ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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25話 勝敗の行方

―――――VIPルーム

 

「……あの野郎、マジでやりやがった!!」

 

アザゼルは両チームの『兵士』二人の対決をみて声を上げる。

 

匙が陰で努力していたのは知っていたし、熱心に聞いて来るので、その分色々と教えたりもしてきた。

どうやって倒すつもりなのかは聞かなかったが。

 

召喚されて能力を詳しく聞いてきた時からずっと考えていたのだろう。

『血』を吸いたいと聞いたときは何がしたいのか分からなかったが、今思うと納得できる。

直接ダメージを与えることが出来ないのなら、内側から壊していけばいい。

 

『呪い』を聞いてきたのは、一か月ほど前の事だった。

教えはしたが、魔力量の少ない匙では効果も薄いし、効き出すのにも時間がかかったので実戦ではまともに使えないだろうと言ったが、匙は聞かなかった。

 

匙の努力を知っているアザゼルだからこそ分かった。

全ては匙の用意した盤上での、計算された戦いだったのだ。

例えあそこで匙が負けていたとしても、ソーナの所に着いたころにはリタイヤ寸前の状態だっただろう。

 

周りを見れば、殆どが目の前の戦いの結果を見て口を開けていた。

唯一、セラフォルーだけは妹の眷属の戦いを見て喜んで飛び跳ねている。

 

「……アザゼルはこの結果を予想していたか?」

 

いち早く現実に戻ってきたサーゼクスが聞いてくる。

 

「可能性はなくはないと思っていた。イッセーを目標に努力していたのも知ってるからな。何かやらかすとは思ってたが、末恐ろしい奴だよ、まったく」

 

「ほっほっほ。面白い一戦じゃな。サーゼクス、あのシトリー家のドラゴンの小僧、大切にするがいいぞ。ああいった奴は伸びるぞ?弱者が一戦の間に化ける。これぞ、真の試合というものじゃよ」

 

「そうでしょうそうでしょう!オーディンのおじいちゃんったら分かってるんだから☆」

 

長い髭を撫でながら匙に賛辞を贈るのは、今回の試合に招かれた北欧神話のオーディン。

そのオーディンに妹の眷属が褒められご機嫌のセラフォルー。

 

試合のモニターを見る。もうそろそろ決着だろう。

匙は見事に赤龍帝を倒したが、地力はグレモリー眷属の方が上だ。

しかし、そのグレモリー眷属は精神の柱を折られた。

 

「この結果、どっちに転ぶことやら……」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

グレモリー眷属は『結界』の中にいるソーナと対峙していた。

 

「イッセーが……負けた?そんな!?」

 

「イッセーさんが負けるなんて……」

 

「イッセー君、見てくれるって言ったのに……」

 

「イッセー君が獲られるなんて!?」

 

先ほどのアナウンスで二人の『兵士』のリタイヤが知らされ、リアス、アーシア、姫島、木場は全員激しく動揺していた。

唯一その場を見ていた塔城は未だに放心状態で、その場にとどまったままだった。

 

逆にシトリー側の士気は上がっていた。

 

「そうですか、サジがやってくれたようですね」

 

「ええ、本当に兵藤君を倒したんですね!」

 

「凄い!凄いよ、元士郎君!!」

 

「やったー!流石、元ちゃん!!」

 

グレモリー側に残っているのは『女王』、『騎士』、『戦車』、『僧侶』。

一方シトリー側に残っているのは『女王』、『僧侶』×2。

数では明らかにシトリー側の方が不利だが、グレモリー側は動揺しており、『戦車』はこの場に居ない。

どちらに転ぶかは分からない状態だった。

 

「やってくれたわね、ソーナ!!」

 

「……あの子はずっと兵藤君を倒す為に牙を研ぎ続けていました。知らないでしょう?同期であり同じ『兵士』の兵藤君に劣等感を抱いていたことも。自分よりも先を歩いている彼を見て涙を流していたことも」

 

普段落ち着いているソーナの声がだんだんと大きくなる。

 

「劣等感を抱きながらも、越えられないかもしれないと思っていても、あの子はずっと陰で努力をしてきた!私の『兵士』を舐めないで!!サジだけじゃない、私の夢の為に眷属の皆はこの戦いに命をかけてくれている……だから私も負けられない!貴方のプライドと評価は崩させてもらいます!!」

 

リアスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「そうね、圧倒的有利と言われながらここまでされたら私の評価は下がるでしょう。でも、だからこそ、私だって負けられないのよ!!」

 

幼馴染だからこそ、親友だからこそ負けられない。

もはやここまで来ると、意地と意地とのぶつかり合いだ。

 

先に動いたのはグレモリー側だった。

リアスの隣にいた姫島から雷が発生される。

 

「イッセー君に私の決意を見てもらおうと思ったのに……許さない!!!」

 

涙で頬を濡らしながら、怒りの表情で雷を『結界』に向けて放ち、壊す。

あまりの衝撃で砂塵が舞い上がり、『結界』のあった場所が見えなくなる。

 

姫島は再度雷を放つ。

 

「させない!!反転!」

 

草下がその攻撃を反転させようとするが、何の変化も起こらず雷の一撃をうける。

 

「無駄みたいね。雷を反転させようとしたのでしょうけど、今の雷光の雷と光を反転させるには力が足らなかったのね」

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』一名、リタイヤ』

 

「憐耶!?……彼女といい貴方といいやってくれますね!!」

 

「僕たちをイッセー君だけの眷属だと思われるのは心外だね」

 

グレモリー側の先ほどの動揺は消え去っていた。

 

『女王』である真羅が相手をしているのは、『騎士』である木場。

そして、その手にはゼノヴィアがもっているはずのデュランダルが握られている。

 

真羅はカウンター系神器の「追憶の鏡」で対抗するが、木場は器用にも鏡を壊す瞬間だけ力を弱め、カウンターによる衝撃を耐えていた。

真羅は『フェニックスの涙』を反転して』ダメージを与えようとするが、涙は他の物と混ざると効力を失う特性を利用され、水の剣に防がれる。

真羅は木場の果敢な攻撃に耐えられずに切られてしまう。

 

「ッ!?真に警戒すべきは貴方でしたか……。でも、もう―――」

 

光に包まれ消えていく真羅。

何を言おうとしたのだろうか分からないが、後は『僧侶』一人と『王』であるソーナだけなのだから、もうどうにもできないだろう。

 

「ソーナ、これで終わ「詰めが甘いですね、リアス?」え?きゃあああああああ!?」

 

「部長!?ぐああああああ!?」

 

リアス、木場を含めグレモリー側の全員が突然後ろから攻撃され、吹き飛ばされる。

不意打ちと、強力な魔力の攻撃でかなりのダメージを受けてしまう。

 

後ろを振り返ると、ソーナが立っていた。

 

「どうして……ソーナが後ろに!?」

 

ソーナの攻撃により肩を撃ちぬかれたのか、血を流しながら苦しそうに押さえている。

 

「部長!?痛ッ!?」

 

木場は主であるリアスを助けに行こうとするが、水で四肢を撃ちぬかれ動けなくなる。

姫島の方を見ると、先に戦闘不能のダメージを与えられたのか、既に光に包まれていた。

 

「ぶ、部長さん。回復を……」

 

「させません!!反転!!」

 

アーシアはリアスを回復させようとするが、『僧侶』の最後の一人である花戒の反転により、回復をダメージに変えられる。

 

「会長……。後はお願いします」

 

そう言いながら、満足げに笑い消えていく花戒。

アーシアも光に包まれ消えていく。

 

「アーシア!?まだよ、まだ『フェニックスの涙』が……きゃああ!?」

 

ソーナはリアスの取り出した『フェニックスの涙』を水で正確に撃ちぬく。

 

「私たちの勝利まであと一歩なんです!!涙なんか使わせません!!」

 

この場に残ったのは、『王』のソーナと、同じく『王』のリアス、そして『騎士』の木場のみだ。

ソーナは無傷で、リアスと木場は致命傷。

『一手』、たった『一手』で戦況が覆された。

 

「なんで、でしたね。ネタばらしをするとあの『結界』は身を守るためのものではなく、精神だけを置いて、立体映像の姿を映すもの。桃と憐耶、二人の『僧侶』によって作りされた特殊な『結界』。精神はここにあるから、体の気配は消すことが出来る。言ってしまえば貴方たちの気を引くただの囮です」

 

「そう……。『結界』を朱乃が破壊したとき、不自然なほど見えなくなったのは、破壊されたときその場にいないと悟られないためね?」

 

「ええ、いつ気づかれるのか冷や冷やしましたけど」

 

「破壊されてからずっと気をうかがっていたのね。本当、やってくれたわね」

 

「地力で劣る私たちが勝つには、コレしかありませんでしたから」

 

「……そんな不確定な賭けに出るなんて、貴方らしくないわね?」

 

リアスの知るソーナはもっと手堅い人物だった。

奇策珍策を練ったとしても、確実性が有り、効果的だと理解した上で策を考えるような人物だったハズだ。

一か八かの賭けに出るような性格でもなかった。

 

「そうでしょうか?でも、色々と考え方を変えさせられたのはありますね。あの子の考え方からは学ぶべきこともありましたから。……未だに理解できない部分もありますけど」

 

『卑怯がなんだ、勝てば良いんだ』という精神の全てを否定できないが、もう少しまともな手段はうてないものかとは時々思う。

 

「匙君だったわね?貴方にそこまで変化をもたらすなんて、親友として妬いちゃうわね」

 

「あら、それは兵藤君だって同じでしょう?」

 

微笑みながらも、ソーナは止めを刺さんと水で龍を作り出す。

 

「雑談は止めにして、そろそろ終わらせましょうか、リアス?」

 

「ええ、悔しいけど、ここまでされちゃ文句も言えないわ」

 

最後に油断してしまった自分が悪い。

ソーナ相手に油断してはならないと思っていたにもかかわらず、勝利を目の前にして油断してしまい、そこで足元をすくわれてしまった。

 

ソーナの作り出した水の龍が迫る。

 

 

「悔しいなぁ。また負けちゃった。ごめんね、イッセー、皆……」

 

 

 

『リアス・グレモリー様、リタイヤ。ソーナ・シトリー様の勝利です』

 




今回のソーナの勝たせ方、結構悩んでました。

僧侶コンビは戦闘出来なさそうだし、椿姫一人で木場とキレた朱乃の相手は出来なさそうだったので、どうしようかな、と。

結果、イッセーいないからパイリンガルが使えない→結界のネタがバレない→気配を消せる
→後ろから奇襲すれば良いじゃん!!ってことになりました(笑)

ソーナはだんだん匙の思考に汚染されつつあります。



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