転生!Lyrical Music Start!   作:yatayata

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※オリジナル設定有りです!



第五話 遭遇

 

 

 

 

 

 

「ち、よ、こ、れ、い、とぉ!」

 

 

 

 

高らかに発した言葉の一音一音毎に、けんけんで優雅に移動する。

 

 

前方には普段二人で一緒によく遊ぶ、近所の行きつけの公園。その入り口が、ここからあと僅かというところだ。

 

後ろを振り返ると、1m程向こうに、何とも悔しそうな表情を浮かべた穂乃果ちゃんが立っている。

俺はふふん、といった顔つきをして、

 

「ふっ、ミス穂乃果よ。このままだと私の方が早く公園に辿りつくことになるな」

 

「むーやるなー。なのはちゃん。……でも、こんどこそ!」

 

彼女はそう唸ると、すかさず右手を此方の方へ差し出してくる。

 

ふむ、いい表情だ。

……よかろう。この高町なのは、勝負事となれば、たとえいたいけな女子供相手だろうと、一切容赦はせんぞ!!

 

俺はそれに応じるよう左手を高く振りかざし———

 

 

 

「「あ、最初はグー!じゃんけーん……ポイ!」」

 

 

 

ここで俺は繰り出したのは、『我が鋼鉄の意思:Goo』。

じゃんけんという遊戯は、一見ただの運ゲーのように思われるが、それは否だ。いざ連戦となると、それは一転高度な心理戦へと突入するッ!(多分)それまでの互いの一手が、無意識に次の自らの手を絡めとってしまうのだッ!(適当)

 

穂乃果ちゃん、すまないが多少君より人生経験豊富な僕は、次の君の一手が手に取るようにわかってしまう。ふふふ、この勝負、最初から軍杯はこちらに上がっていたということだよ。

 

 

この勝負、貰ったああ————

 

 

 

 

 

 

「やったー!ぱーであたしのかちー!ぱ、い、な、つ、ぷ、るっ!」

 

元気な歓声を上げると、ぴょんぴょこと穂乃果ちゃんは私の横を通り抜けてゆく……。

 

って、あ!今の一歩の間隔ちょっとでかくね!?

 

 

「なん……だと……?」

 

 

な、何故だ。さっきのモノローグは完璧に俺の勝ちパターン入ってたろ!?

悔しさの余り、ついつい懺悔の体勢をとってしまう。

 

「いえーい!きょうもあたしのだいしょうりー!ということで、ぶらんこのしようけんは、またまたわたしのものだよー!」

 

 

 

つい最近の俺たちのマイブーム。それは、このように公園に着くまでに様々なゲームを行い、その勝敗によって一日の、公園にただ一つしかない遊具使用権を決めるというものだ。

勿論、先客や他に使いたそうな子が居たら二人で自重して違う遊びをそそくさと開始するのだが。

 

穂乃果ちゃんは嬉しそうに飛び跳ねると、ワーイ!と公園内の遊具の方へと駆け出してしまう。

ご覧の通り、俺の勝率は何故か芳しくない。

 

 

 

くっそう、物凄く悔しい。

 

 

 

おいおい元大学生が幼稚園児相手にマジになってどうする、とか野暮な突っ込みが入るかもしれないだろう。

 

だがしかし諸君、お忘れではないだろうか。

確かに、この間「俺」としての記憶は蘇った。

しかし、それまでの間この身体を長らく支配していた人格は「私」なのだ。いくらそのベースが元は青年のものだったとはいえ、その意識はいまだ現役の6歳児。

つまり、頭ではこちゃこちゃと小難しい事を考えられるとしても、その感性はまだまだお子ちゃまのものに過ぎないのである。

 

……何が言いたいかっていうと、「私」も遊具で遊びたい。凄く。

 

 

しかし、悲しいかな。

自分達はまだ園児ということなので、あまり遠出することはできない。せいぜい、穂乃果ちゃんと私お互いの家から目が届くような位置の、この公園でしか遊ぶことを許可されていない。

 

そして、あろうことか我ら子供たちの有り余ったエネルギーを発散させるのにとても有能である『遊具』という存在が、この公園にはこじんまりとしたブランコがただ一つあるだけなのだ!

 

 

くそう、これは行政に直接訴えに行かねばなるまい。

 

 

『 請願書

最寄りの公園の遊具がたった一つだけというのは、外観的にも機能的にもなんとも味気ないものです。ただでさえ外に出て遊ぶという機会が少ない現代社会の子供たちに対する配慮と思いやりという観点から、どうにか新しい遊具や設備の設置をご検討頂けないでしょうか。

 

代表 高町なのは (6才)

 

 

ダメだ。なんともシュールな絵になってしまった。

 

 

 

 

馬鹿なことを考えていないで、穂乃果ちゃんに続こう。そう思って、自分も彼女の元へ。すると。

 

「あちゃー、もう先客が居たか。」

 

 

 

公園のブランコには、私達と同じ年頃の少女が座っていた。

 

 

 

「仕方ないよ、穂乃果ちゃん。2人でだるまさん転んだでも遊ぼ———」

 

俺はそう声をかけながら、穂乃果ちゃんの近くへ向かう。しかし様子がどうも変だ。

普段ならブランコが空くまで2人で他の遊びでもし始めるのだが、穂乃果ちゃんはどうにもその足を動かす気配がない。

 

その原因はおそらく。目の前の、やけにしょんぼりと項垂れているこの少女のせいだろう。

 

「どうしたんだろう、あのこ」

 

穂乃果ちゃんという子は、基本的に人懐っこく、更に大のお人好しである。

困っている人や、こう見るからに「自分、今悲しいです」って子のことを放ってはおけないのだ。

 

 

穂乃果ちゃんは、チラと此方を伺うように視線を寄越してくるが、それに対して俺はうむ、と首を振って肯定してやる。

 

 

「ねえねえ、あなた。いったいどうしたの?なにかかなしいことでもあった?」

 

 

穂乃果ちゃんの優しい声に気を取られたのだろう。少女が顔を起こすと、その目元は薄っすらと赤らんでいるのが分かる。ついさっきまで泣いていたのかな?

 

警戒しているのか、それとも突然の初対面の子からの呼び掛けに戸惑っているのか、少女は口を閉ざしたまま首をふるふると横に振ると、またもや悲しそうな顔をする。

 

ふむ、まずは我々が危険では無いと思い知らせる行動を取らねばなるまい。

 

 

 

そろりそろり、と近づき、少女に対してにこやかに笑いかける。

 

「この子と同じように、私も貴女が心配だな。ほら、折角可愛らしいお顔してるのに、そんな顔したら勿体無いじゃないか。もし、良かったら何があったか私達に教えて欲しいな」

 

そう言って、相手を安心させるように、そっと前髪を撫でてやる。

すると、横で見ていた穂乃果ちゃんも、俺に続いて優しげな表情で一緒に撫で始める。

 

見よ!

此れが我が秘技『w幼女撫で回し旋風』だ!

 

少女は初めピク、と一瞬身構えたが、我ら同年代の同じ女の子同士。

それ以降、少女は目を細めて気持ち良さそうに撫でられている。

 

ふはは!(主に穂乃果ちゃん相手に)これまで培った俺の撫でテクをくらうがいい!

 

 

それから数分後。

流石に恥ずかしくなってきたのか、少女は「も、もういいよ。その、あの……ありがとう」と頬を赤くしてお礼を言ってきた。

どうやら会話できる程度には調子を取り戻せたらしい。

 

 

 

「ねえ、私、なのは。君の名前はなんていうの?」

 

「わ、わたし……。ことり。みなみ、ことりっていいます」

 

「わああ!ことりちゃんかあ。かわいいなまえだね。わたしはほのか!ほのかってよんでね!」

 

「宜しくね」

 

「う、うん!よろしく……」

 

先ずは手始めにお互いの自己紹介のやりとり。だが、たったそれだけなのに何だかやけに嬉しそうな表情だ。

一体彼女に何があったのだろう。

 

「ねえねえ、ことりちゃんのおうちはどこにあるの?」

 

「えっと、ここからそんなにとおくないとこだよ。うんと、あっちのほう」

 

ことりちゃんが指差す方角は、ちょうど俺たちの家とは反対方向のようであった。

 

「へえ〜。そうなんだ。じゃあ私達、同じ学区内同士だったのかもしれないね。この公園にはよく来るの?」

 

「いや、あの。……ことり、あんまりおそとであそばないから」

 

 

あらら、また顔を伏せちゃった。

 

 

うーむ、このままでは拉致があかないな。仕方ないので、ストレートに聞いてみることにした。これも、子供の特権の一つである。

 

 

「あのさ、ことりちゃん。さっきはいったいどうして泣きそうな顔してたんだい?」

 

「そ、それは……」

 

「ほのかも、ことりちゃんのこと、しんぱいだよ。あのね、ほのかたちにできることならなんだってするからさ!」

 

穂乃果ちゃんは、ぎゅ、とことりちゃんの手を握る。

 

「うん、気楽に私達に話してみなよ」

 

 

俺たちの、自分を案じる声にほだされたのか、ことりちゃんは恐る恐る言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

「……あのね、ことり、ほかのこたちよりも、ちょっとからだがよわいの。そのせいで、むかしからようちえんをいっぱい、いっぱい、いっーぱいやすんじゃうの」

 

「それでね、かぜがなおってからようちえんにいっても、ことり、ずっといなかったから……。ことりのばしょが、ないの。かべにかざってあるえも、ずこうも、みんなのはあるのに、ことりのだけ、ないの……」

 

 

その顔は余りにも寂しそうで、辛そうで。

 

 

「きょうね。ようちえんでね、まわりのこたちはたのしそうにしてたの。ことりはそれをおそとからみてるだけ……。なんだかかなしくてね、さびしくてね」

 

「さっきも、このこうえんにはほかのこがたくさんいてね。でも、ことりはひとりでブランコにのってるの。ことりには、おともだちがいないから……。なんで、なんでおともだちがいないんだろうって。う、うぅ」

 

 

 

 

自らの心情を、改めて口に出したせいだろうか。ことりちゃんの目元から溢れ出すその雫は、これまで溜め込んできた彼女の哀しみの粒だろう。

 

幾ら幼稚園児だとはいえ、同年代の輪から自分だけが取り残されるなんて、さぞ辛かったろう。寂しかったろう。 いや、むしろこんな小さな子供だからこそ、より鋭敏に、その孤独を感じていたのかもしれない。

 

横には、ことりちゃんの独白に同情してしまったか、彼女と同じように目元がすっかり真っ赤になっている穂乃果ちゃん。

 

俺は、そんな穂乃果ちゃんと二人で同時にそっと、ブランコの上で泣きじゃくるいたいけな『ことり』を包み込む。

 

 

 

「それじゃあ、ことりちゃんの、その悩みは、もうここでお終いだね」

 

 

 

俺のそんな台詞に、「えっ」とか細い声を立てることりちゃん。彼女に向かって、俺たち二人は共に彼女に向けて同時に手を伸ばす。

 

 

 

「今日から、貴女のお友達。改めて宜しくね、わたし、高町なのは」

 

「わたしは、こうさか ほのかだよっ!」

 

 

 

「「今からいっしょに、あそぼ?」」

 

 

 

 

 

————たどたどしく、その二人の手のひらを握ると、ことりは顔を真っ赤にさせたまま、

 

 

 

「うん!」

 

 

 

 

と高らかに、その産声を大空へあげたのだった。

 


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