくる子が真っ先に手を上げ、一歩前に出る。

 

「1年生の仁村留流子、兵士(ポーン)です。よろしくお願いします匙先輩!!」

 

「ああ、よろしく」

 

右手を出すと両手で握り返された

どうやら彼女は後輩だったらしい。しかも同じ兵士(ポーン)。

おそらく一個消費の兵士(ポーン)なのだろう。なんとなくキラキラした目の合点がいった。

嫉妬の目で見られなくて何よりだ。

 

今度は黒髪の少女が前に出る。

 

「2年の花戒桃、僧侶(ビショップ)です。よろしく元士郎君」

 

「よろしく、花戒」

 

「さっきはごめんね?」

 

右手を差し出し、お互いに握手する。

さっきとはガムテープで足をグルグル巻きにした件だろう。

他の奴らは全然悪びれた様子がないのに、律儀に謝ってきた。なんて良い奴なんだろうか。

 

次はその隣にいたお下げの少女が前に出る。

 

「2年の草下憐耶、同じく僧侶(ビショップ)です。よろしくねー元ちゃん!」

 

「よろしく……元ちゃん!?」

 

「うん。元士郎だから元ちゃん」

 

初めて付けられた呼び名だ。思わず聞き返してしまった。

女子にちゃん付けで呼ばれるとくすぐったいが、ニコニコした顔で言われてはなんだか嫌だとは言えない。

黙って握手する。

 

苦笑いしていると、背の高い少女が前に出る。

 

「2年、由良翼紗、戦車(ルーク)よ。よろしくね元士郎?」

 

「よろしく、ところで握手ってそんな強く握る必要あるのか?」

 

右手を潰さんとばかりに握ってくる。ぶっちゃけ痛い。

 

「特に理由はないわ」

 

最低だコイツ。

 

潰されかけた右手をヒラヒラしてると、強制連行してきた四人の内最後の一人が握手をしてくる。

 

「2年の巡巴柄、騎士(ナイト)よ。よろしくね元ちゃん!」

 

「満面の笑みをしてるけど、俺を蹴り飛ばした謝罪はねぇの?」

 

「え?なんの話?」

 

コテンと首をかしげる。

全部なかった事にしやがった。結構あの蹴り痛かったんだぞ!

 

「副会長の真羅椿姫、女王(クイーン)よ。よろしくお願いしますね」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

副会長の真羅が握手を求めてきた。さっきまでふざけた奴が多かったせいで、すごく真面目に感じる。

 

最後に会長であるソーナが右手を差し出す。

 

「王(キング)のソーナ・シトリーです。私たちシトリー眷属、また生徒会としてあなたを歓迎します。サジ、眷属悪魔としてだけではなく生徒会としての働きも期待しますよ?」

 

「期待を裏切らないよう、せいぜいがんばりますよ」

 

ソーナの右手を握り返す。

 

≪記憶≫のせいで色あせた自分の世界に色を戻すためにも。

 

そんな世界に少しながら色を取り戻してくれた恩を返すためにも・・・ね。

 


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