ハイスクールD×D 匙ストーリー   作:ヒツジン

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11話 優しさ

あれから少しだけ時間が経ち、匙とソーナは駒王学園に向かって歩いていた。

 

「サジ、良かったのですか?今日くらい休んでも罰はあたりませんよ?」

 

「徹夜で診てくれていた会長が学校に行くのに、寝てただけの俺が休むわけにもいかないでしょう?」

 

「しかしですね……」

 

倒れてから起きるまで、ずっと寝ずに診ていてくれたらしい。

本当にこの人には頭が上がらない。

 

「倒れた本人が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫ですよ」

 

「……仕方ないですね。体調が悪いからと生徒会の仕事ができない、なんて言っても知りませんからね?」

 

そう言うとソーナはそっぽを向いて少し早めに歩き出す。時折チラ見してついてきているのを確認するので、怒っているわけでもなさそうだ。

本当に、ビックリするぐらい優しい人だ。

 

「匙先輩!!」

 

そのまましばらく歩いて行き、校門付近で声をかけられた。

小柄な少女がものすごいスピードで走ってこちらに近づいてきた。

 

「体は大丈夫なんですか!?気分どうですか?どこか痛い所はありませんか?いきなり顔を真っ青にして倒れるから心配したんですよ!?なにが「ちょっと落ち着きなさい!」あイタ!?何するんですか巴柄先輩!!」

 

パコン、と小気味いい音をたてて頭を叩かれ涙目になる仁村は頭をさすりながら巡を睨む。

 

「そこまで質問攻めしたら元ちゃんも困るでしょうが。まったくもう……。元ちゃん体の方は大丈夫なの?」

 

「そーよ、元ちゃん。すごく苦しそうだったから心配したんだよ?」

 

「元士郎君、無理しちゃダメよ?調子が悪かったら休まないと」

 

余程心配させてしまったのだろう。全員心配そうな顔をしている。

 

「桃の言うとおり無理しちゃダメよ?元士郎……って、なんで私から顔をそむけるの?」

 

「すまん。あの悪寒が冗談だと思えなくて、ついな」

 

昨日の恐怖が思い出され、由良から視線を外す。

正直あれが冗談だったとは今でも思えない。

 

「サジ、体の調子は大丈夫ですか?皆心配したんですよ?」

 

普段から厳しい真羅までも心配させてしまったようだ。

それだけ心配させるような状態で倒れてしまったのだろう。

 

「まだ少し怠いですけど、大丈夫です。もちろん仕事もちゃんとできます」

 

「なら良いですが……。無理は禁物ですよ?」

 

大丈夫だと言っても全員心配そうな顔をやめない。本当に変に優しい人ばかりだ。

 

「……」

 

「え!?元ちゃんが笑った!?今まで笑顔なんてまともにしなかった元ちゃんが!?」

 

巡が驚愕した表情をする。他も驚いた顔をしている。

 

「そんなに驚くなよ。今まで笑った事ぐらいあったろ?」

 

「あったけど、そんな優しそうな顔をしたことなかったよ?」

 

「そーそー。笑ったとしても、作り笑いが明らかだったからねー」

 

同意するようにうなずく花戒と草下。

どいつもこいつも失礼な奴らだな。

 

「いや、本当に変な奴らばっかりだと思ってな」

 

「言葉が足らないわよ?変に『優しい』奴らばっかり、でしょう?」

 

由良がニヤニヤしながら言う。

なんでコイツは人の考えてることがわかるんだろうか。

 

「女の勘ってやつよ」

 

女の勘で済まされるものじゃない気がする。

由良が相手だとどうにも調子がくるう。

 

「ああ、もう!!こんな所にいたら他の生徒の邪魔になるからさっさと行きましょう!!」

 

「そうですね。笑ってないで、皆行きますよ?」

 

由良の所為で心配そうな表情から、全員ニヤニヤに変わってしまった。

これ以上は無理だ。いままでこれだけの人数にこんな表情で見られたことが無いから、頭の中がこんがらがる。

 

ソーナのおかげで動き出した。クラスが違うから教室に着けばこの状態から解放される。そこで少し落ち着こう。

 

「……?」

 

気のせいか?今殺気を向けられたような。

 

「どうしたんですか匙先輩?やっぱり体調がすぐれないんですか!?荷物持ちましょうか!?」

 

「後輩といっても、そんなことに使えないだろ」

 

「……そうですか?私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね!」

 

少しシュンとしたと思ったらすぐに復活した。

コロコロ表情が変わるから面白いな、この子。

 

「そんなに心配するな。さっきも言ったけど、大丈夫だから」

 

自然と仁村の頭を撫でる。

すると今度はボンッと音をたてて顔が真っ赤になる。

 

「……あぅう」

 

「あっつ!?……人って顔から蒸気が出せるんだな」

 

「なに冷静に考えてんのよ?留流子がオーバーヒートして動かなくなったじゃない」

 

どうすんのよ?と巡から睨まれる。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫です!!!!大丈夫ですからぁぁぁぁぁ!!!!」

 

様子を見ようと顔を覗くと顔を押さえながら、来たとき以上のスピードで校舎に向かって走っていく。

 

「あんた、本当に気づいてないの?」

 

「……さぁ?何の話だろうな」

 

「なにをしているのですか!行きますよ!」

 

「会長が呼んでる。怒られる前に早く行こう」

 

「……まぁいいわ、なんかはぐらかされた気がするけど」

 

それ以上追及はしてこなかった。

 

二人はソーナを追いかけ教室に向かって行った。

 

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殺気の原因は思いのほか直ぐに発覚した。

というのもかなり身近の人物だった。

 

「久しぶりだな青山。なんでそんなに人を殺しそうな顔をしてるんだ?」

 

「昨日も会ったけどな!?」

 

「悪い、最近いつもより濃い時間を送ったせいでお前の存在を忘れてたよ」

 

「テメェふざけんなよ!?どこに友達の存在を忘れる奴がいるんだ!?」

 

「ここにいるじゃないか」

 

怒りの表情から今度は泣きそうだ。

今さらながらコイツも表情がコロコロ変わって面白いな。

 

「ま、まぁいい。それよりもなんだよお前!!いきなり女子しかいない生徒会に入ったかと思えば、今度は生徒会長と仲良く登校か?あぁん?なに禁断の花園に足を突っ込んだ挙句に禁断の扉を開けちゃってるの!?しかもなんで普通に他の生徒会メンバーとも仲良くなってんの!その上1年生の仁村さんの頭をさりげなくナデナデしてるの!?顔真っ赤にして!!どう考えても脈ありだろ!?マジで何なのお前!?馬鹿なの?死ぬの?女子ばっかりの学園で彼女ができない俺に喧嘩売ってるの!?」

 

ものすごい剣幕で迫ってくる。

 

「落ち着け。何言ってんのか分からないぞ?」

 

「はぁはぁ……ふぅ」

 

「で、本音は?」

 

「凄く羨ましい!!!!」

 

もう何なんだよコイツ。

 

「チクショウ……。なんでコイツばっか良い思いしてんだよ!友達の俺にも少しは甘い蜜を吸わせろよ!!!」

 

「そんな事を言ってるからなんじゃないか?」

 

クラスメートが残念そうな奴を見る目をしている。

熱くなりすぎて周りが見えてない。本当に残念な奴だ。

 

「クソ!余裕か?色々と大人になった余裕なのか!?・・・良いだろう今日こそはお前から金を巻き上げてやる!!!」

 

さぁ勝負だと言わんばかりの目で見てくる。

 

いつもと変わらない日常だ。悪魔になって生徒会に入ったこと以外は大して変わらない。

でも、つまらないと思ってた日常も案外悪くないように思える。

 

「……」

 

「なんだよ」

 

「いや、そんな風に笑った顔初めて見たなーと思って」

 

「失礼だな。笑うことぐらいあったろ?」

 

「とってつけたような笑顔だけどな」

 

生徒会メンバーと同じようなことを言われた。しかも彼女たちより付き合いの長い奴に。

 

「……気持ち悪いなお前。なんだ?熱でもあるのか?」

 

「喧嘩売ってるのかこの野郎!?」

 

その後勝負に負けて財布の中が寂しくなった友人の悲鳴が教室中に響き渡るのはまた別の話。

 


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