「まさか悪魔になって神父の格好をする事になるなんてな」
「仕方ないでしょ?それくらい我慢してね?」
今回の目標は神父を狙って襲っているはぐれ神父達らしい。
その内一人をおびき出すために神父の格好をしなければならない。
本当にその程度で襲ってくるのだろうか?
「目標の為なら何でもするさ」
いつもの甘いマスクは消え去り、ずっと怖い顔をしている木場。
余程恨みが深いのだろう。話を聞いただけだが、その並々ならぬ怒りが感じられる。
「全員で動くのは非効率だな、どうする?二手にでも別れるか?」
「そうだな、ならば私たちは町の西の方を探そう」
「じゃあ俺らは東だな」
こんな用事早々に終わらせたい。
さっきから悪寒がして嫌な予感しかしない。
「何かあったらイリナの携帯に連絡してくれ。・・・ああ、君に言い忘れていた事がある。世話になった礼だ。」
「俺に?」
ゼノヴィアが兵藤に向かって言い放つ。
「白い龍は既に目覚めているぞ」
その言葉に兵藤が驚く。
白い龍?聞いたことあるな。
二天龍の一角、赤龍帝と対をなすヤツだ。
願うことなら、俺のあずかり知らないところでやって欲しいものだ。
これ以上厄介事に関わっていられない。
「時間がもったいない。さっさと行こう」
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木場が心当たりがあると、とある場所に向かった。
人気はないが、特に何もなさそうなところに連れてこられたな。
以前兵藤たちがはぐれ悪魔と戦った場所らしいが、ここがどうしたのだろうか。
いや、いるな。隠れているが殺気がする。
しかもこの悪寒、聖剣を持っていた二人と同じ感じだ。
「ストップだ三人とも。誰かいるぞ」
匙の言葉に三人が足を止める。
どうやら木場と塔城の二人も気がついたらしい。
「あんれぇ?気づかれちった?」
白い髪の男が建物の上にいた。
神父の格好はしているが、目は狂気に満ちている。
あんなのでも神父になれるのか?
「ひゃっほう!!!」
建物から飛び降りてくる神父の攻撃を木場が受け止める。
「お前はフリード!テメェ!!」
「おんやぁ?いつぞやのガキとチ……小柄な御嬢さん!!」
チビと言われかけフリードを睨む塔城。
彼女にチビは禁句だな。気を付けよう。
それに、どうやら自分以外はこのフリードとかいう神父を知っているらしい。
一人で飛び出した木場がフリードと戦闘を始める。
怒りで周りが見えなくなっているようだ。
相手も聖剣の能力なのか『騎士』である木場について行っている。
巡もこれぐらい動けるのだろうか?
だとしたら、まだまだ正面から彼女と戦うのは無理そうだ。
「チクショウ!こんだけ早いと木場に力を譲渡できない!」
これは本格的に出番が来てしまった。
「足を止めればいいのか?」
「出来るのか!?」
「まぁ見とけ。ラインよ!!」
動き回っているフリードの足にラインを伸ばし捕える。
ある程度追尾機能みたいなのがあるからな、よっぽど的外れなところに伸ばさない限り捕まえられる。
フリードがラインを剣で切ろうとするが、無駄な努力だ。
この頑丈さは折り紙つきだからな。
「クソ!クソ!!コレもドラゴン系かよ!?」
「お前も神器を持っていたのか!?しかもドラゴン!?」
「お前のと比べるとだいぶ劣るがな」
しかしこんな奴に神滅具があるなんて勿体無い。
俺だったらもっと上手く使ってやれるのに……。
黒い龍脈にはそこまで不満はない。
自分に合っている神器だとは思っているが能力が能力だ。
相手を拘束するだけなんて地味すぎる。
もう少し、あと『一手』あれば使い道が広がるのだが。
「そぉら!!!」
苛立ちも含めて思いきり引っ張る。
先ほどまで動き回っていたフリードがバランスを崩し、動きがとまる。
「行きますよ」
塔城が兵藤を持ち、投げる。
相変わらず『戦車』の怪力は凄まじい。
由良もそうだが、怪力だけでなく防御力も凄い。
自分の小手先だけの攻撃ではダメージがまともに入らない。
……だから『戦車』は嫌いなんだ。
投げ飛ばされた兵藤がバランスを取りながら木場に力を譲渡する。
赤龍帝の籠手で高められた力を渡された木場は、魔剣創造の力を解き放ち無数の剣がフリードを囲い始める。
「ぐぅ!クソ!!ベロベロは切れないし、剣は向かってくるし!どうすりゃあ良いんだよ!?」
黒い龍脈で動きが制限され、無数の剣がフリードを襲う。
倒されるのも時間の問題だろう。
それよりも、赤龍帝の籠手より魔剣創造の方が良いな。
応用性も高そうだし、常に相手の弱点を攻めれそうだ。
兵藤と違って勿体無いと思わないのは木場が魔剣創造を使いこなしているからだろう。
「ふふ、まだ聖剣を使いこなせていないようだな、フリード?」
「おお!?バルパーの爺さん!!」
建物の中から眼鏡をかけた男が出てくる。
バルパーというと、コイツが聖剣計画とやらの首謀者か。
面倒くさい奴が出てきたな。
戦闘は出来なさそうだが、木場の奴が恐ろしい形相をしている。
「そうは言うがねぇ爺さん。クソトカゲのベロベロが邪魔で邪魔で」
失礼な奴だ。一応ドラゴンなのに。
でも、完全否定できないのが辛い。
何かアドバイスされたのかフリードの持つ剣が輝きだす。
「おお!?おっほぉ!!!!」
フリードを拘束していたラインが切られる。
「うお!?ラインが切られた!?」
今まで切られた事なんてなかったのに!?
フリードは全身に光を纏い、そのまま木場に襲い掛かり、木場はそれを受け止めようとする。
ダメだ!多分、剣ごと切られるぞ!?
フリードに向けてラインを伸ばすが、間に合わない。
切られる!?と思ったが、その心配は杞憂だった。
木場との間に駆け付けたゼノヴィアがわって入る。
そういえばそういう手筈だったな。すっかり忘れていた。
我ながら情けない。
紫藤も援軍に駆け付けたようで、状況はこちらの有利だ。
あちらも状況の不利を理解したのか直ぐに手を引いた。
「フリード、これは分が悪い撤退するぞ」
「合点承知!」
フリードは閃光玉を取り出し地面にたたきつける。
まばゆい光がおさまると、二人は既にいなくなった後だった。
「追うぞイリナ!」
ゼノヴィアと木場、そして紫藤の三人はいなくなった二人を追っていく。
「おい!?なんなんだよ!どいつもこいつも!」
遠ざかっていく三人の気配とは別に、新たに表れる気配が四つ。
顔を見なくても分かる。自分の主様はご立腹のようだ。
「まったく、困ったものね」
兵藤が気づいたのか後ろを振り返る。
俺は振り返りたくない。振り返ったら何を言われるのか分からない。
「サジ?気づいているのでしょう?こちらを向きなさい」
渋々振り返ると、無表情のソーナと真羅。
……これは終わったな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何か言い訳はありますか?」
「……御座いません」
ソーナの目を直視できない。
「サジ、監視に気づいていたのでしょう?たとえ気づいていなかったとしても、私たちが監視を放っていることが分からない貴方ではないでしょう?」
「分かっていましたし、監視の目も気づいていました」
「それでも聖剣に関わったのですか?」
真羅もあきれた目をしている。
「まったくもってその通りでございます」
深々と頭を下げる。
「……はぁ、悪いという事は分かっていたのに何故ですか?」
「無理やり連れて行かれたのもありますが、木場の話を聞いて断れなくて……」
「『貴方自身の感情』として行動したと?」
「そう言われればそうですね」
協力したいよりも、断れなかった方が強いが。
「……そうですか。これは貴方にとって良い傾向なのでしょうね」
「会長?」
少しだけソーナの表情が和らぐ。
自分の事情を詳しく知らない真羅のみ不思議そうな顔をする。
これは、もしかして許してもらえるのだろうか?
「しかし、それとこれとは話は別です」
ですよね。
「ええ、まったく。困った子ですね」
「あ、あの、会長?なんで手に魔方陣が?なんで俺の後ろにまわってるんですか?」
すると自分のお尻に強烈な衝撃が走る。
「罰としてお尻叩き千回です」
千回も!?
「え!?ちょっと待ってくださ「待ちません!!」どぉうわ!?」
何度も何度も叩かれる。
しかも魔力による強化つき。
自分じゃなければ変な境地に目覚めるかもしれない。
どれくらい時間が経ったのか、やっと千回のお尻叩きが終わる。
凄くヒリヒリする。これはしばらく座れないかもしれない。
「帰りますよ、椿姫、サジ」
「いえ、あの?まだ動けない「何か問題でも?」ありません!」
頑張って立ち、ソーナについていく。
「……あまり心配をかけさせないでください」
「すみません」
ソーナの言葉に心から反省する。
「次は一万回ですからね?」
……絶対に逆らわないと心に誓った。
ここら辺はアニメもあったから原作のイメージが強すぎてあんまり話が思いつかないです・・・。
原作5巻あたりに入るまではこんなのが続きそうです。
といっても後2,3話ぐらいだと思いますが。