匙はソーナと真羅と共に会談の行われる部屋に向かっていた。
「会長、サジを会談の場に連れて来てよろしかったのですか?」
「仕方がないでしょう?堕天使総督の直々の指名ですから。まったく、以前の召喚で何があったのやら」
「別に暇つぶしの相手をしただけなんですけどね」
特別何かをしたわけでもない。
いったいどこに興味を持たれたのか自分にすら分からないので何とも答えようがない。
「何度も言いますが決して失礼のないように。リアスの時とは違って、今度は三大勢力のトップの方々が来られています。問題を起こしては和平にも支障がでるかもしれません」
失礼のないように、とここまで何度も言われた。
そもそも自分のような下っ端が変な事をしても、和平に支障がでるとは思えない。
三大勢力とも戦争をしたくないから和平なのだから、もう決まっているような物だろう。
そんな事を言えば怒られるので絶対に口に出さないが。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。大人しくしとけばいいんですから」
「貴方なら何かしでかしそうだから心配しているのです」
「……酷い言いようですね」
確かに聖剣に関わるなと言われ関わった事があったが、あれは厄介事が舞い込んで来た上にまきこまれたからだ。
最終判断は自分でしたとはいえ仕方がなかったと思いたい。
先行していた二人の足が止まる。
どうやら会談の場所に到着したらしい。
「いいですね?決して失礼のないように」
流石に心配し過ぎじゃなかろうか。
そんなに信用がないのか?
「失礼します」
部屋をノックした後部屋に入る。
部屋の中には三大勢力のトップとその付添と思われる人物がいた。
「よく来てくれた。おや?ソーナ、君の後ろにいる彼は誰かな?」
椅子に座っていた紅髪の男が話しかけてくる。
隣にはセラフォルー、紅い髪。
判断材料はわずかしかないが導き出される答えは一つ。
現四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーだ。
「……サジ、御挨拶しなさい」
「ソーナ・シトリー様の『兵士』、匙元士郎です」
「ああ、なるほど。君が匙君だったのか。君も我々の我儘なのに、よく来てくれたね」
我々の我儘というより、たった一人の我儘だろうに。
チラリとアザゼルを見ると楽しそうに笑っている。
「なんだよ、匙。俺には挨拶はないのか?」
「なんで一々アンタに挨拶をしないといけない……っ痛!?」
「こ、こらサジ!!申し訳ありませんアザゼル総督」
こんな場所に呼ばれた苛立ちから思わずいつもの口調が出てしまった。
ソーナは匙を叩きアザゼルに頭を下げる。
もちろん頭を押さえられ匙も頭を下げさせられる。
「いや、気にすんな。コイツを呼んだのは俺の我儘だからな」
「なんだ、アザゼル?この男と知り合いなのか?」
アザゼルの後ろに控えていた銀髪の男が尋ねる。
壁に腰かけているだけだが、凄まじい存在感だ。
それにこの気配、間違いない。白龍皇だ。
コカビエルを倒して回収していったのは白龍皇なのだから、繋がっているのも当然か。
「ああ、ちょっとした縁があってな。中々面白い考え方をする奴だからな。折角だからこの場に呼んでやったんだ。ただ、ヴァーリが気に入るほど強くはないけどな」
別に呼んでくれなくても良かったんだけどな。
あと間違ってはないけど、一言余計だ。
ヴァーリと呼ばれた男はこちらに興味をなくしたようで視線が外れる。
「失礼します」
部屋に入ってくるグレモリー眷属たち。
どうやら、役者は全員そろったようだ。
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「面倒な話はいい。さっさと和平を結んじまおうぜ?」
和平に一番積極的だったのは、堕天使側だった。
全員が意外そうな反応を示すが、そもそも戦争をしたくないからこそコカビエルのような奴が出てきたのだ。
魔王や天使のトップは怪しんでいるようだが、嘘は言っていない。
アザゼルは早く和平を結んで趣味に没頭したいのだろう。
「お前らも元々そのつもりだったんだ。異論はないだろう?」
「それもそうですね。戦争の大本である神と魔王は消滅したのですから」
天使のトップ、ミカエルも賛成のようだ。
「そこで、だ。問題は三すくみの外側に居ながら世界を動かすほどの力を持った、赤龍帝、白龍皇、お前らの考えを聞きたい」
「俺は強い奴と戦えればそれでいいさ」
そう答えるのは白龍皇・ヴァーリ。
「戦争しなくても、強い奴は沢山いるさ。赤龍帝はどうだ?戦争してるとリアス・グレモリーは抱けないが、和平を結べばいくらでも抱けるぞ?」
どう考えても、その質問は答えが決まっているだろう。
「和平でお願いします!!!」
赤龍帝・兵藤は鼻息を荒くしながら答える。
まぁそうだろうな。下心丸出しだが、それが兵藤だ。
「そうか、それは何よりだ。そうだ、一応お前さんにも聞いておこう。匙お前はどうだ?」
「はい?何を言っているんですか?そこの化け物二人と一緒にしないでください」
何故か無関係な自分に質問が投げかけられる。
見ろ、全員首をかしげているじゃないか。
「それは俺のセリフだ。お前さんも五大龍王の一角、ヴリトラの力をその身に宿しているじゃないか?二天龍に聞いたんだ。お前にも聞くのが筋ってもんだろ?」
「俺は二人ほど強くないし、ヴリトラの力もごく一部ですよ?」
聞く意味が分からない。
「そんな事どうだっていいんだよ。お前は戦争と和平どっちが良いんだ?」
「そりゃあ和平の方が良いでしょう?」
「お前さんは力が欲しいんだろう?力を手に入れたとしても和平を結んだら意味がないと思わないか?」
「言ったでしょう?俺が欲しいのは大切な人を守れる力です。戦いたいから力が欲しい訳じゃない」
「……なるほど。その大切な人っていうのはお前の主ってことでいいのか?」
「な!?」
アザゼルとの会話に無理やりまきこまれたソーナは顔を赤くする。
確かに間違ってはいないのだが、本人を前にしてそんな言うか?
「……」
「沈黙は肯定ってことでいいんだな?」
一言文句を言ってやろうと口を開いた瞬間、時が止まった。
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気が付いたら校庭の外だった。
結界か何かで守られている。
「会長?いったい何があったんですか?」
「……分かりません」
「ソーナちゃんおかえり!!」
「お、お姉さま!?」
状況が呑み込めない。
結界の外では戦闘が行われている。
三大勢力会談の途中だった筈だ、それなのにこの状況は何なんだ。
あたりを見回すと見慣れない人物が一名。
フラフラと体を揺らしている。
もしかしたら彼女・・・いや、彼の能力か何かの影響だろうか?
なんで女子生徒の制服を着ているのか疑問でしかないが。
「会長……って居ない!?」
ソーナと真羅の二人は外の敵と戦っている。
いつの間に外に飛び出したのか分からないが、周りの皆が戦っているのに自分が行かない訳にもいかない。
自分も戦おうとした瞬間、背筋に悪寒が走り、足が止まる。
それと同時にアザゼルがヴァーリに地面に叩きつけられた。
状況がコロコロ変わり過ぎてわけがわからないぞ!?
白龍皇は裏切り者だった。
三大勢力の危険分子を集めた『禍の団』の存在。
そのトップは無限の龍神・オーフィス。
ヴァーリは前魔王のルシファー血をひいている。
状況を頭の中で整理していると、鎧を纏った兵藤とヴァーリが戦い始めた。
「ああ、もう!!なんだよ!?」
「落ち着け。お前らしくもない」
いつのまにか隣に立っていたアザゼルが頭に手を置いてくる。
「アザゼル総督!?片腕が無いじゃないですか!?」
「俺の事はどうだっていい。それよりもよく見ておけ」
「……?」
クシャクシャと頭を撫でられる。
「あれがお前の目指している世界だ。お前は弱い。それは否定のできない事実だ。世の中にはヴァーリよりも強い奴が腐るほどいる。お前さんがあれほどの領域に到達できるのかは知らんが、お前の大切な人を守るためにはあれぐらい強くないと、守れないぞ?」
「……もしかして、俺を会談に呼んだのはコレを見せるためですか?」
「そうだな。少し予想とは違ったが。……いい加減、赤龍帝がヤバそうだ。ちょっとアイツの普通じゃない所をつついてみるか」
そう言ってアザゼルは戦っている兵藤の方へ飛んでいく。
「……なかなか辛い現実を見せてくるじゃないですか」
ボソリと独り言を呟く。
いったい何のアドバイスを貰ったのか、兵藤の力が強くなりヴァーリを圧倒し始めた。
右手を強く握りしめる。
見えてきたと思った背中は幻覚だったのか?
俺は一生兵藤には勝てないのか?
俺に大切な人を守る資格なんてないのか?
兵藤に対しての劣等感が蘇り、自分の視界が滲みだす。
戦いはいつの間にか兵藤の勝利で終わっていた。
その場に残ったのは圧倒的不利な状況から勝利をもぎ取った兵藤を称える人たちと、己の無力さを改めて実感させられ、涙を流す匙だけだった。