ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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15話 劣等感

ソーナの不機嫌事件から数日後、先日の不機嫌などなかったかのように機嫌がよくなっていた。

 

要因は招待された婚約パーティーでリアス・グレモリーとライザー・フェニックスの婚約が破断となったかららしい。

 

その破断の原因は主であるリアスの婚約に納得のいかなかった赤龍帝・兵藤一誠の乱入とライザーとの一騎打ち。

 

一騎打ちに勝利した兵藤の要求により婚約は破断、彼女は自由の身となったそうだ。

 

そして、ご機嫌なソーナは今後の勉強と称して、匙を含めたソーナの眷属悪魔全員で兵藤とライザーの映像を見せていた。

 

「何度見ても凄まじいですね。これが神滅具・赤龍帝の籠手……いえ、それよりも兵藤君の諦めない心でしょうか」

 

真羅が映像を見た感想を述べる。

その現場にいた本人でも何度見ても凄いらしい。

 

「なんだかあの兵藤君だと思うと信じられないねー」

 

「そうね、でもあんな風に泥臭いのは嫌いじゃないわ」

 

未だに信じきれない草下と兵藤の印象を変える由良。

 

「あの変態三人組の一人とは思えないですね……。これはもう留流子じゃ相手にならないんじゃない?」

 

巡が仁村に対して自分の感想を述べる。

 

「そ、そんなことないですよ!私だって訓練してるんです!いくら兵藤先輩といえど、ある程度の相手にはなると思います!ね?匙先輩……え?」

 

「げ、元士郎君?どうしたのそんな険しい顔して?」

 

自分の表情を見て固まる仁村と花戒。

気が付かなかったが、かなり険しい顔をしていたらしい。

 

「いや、なんでもない。会長、少し調子が悪いので外の風にあたってきます」

 

返事を待たずに生徒会室を出る。

 

その場にいた者の殆どがいままで見たことのない顔をしていた匙に首をかしげていた。

約一名を除いて。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一方、匙は校舎の屋上で風にあたっていた。

自分の胸にあるドロドロした感情を抱えて。

 

「はぁ、まいったな。こんな感情は初めてだ」

 

他人に対して一部を除き無関心だったから、いままで誰かに対してこんな感情を抱いたことが無かった。

学年一位を取れなかった時も、勝負で負けた時でもこんな感情は抱かなかった。

しかし、この感情の名前は知っている。

所謂『劣等感』というやつだ。

 

「まさか、あの変態野郎に初めて劣等感を感じるなんて、本当に世も末だな」

 

駒消費が自分の倍であることは知っていた。そして赤龍帝であることも。

 

どこかで格下だと思っていた。自分よりも劣っていると思っていた。

 

しかし蓋を開ければどうだろうか?

 

劣っていると思っていた奴は自分よりはるかに高みにいた。

 

普通では埋められるとは思えないほどの差があった。

 

訓練はもちろん行っている。それでも差をつけられてしまっていた。

 

いや、そもそも最初から自分と兵藤には差があったのかもしれない。

 

あの男は神器の中でも神をも滅ぼすと言われる十三種の神滅具の一つ、二天龍の一角である赤い龍の封じられた赤龍帝の籠手、こちらは五大龍王の一角とはいえ、特に珍しくもない神器。

 

その時点で、他人から見れば明らかな差があったのだ。

 

羨ましいと思った。

 

自分が持っていない、神滅具を持っているあの男に。

 

実力は無いのに、心が誰よりも強いあの男に。

 

そしてなにより、主の自慢の眷属であるあの男に。

 

自分の中に黒い感情が渦巻く。

 

レーティングゲームがあるのならば、遅かれ早かれ戦うことになる。

今のところは眷属の中で男は自分だけだ。洋服崩壊なんていう女性の天敵の技を持つのだから自分が相手をするしかない。

 

しかし、自分にあの男が倒せるのだろうか?

 

主の為に左手を犠牲にしてまで戦うような奴に。

自分よりもずっと強い相手に、勝てるのだろうか?

 

あの男を倒せる手段が見当たらない。

 

どんな汚い手段を使って地につけたとしても必ず立ち上がる。

絶対に諦めないのだ。たとえ満身創痍でも立ち向かってくる。

 

そもそも、一体どんな手段でダメージを与えればいいのだろうか?

あんな鎧があっては自分の力ではダメージすら与えることはできない。

 

ライザーとの一戦では一時的な「禁手」だったとしてもあの男ならいずれ至るだろう。

 

今回の映像を見て分かった。あの男は不可能を可能にする。

いや、不可能なんて物を知らないのかもしれない。

 

羨ましい、妬ましい、悔しい、憎い、今までに抱いたことのない感情がごちゃ混ぜになって、自分を塗りつぶしていく――――――――――。

 

 

 

「探しましたよ?こんな所にいたのですか」

 

 

 

凛とした声により、現実に引き戻される。

 

振り返るとソーナが立っていた。

 

「いきなり生徒会室を出たと思えば、こんな所でサボリですか?」

 

「すみません、直ぐに戻るつもりだったんですが……」

 

一体どれくらい屋上に居たのか分からない。もしかしたらかなり時間が経っていたのかもしれない。

 

「まぁ良いでしょう。貴方が出てからそんなに経っていませんから」

 

「……俺が出てから直ぐ探しに来てくれたんですか?」

 

「当り前でしょう?今の貴方を一人にすると何をするか分かりませんから」

 

そう言いつつ隣に立ち屋上からの景色を眺める。

 

「サジ、貴方は貴方であって兵藤君ではありませんよ?」

 

「……よく分かりましたね?」

 

「主として眷属の心の機敏はわかりますよ」

 

どうやら全て御見通しらしい。

 

「自分でも驚いていますよ?冷めてると思ってましたけど、案外子供っぽい所があるんだって」

 

「……」

 

ソーナは何も言ってこない。

 

「……会長は俺を眷属にしたことを後悔していませんか?」

 

「いきなり何ですか?」

 

ただ、自分よりも兵藤の方が良かったのか確かめたかった。

きっと優しいからそんなことはないと言うかもしれない。

それでも不要な存在ではないと言ってほしかった。

 

「貴方よりも兵藤君の方が良かった」

 

「ッ!?」

 

「なんて言うわけない事ぐらいわかっていますね?」

 

心なしか、少し怒っているように見える。

 

「サジ」

 

「はい……え?」

 

パァン!と屋上に響き渡る音。

 

一瞬何が起こったのか分からなかった。

叩かれた左頬を押さえる。

 

「後悔なんてするはずがないでしょう!?ふざけているのですか!?」

 

少しどころじゃない、かなり怒っていった。

 

「納得がいかないなら、何度でも言ってあげましょう。貴方を眷属にしたことを後悔なんてしていません。たとえ何千、何万と同じ時を繰り返したとしても、兵藤君が赤龍帝だと知っていたとしても私は貴方を選びます!!」

 

更にソーナは続ける。

 

「貴方には貴方の良さがあるのです。いい加減それを理解しなさい!!兵藤君がなんですか!?赤龍帝だからってなんですか!?貴方が貴方である事には変わりないって何度も言っているでしょう!?」

 

以前≪記憶≫で倒れた時も、ついさっきも同じことを言われた。

 

「……貴方は私の眷属になったことを後悔していますか?」

 

そんな事……。

 

「そんな事あるわけないじゃないですか!!」

 

悪魔になって大変な事もあった。

しかし、それよりも自分の知らない事ばかりで楽しかった。

色褪せた自分の世界が色を取り戻した。

 

自分の体が細く小さな体に抱きしめられる。

ソーナの温もりが伝わってくる。

 

「兵藤君が赤龍帝であっても、力では貴方より勝っていても、他で勝てば良いのです。だから、皆で一緒に強くなりましょう」

 

ね?と見上げてくるソーナ。

 

ああ、本当にこの人には敵わないなぁ。

 

「ありがとうございます。少しだけスッキリしました」

 

「それはなによりです。まったく、貴方は世話が焼けますね」

 

そう言ってソーナは抱きついていた体から離れる。

 

もう少しだけあのままでいてほしかったが、仕方がない。

 

「さぁ生徒会室に戻りますよ?」

 

普段は厳しいのに、こういう時は本当に優しい人だと思う。

それでも、何度でも自分を選んでくれると言ってくれた時は嬉しかった。

 

「何をしているんですか?置いていきますよ」

 

「今行きます!」

 

だからこそ、ほんの少しでも恩を返したい。

 

この感情も紛れもない自分自身の物だから。

 


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