ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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26話 戦いを終えて

目を覚ましたら真っ白なベッドで寝ていた。

上半身を起こし、あたりを見渡すと白く清潔感のある部屋。

どうやら、ここが医療ルームらしい。

 

「目が覚めましたか?」

 

ベッドの傍らには、椅子に座っているソーナがいた。

他の人は見当たらない。

 

「会長、他の人たちは?」

 

「皆、医療ルームにいます。全員意識はあったから、皆の所を回った後、貴方の目が覚めるのを此処で待っていました」

 

……皆、医療ルームにいる?

 

「それって、もしかして負けたんですか!?」

 

「逆ですよ。皆を犠牲にしながらも、貴方たちのおかげで勝つことが出来ました」

 

「そ、そうですか。……よかった」

 

全身の力が一気に抜ける。

よかった。本当によかった。

 

「特に貴方は兵藤君を倒したんです。大金星ですよ?」

 

「ははは……未だに実感がわかないですけどね」

 

正直、あの時の事はあまり覚えていない。

ただ皆の期待に応えたくて、負けたくなくて無我夢中だった。

 

でも、とソーナの手がトンッと自分の胸に当てられる。

 

「生命力を力に変換するのは今後禁止です。いくら悪魔が永遠に近い寿命を持っているとしても、主として容認できません」

 

「それは……」

 

「い・い・で・す・ね?」

 

「……はい」

 

ガクッとうなだれる。

力の弱い自分が火力を上げる良い手段だったが、禁止されるなら仕方がない。

なにか他の手段を考えよう。

 

「その眼、反省していませんね?まったく、私の夢の為に頑張ってくれたのは素直に嬉しいですけど、貴方の犠牲の上に夢が叶っても私は嬉しくありませんからね?」

 

そんなこと言われたら従うしかないじゃないか。

 

「それに……折角夢が叶っても、貴方が隣に居ないなんて寂しいじゃないですか」

 

「え?最後の方が良く聞こえなかったんですけど、なんて言いました?」

 

「な、なんでもありません!!」

 

「……?」

 

なんでそこまで動揺しているのだろうか?

 

コンコンと部屋がノックされ二人の人物が入ってくる。

 

「失礼するよ」

 

「ソーナちゃん!!おめでとう☆」

 

「サーゼクス様、それとお姉さま!?どうして此処に!?」

 

「匙君の所に行くと言ったら、セラフォルーもついてくると来ると言うのでね」

 

「俺の所に?」

 

なんで魔王である人が自分なんかの所に?

 

「ああ、君にコレを渡そうと思ってね」

 

そういってサーゼクスは高そうな小箱を差し出す。

 

「なんですかコレ?」

 

「これはレーティングゲームで優れた戦い、印象的な戦いを演じた者に贈られる物だ」

 

「……俺なんかがそんな物を受け取っていいんですか?」

 

「もちろんだとも。これは我々四大魔王の総意でもあるんだ」

 

「……は?」

 

優しげに微笑みながらとんでもないことを言われた気がする。

 

「そーよ匙くん。オーディンのおじいちゃんなんてすっごく褒めてたんだから!!」

 

「そういうことだ。君は赤龍帝である兵藤一誠君を倒したのだ。俺なんかと卑下してはいけない。君は今日の戦いで改めて証明したんだ、どんな相手にだって戦い方次第で勝てるのだと」

 

サーゼクスは小箱から勲章を取り出し、自分の胸につけてくれる。

 

「君やソーナの夢は笑われるものなんかじゃない。どれだけ時間がかかってもいい。悪魔は長生きなんだ、あきらめず夢を追いかけなさい。そうすればきっと叶うはずだ。魔王という立場だから直接何かしてあげる事は出来ないが、陰ながら応援しているよ」

 

頭に手を置かれ、そのまま撫でられる。

自分の中でジワリと温かいものが広がっていく。

いままで感じたことが無いものだが、不快ではない。

 

ソーナは自分の眷属が褒められてか、夢が認められたからなのか、我慢できずに涙を流している。

 

サーゼクスとセラフォルーはそんな自分たちを見て微笑んでいる。

 

「さぁセラフォルー、あまり二人っきりを邪魔するのも悪いし、お暇するとしよう」

 

「えー。仕方ないなぁー、また後でねソーナちゃん☆」

 

「な、なななな何を言っているんですか!?」

 

そう言って、二人は部屋を出ていく。

残されたのは自分と顔を真っ赤にしているソーナのみ。

 

「「……」」

 

き、気まずい。

なんで、顔を真っ赤にしているのか分からないし、凄く声をかけにくい。

 

「さ、サジ!!」

 

「はい!!」

 

いきなり名前を大声で呼ばれるから思わずビックリしてしまった。

気のせいか顔が更に赤くなっているような・・・。

 

「あのですね、えっと、その……サジは私の事をど「匙、目が覚めたらしいじゃねぇか」うおも……」

 

「アザゼル先生?」

 

いつの間にか部屋に入ってきたアザゼルが近づいてくる。

 

「はははは!何かやらかす奴だとは思ってたが、本当にイッセーを倒すなんて思わなかったぜ!!」

 

バンバンと背中を叩いてくる。

 

「痛いんですけど……?」

 

「いやぁ悪い悪い。……ん?お前その右腕どうした?」

 

「へ?ああ、なんか目が覚めたら既にこんな状態ですよ」

 

右腕には黒い蛇のようなアザが幾重にも現れていた。このアザは右腕から始まり、左胸の方まで伸びている。

一部には宝玉のようなものも現れているし、このまま直らなかったら包帯を巻いて学校に通わないといけないな。

 

「ほぉ、こりゃあ……」

 

興味津々で右腕を見てくる。

 

「まぁ害はないだろう。赤龍帝の力、それも「禁手」の力を吸ったんだ、ちょっと現れているだけだよ。血を吸ったのも要因の一つだろうな。しかし、これは……」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、ちょっとな。少し用事が出来た、俺は帰る。匙、学校が始まってからでいい。今度俺の所に来い」

 

「いや、まぁ言われなくても行くでしょうけど」

 

アザゼルの所には結構な頻度で通っている。

もしかしたら、オカルト研究部の奴等より関わり合いがあるんじゃないだろうか。

 

部屋から出ていくアザゼルを見送ると、またソーナと二人っきりになる。

アザゼルが入ってきてから一言も喋っていない。

 

「あの、会長?」

 

「ひゃい!!」

 

ひゃい?

 

「さっき何か言いかけていましたけど、なんですか?」

 

「いえ、ですから、サジは私のこ「匙先輩が目が覚めたって本当ですか!?」と……はぁ」

 

仁村がバンッと勢いよくドアを開けて入ってきて、走って近づいてくる。

 

「体はもう大丈夫なんですか!?」

 

「留流子、もう少し静かにしなさいよ」

 

「あら、真っ先に飛び出したの巴柄じゃなかったっけ?」

 

「そういう翼紗ちゃんは二人の次に飛び出していったけどねー」

 

「ま、まぁまぁ。皆心配してたのは一緒なんだから」

 

「少しは落ち着きなさい、貴方たち」

 

仁村に続き、生徒会メンバーがゾロゾロ入ってくる。

全員、思ったより元気そうだ。

 

「匙先輩!凄いですよ!兵藤先輩を倒すなんて!!」

 

「あ、ああ。ありがとう。あと声デカい」

 

そんなに耳元で叫ばないでくれ。

 

「でも本当に凄いわよ?これは元ちゃんの為に祝勝会しないとね」

 

「巡、まずは初勝利を祝うべきじゃないのか?」

 

「いっそ両方しちゃおうよー」

 

「憐耶、ナイスアイデアね」

 

「あ、はははは」

 

だんだん収集がつかなくなっている。

 

「貴方たち、少し浮かれすぎですよ?」

 

「あら、そういう椿姫も浮かれているでしょう?」

 

「か、会長……」

 

いつの間にかソーナが復活していた。

顔を真っ赤にして結局何が言いたかったのだろうか。

いや、そんな、まさか・・・ね。

 

「こほん。ところでサジ、貴方に聞きたいことがあるのです」

 

恥ずかしさを紛らわすかのように、咳払いをして聞いてくる真羅。

浮かれていた皆の表情が変わる。

 

「なんですか?」

 

「本当は聞くべきではないのかもしれません、でも仲間だからこそ、貴方をちゃんと知っておきたいのです。――――――――――≪記憶≫ってなんですか?貴方が時々調子を崩しているのに何か関係があるのですか?」

 

「ッ!?」

 

どこでそれを!?

 

ソーナが秘密を話したとは思えない。

なんで≪記憶≫のことを知ってるんだ?

 

「元士郎と兵藤の戦いの映像を見たわ。≪記憶≫に引きずられた感情ってどういうこと?」

 

「それは……」

 

迂闊だったな。

まさか自分で喋っているなんて思わなかった。

 

「元ちゃんがそれを話したくないのは分かってる。でも、会長だけ知ってて私たちは知らないなんて不公平じゃない?」

 

「……」

 

「サジ、いいじゃないですか。皆受け入れてくれますよ」

 

「いや、会長。そんなに簡単に言わないでくださいよ」

 

『……』

 

全員の視線が突き刺さる。

 

「……はぁ、分かった、分かりましたよ」

 

最終的に自分の方が折れた。

絶対に話す気はなかったのに、こんなことになるなんて思わなかった。

 

―――――――でも、悪い気はしなかった。

 




ソーナも含め全員が匙のぶっちゃけを聞いています。
というか、冥界に広がっちゃってます。

その結果どうなってしまったのかは、また別のお話で。

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