ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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21話 夢

「よう。また会ったな」

 

そう言いながら親しげに挨拶してくるのは、堕天使の総督アザゼル。

場所は駒王学園の生徒会室

当然ながら生徒会メンバーは全員そろっている。

 

「……なんでこんな所に堕天使の総督がいるんですか?」

 

「今日からオカルト研究部の顧問をすることになってな?その挨拶に来た」

 

「な・ん・で、ここに居るんですか?」

 

自分の聞きたいのはソコじゃない。

 

「おいおい、そんなに邪魔者扱いするなよ。俺にしかできないことをするためにここに来たのさ。サーゼクスに頼んだらお前さんらの主に言えと言うんでな」

 

ソーナに全員の視線が向けられる。

その視線を受け気まずそうに目をそらす。

 

「じゃないと姉が学園に来ると脅さ……せがまれまして」

 

オカ研を売ったわけですね。

自分の平穏の為に。

 

「まぁ、メインは神器持ちの多いグレモリー側なんだが、ここにいる以上お前らに何もしてやらないのは不公平だからとセラフォルーに言われてな。最初からそのつもりだったが、お前らのサポートもしてやるからよろしくな」

 

他の生徒会メンバーは畏れ多いようで若干、いやかなり緊張しているようだった。

あれでも一応堕天使のトップだからな。

 

「そう緊張するなよ。取って食ったりはしねぇよ。見ろ、匙なんて俺の事睨んでるぞ」

 

今度はこちらに驚愕の視線が向けられる。

以前召喚されて会っていることはソーナと真羅の二人にしか話していなかった。

 

「何が目的なのかと思って」

 

「言ったろ?俺にしかできない事をするためだよ」

 

「本音は?」

 

「副総督のシェムハザに仕事を押し付けて、趣味に没頭したくてな」

 

嘘は感じられない。

本音と建前は違うという事だ。

仕事を押し付けられた副総督が哀れすぎる。

 

「いやー、やっぱお前面白いな。――――――――俺ならお前を強くしてやれるぜ?少なくとも今よりずっとな」

 

肩を組みながら、自分にしか聞こえないように言ってくる。

 

思い起こされるのは二天龍の戦い。

今の自分では到底届かない強者の領域。

 

「……本当ですか?」

 

「おうとも。―――――――――『最終手段』もあるしな」

 

アザゼルの笑みが深くなる。

 

あれ?なんだか悪寒が・・・。

なんというか、身の危険を感じた気がしたけど、今のなんだ?

 

「なんだよ?俺の顔になんかついてるか?」

 

「いえ、別に」

 

気のせいか。

 

「よし、オカルト研究部の場所まで案内してくれ。あいつらの驚く顔が目に浮かぶぜ」

 

「わかりました。椿姫、いきますよ」

 

「はい、会長」

 

アザゼルは組んでいた肩を放し、二人を引き連れてオカ研に行くために生徒会室を後にした。

 

「ぷはぁ!き、緊張しました」

 

仁村は余程緊張していたようで、呼吸すらまともに出来ていなかったらしい。

 

「ふぅ、あんたに怖いものは無いの?」

 

「さ、流石に堕天使の総督を睨むなんて怖いもの知らずすぎない?」

 

巡、花戒も緊張から解放されたようだ。

 

「失礼だな、お前ら。俺にだって怖いものくらいあるさ」

 

「元ちゃんに怖いもの?そんな物あるの?」

 

同じような事を聞いてくる草下。

 

「あるさ―――――――――大切なものを守れないのが何より怖い」

 

「……?ごめんなさい、元士郎。よく聞こえなかったわ。もう一回言って?」

 

最後の方は呟くように言ったため、誰にも聞こえてなかったようだ。

 

「ああ・・・饅頭が怖くてな。その事を考えると夜も寝れないんだ」

 

『……』

 

思わず本音が出てしまったため、誤魔化す。

 

冷めた五人の視線が浴びせられる。

誤魔化し方は少しアレだが、これで誰も追及してこないだろう。

 

「・・・元士郎?」

 

「なんだよ?」

 

「前々から思ってたけど、貴方ユーモアのセンスないわね」

 

「ネタが古い」

 

「これはちょっと」

 

「びみょー」

 

「幻滅です」

 

由良、巡、花戒、草下、仁村の言葉の刃が体に突き刺さる。

何気に仁村が一番酷い。

ソコまで言わなくても良くないか?

 

「ただいま戻りました・・・どうしたんですか?」

 

「……サジが真っ白ですけど、何かあったのですか?」

 

『何もありませんでした』

 

オカ研から帰ってきた二人は何があったのか分からないようだ。

これ以上掘り返してほしくない。

誤魔化す為だけに言った冗談が思わぬ地雷だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「本当になにもなかったんですか?」

 

「ええ、何もありませんでした」

 

「……なら良いですけど」

 

すっかり恒例となってしまったチェスをソーナとしている。

 

「「……」」

 

黙々と指すので、会話が弾まない。

それに、なんだか空気が重い。

 

「……サジ?」

 

「なんですか?」

 

「その、会談の時も言っていましたが、そんなに力が欲しいのですか?」

 

よく覚えてらっしゃる。

 

聞くべきかどうか悩んだのだろう。

少し躊躇いながら聞いてくる。

 

「……」

 

「貴方がどうして力を得て、強くなりたいのかは深く聞きません。えっと、その……元々の目的を見誤ってはいけませんよ?」

 

強くなりたい理由は知っているくせに。

会談の時も顔が赤かったから、恥ずかしくて言葉に出したくないのだろう。

 

「そのくらい、分かってますよ」

 

「……はぁ」

 

ソーナがため息をつく。

チェスを指しながら話していたが、今度は目を見て話しかけてくる。

 

「ねぇサジ、貴方には夢がありますか?」

 

「……強くなるのが夢ですよ?」

 

「それは夢なんて言えません。それ以外で、です」

 

少しだけ考えるが、何の結論も出なかった。

そもそも、数か月前まで空っぽな人生を歩んできたのだ。

夢というものが有るはずがなかった。

 

「会長は何か夢がおありで?」

 

「私は、冥界にレーティングゲームの学校を建てたいのです」

 

「学校って無いんですか?ある物だと思ってましたけど?」

 

「それは上級と一部の特権階級の悪魔のみが通える学校です」

 

ああ、つまり――――――

 

「身分関係なく通える学校を建てたいって事ですか」

 

「ええ、日本は素晴らしい所です。誰しもが平等に学べる場所があり、頑張りようによっては上に行く可能性だってある。私はそれを学びたいからこそ、こちら側の学校に通っているのです。・・・笑いますか?」

 

「まさか、会長らしい夢だと思います。眷属として誇らしいですよ」

 

でも、それは難しいだろう。

上級と特権階級のみが通える学校があるのなら、差別意識はかなり強いはずだ。

ソーナやリアスは差別なんてそんなことはしない。

しかし、彼女たちが珍しいだけなのだ。

 

「私の夢は叶えるのは難しい事です。でも、レーティングゲームは誰しもが平等であるべきですし、それは現魔王様たちの決めた事でもあります。私は本気ですよ?」

 

そう言って自分の夢を語り、笑うソーナは誰よりも輝いて見えた。

自分には誇らしく思える夢なんてないから。

 

するとソーナは意外な事を言ってきた。

 

「ですから、その……もし良かったらなんですが、私の夢を叶える手伝いをしてくれませんか?」

 

「手伝い……ですか?」

 

「ええ、本来なら目標や夢は他人から与えられるものではなくて、自分で考えて決めていくものです。でも、貴方は≪記憶≫の事もありますから……。なにか目標でもあれば、少しは違うのではないかと、ずっと思っていまして」

 

「いいんですか?俺なんかが会長の夢を叶える手伝いをして」

 

「もちろんです。でも、それだけでは足りませんね。サジ、私が建てるレーティングゲームの学校の先生になってみませんか?」

 

「先生?俺が?」

 

「そう、先生です。貴方の考え方は、戦いようによっては誰にでも勝てる可能性がある、でしょう?私も同意見です。下級悪魔でも、転生悪魔でも勝てる可能性はあるはずなんです。だから、それを教えていく先生になりませんか?」

 

そんな事考えたこともなかった。

ソーナの瞳は真剣そのものだ。

夢がない自分に同情しているようには見えない。

 

「俺なんかがそんな立場の人間になれるんでしょうか?」

 

「なれますよ、頑張れば誰にだって可能性はある。そうでしょう?」

 

「そう……ですね」

 

正直、夢とか言われてもよく分からない。

それでも、輝いて見えた人の手伝いが出来るのなら、この人の笑顔を近くで見ることが出来るのなら、それもいいかと思えてきた。

 

「あ、会長」

 

「なんですか?」

 

「チェックメイトです」

 

「……もう一回やりますよ!!」

 




「まんじゅうこわい」小学生の時は凄く面白い話だと思いましたけど、今となっては良くできた話ぐらいにしか思えません。

怖いもの知らずらへんで突如思いついたので、会話に追加してみました。
後悔はしていないです。はい。

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