ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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33話 悪神の対策

「えいや!てりゃあ!」

 

「せい!やぁ!」

 

目の前では仁村と巡の戦闘訓練が、別の場所では副会長と由良、会長と花戒、草下が訓練をしている。

戦闘訓練なのだから自分にも相手が欲しいが、相手がいないので一人だけ能力の制御の訓練を行っている。

最近、というか能力が増えて以降だれも相手をしてくれなくなってしまった。

 

『そう不貞腐れるな。能力の制御が第一だと言ったのは我が分身であろう?』

 

「わかってるよ」

 

右手に黒炎を発生させる。

その黒炎の威力を強めたり、弱めたり、体に纏わしたりを延々と繰り返す。

他の能力の訓練も必須だが「邪龍の黒炎」は唯一のまともな攻撃手段だから、火力の足りない自分には他の何よりも優先するべき訓練だ。

 

「あら、大分制御できるようになってきたのね」

 

突然背後から声をかけられる。

声だけで分かるし、一々振り返ったりしない。

 

「由良、訓練は良いのか?」

 

「ちょっと休憩よ」

 

「あっそ」

 

「なに?誰も相手をしてくれないから拗ねてるの?」

 

「そんな事で拗ねたりはしないさ。そのおかげで制御訓練に打ち込めてるんだから」

 

少しくらい戦闘相手になってくれてもいいじゃないかとは思うけどな。

 

「仕方ないじゃない。今の元士郎と訓練しちゃうと、一撃でも当てられれば間違いなく燃やされるんだから」

 

そう、それが一番の問題なんだ。

俺の「邪龍の黒炎」は一撃でも当てることが出来れば、そこから炎が広がっていく呪いの炎。しかも解呪が困難というオマケつき。

もちろん、その広がる炎の抑制やいざとなったら消すことも出来るのだが、今の自分ではそこまで細かい制御はまだできない。

だからこその制御訓練でもあるんだけどな。

 

「由良!続きを始めますよ!」

 

「はい!じゃあ頑張ってね」

 

そう言って由良は副会長の方へ行ってしまった。

 

「……はぁ」

 

折角能力を得たのに、全力で試す相手がいないのは困りものだな。

『龍王変化』なんて絶対に使えないし。

 

先日オーディンが来日してから悪神のロキが襲撃してきたという話を聞いた。

『禍の団』の動きも活発化しているらしいし、問題は山積みだ。

いざという時の為にも『龍王変化』は早くものにしておきたい。

 

「おっ、やってるな。感心感心」

 

「アザゼル先生?」

 

「練習中悪いな。ちょいとお前さんに用があってな」

 

「俺に?」

 

厄介事じゃないだろうな?

 

「ソーナ、匙を借りるぞ」

 

突然現れたアザゼル先生に気が付き、此方に近づいてきた会長に言う

 

「構いませんが、何故ですか?」

 

「ヴリトラの力が必要なんだ」

 

座っていた俺の襟首を掴み、引きずり出す。

 

「は?いや、ちょっと!?」

 

「ちなみにお前に拒否権はない。安心しろよ。死ぬことはないから」

 

「あんたの言う事は信用できな「とりあえずイッセーの家まで飛ぶぞ」聞けよ!?」

 

足元が光り、転移が始まり、一瞬で景色が変わる。

 

「到着っと」

 

「アザゼル、一体どこに行っていたんだ?」

 

「ヴァーリか。コイツを迎えに行っていたんだ」

 

「匙!?お前まで来たのか!?」

 

ヴァーリ……白龍皇!?なんでいるんだ!?

それに兵藤もいる。

そういえば兵藤の家まで行くとか言ってたな。

 

「誰だソイツは」

 

覚えてないのか?

俺は眼中にもないって事かよ。

 

『ヴァーリ。この男からヴリトラの気配がする』

 

「……ほう」

 

眼光が鋭くなる。

まるで獲物を見つけた猛獣みたいだ。

 

『久しいなアルビオン。まさかドライグと一緒にいるとは思わなかったぞ』

 

『ヴリトラ!?意識が戻っているのか!?』

 

『ああ、いろいろとあって意識が戻るに至ったのだ』

 

「再会を懐かしむのは構わんが、そろそろ行くぞ。先客を待たせているんでな」

 

先生はすぐに転移の準備を始める。

 

「アザゼル先生、状況が呑み込めないんですが?」

 

「これからの話で察しろ。イッセーならともかく、お前なら分かるだろ」

 

「先生!!それは俺が馬鹿って事ですか!?」

 

「「馬鹿だろ」」

 

俺と先生が同時に答える。

 

「酷い!?何とか言ってくれドライグ!!」

 

『……』

 

「ドライグさん!?」

 

「まぁいい。行くぞ」

 

転移が発動して到着した場所は白い空間だった。

そして、デカいドラゴンが一匹佇んでいた。

 

「先日以来だな、お前たち」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

タンニーンと言えば兵藤が夏休みに山でサバイバルをしたとか言ってたな。

元龍王で最上級悪魔に数えられる悪魔だ。

 

『やれやれ、アルビオンの次はタンニーンか。呼び出すのはミドガルズオルムと言っていたし、随分懐かしい顔ぶれだな』

 

「意識が戻ったとは聞いていたが、また話が出来るとは思わなかったぞ。そしてお前がヴリトラを宿した……匙元士郎だったか」

 

「俺を知っているんですか?」

 

まさかこんな凄いドラゴンが自分の名前を知っているなんて驚きだ。

 

「グレモリー対シトリーのレーティングゲームで皆の予想を覆し、赤龍帝を破ったのだ。シトリー家の黒龍と呼ばれ、今の冥界でお前を知らぬものなどおらぬだろう」

 

そんな風に呼ばれてるなんて知らなかったな。

しかも、赤龍帝を破ったという言葉に反応して約一名から凄い視線が……。

 

「それと比べ赤龍帝の小僧はなさけない。禁手化していながら負けるなど……その上、リアスお嬢の顔にも泥を塗りおって」

 

「うぐ……。仕方ないじゃんかよ、おっさん!!」

 

「まったく、リアスお嬢の乳をつついて「禁手」にいたった時も思ったが、俺の訓練は意味がなかったのではないか?」

 

更に視線が強くなる。

なんだろう。凄く狂気的というか背筋が凍るというか。

 

それより「禁手」に至ったエピソードは初めて聞いたぞ。

……俺も乳をつついたら「禁手」に至れるのかな?

いや、やめよう。そんなので「禁手」に至れるのはアイツぐらいだ。

 

「思い出したぞ。確か三勢力会談に一緒にいた奴だ。アザゼルがやたらと気にかけていたが、そうか君だったのか」

 

今まで黙っていたヴァーリが口を開く。

どうやら俺の事を思い出したらしい。

それと同時に凄まじいプレッシャーがかかる。

 

「以前は特に何も感じなかったが、兵藤一誠を倒したという君には興味がわいてきた。是非とも一度戦ってみたいものだな」

 

なんて恐ろしい発言をするんだ。

兵藤も憐れむような顔をしているじゃないか。

 

「白龍皇か……。妙な真似をすればその時点で躊躇いなく噛み砕くぞ」

 

俺にかけられていたプレッシャーがなくなる。

良かった。あのままだったら正直耐えられなかった。

 

『しかしミドガルズオルムの奴は本当に来るのか?我の記憶が正しければ、かなりの怠け者だったハズだが』

 

「二天龍がいれば否が応でも反応してくれるさ。さて、準備はできた。後は各員、指定された場所に立ってくれ」

 

よく分からない模様が描かれた場所に移動する。

これが意識を呼び出すための術式って所か。

 

「なぁヴリトラ。ミドガルズオルムってどんなドラゴンなんだ?」

 

『先ほども言ったように、怠け者だ。世界の終末に動き出すものの一匹だからな。常に寝ている奴だ』

 

ドラゴンにも色んなのがいるな。

 

先生が手元の術式を操作すると、足元が淡く光る。

そして魔方陣に立体映像のようなものが投影され始めた。

 

目の前に映し出されたのは巨大な空間を埋め尽くすほどの巨大な龍が大いびきをかいて寝ていた。

 

タンニーンがそれを起こし、また寝るを何度か繰り返して話が始まり、やっとなんで呼ばれたのかを理解した。

 

ミドガルズオルムはロキによって作られたドラゴンである。

だからこそロキと同じくロキが作り出したフェンリルの対策を知っている。

そして、それを聞くためにミドガルズオルムの意識を呼び出さなければならず、それに龍の力が必要だった。

 

大方理解したけど、それなら始めから教えてくれれば良かったのに。

先生たちの聞きたいことは聞けたようで、立体映像がブレて消えていった。

こうして俺たちは準備を進めていくことになった。

 

翌日の朝。

 

オーディンと他の神話体系の対談に攻め込んでくるであろうロキとの戦いが迫ってきており、皆は学校を休みその準備を始めていた。

 

「……私がいない間に何か起こらなければいいのですが」

 

会長は自分のいない間の学園が気になるようで、ソワソワしている。

兵藤たちの居る所では鳴き声が聞こえてくる。

 

『何故だドライグ……。なんで我が宿敵が「おっぱいドラゴン」や「乳龍帝」なんて呼ばれているのだ!!』

 

『うおおおおおおんっ!俺だって、俺だって「乳龍帝」なんて呼ばれたくないんだよ!!』

 

二天龍の鳴き声が響く。

 

『二天龍と呼ばれし龍たちがこの様とは……。あまりにも哀れすぎてなんと言えばいいのか分からんな』

 

「ヴリトラ、何も言ってやるな。変に声をかける方が逆に可哀想だ」

 

あんなのになんて声をかけてあげればいいのか俺が聞きたいよ。

 

「ソーナたちは転移のサポートだ。でも匙、お前だけはイッセーたちと一緒にロキの方に当たってもらうぞ」

 

「アザゼル先生、そんな化け物ぞろいの所に俺が行っても良いんですか?」

 

ある程度兵藤たちの話が終わったのか、今度は此方側に話をしに来たらしい。

 

「前線に出なくてもいいが、お前のサポート能力は貴重だ。イッセー達の力になるだろうよ。まぁ最前線で暴れて来ても構わないぜ?」

 

前線に送り出すのも、どうせ『龍王変化』を期待してるからでしょう?

 

「サジ、無理は禁物ですよ?」

 

「会長、大丈夫ですよ。わかりました。せいぜい暴れてきますよ」

 

折角の『龍王変化』の力を全力で発揮できるチャンスだ。

 

『やるのか?我が分身よ』

 

ああ、ヴリトラ。

見せつけてやろうじゃないか、俺たちの新しい力ってやつを。

 




匙は戦闘狂(ヴァーリ)にロックオンされました。
次回はロキ戦です

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