思い出したくもない恐怖体験のから帰宅後、久しぶりの休みともいえる日曜日だった。
生徒会の仕事もない、毎朝するトレーニングも今日は起きた時間が時間なので休みにした。
「ふぁああ。10時か……。ちょっと疲れてんのかな」
いつもは決まった時間に起きるが、前日の疲れが未だに残っているようだった。
折角手に入れた力なのだから練習したい気持ちもあるが、体が痛くて動くのが辛い。
「とりあえず、飯だな」
起きてから腹が鳴ってしょうがない。
とりあえずリビングに行くとしよう。
「……誰かいるのか?」
リビングから話し声が聞こえる。それも複数。
日曜だしお袋が客呼んでてもおかしくはないけど、嫌な予感がするな。
ドアに手をかける。
「そうなのよ、あの子ったら可愛げがないでしょ」
「へぇ、あの匙にも子供のころがあったんだな」
「なんだかイッセーさんと比べると子供っぽくないというか……」
「そうだな、イッセーの方が良く笑っている写真が多かった」
リビングにはお袋含め四人いた。
「あら、元士郎。起きたの?」
「よぉ匙!お邪魔してるぜ」
「匙さん、おはようございます」
「遅いお目覚めだね、匙」
その三人を見てからの行動は早かった。
「もしもし警察ですか?家に不審者が「おい!」……なんでお前らがいるんだよ」
三人のうちの一人である兵藤に携帯が奪われる。
残りの二人はアーシアとゼノヴィアだ。
なんでコイツ等なんだ?というかなんで家を知っているんだ?
「元士郎、折角来てくれたお友達になんてことを言うの!!」
友達?誰が?誰の?
「お袋、俺の友達にこんな変態はいない」
「それは酷くないか!?……本当は生徒会の連中が来る予定だったんだけど、皆今日は予定があるらしくてな。ソーナ会長に頼まれて俺らがお前の様子を見に来たってわけ」
どうやら、会長が家の場所を教えたらしい。
一応住所は知ってるからな。
「ああ、俺は元気だ。会長にも連絡しておく。だから帰れ」
「そんな事言わないの!ごめんなさいね、私はこれから買い物に行ってしばらく帰ってこないから、ゆっくりしていってね」
そう言って、お袋はリビングから出ていく。
「はぁ……で、何見てたんだよ?」
「匙さんの小さいころの写真を見してもらってました」
「……部屋に入れてやるから、それを見るのは止めろ」
流石にいい気はしないから。
「む、いいのかい?年頃の男子が女子を部屋に入れて」
「どういう意味だ」
心配そうな目で見てくるゼノヴィア。
「いや、見られて困るものが有るんじゃないのか?イッセーの部屋には沢山あるぞ?」
「兵藤……」
「ゼノヴィア!?余計な事言わないで!!」
「大丈夫だよ。見られて困るものなんてないから」
「そうか。ならいいんだ」
なんだかゼノヴィア雰囲気が変わったな。
聖剣事件の時は切れ者という感じがしたが、今はそんな物微塵も感じない。
なんというか、馬鹿のにおいがする。
三人を引き連れて自室に戻ると足元からヴリトラが出てくる。
『久しいなドライグ』
『久しぶりだなヴリトラ。話には聞いていたが、本当に意識が戻ったようだな』
「そういえば匙、神器の統合だっけ?先生に連れられて何をしたんだ?」
「兵藤」
「な、なんだ?」
兵藤の右肩を左手で強めに掴む。
「次にその話を俺に振って見ろ。消し炭にするぞ……!!」
右手に黒炎を出して兵藤の目の前まで近づける。
「(こくこく)」
「わかればいいんだ。ところでゼノヴィア、人のベッドの下を見ながら何してる」
「いや、ないなぁと思って」
「ゼノヴィア止めて!!なんか今日の匙怖いから!!先生に連れてかれてすっごく怖くなって帰ってきたから!!」
「でもイッセーさんの部屋と比べると物が少ないですね……」
「兵藤の部屋にエロ本が多いだけだろ」
「悔しいけど否定できない……」
「で、何するんだ?見ての通り何もないけど?」
部屋にいれたのは良いけど、特に遊ぶものなんてない。
ゲームはあるけど、基本一人用の物しかないし、あとはボードゲームしかない。
「ふふん。そこら辺の準備はしてるぜ?」
兵藤は鞄から幾つかの装置らしきものを取り出してくる。
「なんだよ、ソレ?」
「まぁ見てろって」
その内の一つをいじり出す。
電源のようなものが付くと立体映像が映される。
スゲェ。冥界にはこんなのもあるのか。
再生が始まった。
『おっぱいドラゴン!はっじっまっるよー!』
禁手状態の兵藤が歌いだした。
「……」
「はははっ!ビックリして何も言えないな?」
ああ、言葉が出ないよ兵藤。
お前がここまで馬鹿だったなんて思わなかった。
なんでも兵藤が主人公のとして作られた特撮物らしい。
おっぱいドラゴンに乳龍帝。
一つだけ言うなら
こ れ は ひ ど い。
『……ドライグよ、なんだこれは?』
見ろ、ヴリトラも目の前の映像を見てあきれてるぞ。
『言うな、ヴリトラ!!うおおおおおん!!赤き力の帝王である俺が乳龍帝などと!!』
ドライグも泣いてるじゃないか。流石に可哀想だ。
「……で、コレはなんだ?」
「ああ、実はレーティングゲームに子供のファンを増やそうっていう計画でな?グレモリー家主体でコレを撮ってるんだ。もちろん俺の顔はCGだけどな!!」
そんなドヤ顔されても困る。
「結構面白いんですよ?」
「しかも、これのおかげで君たちに負けて下がったグレモリーの名声は徐々に回復しつつあるらしい」
ああ、多分そっちが本命なんだろうな。
グレモリーはレーティングゲームに負けてかなり評価を落としたらしい。
圧倒的とすら言われながら、殆どの駒が獲られて負けたのだから当然だろう。
こんな物で名声が回復するなんて単純すぎてビックリするが。
「ああ、かなりの収益が出ているらしいし、良い事ばっかりだぜ!!おっぱい万歳!!」
『うおおおおおおおおおおん!!』
お前の大切な相棒の心が犠牲になったけどな。
「なんだよ、反応が薄いなー。仕方ない、実はもう一つあるんだ。こっちは面白いぜ?」
「おお、イッセー早く再生してくれ!!続きが気になるんだ!!」
大人しかったゼノヴィアの目がきらめきだした。
映像が再生される。
パッと見て判断するに、どうやらこれは普通のドラマのようだ。
ニヤニヤしている兵藤の顔が凄く気になる。
ゼノヴィアとアーシアは食い入るように見ている。
映し出されている映像は主人公が戦ってボロボロになっている。
ああ、兵藤と戦ってるときの自分もこんな感じだったな。
……ん?
いやいや、そんなまさか。そんな事があってたまるか!
でもなんで兵藤はあんなにニヤニヤしている?
『どうした我が分身よ。顔色が悪いぞ?』
「……気のせいだ、うん」
映像に視線を戻すと主人公が何か言いだして立ち上がるシーンだった。
『俺は……会長の夢を叶えてあげたい!!だから、負けられないんだよぉおおおおお!!』
「ブフォッ!?」
「ははははははっ!気づいたな?」
「二人ともうるさい。今いい所なんだ」
なんだよコレ!?明らかに俺をモデルにしてるだろ!?
映像が終わってスタッフロールが流れる。
監督:セラフォルー・レヴィアタン
脚本:セラフォルー・レヴィアタン
あ ん た か!!
「コレはセラフォルー様が作ったドラマなんだ。冥界の大人に大人気らしいぜ?この前のレーティングゲームでお前が言った事全部冥界に放送されてるしな。それを元に作られたドラマらしい。タイトルは『主従を越えて』」
「ああ、素晴らしいドラマだ」
「素敵ですよね」
「……頭が痛い」
あの人著作権って知ってるのか?
いや、冥界にはそんな法律ないか。
「お前も俺と同類!有名人!はっはっは!」
……なんか言い返す元気ないや。
「……頼むもう帰ってくれ。俺は疲れた」
「そうだな。二人とも帰ろう」
「はい!」「ああ」
『うおおおおおおおおん!』
「じゃーなー!!なぁドライグ、もう泣き止めよ」
手を振って帰っていく兵藤たちと泣き止まないドライグ。
相棒をなんとかしてやれよ。いつか大事になるぞ。
やっと嵐が去って行った。
折角の休みだったのに、時間を無駄に過ごした気分だ。
マジで何しに来たんだアイツ等は。
『あれが今の赤龍帝か。ドライグが不憫でならんな』
「言うな。あの馬鹿に関わり過ぎたら俺たちも馬鹿になる」
……もうひと寝入りしよう。
グレモリーの名声回復の為、収益を出すのを理由に多少強引ながら「おっぱいドラゴン」は作られました。
あとは色々ぶっちゃけた匙を元にドラマも作られました(笑)