転生!Lyrical Music Start!   作:yatayata

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テンプレなので軽く読み飛ばしてもokす


第一話 転生

 

ゆっくりと重い瞼を開く。どうやら暫くの間気を失っていたようだ。まだ頭部にはチリチリとした鈍い痛みが残っている。

 

―――えっと、俺は何をしていたんだっけ?

 

目が覚めると、そこは見知らぬ白い場所だった。上下左右を見回してみるが、其処には地もなく天もなく、ただ俺以外の全てが白一色に塗り潰された異質な空間だった。そう長くないうちに、その余りにも異様で圧倒的な光景に、自分の存在が押し潰されるような感覚に陥った。気が狂いそうだ。

 

「やっはろー!神様だよー!うふふ?自分はついさっき死んだはずなのに、どうしてこんな所にいるんだろうか、なーんて陳腐でありふれたようなことを考えてる顔をしてるね!」

 

瞬間、目の前に何の前触れも無く出現したのは、其れまた白いローブにその身を纏った、やけにハイテンションの金髪美少女だった。

だが何故だか分からないが、俺はソイツを異質だ、と本能的に悟った。

あの年齢=童貞歴で名高く、可愛い子を目の前にすると異常にテンションが上がりキョドリだす、あの俺がだ。

 

思わず瞬発的に悲鳴を上げそうになったのだが、何故だか声が上手くでない。いや、正確には自分の声が外部に発せられた瞬間、問答無用に消去されたという奇妙な感触。

その余りにも非現実の連続に、俺はただ恐怖した。

 

 

「なーに、そんな難しい話じゃないよ。今まさに!きみが生前に結構読んでた娯楽小説の冒頭と似たようなシチュエーションなんだな、これが。そう、ズバァ~リ……神様転生!それを君にこれから施しちゃおう~って話なのさ!」

 

ふふん、と見た目は愛らしいドヤ顔を見せつけつつ、大仰な手振りをする。

 

「ただ、正確に言うと私は神とは言っても、そういう役割を果たす概念体としてプログラミングされたモノの一部に過ぎないんだけどね~。まあ下位次元の存在たる君達から見てすれば、それと似たようなもんだと思って貰っても差し支えないよ!」

 

 

恐怖と混乱の渦に絡め取られてる俺に対して、表情豊かに容赦無く言葉をまくし立ててくる目の前の女。

なんだ?さっきからコイツは何を言っている?神様転生。確かにかつて何作か読んだ覚えはあるのだが、如何せんあれは唯のフィクションでしかなり得ない筈だ。だがその筈なのに、先程から俺が遭遇する異常の数々は否応無しに彼女の言葉を肯定しにかかる。

 

 

「あれれ?ごめんね~さっきから、私一人でベラベラと喋ってて。でも君はせいぜい、人間というちっぽけな種族のたった一個体でしかないから、この空間内における発言権なんてないんだ~。存在するということを許容されてる時点でかなり大目にみられているんだから、文句は言わないでよね!」

 

 

そう言うと、彼女は自らの優位性を誇示するが如く殺気に似た、鋭い視線を此方に向けてきた。

 

瞬間、全身の細胞が悲鳴を上げる。まるで目の前に大津波や火山の大噴火が突如出現したかと錯覚させるほどの脅威。それは一生命体が出せるものとはとても思えなかった。我慢が出来ず、片膝を付いてしまう。

 

俺の乱れた呼吸が整うまで、随分と彼女は待ってくれていたようだった。

……成る程、もう何もこれ以上小難しく考えたり警戒することは無意味だな。文字通り『次元が違う』わけか。もしかしたら、二次元のキャラクターも画面の外の俺たちに対してこのような感情を持っていたのかもしれない。

もうどうにでもなれ、だ。

 

 

「……さてと、前置きも此処までにして、そろそろ本題に入りましょうか!少々怯えさせてしまったようだしね」

 

此方に気を使ったつもりなのだろうか、彼女の聖母のような美しい微笑みに、本の少しだけだが緊張が解れた気がした。ほんの少しだけだが。

それに続いてまたもや一方的な会話が開始される。

 

「さっきも言ったけと、貴方は生前とは別の世界線へと転生してもらいまぁす!取り敢えず、物心付く年頃になるまでは、君の脳が記憶の制限を自然とかけると思うから、赤ん坊時代の羞恥に悶えることはないと思うよ」

 

それは助かります。いや、この成熟した意識のまま5、6年もの間他者に食事や排泄の世話をしてもらうとか、卒倒レベルだろうから。

 

「あ、それと、何故わざわざこんな事をする必要があるのか、どうして転生するのが貴方でなくてはならないのかという疑問を抱くかもしれないね。まあそれも当然のことだとは思うけど、其の疑問に答えても君達には理解出来ない概念であり理由だから、きっと言っても無駄かな」

 

うーん、そんな事を言われても未だに此方としては全くと言っていい程現実味がないわけなのだが。

というかホントにコイツは好き勝手に喋りまくるな。神という役職も随分閑古鳥が鳴くような状況なのだろうか。高位の次元のニンゲン?も本質的には対して俺らと変わらず、せいぜい二次元のキャラクターとリアルの人達との差異程度の違いなのかもしれない。

 

 

「強いて言うなら、あれよ、宝クジサマージャンボの一等を十年連続で当てたってのと、同等の運勢の持主だったってことだよ、君が。通常ならば記憶を保持したまま別の世界線に渡るなんて、私達と同じ次元の存在にしか許されないことなんだから。せいぜいラッキー大儲けって思って貰ってもいいよ」

 

コミカルに人差し指を此方に向けながら、そんな驚愕の事実を打ち明けてきた。

おいマジか、俺。だったらその強運を生前で活かして貰いたかった。

というよりも、あれか。転生ができるという、このひと時の強運の為に持ち前の運勢を使い果たした結果が。生前の俺の様々な不幸の連続だったという可能性も……。

 

しかも、おそらくそのせいで父さんと母さんには迷惑かけっぱだったわけだ。終いにゃ親よりも先に逝くとか、最大の親不孝者だっただろうよ。あー死んでからも意識があるっていうのも、有る意味とても残酷な事なのかも分からんね。

 

 

「因みに、当然だけど貴方に拒否権はありませんから。どうしても嫌なら、転生後すぐさま自殺して貰っても構わないよん。我々が必要とするのは、貴方が転生するというプロセスと、転生したという、その事実のみなのだからね」

 

薄々気づいていたが、どうやらこれは彼女にとってあくまで事務的な手続きに過ぎないらしい。

テンプレなら、神様のミスが死因だとかいう展開もあったのだが、流石にそんな事はあり得ないのだろうか。まあよくよく考えずとも、上位者である神がわざわざ一人間如きに謝罪やらなんやらそんな手間暇掛けてやる云われもないのかもな。

 

それはそうと、折角貰える生命だ。もし本当に与えてくれるのなら、感謝こそすれ、拒絶する選択肢なんてない。俺はまだまだ人間としての生活を楽しみたい若輩者に過ぎなかったのだから。何より一度死んだ身だ。命の大切さ尊さを身をもって理解したのだから、自殺なんて馬鹿げたことする気は毛頭ない。

 

 

「でもそれだけだと味気ないでしょ。折角だから、例の娯楽小説に因んで、その世界で君が生きていくのに有利になるような才能の芽をあげるとしよう。あくまで芽だから、其れ相応に努力しないと駄目だよ。わーい、テンプレチート乙!じゃんやったね」

 

はは。チートとかワロス。俺としては、もう一度生を謳歌できる時点でもう満足なんだよな。才能の芽?一体どの程度の効力を発揮するのか分からないが、自重して生きよう。というか、大学生並みの知識持った赤ん坊とか、もうその存在自体が既にチートだとおもうのですが。

 

 

「さてと、そうこうしてる内に、そろそろ必要な手続きが終わりそうだね。貴方が混乱しないように、わざわざ君たちの言語やカルチャーを用いて分かりやす~く説明してあげたんだから少しくらい感謝しなさいよね!幾ら我々よりも次元的には下位の存在だろうと、君達の人格は尊重するし、そういう配慮位はかけるよ」

 

はい、正直ありがたかったです。なんのお構いなしにいきなり子供の姿になっていたら、余りの混乱とショックのせいでマトモな生活が送れなかったかも分からんからね。

「それにしてもグタグタ一方的に話されるのも、いい加減嫌になってきたでしょう。折角だし、ここらで一発神様っぽいことでもしようかね」

 

すると、先程までのノリが消え去り、急に神々しいオーラと共に、いかにも女神とでも言うような、そんな神妙な面持ちとなった。……今更遅すぎでは無いのでせうか。

 

 

「……間も無く貴方は次元を超えまだ見ぬ新たな世界へ誘われることでしょう。あ、これメンドイ。やめやめ。 」

 

おい。

突っ込んだら負けなのだろうか。

いや、今は物理的に不可能なわけだが。

 

「ま、あれよ、今回は道端の野良犬に手でも噛まれちゃった~とか適当に思って、来世でも気楽にやって生きなよ。それじゃあね~!バハロロ~イ!」

 

あ、はい。お勤めご苦労様です。なんて、相手に伝わるはずもないのに心の中で挨拶の定型句を述べると、急に視界にノイズのようなものが走りだす。

 

 

それはまるで壊れかけのテレビの画面のようで。視界がボヤけだしたと思ったら、プツン、とあらゆる俺の神経がシャットダウンした。

 

 


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