「悪魔になってみませんか?」
―――――――――――――は?
「失礼しましたー」
匙はくるりと180度向きを変え出口へ歩き出す。
これ以上関わってなるものかと、少し速度を速めるが出口付近でまた同じ女子生徒に腕をつかまれる。
「行動早いよ!!もうちょっと話聞いてもいいじゃない!?」
「俺、オカルトチックな物とか宗教の勧誘はノーサンキューです。興味ありませんし、悪魔も神様も信じてない。ってなわけで放してくれない?もちろん生徒会もお断りします」
この教室にいる全員に匙はハッキリと言い放つ。
「それは悪魔がいることを証明できれば、もう少し話を聞いてもらえるのかしら?」
「俺の目の前に悪魔とやらを連れてくれば話くらいは聞きますよ?出来たらの話ですけどね!」
「……本当ですね?」
「男に二言はありません!」
匙の発言に支取蒼那、もといソーナ・シトリーは笑みを浮かべる。
そして匙に爆弾発言を落としてきた。
「なら問題ありませんね。だってこの場にいる生徒会メンバー全員悪魔ですから」
ソーナの背中から蝙蝠のような羽が出てきた
周りにいた人全員いつの間に取り付けたのか同じような羽がついていた。
いや、つけたわけではない。間違いなく背中からでてきたのだ。
少なくとも普通の人間に羽なんてない。
マジ物の悪魔が目の前にいた。
「話、聞いてくれますね?」
匙は紛れもない証拠を見せられてしまい、二言はないなどと余計な事を言ったため既に言い逃れできなくなってしまった。
「悪魔についての説明は終わりですが、なにか質問はありますか?」
あの後、匙は個室に連れて行かれ悪魔について一対一で話を聞かされた。
眷属悪魔について、悪魔になれば永遠に近い寿命が得えられること、魔王の存在、神器について、悪魔だけじゃなくて天使や堕天使がいること、それ以外にも色々と。
匙に声をかけたのは、神器を持っていると感じたから。
生徒会としても人手が足らず、男子を必要としていた。
成績優秀者であり、男子であり、しかも神器持ち。
眷属悪魔としても生徒会としてもおあつらえ向き人材が目の前に転がっていたから話の場を設けたと。
「いやぁ、なんか話がぶっ飛び過ぎて何がなんだか……」
「もう一回説明しましょ「結構です!理解はできましたから!」……そうですか?」
あんな長い話も何度も聞けない。まちがいなく頭がパンクする。
「先輩たちの目的は大体理解できました。で、眷属悪魔になって俺に何のメリットがあるんですか?」
「さっき話した通りですが?」
「永遠に近い寿命とか、お金もらえるとか、領地とか、そんな物どうでもいいんですよ。長生きしたいわけでもないし、お金も働けばいい。領地とか小難しい事もどうだっていい。それ以外のメリットがないのならお断りです。」
悪魔のメリットをどうでもいいと全否定する。
なかなか折れない匙にソーナは止めの一言を持ってくる。
「……退屈させませんよ?」
「ッ!?」
ソーナの発言に匙の目が見開く。
「会ったばかりですが、あなたの事はなんとなく理解しました。ごまかしているようですが冷めきった目をしています。何の刺激もない今が退屈なんでしょう?」
「……否定はしません」
ややうつむきながら匙が答える。
そう、匙にとっては何もかも退屈なのだ。学校の授業も、ただ生きているだけの生活にも。
学生生活という物は刺激があるから楽しいのだ。学生時代の記憶が輝くのは何時も新しい刺激に満ち溢れているからだ。
学校生活を過ごした≪記憶≫がある匙にはどれも刺激のない退屈な時間だった。
≪記憶≫と大して変わらない授業内容、友人との会話、学生生活。
唯一の楽しみは何度も挑んでくる友人との勝負。しかしそれもあまりに弱すぎて面白みがない。
「私と一緒に来れば、少なくとも今よりもずっと刺激的な生活を約束しますよ?」
どうですか?と聞いてくるソーナの眼を見つめる。
悪魔だから嘘をついているのかもしれないし、今まで以上に面倒事に巻きこまれるかもしれない。
でも目の前の人物が嘘を言っているようには見えない。それだけ真っ直ぐ自分を見つめている。
信じてもいいのかもしれない。何故だかわからないけどこの人は自分の期待を裏切らないと思える。本当に退屈だらけの人生を変えてくれるかもしれない。
黙って待つ彼女に言わなければならない。
自分の返事を、口に出して。
「わかりました。俺はあなたの眷属悪魔になります。いえ、眷属悪魔にしてください」
お願いします、と頭を下げる。
「頭を上げてください、匙君。お願いしているのは此方なんですよ?」
頭を上げると苦笑いしているソーナの顔があった。
「『サジ』これからよろしくお願いします」
そういいながらソーナは右手を差し出してきて、匙はそれを握り返す。
「『会長』此方こそよろしくお願いします」
そう微笑みながらソーナと握手を交わす匙の瞳にはわずかながら温かみがあった
ちょっと短いですが、キリがいいので今日はここまで