転生!Lyrical Music Start!   作:yatayata

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第四話 この世界

 

 

 

 

あれから俺は、なんとか母上からの質疑の猛攻から逃れることができた。

 

 

『……そう!あれだよ!陰謀蠢く機関だとか、失われし闇の力だとか、私の痛々しい妄想が外部に漏れちゃったみたい!あはは私ったら〜てへぺろ』

 

 

などと、なんとも見苦しい言い訳で強引に話を終わらせにかかったのだ。

何を思ったのか、母上は妙に優しい表情になり、

「まあ、誰しもそういう時期はあるものね。お母さんも中学生の頃は……」

 

と何ともありがたくはない理解力を発揮させられた。

くぅ、6歳児にして中二病患者として扱われることになるとは……。認めたくないものだな、若さ故の過ちというものを。

 

「それでも、なのはが突然倒れた事には変わらないから、あとで念の為病院に行くわよ」

 

 

叱るようにそう言って、俺の身を案じてくれるお母さん。

 

その点に関しては大変ご心配おかけしました……。

 

 

 

 

それから俺は、なんとか母に頼み込んでパソコンを使わせて貰うことに成功した。

普段は(一応)いい子で通ってる私が、血相変えて懇願する姿に、母も何か思う所もあったのだろう。

幼稚園児にパソコンなんか使わせるなよ……との突っ込みが入ると思うが、こちとら緊急事態なのだ。見逃してほしい。

パソコンに電源を入れて、起動するのを待つ。

 

「エッチなものは見ちゃ駄目よ〜♪」

 

「見んわ!私、女の子!私、幼稚園児!」

 

男子中学生か、己は。

 

そんな母のお茶目な茶々を気にもとめず、まず考えるのは今現在俺が存在するこの世界についてだ。

インターネットブラウザを起動し、手始めに検索する言葉、それは……。

 

『海鳴市』

 

『魔法少女リリカルなのは』における、物語の舞台だ。海に隣接しており、情景豊かな都市である。加えて、なのは達主人公勢の生まれ故郷である。かつて、数多の二次創作のオリ主達は、この都市の名前を知覚することで自分が物語の中に転生したと判断していたものだ。

もし、俺が『リリカルなのは』の世界に転生したのなら、このワードは嫌でも目にかかる筈である——が、

 

「検索ヒット数、100……?」

 

そのどれもが、海鳴という店の名前だとか、会社の名前。地名としてヒットしたのは皆無であった。念のため、マップ検索でも海鳴市を探してみたのだが、それらしい都市は発見できなかった。つまり……。

 

「この世界に海鳴市は存在しない……?いや、待て案ずるのは早い」

 

それから『バニングス財閥』、『月村家』、その他あらゆる言葉を検索にかけたのだが、それらしいものは一つも見当たらない。

ふむ……魔法関連の物は実在したとしても、流石に検索にかけて出てくるはずもないだろうし。

それならば、我が家の家庭状況は?

 

 

「あ、あのさお母さん。父さんって、何かボディーガードとかやってたり、何かすごい流派とか会得してたりしない?『御神流』みたいな?」

 

「うふふ、それもまた何かの設定?かっこいいわね、それ。って、お父さんがそんな物騒な事してる訳ないじゃない。子供の時から『パティシエ王に、俺はなる!!』とかいって馬鹿ばっかしてたのよ」

笑いながら、そんなことを呟く母。

マジか、父上よ。こんな美人で可愛らしい人と幼馴染結婚ですか、そうですか。爆発しろ!!

 

……じゃなくて、どうやら高町家もかなり大きな差異があるようだ。両親は至って普通の一般人。

極めつけは、「私」には兄弟がいない、一人っ子である。ましてや、神速とかいう人智を超えた体術を会得している兄や姉などいない。

 

 

ふむん、これまでを総括するに、どうやら俺は『魔法少女・高町なのは』のそっくりさんに転生しただけに過ぎないようだ。

 

ジュエルシードが落ちてきたり、闇の書に蒐集される恐れもない。

 

よかった。これで厄介なドンパチに巻き込まれることはないようだ。

これでなんとか今世も平穏無事に生活できそうです。

 

めでたしめでたし。

 

イイハナシダッタナー。

 

 

 

 

「あら、なのは。もうパソコンはいいの?」

 

「ああ、お母さん。……いや、知りたいことは全て覗かせて貰ったよ。この世界の真理とやらをね」

 

 

ミルクコーヒーを片手に優雅にポーズを決めながら、晴れ晴れとした顔で窓からの景色を眺める。ふっ。なんだか一気に年をとった気分だぜ。

 

 

それから暫くそうしていると、突然ピンポーンと、インターフォンの音がした。

玄関のほうから聞こえてくるのは、母と聞き覚えのある小さな女の子の声。

 

 

 

「やっほーほのかだよー」

 

綺麗なオレンジ色の髪を頭の横に束ねたサイドポニー。それをゆらゆらと揺らしながら、満面の笑みでリビングに入ってきたのは、我らが幼馴染ほのかちゃんである。

 

どうやら、先ほどのバスの中での約束通り、ウチに遊びに来たようだ。手には恒例のお土産である和菓子が握られている。

 

「?どうしたのー、なのはちゃん。そんなへんなかおして。それよりもねえ、きょうはなにしてあそぶ?おままごと?おそとでおにごっこ?」

 

彼女に尻尾があったら、きっと今頃ブンブンと振り回していただろう。そんな忠犬ばりで此方に期待の表情を向けてくる、ほの犬。

撫で回したるか!

……じゃなかった。

 

確かにほのかちゃんは可愛らしいが、今俺がほうけている理由はそっちじゃない。俺は恐る恐る指を向けながら、

 

 

「……ほのかちゃん?あ、あの、つかぬ事をお聞きしますが。あなたは、ずばり、和菓子屋『ほむら』のお子さんの、高坂穂乃果ちゃんでごさいませうか!?」

 

「もおーそうだよー。なのはちゃん、ほのかはほのかだよー。もしかしてわすれちゃったのぉ?」

 

ちょっとしょんぼりとした表情をみせる穂乃果ちゃん。ごめん、だけど兄ちゃんはそれどころじゃないんや!

 

俺は、リビングに顔を出した母上にまたもや質問を投げかける。

 

「あら、どうしたの二人とも。ほらほら、おやつでも食べてゆっくりしてなさいな」

 

「あ、あのさ!お母さん!音ノ木坂学園って知ってる?」

 

「あら、どこで聞いたの?知ってるも何も、音ノ坂は私の母校よ。懐かしいわねー。実はね、穂乃果ちゃんのお母さんも音ノ木坂出身でね、貴女達みたいに私達も同級生同士だったのよ。なのはも、良かったらそこに入学してみない?まあまだ10年も先の話だけどね」

 

 

……確信した。

ついさっき、テレビでやってた『スクールアイドル』という存在、幼馴染の高坂穂乃果ちゃん、そして、母上の母校である『音ノ木坂学園』。

これらの符号が意味するところは、つまり。

 

 

 

 

 

俺、ラブライブの世界に転生してました。

 

 

 

 

 

『うわあああああ!すっげえ!生ロリ穂乃果ちゃんじゃん!奇跡!?これが俺達の奇跡か!?やっはー!お触り!お触りは合法ですよね!!?』

 

 

と叫び出しそうになるのを必死に堪える。まずいまずい、これは幾ら何でもキモ過ぎる。

こんな事言ったら二人に本気で引かれちゃうわ。自重せよ、「俺」よ。

———すまん、「私」よ。

自分で自分のことをキモいと思ってしまったのは仕方ないことだろう。

 

 

「どうしたの?なのはちゃん。さっきから、おかおがとってもおもしろいことになってるよ?」

 

「ごめんね、穂乃果ちゃん。うちの子ったら、さっきから妙に可笑しいのよね。……あ、割と普段からこんな感じだったわね」

 

しゃらああああぷ!母上よ。

私は断じて痛い子なんかじゃない!

 

 

それにしても、と思案するように腕をくむ俺。

ラブライブかー。俺、めちゃんこファンだったわー。いつの日か、生でμ'sのライブを見ることができるんだろうか。オラ、ワクワクしてきたぞ。

 

『ラブライブ』とは、今や知る人ぞ知る大型アイドルコンテンツである。雑誌の読者企画から始まり、アニメ、漫画、小説、アプリ等様々な方面で人気を誇っている。

俺はアニメから入った所詮新参者でしかなかったが、そのスポ根ばりの王道熱血展開、1度聴いたら耳から離れない程のクオリティの楽曲の数々、そして何よりその魅力的なメンバーに、あっという間に虜になり、ラブライブの世界に没頭したものだ。

その主人公が、高坂穂乃果。彼女が母校である音ノ木坂学園廃校の危機に立ち上がり、8人の仲間と共に、スクールアイドルとして活躍していくのだ。

 

俺の願いは、その物語を見届けたいということ。

アニメの視聴者としてではなく、彼女らと共に今を生きている一人の人間として、なにより、前世から今もなおの一ファンとして。

せっかく憧れのμ'sにこうして会える機会が与えられたのだ。これ位は夢見てもいいだろう。

 

 

にしても、今はそんなにあれこれ難しく考えても仕方ないか。

おそらく、先ほどの母上の言うとおり、10年も先に私達は音ノ木坂に入学することになるだろう。ただ、10年だぜ?そんだけ経ったら、原作知識だとかなんとか細かいことも忘れてるだろうし。

 

うーん、ひとまず、現時点で有用になりそうな情報はノートか何かに書き留めとくべきか?

 

 

「うーん、なんだかよくわからないけど。ねえ、なのはちゃん、やっぱりおそとにあそびにいこうよ!」

 

俺が何かしら悩んでいることを、彼女なりに気遣おうとしているのだろう。

穂乃果ちゃんは一生懸命に、元気いっぱいを振舞って、俺にそう言ってきた。

 

 

「ふたりでげんきにあそんだらね、きっとなのはちゃんもすぐにげんきになるよ!」

 

 

穂乃果ちゃんはそれから、俺の手をとって玄関に向かって駆け出す。

 

うん、やっぱりそんなことはやめておくべきかもしれない。

いつまでも、彼女達のことを「アニメのキャラクター」として考えるのは大分失礼な話だ。

これからなるべくそういう目線で接しないようにしよう。

 

———高坂穂乃果は、元気で放っておけない、私/俺の大切な幼馴染だ。今はそれでいいんだろう。

 

 

「ってなわけで、お母さん、ちょっと遊びに行ってくる!夕飯前にはちゃんと戻るから!って、待って穂乃果ちゃん!地味に、は、速い!」

 

「うふふ、二人とも、いってらしゃい」

 

 

 

昼下がりの夕暮れ。とある住宅街に、二人の女の子の元気な声がこだまする。

 

 

 

「いっくよー!なのはちゃん!」

 

「おうともさ!穂乃果ちゃん!」

 

 





なんとかきりのいいところまで投稿できました。
とは言っても、まだ幼児編は終わりそうにないですが(笑)

次回の更新がいつ頃になるか分かりませんが、これから暖かく見守ってくだされば幸いです。

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