俺たちシトリー眷属はアザゼル先生、グレモリー眷属と共にセラフォルー様の待つという町の一角にある料亭の前まで来ていた。
あんなノリだけど四大魔王の一人だ。ただの気まぐれで自分たちを呼び出す筈なんかない。間違いなく、何かあったんだろうな。
「やれやれ、次から次へと面倒事が舞い込んでくるな」
「そんなに愚痴るなよ。それに今回のは三大勢力にとっても大事なんだ」
俺のボヤキにアザゼル先生が言葉を返してくる。
どうやら今回呼ばれた理由を既に知っているらしい。
まぁ、京都に外交担当のセラフォルー様が来ている時点である程度の予想はついてるけど。
店の中に入り、和風の雰囲気漂う通路の先に個室が現れる。
その個室に入ると俺たちを呼びつけた本人が待っていた。
「ハーロー!ソーナちゃんの眷属ちゃんも、リアスちゃんの眷属ちゃんも久しぶりね☆」
相変わらずのハイテンションだ。
会長と血が繋がっているなんて今でも信じられない。
「ここのお料理、とても美味しいの。特に鶏料理は絶品なのよ☆皆もたくさん食べてね♪」
席に着くやいなやテーブルに追加されていく料理の数々。
さっき夕飯を食べたばっかりだけど、美味しいからか皆の箸は進んでいる。
「それでレヴィアタン様はどうしてここにいらっしゃったんですか?……なんだよ匙?」
俺の呆れた視線に気が付いたらしく、セラフォルー様に質問しようとしていた兵藤が此方に顔を向ける。
「いや、気にするな。お前も相変わらず察しが悪いと思ってな。覗きなんか考えつくくらいなら、もっと他の事に頭を使え」
「ンだとこの野郎!?」
「今度は簀巻きにして晒し者にしてやろうか、変態野郎?」
鼻で笑って言い放つ俺に更に怒りを加速させる兵藤。
「上等だ!!表に出ろ!!」
「まぁまぁ、イッセー君。落ち着いて話を聞こう?」
「ええい放せ、木場!!」
暴れそうになる兵藤を木場が押さえつける。
「いいか?ここに居るのは外交担当のセラフォルー様、京都は三大勢力とは別の勢力の支配下にある。現在、三大勢力は他の勢力と協力体制を取り付けようとしている。なら結論は一つだ」
「匙君の言うとおり、京都の妖怪さん達と協力体制を得るために来ました☆」
セラフォルー様は横チェキで答える。
だからか。今日はいつもの魔女っ娘コスプレの格好でもなく、和服を着て髪もそれに合わせて結ってある。
どう考えても仕事じゃなくて京都を満喫しに来ているように見えるのは気のせいだろう。
「そしてセラフォルー様が俺たちを呼びつけたって事は何か問題が起きた。セラフォルー様に何かあったようには見えないし、おそらく京都の妖怪側に問題が起きたんだろう。そして、それに関わっているのは十中八九――」
「――『禍の団』か!!」
落ち着いたらしく、木場から解放された兵藤が答える。
「そうなの。実はこの地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なの。私もアザゼルちゃんも『禍の団』が関与してると考えてるわ」
箸を置き、表情を曇らせるセラフォルー様。
「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だっていうのにな。やってくれるぜ、テロリスト共が」
杯に入った酒を呷りながら忌々しげに吐き捨てる。
先生は学生の相手じゃなくて、京都の舞妓と遊ぶので手一杯の予定だったんじゃないのか?
ロスヴァイセさんに仕事全部押し付けてなんの仕事もしてないでしょ、アンタ。
セラフォルー様は空になったアザゼル先生の杯に酒を注ぎながら言う。
「どちらにせよ公にするわけにもいかないわ。何とか私たちだけで事を収束しなければならないの。私はこのまま協力してくださる妖怪の方々と連携して事に当たるつもりなのよ」
「了解。俺も独自に動こう。ったく、京都に来てまでやってくれるぜ、やっこさんどももよ。これじゃ、おちおち舞妓と遊んでられないぜ」
アザゼル先生は再び酒を呷り毒づく。
酔いが少し回っているからなのか、本音がダダ漏れだ。
「あ、あの、俺たちは……」
「とりあえず、旅行を楽しめ。何かあったら呼ぶが、お前らガキにとっちゃ貴重な修学旅行なんだろ?こういうのは大人の仕事だ、お前らは京都を楽しめよ」
恐る恐る質問する兵藤の頭をアザゼル先生がわしゃわしゃとされている。
「そうよ、皆も今は京都を楽しんでね。私も楽しんじゃう!」
貴方は仕事で来てるんだから自重してください。
「そろそろお前らはホテルに戻れ。折角だから俺はもう少し店で飲んでおく」
そう言われ、兵藤達や俺以外のシトリー眷属は店の個室を出て帰り始める。
セラフォルー様にいたってはスキップしながら店を出て行った。
「どうした、匙?お前も早く戻れよ。それともアレか、お前も飲むか?」
皆が帰ったのに、一人だけ残った俺を訝しげに見た後、何を勘違いしたのか酒を勧めてくる。
「……いいんですか?」
「あん?何がだよ」
「九尾の御大将がさらわれた理由までは分かりませんが、あの男は間違いなく仕掛けてきますよ」
思い出されるのは廃工場であった曹操と名乗る男。
準備を終えた今、英雄派の奴らにコソコソと動く理由はない。
神滅具の所持者二名を含めて自ら表に出てくるだろう。
「ンなこたぁ分かってる。それを可能な限り何とかすんのが大人ってもんだ。さっきもイッセーに言ったが、今のお前らは修学旅行を楽しんどけばいいのさ。半人前のガキが一丁前に心配してんじゃねぇよ」
頭に手を置かれ、兵藤と同じようにわしゃわしゃとされる。
「それに手伝うな、なんて言ってねぇよ。いざとなったらお前らの力を借りるだろう。その時は頼むぞ?」
「……はい」
アザゼル先生の手を頭から振りほどく。
「ったく、イッセーは察しが悪いが、お前は逆に良すぎだ。あんまり考えすぎると疲れるぞ?」
「弱い俺が出来るのは常にありとあらゆる事を想定し、それに備える事だけですから」
「弱い、ねぇ。今のお前ならそこら辺の上級悪魔よりもよっぽど強いだろうに。別に強くなりたいっていうお前を否定はしないが……」
先ほどのおちゃらけた雰囲気から真剣な表情に変わる。
「気をつけろよ?俺は強くなることを望んで道を誤った奴らを嫌っていうほど見てきた。最終的に殆どの奴らは強くなりたかった理由を忘れて、ただ力だけを求め、力に身を委ねて身を滅ぼしていった」
「全員がそうというわけでもないでしょ?それぐらい分かってますよ」
「俺だって、お前がそこまで馬鹿じゃないことぐらい分かってる。お前は賢い。何をどうすればどうなるのか理解できる奴だ。力に溺れていった馬鹿共とは違う。でもな、俺が危惧しているのは、全てを理解した上で自滅しないかって事だ」
「……何を言ってるんですか。そもそも身を委ねて自滅するほどの強大な力なんて持ってないですよ」
「ああそうだ。今は……な、お前は自分の身に何を宿していると思ってる?龍だぞ?しかも五大龍王の一角だ。可能性はゼロじゃないから言ってるんだ。何よりお前の神器は既に通常の物とは別物で完全にイレギュラーな存在だ。一体何が起きるか分からん」
「……」
あまりの剣幕に言葉が出ない。
「……すまん、少し言い過ぎたな。どうも酔いが回ると余計な事を言っちまう。まぁ、俺が言った事は頭の隅にでも置いといてくれ。ほれ、とっとと戻れ」
酒をまた呷りだす。
これ以上いたら酒につき合わされそうだしな。
「そうですね。先生も舞妓と遊べなくなったヤケ酒は程々にしておいてくださいね」
「うっせぇ!!」
酒を呷る先生を後にして、店を出る。
外は日が落ち、暗くなっていた。
「……少し肌寒いな」
少し前までうだるような暑さだったというのに、時が経つのは早いもんだ。
「……ハァ」
先生に言われた言葉がなかなか頭から離れない。
皆との約束もある。
それでも、いざとなったら俺はーー
最近忙し過ぎて、自宅のパソコンを起動すらできませんでした。
年内にこの物語をひと段落つけるつもりだったのに、それも叶いそうにないです……。