―――――母さん!今日のごはん何?
―――――今日は○○の大好きな物よ
―――――本当!?やったぁ!!
見たこともない女性を母と呼んでいる少年。
アレは俺じゃない。
これは俺の記憶ではない。
―――――おい、○○!!
―――――今日こそお前に勝つからな?
―――――ま、また負けた……。
親しげに話してくる男性。
いつも何かしら勝負を挑んでくる奴だった。
仲の良い友達だった。
―――――ねぇ聞いてるの?
―――――あ!今笑ったでしょ!?
―――――ちょっと○○!!
自分の大切な人と良く似ている女性。
頭のいい人だった。少し子供っぽいところも有るが。
そういった所も好きだった事を『覚えている』
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「ッ!?……はぁ、またこの夢か」
頭がズキズキと痛い。
最悪の夢見だ。
「匙先輩、大丈夫ですか?」
隣にいた仁村が心配そうに声をかけてくる。
「ああ、大丈夫。・・・少し嫌な夢を見ただけだから」
「……そうですか?」
今は列車の中。
それも唯の列車じゃない冥界へと行くための列車だ。
最寄りの駅の地下に冥界へ繋がる道があったなんて思わなかった。
普通の人間ならば一生たどり着くことはできないらしいが。
窓の外を見ると大自然が広がっている。
次元の壁を越えて、ここは既にシトリー領らしい。
空が紫色であること以外は特にあちら側とは違いがないように見える。
『まもなくシトリー本邸前。まもなくシトリー本邸前。皆様、ご乗車ありがとうございました』
どうやら目的地らしい。
それにしても、本邸前に停まるとかスゲェな。
「二人とも、そろそろ到着しますよ。サジ、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です、会長」
列車は徐々に速度を落として行き停車する。
少し足がふらついたが、列車の外に出るとぬるりとした空気が頬をなでる。
やっぱり冥界なんだな。空気が全然違う。
パンパンパンパンパン!!!
『ソーナお嬢様!お帰りなさいませ!!』
目の前には凄い人だかりがいた。
楽器を持った人たちがファンファーレを奏でている。
「いつ来てもこれだけは慣れないわね」
「そう?私は慣れたわよ?」
「……適応力高すぎでしょ」
巡と由良の会話から、冥界に帰ってくるたびにこんなことが行われていると思われる。
ソーナの人徳がなせるものだろうか、領民からかなり慕われているらしい。
「さぁ、本邸まで馬車を使っていきますよ」
凄く高そうな馬車だ。豪華絢爛と言うほど飾っているものではないが、細部までこだわりぬいているのが素人目でもわかる。
やっぱりお嬢様なんだよな。
「元士郎くん、こんな事で驚いていたらキリがないよ?」
「最後にはもっと凄いのがまってるよー」
これ以上に何があるというのだろうか。
皆馬車に乗り出したので、慌てて自分も乗り込む。
全員が乗り込んでから馬車は動き出した。
中も良いものが揃えられているのだろう。
庶民感覚で物を考えていたら本当にキリがなさそうだ
「ほら元ちゃん!あれ見てー」
草下が窓から頭を出し、見て欲しいものを指さす。
自分も首を出し、その方向を見る。
「……」
開いた口が塞がらない。
視線の先には城があった。
いや、あれは最早城ではなく砦なのではないだろうか?
「凄いですよねー。私も初めて見た時はビックリしました」
これはお嬢様じゃない、お姫様と呼んでいいだろ。
馬車が止まり、使用人らしき人がドアを開ける。
「眷属の皆様、到着いたしました。お足もとにご注意ください」
もう何から言っていいのか分からないな。
ソーナについて家と呼ばれる城の中に入っていく。
「ソーナちゃーん!!!お帰りー!!!!」
門を開けると同時にセラフォルーがソーナに飛びつく。
「お、お姉さま!?何故ここに!?お仕事中では!?」
あまりの出来事にソーナは目を白黒とさせている。
「ソーナちゃんが帰ってくるから、ソッコーで終わらせてきたの☆」
シスコンもここまで来ると凄まじいな。
「眷属ちゃんたちもいらっしゃい!!こっちにいる間、ゆっくりしていってね☆」
冥界に到着した翌日。
若手悪魔が一堂に会する集まりがあるらしく、その会場に向かっていた。
「いいですね?何があっても平常心でいる事。何を言われても手を出さない事。必ず守ってくださいね。特にサジ」
「また俺ですか……」
「三度目の正直です。絶対に守ってくださいね?」
ソーナの笑顔に凄みがある。
これ以上逆らうと何をされるか分からない。
そんな事を思っていたら、ヤンキーにしか見えない奴が吹っ飛んできた。
飛んで来たであろうと思われる方向には、黒髪の長身の男。
見ただけで分かった。
強い、アレは規格外だ。
兵藤やヴァーリのように特別な力を持っているようには感じない。
おそらく、ただ単に己の肉体を極限に鍛え上げた強さだ。
悪魔にもそんな奴がいるなんて思わなかったな。
「匙じゃん。あ、会長も」
此方に気が付いた兵藤が近づいてくる。
グレモリー眷属もそろっているようだ。
「ごきげんよう、リアス、兵藤君」
どうやら自分たちが最後だったらしい。
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若手悪魔同士の挨拶が一通り済んで、案内されたのは異様な雰囲気が漂う場所だった。
高い所にお偉いがたと思われる悪魔。
その更に高い所には、セラフォルー、サーゼクスと見たことがない二人がそろっていた。
しかし、あの二人と一緒に座っているのだから彼らも魔王なのだろう。
それから、長い話が続いた。
個人的にはどうでも良かったため、全部聞き流していたら最後になっていたらしい。
「最後にそれぞれの今後の目標を聞かせて欲しい」
サーゼクスの問いに一人、また一人と答えていく。
最後に残ったのはソーナだった。
「冥界にレーティングゲームの学校を建てる事です」
予想通り怪訝な顔をされる。
ソーナが誰にでも通える学校を建てたいと言ったとき、お偉いさんたちの笑いが会場を支配する。
自分の誇りをけなされた気分だった
今すぐにでも叫びたかった。
笑っている奴等の顔をぶん殴ってやりたかった。
それでも、今出ていけばソーナの品位を落とすことになる。
それだけは避けたかった。
なにより自分の夢を笑われても真っ直ぐ前を見ている。
自分よりも何倍も辛い筈の人が耐えているのに、自分がとやかく言うのは筋違いだと思った。
「ならなら!ソーナちゃんがゲームで見事に勝っていけば文句もないでしょう!?ゲームで好成績を残せば叶えられることも多いのだから」
妹が笑われていることに我慢できなくなったセラフォルーが割って入る。
かなりご立腹のようで、笑っていた奴らを睨みつけている。
少しだけスカッとした。
するとサーゼクスが立ち上がる。
「ちょうどいい。では、ゲームをしよう。若手同士のだ。リアス、ソーナ戦ってみないか?」
元々若手のゲームは予定していたらしい。
ソーナとリアスは顔を合わせる。
「公式ではないといえ、私の最初の相手が貴方なんて運命を感じてしまうわね、リアス?」
「競う以上は負けないわよ、ソーナ?」
お互い不敵な笑みを浮かべている。
両者ともやる気は十分のようだ。
なにより、兵藤とレーティングゲームで戦える場がもらえるのはありがたい。
「対戦の日取りは人間界の時間で8月20日。それまで各自好きに時間を割り振ってくれてかまわない。詳細は改めて後日送信する」
この日の為に今まで準備をしてきたんだ。
兵藤には、アイツだけには絶対に負けない!!
次回待ちに待った(主に自分が)リアスとのレーティングゲームです。