ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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14話 チェス

匙が生徒会室に入った時、久しぶりに寒気がした。

 

いつもの様な直観による悪寒ではない。

ただ単純に部屋の温度が下がっているように感じた。

 

部屋にはプルプルと震えながら作業をしている仁村、草下、花戒。

三人のように震えてはいないが、時折ある所をチラ見しては視線を元に戻す、を繰り返している巡、由良の二人。

その二人の視線の先には無言、無表情で淡々と仕事をこなすソーナ。

 

少し違うが、いつもと大して変わらない光景だ。

 

……いや、違う。いつもとかわらないような光景だからこその違和感。

 

この部屋の温度を下げているのは明らかにソーナだ。

淡々と仕事をこなしているのはいつも通りだが、ほぼ毎日会うからこそ分かる違和感。

 

 

 

メチャクチャ不機嫌そうだ。

 

 

 

それともう一つ、一人足らない。

 

「副会長は?」

 

こんな時、いつもソーナや他のメンバーのフォローをするハズの人物がいない。

 

「椿姫先輩は用事で今日は生徒会の方には来ないそうです」

 

仁村が震えながら匙の質問に答える。

 

どうも今日一日この状態で作業をしなければならないらしい。

 

「サジ、何をしているのですか。作業に入りなさい」

 

「は、はい!」

 

不機嫌だからなのか、言葉に圧力がある。

こんな時は大人しくしておくに限る。

 

そう思って慌てて席につこうとした匙に不幸がふりかかる。

 

乱暴に置いたから鞄が倒れてしまい、さらに閉め忘れていたため中身が床に散らばる。

 

匙の鞄の中には授業道具はあまり入っていないが、その分友人との勝負の為に常備している将棋、チェス、トランプなどの遊具が入っている。

 

それら遊具全部が鞄から飛び出て床に散らばってしまった。

 

「……」

 

言葉が出ない。

特に遊具の持ち込みは制限されているわけではないが、不機嫌のソーナの目の前で、それなりの量がある遊具がぶちまけられた。

それが問題だった。

 

震えていた三人はアワアワと慌てだし、巡は、あちゃーと頭を押さえ、由良にいたっては完全に無視である。

 

ソーナの目がつりあがる。

 

「あの、会長。これは「サジ」はい!!」

 

これは間違いなく怒られると思った。が、ソーナは床にぶちまけられた遊具の一つを見ながら言葉を続ける。

 

「貴方、チェスが出来るのですか?」

 

「……は?」

 

怒られると思い身構えていたのでよく聞こえなかった。

なんて言ったこの人?

 

「だから、貴方はチェスが出来るのですか?」

 

「まぁ、将棋と比べると『得意ではない』ですが」

 

少しだけ機嫌が戻ったようで、そうですかとつぶやく。

 

「なら、後で相手をしなさい。椿姫以外はチェスが出来ませんから」

 

そう言って作業に戻るソーナ。部屋の温度は元に戻っている。

 

状況を理解できずに周りを見渡すと、憐れむように見てくる生徒会メンバー。

 

一つ分かったことは、どうやら彼女たちの生贄として捧げられたらしい。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

生徒会室にある一室。おもに客室として使われる部屋に匙はソーナと向かい合って座っていた。

 

目の前にはかなりしっかりしたチェス盤。自分が持っているオモチャとはちがう。

どうやら、かなり本格的に嗜んでいるようだ。

 

「先行は譲ります。そちらからどうぞ」

 

黒い駒を並べるソーナ。

 

「良いんですか?先行の方が圧倒的に有利ですけど?」

 

「構いません。ハンデです。椿姫とやる時はいつも後攻ですから」

 

得意ではないんでしょう?と涼しげな顔をしている。

本格的に嗜んでいるだけでなく腕にもかなりの自信があるようだ。

 

「なら遠慮なく、先行をいただきます」

 

白い駒を並べる匙。

その顔にはうっすら笑みが浮かんでいた。

 

 

数十分後

 

 

「あの、会長?」

 

「……」

 

返事がない。ただの屍のようだ。

 

白と黒の盤上は既に決着がついている。

 

先行の匙の勝利という形で。

 

「……サジ?」

 

「なんですか?」

 

恨めしそうに睨んでくる。

 

「本当に『得意ではない』のですか?」

 

「ゲームと名のつく物は基本的に『得意』です」

 

「……それは嘘をついたってことですよね?」

 

ソーナの背後に炎がメラメラと燃えているのが見える。

 

「だから将棋と比べると『得意ではない』って言ったじゃないですか」

 

顔は今まで見たことないくらい笑顔だが、炎が更に強くなったように見える。

 

「ちなみに『全体』の中でどれくらい『得意』なのですか?」

 

「一番得意な将棋の次くらいですかね」

 

ソーナの笑顔が怖い。口元がピクピク動いているのが見える。

しかし嘘は言っていない。ただ本当の事も言っていないだけだ。

 

「……はぁ、そうでした。貴方はそういう人でしたね。ええ、全てを鵜呑みにした私が馬鹿でした」

 

「そんなあきれた目で見ないでください。で、なににイライラしているんですか?」

 

「現在進行形であなたにイライラしていますが?」

 

頬に怒りマークが見える。

 

「その前からずっとイライラしてたでしょ?会長らしくないミスが多すぎでしたよ?」

 

「……はぁ」

 

二度目のため息をつかれてしまった。

 

ソーナは懐からある物を取り出し、匙に見せる。

 

「招待状?なんですかコレ?」

 

「リアスとライザー・フェニックスの婚約パーティーの招待状です」

 

「結婚するんですか?あの先輩」

 

上級悪魔でそれなりの家柄だとは聞いていたのでおかしくはないと思うが、どう考えても兵藤にその好意が向いていると思っていた。

 

「ええ、リアスにとっては不本意の婚約ですよ。しかし、婚約を賭けたレーティングゲームに負けてしまったから・・・」

 

前にも聞いたことのある単語だ。

 

「レーティングゲーム?」

 

「まだ話していませんでしたね。簡単に言うならレーティングゲームとはチェスとかわりません。お互いの駒を使って戦い、王を取れば勝ち。悪魔の駒がチェスの駒を模しているのもその為です」

 

婚約を賭けていたということは、それ以外にも賭けて勝負することもある。

ある意味、昔の貴族同士の決闘に近いものを感じる。

両者の同意でやった賭け事なのだから、他の者が口を出すわけにはいかないと。

 

「なるほど。それで会長は親友の不本意な婚約に何もすることが出来ずイライラしていたわけですね」

 

「……そうですね。リアスに彼はふさわしくない。しかし何もできないのが歯がゆいのです」

 

先ほどとは打って変わってツラそうな顔をする。

 

正直、彼女が不本意で婚約をしようが知ったことではないが、ソーナのツラそうな顔を見るのは嫌だ。

 

それにあの兵藤が黙っているとは思えない。あいつなら良くも悪くも何かしでかす。

そんな予感がする。

 

「大丈夫ですよ、リアス先輩にふさわしくないのなら何とかなるハズです」

 

本当に根拠も何もない話だ。しかし、彼女には言葉で説明できない何かがある。

 

「赤龍帝なんて物を引き当てる運があるんですよ?余程巡り合わせが良くないとそんなのは無理です。リアス先輩にふさわしくないのなら、運が彼女を見捨てていないのなら、何とかなるんじゃないですか?」

 

「……もし無理だったら?」

 

「さぁ?」

 

「……はぁ」

 

あきれた目で見られた上に三度目のため息。

 

「本当に貴方は、しっかりしているのか、していないのかわかりませんね。でも、そうですね。リアスなら何とかなるような気がします」

 

やっとソーナの表情が和らぐ。

 

「そう思えるなら何よりです。……ところでなんで白い駒を並べているんですか?」

 

「二局目をするためですが、なにか?」

 

問題でも?と首をかしげる。

 

「まだやるんですか?」

 

「ええ、チェスは二局勝負ですから」

 

さぁ並べなさいと言わんばかりの目で見てくる。

 

「まぁいいか」

 

機嫌も良くなったみたいだし。

 

 

その日以降ソーナから毎日のごとくチェスの勝負を挑まれる事になってしまった匙は余計な事をしたと後悔することになる。

 




最近リアルの方が忙しくなってきました。
そのせいで中々進まない……。
基本的に話の流れは原作沿いなので、匙の覚醒の道のりはまだまだ遠いです。

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