気が付いたらよく分からない空間にいた。
「どこだよ此処……」
思い出すのも恐ろしい出来事の途中で気を失ってたんだろうな。
≪記憶≫よりも思い出すと体の震えが止まらない。
『神器の中だ、我が分身よ』
低く不気味な声が聞こえる。
この声は聞いたことのある声だ。
見上げると黒い東洋風の龍がいた。
「我が分身?」
自分を指さし尋ねる。
『そう、我が分身だ。我が魂と力をその身に宿しているのだ。我が分身も同然であろう?』
「じゃあお前はヴリトラ?意識が覚醒しかけてるとは言っていたけど」
『ふははは、まさか封印されてから意識が覚醒できるなどとは思ってもなかった。我が分身と赤龍帝との戦いは微睡みの中で見ておったぞ。そのおかげで意識が覚醒したのだから、感謝せねばならんな』
「……」
『……?なんだ、我が分身よ』
「いや、思ったよりマトモそうだなって。邪龍ってもっと頭がぶっ飛んだ奴等だと思ってた」
『そうだな、戦闘狂と呼ばれるのもいないでもない。なんだ、そっちの方が良かったのか?』
「まさか、そんなぶっ飛んだ奴等の意識を覚醒させても大丈夫なのかとは思ってたけど。良好な関係が望めそうで何よりだ」
何より俺とヴリトラとの相性は抜群だ。
自分以上にコイツを理解してやれるのはこの世に居ないとさえ思える。
『ああ、我は久方ぶりの現世で心地いいのだよ。宿主も悪くない。何より我と同じ所が気に入った』
「俺も同じことを考えてたよ」
「『はははははは!』」
そう、ヴリトラは龍王の中でも力が劣っているが、その分多彩な能力を持っている。
力が劣る分、頭と持ち得る『手札』で戦う自分とピッタリだ。
『我が分身よ、我が力の使い方を教えてやろう。目をつぶれ』
「……これでいいか?」
額に何か当たる感触がした後、頭の中に力の使い方が流れ込んでくる。
便利だな。使えるようにする為の練習はする必要はなさそうだ。
『これはあくまで、最低限使える程度だ。使いこなせるわけではない』
「成程ね、それくらいが丁度いい。『練習相手』もいる事だしな」
『そうか、そろそろ意識を戻すぞ?』
「ああ、頼む」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「気分はどうだ、匙?」
「酷い悪夢を植え付けられたけど、気分は悪くないです」
体に違和感がなくはないが、見た目まで改造されたわけではないようだ。
そこは、少し安心した。
既に練習場のような場所に立っている。
新しい力をすぐに使えるように、ここに連れてきたんだろうな。
その判断、後悔させてやるよ。
神器を発動させ、黒い蛇を全身に纏わせていく。
左目が熱い。しかし、不思議と普段より良く見える。
「うおっ!?いいプレッシャーだ。これは中々の結果だな」
「ぐははははははっ!見ろ、アザゼル!ヴリトラ怪人の完成だ!!」
「しっしっしっし。改造手術は成功なのだ」
「ふふふ、うまくいって良かったわ」
アザゼル、アルマロス、サハリエル、ベネムネがそれぞれ感想を言う。
どうやらあの場にいた堕天使は全員はここにはいないらしい。
右手に黒い炎を滾らせ、アザゼルに向けて放つ。
「なんだ、能力は使えるのか?どわっ!?何すんだ匙!?」
「何すんだじゃねぇよ!!死ぬかと思ったんだぞ!?一発ぶん殴らせろ!!」
「ぐははははははっ!アザゼル、反抗されているぞ。これはグリゴリの危機だ!なんとかしろ!」
そう言いながらアルマロスはどこかへ去っていく。
仕方ない、とりあえずアザゼルだけ殴れれば気が済むだろう。
「何とかしろじゃねぇ!!ったく、サハリエル、ベネムネ、お前らも手伝えって・・・いねぇ!?」
「死ね!!」
「殺す気満々じゃねぇか!?……仕方ない。試作品が沢山あるんだ、遊んでやるよ」
どこからか取り出した剣を手に取る。
あれがアザゼルの開発している人工神器か?
光と闇が混ざっているような、木場の聖魔剣に近い物だ。
アザゼルに向けてラインを伸ばす。
「おっと、危ない危ない」
そのラインはアザゼルの持つ剣に防がれ、その剣に巻きつく。
「ああ、防がれるだろうとは思ってたよ。寧ろそれが狙いだからな」
ラインに黒炎を纏わせるように放つ。
「おっとぉ。へぇ、ラインに『邪龍の黒炎』を纏わせたのか……。複数の能力を持つお前だからこその芸当だな。はははっ!面白い発想だ」
アザゼルはすぐさま剣から手を放し、また別の武器を取り出す。
アザゼルはまだ飛んではいない。
なら、もう二つの能力を使おうか。
「今度は何を見してくれるんだ?」
余裕そうな顔が腹立つ!!
手を向け、能力を発動させる。
すると黒い炎の壁がアザゼルの四方を囲む。
「『龍の牢獄』か。どうやら能力は全部使えるらしいな。……くっ!?」
「気づきましたか?」
「ああ、成程。『漆黒の領域』との併用か。相手の動きを封じて力を削ぐ。いやらしい組み合わせだねぇ。だが、コントロールはまだまだだな!」
アザゼルはそう言いながら黒炎の壁を切り裂いて出てくる。
やっぱり能力は使えても、まだ使いこなせてはいないか。
ヴリトラからも言われたが、練習が必要だな。
「ほらほら、どうした!!一発ぶん殴るんだろ?今度はこっちから行くぞ!!」
「チィッ!?」
アザゼルが今持っているのは槍。
長刀使いはいるが、最近は真羅の洗練された動きに慣れ過ぎて、大雑把な攻撃の方が逆に動きが掴み難い。
手加減されてなかったら死んでるな、これは。
誰しも武術を収めているわけでもないし、戦闘にもっと慣れる必要があるな。
「舐めるな!!」
今度は体に黒炎を纏い、蹴りを放つ。
「黒炎を体に纏わせるか。確かに普通の蹴りより何倍も怖いな」
簡単に躱されてしまった。
でも、邪龍の黒炎は応用性があっていいな。
放つことも纏わせることもできる。
ラインと組み合わせれば拘束しながら確実に攻撃できる。
これからの戦いはコッチが主軸になりそうだ。
そんな事を考えていると、足元から黒い大蛇が出現する。
『やっと此方に出ることができたな』
「ヴリトラ!?コッチに出れるのか!?」
『ああ、初めてだから少し手間取ってしまった』
「はははははっ!!完全に意識が覚醒してるぞ!!これだから神器は面白い!!」
楽しそうだなあの人。
『さて、我が分身よ。敵はあの堕天使か?』
「ああ、お前を覚醒させる切っ掛けをくれたのもあの人だけど、とりあえず一発ぶん殴りたい」
『そうか、恩義はあれど我が分身の願いが優先だ。悪く思うなよ、堕天使?』
「はははははっ!!良いねぇ、今度は何をしてくれるんだ?」
ヴリトラの思考が頭に流れ込んでくる。
へぇ、こんなことが出来るのか?
『改造手術とやらの影響かどうか知らんが不可能ではない。集中しろ、我が分身よ』
ああ、最後に一発お見舞いしてやるよ。
コレを名づけるなら―――――
「おぉおおおおおおお!!!」
「匙の力が高まっていく!?・・・コレはちょっとヤバいかもな」
「『龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)!!!』」
邪龍の黒炎よりも黒い、漆黒の炎が体を包みこんでいき龍の形を成していく。
「おい、おいおいおいおいおい!?嘘だろ!?なんだよソレ!?」
アザゼルを見下ろす。
顔がかなり引きつっている。
「ジャアアアアアアアアアアアア!!」
雄叫びをあげる。
体が燃えるように熱い。
でも、悪くない。
「さ、サハリエルの野郎は匙に何をしやがった!?俺はこんなの聞いてねぇぞ!?」
黒炎をアザゼル向けて吐き出す。
感覚でわかる。さっきのよりも断然強力だ。
「あっつ!?ちょ、ちょいタンマ!!」
アザゼルは結界で防いでいるが、コレは龍のブレスだ。
そう易々と防げるものでもない。
他の能力も使いたいが、今は体を動かしてブレスを吐いているだけで限界だ。
これ以上は力を抑えきれずに暴走しそうだ。
ブレスを吐くのを止めて、そのまま突進してアザゼルを吹き飛ばす。
「ごぁ!?げほっごほっ。チィッ油断した!」
ざまぁみろ!!
『我が分身よ、そろそろ限界だ』
思ったより持続時間が短いな。
まぁ一発当てたし満足だ。
なによりコレはいい。現状では『最強の手札』だな。
黒炎がだんだん引いていき、元に戻る。
体が動かない。コレにも慣れが必要だな。
アザゼルがせき込みながら近づいてくる。
「おい匙!!なんだよ今の。あんなの反則だろ!?」
「ヴリトラと『同調』したんです。改造手術のおかげか、あんなことも出来るみたいです」
ああ、もう……限界。
「サハリエルの野郎そんな仕込をしていたのか。まさか他の奴らは知ってたんじゃないだろうな……匙?」
「すぅ……すぅ」
「力の使い過ぎで疲れたのか。しかし、さっきの以外は能力が増えただけでお前自身の力が上がったわけじゃないんだけどな。『手札』が増えただけであそこまで違うのか。……本当にお前はイッセー並にこの先が楽しみだよ」
アザゼルは匙を背負う。
とにかく休めるところで寝かせなければ。
「むにゃ……死ね……くそやろう」
「そんなに恨んでんのかよ!?」
匙は片腕に黒い龍のアザが出来た!
匙は邪眼(龍眼?)に目覚めた!←NEW
匙は邪炎が使えるようになった!←NEW
匙は邪龍に変身できるようになった!←NEW
匙の厨二レベルが上がった!
匙を書いていると某漫画の厨二キャラの代名詞ともいえる彼を思い出します。
邪○炎殺拳が使えるようになるんでしょうか・・・。
邪○炎殺黒龍波なんてピッタリの技だと思うんですけどね。
いつかネタで使うかも。