ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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36話 報告とお願い

先日の襲撃事件から一夜明け、俺たちシトリー眷属はアザゼル先生とグレモリー眷属、少し前に転校してきた転生天使の紫藤の前で事件の内容を報告していた。

 

「――以上です」

 

「……もう一回聞くぞ。その場にいたのは三人。一人は曹操と名乗った男、もう一人は霧で転移させる能力を持ち、消去法でモンスターを自在に創り出せる能力を持ったのが少年の方だと?」

 

「はい、あくまで私たちの推測の範囲ですが」

 

「……」

 

俺たちの推測を聞いたアザゼル先生は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

この二つの能力はかなりレアな神器の能力か、最悪の場合神滅具か……。

 

「おい、リアス。そのモンスターみたいなのはお前らの時も居たのか?」

 

「ええ、居たわ。ただの戦闘員か何かだと思っていたのだけれど……」

 

「……はぁ」

 

今度は頭を抱えている。

今までの相手が神器の能力者の方がメインだったとはいえ、最低限の報告はしようよ。

 

「あの、アザゼル先生?どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ!!これくらい報告しろ、この大馬鹿ども!!!神器持ちよりもよっぽど厄介な方を報告しないなんて何考えてんだ!?」

 

兵藤の心配を怒号で返すアザゼル先生。

ここまでイライラしてるってことは、既に答えが分かっているのか。

 

「やっぱり神滅具ですか?」

 

「……そうだよ。想像の通り神滅具だ。霧使いも合わせて二つともな。神滅具の中でも上位神滅具なんて呼ばれてる物だよ」

 

二つとも神滅具、しかも上位なんて頭についている物だった。

曹操も只者ではない雰囲気を纏っていたし、昨日は大人しく引いてくれてよかったな。

 

「それって俺の『赤龍帝の籠手』より強いんですか?」

 

「単純なパワーならお前やヴァーリの方が強い。しかし、モンスターを作っていた方の『魔獣創造』は木場の『魔剣創造』と同じように、イメージした魔獣を自在に創りだすことが出来る能力なんだ」

 

『!?』

 

「……?」

 

この馬鹿はもしかして理解できてないのか?

自分のイメージしたとおりに魔獣が作り出せるなんて厄介極まりない。

本音を言うなら凄く欲しい。

 

「いいか、イッセー。『魔獣創造』の恐ろしい所は、神殺しの魔獣ですら創れるんだよ。もっとわかりやすく言うなら、フェンリルみたいなのが簡単に量産できるんだよ」

 

「そんな!?メチャクチャ厄介な能力じゃないですか!?」

 

「だから言ってんだろうが!!もう一つは『絶霧』。結界系では最強の力を持っていて、霧で包み込んで防御したり任意の場所に転移も出来る。両方とも使い手と使い方次第では国一つを簡単に滅ぼせるんだぞ!!」

 

そんな物が二つも『禍の団』にあるのか。

一体何が目的なのやら……。

 

「よく生きて帰って来たね、私たち……」

 

そう呟く花戒の顔色は悪く、体は少し震えている。

今までそんな相手を目にしていなかったから、当然と言えば当然の反応なのかもしれない。

 

「ああ、よく生きて帰って報告してくれた。目的は分からんが、敵の能力が分かったのはデカいぞ。知らないのと知ってるのとじゃ全然違うからな。……後は曹操って名乗った男か」

 

「曹操と言えば三国志に出てくる偉人の名前ですね」

 

副会長の言葉にアザゼル先生は頷く。

 

「その通りだ。あえてその名を名乗っているのなら、『英雄派』のリーダーはやはりソイツの可能性が高いな……」

 

あえて名乗っている曹操と言う名前。

「準備は殆ど終わっている」という言葉。

最近頻繁に起きている神器所持者の襲撃事件。

 

バラバラのピースが一つに組みあがっていく。

 

「多分なんですけど、あの男はずっと人材を集めていたんだと思います。子孫だから名乗っている可能性もありますが、そうだとしても無意味に曹操と名乗る筈がない」

 

「成程、だから曹操か……。「準備は殆ど終わっている」は、人材は集めきったって事だな。だから動き始めたのか。しかし、目的が分からんな……」

 

「えっと、二人で納得しないで欲しいんですけど?」

 

兵藤含め数人は話の内容が理解できていないらしい。

アザゼル先生が此方に視線を送ってくる。

説明してやれってことですか。

 

「曹操の言った言葉に「唯才是挙(たださいのみこれをあげよ)」という言葉があるんだ」

 

「ごめん、わかんない」

 

「……はぁ。お前にも分かるように言ってやると、「才能さえあれば、何者であっても重用する」って意味だ。事実、曹操は長男と重臣を討ち取った人間の才を買って家臣に迎え入れるほどの人材マニアなんだ。それを今回の曹操と名乗る男に当てはめて、「才能」は「神器」だと変換すれば、神器所持者は十分集まったって事になる。多分人間限定で、だろうけどな。これなら最近、神器所持者の襲撃が多いのが納得できる。理解できたか?」

 

「おお……。お前、頭いいんだな」

 

「お前が馬鹿なだけだ。少しは煩悩だらけのその頭の中に知識を入れろ」

 

どれだけ煩悩が詰まってるのか、一度お前の頭の中を覗いてみたいよ。

 

「まぁそう言ってやるな。イッセーの力の源はその煩悩なんだ。それを取ったら何も残らんだろうが」

 

「フォローしてるつもりで、匙よりも酷い事言ってるよ!?」

 

「気にするな。リアスはサーゼクスに、イリナはミカエルにこのことを報告しておいてもらえるか?今、修学旅行やらで忙しくてな」

 

「分かったわ」「分かりました!」

 

「よく言いますよ。殆ど私がやってるじゃないですか」

 

そう言いかえすのは、グレモリーの新しい『戦車』ロスヴァイセさん。

何でもオーディン様に置いて帰られて、帰るに帰れずそのまま悪魔になって駒王学園の教師として迎えられたらしい。

 

これで報告が終わり、皆が解散しようとした時だった。

 

「アザゼル先生、ちょっとお時間をいただけませんか?」

 

由良がアザゼル先生を引き留める。

珍しいな、俺や会長以外がアザゼル先生と話をしようとするなんて。

 

「ちょっとアザゼル先生!!」

 

「すまんな、ロスヴァイセ。少々込み入った話らしい。先に戻ってくれ」

 

「……分かりました。早く戻ってきてくださいね?」

 

ロスヴァイセさんも由良の真剣な表情を見て、大切な話だと理解したのか大人しく引き下がる。

 

「で、なんだ?珍しいじゃないか」

 

「アザゼル先生は人工神器を作られているとか」

 

「ああ、趣味の一環としてな。まだまだ改良の余地があるが、それがどうした?」

 

「図々しいお願いなんですが、私たちに人工神器を作っていただけませんか?」

 

今度は巡がアザゼル先生に言う。

 

「……一応、理由を聞こうじゃないか」

 

「グレモリーと比べると能力が低すぎるって言われたんです。そんなこと、ずっと前から自覚してます。最後も匙先輩が全部倒しちゃって……」

 

「私たちよりも後に悪魔になった元ちゃんが私たちを守って戦ってるのに、いつまでも足手まといで……」

 

「私たちだって強くなりたいんです!その為だったら出来る事を何でもしたいんです!」

 

仁村、草下、花戒も加わる。

もしかしたら、皆は前々から考えていたのかもしれない。

 

「私からもお願いします。彼女たちに人工神器を作っていただけないでしょうか?」

 

会長まで頭を下げている。

 

「貴方は知らないでしょうけど、結構前から会長と相談していたのですよ」

 

「副会長……」

 

「ふむ……。作ってやりたいのはやまやまだが、それはできんな。俺も一応堕天使の総督だから、お前らだけに肩入れすると周りから何を言われるか分からん。しかも、不安定な部分が多くて出力も安定しない」

 

十分グレモリーに肩入れしている気がするけど、それとこれとはまた別問題なんだろうな。

直接物を作って、そのままあげるというわけにもいかないか。

確かに俺の場合も、俺の為よりも実験するからその被検体としての割合が大きかった。

 

『そんな……』

 

唯一ともいえる希望が叶わず、目に見えて落ち込んでいる。

そういった表情を見るのは正直、辛い。

だから、自分の経験を踏まえた上での後押しをする。

 

「だったら、まだまだ不安定の部分が多い人工神器のデータを取るために、グリゴリに協力するというのはどうでしょうか?データを取り終わり完成出来たら、その報酬として人工神器を貰う。ギブ&テイクの関係なら問題ないし、グリゴリもデータが欲しいんじゃないですか?」

 

俺の言葉に先生がニヤリと笑う。

 

「あくまで実験協力者って名目か。データが沢山取れるならその分完成も早まるし、完成したらそのまま試作品はやる。成程、考えたじゃないか」

 

「でしょう?これなら文句も言われないし、身近な者が実験協力しても不自然じゃない」

 

「……よし、いいだろう。作ってやるよ。まずは神器の勉強からだな。その上で各自要望を書いてもらって、作り出すから時間がかかるぞ?」

 

『はい!』

 

さっきの表情とは打って変わって、明るくなる。

 

「くくく、まさかこんなに実験協力者が手に入るなんて思ってなかったぜ」

 

アザゼル先生の黒い笑顔を見て、自分の判断が間違いだったんじゃないかと一瞬思ったが、直接何かされるわけじゃないから大丈夫だろ、うん。




厨二感溢れる人工神器の製作が開始されました(笑)

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