今まで黙っていたことを全部話した。
≪記憶≫のこと、昔の事を含めて全部。
黙ってはいたが、話してみると少しだけスッキリした。
多分、どこかで隠していることに後ろめたさがあったのかもしれない。
「成程、前世の記憶ですか。にわかに信じがたいですけど、納得できない事もありませんね。妙に達観している所があるとは思ってましたが・・・」
「じゃ、じゃあ最初の頃に匙先輩が倒れたのって・・・」
「≪記憶≫と現実がダブって見えたんだ。今までになかった事だから余計に体調が悪くなってな。……仁村?」
仁村が顔を伏せた。
何があったのか尋ねると。
ドバァッ!!!
いきなり泣き出した。
「は!?なんで泣くんだよ!?」
「だっで、だっで、ざじぜんばいにぞんなごどあっだなんでじらながったがら!!」
「お、落ち着け。何を言ってるのか分からないから、な?」
今まで泣かれたことは無かったので、どうすれば良いのか分からない。
こんな時の対処法なんて、≪記憶≫にもない。
「よしよし、留流子ちゃん」
「うえぇぇぇん。ももぜんばい、わだじぞんなごどぎづがながっだ」
「多分、気が付いてなかったのはアンタだけだと思うけどね」
「こ、こら!巴柄ちゃん、そんな事言っちゃダメ!!」
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」
巡の発言で更に泣き出す仁村。
「でも、気付いていても何もできなかった私たちも同じか……。これは予想の斜め上をいってたわ」
「ぶん殴ってやるんじゃなかったのー?」
「あのね?憐耶、そこまで私も酷くないわよ?」
「今さっき仁村を余計泣かしたのは誰だ?」
最近分かってきた。
生徒会メンバーで一番たちが悪いのはコイツだ。
「元士郎が同年代より冷めてるって言ってたのは、その≪記憶≫の所為なのね?」
「そうなるな」
「一回人生をおくってるから、その分精神年齢が御爺ちゃん並ってこと?」
「言い方がかなり気になるけど、それに近いのかもな」
「趣味は?」
「ゲーム全般」
「……」
「なんだよ」
「盆栽とは言わないのね。つまらないわ」
「喧嘩売ってんのか、由良!?」
「そういった反応が返ってくるってことは、少なくとも御爺ちゃんじゃないわね。よかった。これからどうやって付き合っていこうかと思ったけど、今まで通りでよさそうね」
ニヤニヤしながらこっちを見てくる。
ダメだ。コイツのペースに乗せられてる。
由良の相手は調子がくるうから嫌いだ。
「そんな嫌そうな反応しないでよ。今までアピールしても反応してくれないから、諦めかけてたけど、これなら何とかなるかも知れないと思って」
由良の発言で数名が反応する。
その内の一人である仁村は真っ赤にした目で、由良を睨んでいる。
「お前、分かっていてワザとやってるだろ?」
「私、こういった場をかき回すのが大好きなの。元士郎も早く何とかしないと誰かに後ろから刺されるかもね」
「……いい趣味してんな、お前」
「褒めないでよ。照れるじゃない」
「そういった意味じゃねぇよ!?」
前言撤回。やっぱりコイツが一番たち悪かった。
「まぁまぁ、元ちゃん落ち着いて」
草下が由良との間に入ってくる。
「でも、元ちゃん。皆、本当に心配してたんだよ?」
草下にいつものフワフワした雰囲気はない。
「悪かったよ、黙ってて」
「分かればよろしい。でも皆を心配させた分、返してもらうからね?」
「俺に出来る範囲ならな」
「やったー。何奢ってもらおうかなー」
「憐耶先輩ずるいです!!匙先輩、私も!!」
「わかった、わかったから耳元で叫ぶのは止めてくれ……」
なんだかサラリと奢ることが決定されてしまった。
この調子だと全員に奢らされる羽目になりそうだ。
というか、隠し事を話したのに大泣きした仁村以外はいつも通りだ。
自分の中では結構大きな話をしたつもりだったのに。
「だから言ったでしょう?皆受け入れてくれるって」
「……会長」
「たとえ前世の記憶があっても、貴方が貴方自身である事は変わらない。それらをひっくるめて匙元士郎なんですから、今更なにを言われたって変わりませんよ」
「そう……ですね」
「隠し事をするな、なんて言いませんが、悩み事があったら話を聞いてあげるくらいなら私たちにも出来るんですからね?」
「解決できない事でも、一緒に抱えてあげる事ぐらい出来るんだから。何も話してくれない方が寂しいよ。仲間なんだから、ね?」
「……副会長、花戒」
「元ちゃんは元ちゃんだよ。会長の言うとおり、今更そんな事じゃ私たちの態度は変わらないよ?」
「というか、変えようがないわよ?」
「……草下、巡」
「私は匙先輩のサポート役なんだから、私に出来る事なら何でもします!!」
「……仁村」
「元士郎、悩み事があったら何でも相談してね?」
「お前には絶対相談しないから安心しろ、由良」
「ちょっと!?今のは……由良。じゃないの!?」
「自分の行動を顧みろよ!?」
「ふふふ、今日はこのくらいにしましょう。一応サジは怪我人なんですから。今日はゆっくりしてなさい。レーティングゲームの反省会は貴方が帰ってきてからです」
「えぇ、反省会するんですか?勝ったからいいじゃないですか!?」
「あら、巴柄。貴方は反省点がないんですか?攻めの本命を貴方たちが止めていれば、もっと楽に勝てたんですよ?」
「うぅ……」
「ふふふ」
「笑っているけど貴方もよ、翼紗?『騎士』と『戦車』はまだ貴方たちしかいないのだから、しっかりしてないと困ります」
「……はい」
「サジが帰ってきて、反省会が終わったら、その後は皆で祝勝会をしましょう。初めての試合で勝ったのだから、豪華にいきましょう」
『はい!』
いつもと変わらず接してくれた人たち。
今更何かが変わるわけでもない。
でも、今日改めて分かった。
自分が守りたいと思ったのは、これなんだと。
悪魔になるまで、生徒会に入るまで、つまらないと、退屈だと思っていた日常。
でも、今はそんな日常が何よりも大切だと思える。
この日常を、自分の大切な居場所を守っていきたい。
今回はレーティングゲームで、余程の事がなければ死ぬことなんてない。
それでも、こちら側の世界に居ればいつかは生死に関わってくるような戦いに巻き込まれる時が必ずくる。
『禍の団』
詳しい事は何一つ知らない。
でも自分の直感が危険だと警鐘を鳴らしていた。
世の中には自分の小手先が通用しないような化け物が腐るほどいる。
別に自分だけが危機に陥るのなら構わない。
でも他の皆が、自分の大切な人たちが巻きこまれ、誰の助けも求められないような時がきたら、その時は俺が――――――――――
ちょっと短いですが、キリが良かったので。
とうとう、次回匙君がヴリトラ怪人に改造されます。
落差が激しい?何を今さら。