ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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32話 求める力

結論から言うと、ディオドラ・アスタロトは『禍の団』と繋がっていた。

先日すれ違った時に感じた悪寒はそれだったのかもしれない。

 

グレモリーとのレーティングゲームで観客含めた『旧魔王派』による襲撃。

そのさなかにグレモリーの『僧侶』であるアーシアをさらったらしい。

そこら辺の詳しい事情はあんまり聴けなかった。

分かったのはディオドラ・アスタロトと言う人物は相当な屑だったらしいという事だけ。

 

そして―――――

 

 

「『覇龍』か……」

 

『禍の団』の襲撃の中で兵藤が目覚めた力。

アザゼル先生曰く、ドラゴンなどを封じた神器でその力を強引に開放し一時的に神をも上回る力を発揮するらしい。

 

『我が分身よ、またその事を考えているのか』

 

今は昼休憩なのでこの時間帯は生徒会室には基本的に誰もいないし誰も来ない。

来たとしても生徒会の奴等ぐらいだしな。

ヴリトラとも堂々と話せるし、考え事には持って来いだ。

 

「ヴリトラ……」

 

『『覇龍』は己の命を削り見境なく暴れまわるだけの物だ。まともに使いこなそうと思わぬことだ。何より二天龍はああいった形で発動されるが、我が分身が発動できたとしても同じような結果になるとは限らん』

 

確かにアザゼル先生からも言われた。

黒い龍脈だけでは無理だったかもしれないが、ヴリトラの意識が戻っている今なら発動できる可能性はある。

しかし、それがどういった形で発動されるのかは例がないので予測できない。

そもそも、今の俺の神器はイレギュラーみたいなものだから、何が起きるかすら分からない、と。

 

「分かってるよ。でも、やっぱりいざという時の『切り札』は持っておきたい」

 

『『龍王変化』では駄目なのか?』

 

駄目ではない。

そもそも『龍王変化』はかなり強力だ。

暴走することはないが、完全に使いこなせていない今でも圧倒的火力を持っている。

あれでもヴリトラ本来の力の少ししか発揮できていないというのが驚きだ。

 

「『龍王変化』は強いけど、それは『強い手札』どまり。『切り札』って呼ぶには足りない」

 

自分の考える『切り札』は圧倒的不利な状況ですら覆せるものだ。

『龍王変化』は強力だが、それで圧倒的不利を覆せるかと言われれば、答えは否だ。

そうなると思いつくのは単純な力。

持ち得る『手札』が多ければ多いほど良い、どれだけ『弱い手札』でもカードの切り方とタイミングによっては戦えるという考えは変わらない。

それでも、単純な力も『手札』っていう事も否定できない事実だ。

 

「まぁ、あれこれ考えるより『龍王変化』を完全に使いこなすことからかなぁ」

 

『そもそも四つの能力すら完全に使いこなしていないのに力を求めるなんて未熟者の証拠だ』

 

「こりゃあ手厳しい」

 

ヴリトラの言うとおりだ。

自分の元々持っていた黒い龍脈ですら完全に使いこなせていないのだか、それ以外の力を求めようなんて、まだまだ早い。

 

『己の持ち得る『手札』で戦うのが我が分身の戦い方であろう?その『手札』を強化せずにいったい何をするつもりだ?我が分身らしくないぞ』

 

「『禍の団』の話を聞いて少し焦ってたみたいだ。確かにそんなの俺らしくない・・・か」

 

しかし、世の中何があるか分からない。

『覇龍』という言葉が中々頭から離れないな。

 

ガチャリと部屋が開けられる音が響く。

 

「あれー?元ちゃんがいる」

 

「あら、珍しい」

 

「元ちゃんがお昼に一人で居るのは初めて見るね」

 

「なかなかレアな物を見たわね」

 

部屋に入ってくるのは生徒会の2年メンバー。

草下、巡、花戒、由良が順々に入ってくる。

 

「元士郎、今日はいつもの友達と一緒に居ないのね。風邪でもひいてたの?」

 

「まさか。あの馬鹿が風邪ひいて休むわけないだろ」

 

「……なかなか酷い言いようね」

 

「じゃあなんでー?」

 

「草下、生徒会の俺がここに居ちゃダメなのか……?」

 

「そこまでは言ってないわよ。でも元ちゃんがお昼に一人でいるのが珍しいだけ」

 

「最近はずっと昼休みは一人でいるけどな」

 

「……あんた友達居ないの?」

 

「そう思われても仕方ない状況だけど、ストレートすぎないか?」

 

「もしかして喧嘩でもしたの?」

 

「……できたらしいんだ」

 

『?』

 

「夏休みの間に彼女ができたらしいんだ。だから昼は彼女と過ごすってさ」

 

思い起こされるのは友人の腹立たしい笑顔だった。

 

『いやー俺彼女出来ちゃってさ。え?お前、彼女出来てないの?マジで?じゃあ女を知らないの?遅れてるねー。俺は今イケイケだからさー。とうとう俺の時代が来たって感じ?いや、むしろ時代が俺に追いついた感じ?じゃあ俺、昼は彼女と過ごすから。じゃーなー』

 

「だってさ」

 

夏休みが明けてからチャラチャラし始めたと思ったら、そんな事だったらしい。

その彼女を見たが、明らかにあの馬鹿をヒモにさせているようだった。

今何を言っても「なに?彼女居ない奴の負け惜しみ?」と言われ、無駄そうだったので黙っておいた。

現実を見してやらないのも友人の役目だと思うんだ。

 

「ふーん。じゃあ元ちゃんは友達に振られちゃったのね」

 

「と、巴柄ちゃん!!そんなこと言ったら元ちゃんが可哀想だよ?」

 

「いいんだよ花戒。別に気にしてないから」

 

昼休憩の暇つぶし相手がいなくなったのは残念だが、特に寂しいといった感情はない。

 

「じゃあ元ちゃんはボッチなんだねー」

 

「憐耶ちゃん!!」

 

「コレはチャンスよ?元士郎が一人という事はお昼を一緒に過ごすのを断られないのよ?」

 

「……別に一人でもいいんじゃないかなぁ」

 

「揺らぐの早いわね、桃?」

 

賑やかだな、お前ら。

 

「あーそうだ!!良い事思いついたー」

 

「うおっ!?」

 

いきなり草下が大声を出すのでちょっとビックリしてしまった。

 

「もう少ししたら修学旅行だし、皆で一緒にまわろうよ!!」

 

「いいわね。会長たちのお土産も買いたいし」

 

「……巡、新しい木刀なんて買わないよな?」

 

『騎士』で日本刀を使う巡は練習の時は木刀を使用する。

最近ボロボロになってきたから新しいのが欲しいと言っていたしな。

 

「かかか、買わないわよ!!買うわけないじゃない!!元ちゃんは私をなんだと思ってるの!?」

 

「怪しいな」

 

「怪しいわね」

 

なんでそんなに動揺してるんだ?

目が泳いでるぞ。

 

「ちょっと!!何笑ってんのよ!?」

 

「でも、楽しみだね修学旅行」

 

「ああ、そうだな」

 

まさか修学旅行なんてものが楽しみだなんて思う日が来るとは思わなかったな。

 

「だから元ちゃん――――『覇龍』なんて使うのは絶対許さないからね?」

 

花戒の切なげな表情が目に入る。

他の三人も同じだ。

 

「……耳が早いな。アザゼル先生あたりが言ったのか?」

 

「兵藤君の話は会長から聞いてたし『覇龍』っていうのもアザゼル先生に聞いたら詳しく教えてくれたよ。その前に元ちゃんが聞きに来たこともね。だから、多分その事を考えてるんだろなーって」

 

「元ちゃんの事だから、自分がどうなるのか理解した上でも使うでしょ?だから釘を刺しに来たのよ。そんなもの使わないようにね」

 

「貴方は私たちの大切な仲間なの。私たちの誰かが欠けたらシトリー眷属じゃなくなる。元士郎もその内の一人だってことは忘れないで」

 

「……はぁ」

 

『ふふふ、完敗だな?』

 

ヴリトラ、お前もか。

 

「わかった。たとえ使えるようになったとしても『覇龍』は使わない。約束するよ」

 

『……』

 

なんだよ。その信じてなさそうな顔は。

そんな中、花戒がボソリとつぶやく。

 

「……『覇龍』だけじゃなくて、命を無駄にしないって約束して?」

 

……よく分かってらっしゃる。

 

「元士郎を理解してるのは会長だけじゃないのよ?」

 

両手を挙げる。

 

「まいった。約束するよ」

 

「絶対、ぜーったいだよ?」

 

「破ったりなんかしたら承知しないんだから」

 

草下も巡も何度も念押ししてくる。

 

「会長や椿姫先輩、留流子ちゃん達の前でも約束してもらうからね?」

 

「もちろん」

 

別に俺だって皆を悲しませたいわけじゃないんだ。

 

だからこそ強くなりたい。こんなに自分の事を思ってくれる人たちを守れるように。

ちっぽけな自分の居場所ぐらいは守れるように。

 




これ書くのにいつもの倍かかってしまいました。
自分の想像力と文章力の無さが嘆かわしい・・・。

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