新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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ネクロゴンドの洞窟①

 

 

 

 一行は森を抜ける為に歩き続ける。地図を見ながら、木々の隙間から覗く太陽の位置を確認したカミュとサラは、途中から西へと進路を取り始めた。

 森の中には魔物は多く、何度かトロルとの戦闘が行われたが、ベホマスライムの存在は確認されず、それ程苦労をする事はなかった。夜半になると急激に気温は下がり、その冷気が固まる事によって生まれるフロストギズモなどとも戦闘が行われる。だが、それもカミュ達にとって、身の危険を感じるほどの戦闘とはならなかった。

 

「森を抜けたぞ」

 

 数日歩いた後、ようやく長い森を抜けた一行の前に開けた景色は、予想とは異なった物となる。

 広がる平原は、穏やかな風に靡きながら不快な香りを発する物ではない。ただ静かに、そして青々と茂る芝が延々と広がり、空には大きな白い雲が悠然と流れていた。太陽は優しく輝き、諸悪の根源の居城があると云われる場所にも、例外なく暖かな恵みの光を注いでいる。

 その光景は、人間にとっては釈然としない物なのかもしれない。

 

「どのような種族であろうと、どのような想いを持っていようと、自然の恵みは優しいのですね」

 

 人間にとって魔物は『悪』である。その明確な悪が、自分達と同じように神や精霊の恵みを平等に受け取る資格を有しているなどという事は、人間にとっては許す事が出来ない物なのだろう。

 魔物は夜半に動き、闇と共に生きる物。そんな考えが至極当然のように人間界には広まってはいるが、魔物にも様々な種族があり、凶暴性を増しただけの獣もいる。そんな物達が大地や空の恵みを受けずに生きて行ける事など不可能であろう。食料となる獣も、草も、果実も、全ては大地と空の恵みによって育っているからだ。

 この景色を見る限り、この地域で生きる魔物達の上にも、確かに神や精霊の祝福は下りている。大地に根付いた草花は、その生命力を誇るかのように咲き乱れ、小川を流れる水は清らかに澄み、その川で生きる魚達は澄んだ水の中で生きる小さな生命を食料としていた。

 魔物であろうと、エルフであろうと、人間であろうと、この暖かな恵みがなければ生きてはいけないのではないかと、初めてサラは考える事となる。

 

「カミュ、この先には断崖絶壁の岩山しかないぞ?」

 

「ああ、地図上でも行き止まりにはなっているが、行ってみるしかない」

 

 太陽の恵みによって咲いている花々に興味を示したメルエと共に、美しい景色に頬を緩めていたサラとは別に、カミュとリーシャはこの景色を冷静に分析していた。

 森を抜けた先に見えるのは、断崖絶壁の岩山。それ程近距離ではないが、岩山の大きさが尋常ではない為、平原の先が行き止まりである可能性の方が高い事は明白であった。

 しかし、それでもカミュの言うとおり、彼らには進むしか方法がない。ガイアの剣という神代の剣が勇者一行の道を開くという予言を信じるのだとすれば、この先に彼らが目指す物があると考えるのが正しいのだろう。

 

「メルエ、行きますよ!」

 

「…………ん…………」

 

 地図を見ていたカミュが動き出すのを見たサラは、近場の花を見る為に屈んでいたメルエを呼び寄せる。笑みを浮かべて近づいて来た少女は、サラの手を握ってカミュの後を追って歩き出した。

 周囲に木々など欠片もない平原は、魔物達から姿を隠すような場所も存在せず、魔物側からも一行側からも全てが筒抜けのように見渡せる。それは逆に言えば、不意打ちのような物が否定される事となり、雨などが降らない限りは安全に歩けるという事を指していた。

 

 平原での旅は順調に進み、天候も崩れなかった為、二日目には岩肌に辿り着く事となる。魔物との遭遇もなく、空に輝く太陽は、夜半からの気温を取り戻すかのように暖かな光を降り注いでくれた。

 メルエは上機嫌にサラの手を取り、教えて貰った歌を口ずさみながら歩き続ける。そんなメルエの姿を見ながら、サラは数日間考え続けていた疑問が大きくなって行くのを感じていた。

 あの夜、メルエは呪文の行使の為に魔法力を全て使い切ったように眠っていた筈。それは魔法という神秘を持つ者にとっては必ず起きる事ではあるが、今までの経験上、メルエが新たに契約した呪文でそのような事になった記憶はない。誇るように新たな呪文を覚えた事を口にし、喜々として新たな呪文を皆の前で行使して来たメルエにしては珍しい事であったと言えるだろう。

 何より、メルエの性格上、自分が契約した筈の呪文が正確に行使出来ず、自分の力不足を痛感するような状況になって尚、このように上機嫌でいる事が出来るであろうか。

 そんな、自分でも何処か歪だと思う疑問を、サラは捨て切れずにいた。

 

「カミュ、向こうに岩の隙間が見えるぞ?」

 

 岩肌に辿り着き、その岩にへばり付くように動く小動物を見るメルエの姿にサラが目を奪われている間に、リーシャは断崖絶壁の岩肌に洞窟の入り口のような隙間を見つけていた。

 本来、洞窟とは危険な物である。中がどうなっているのかが解らず、人間が通れる程の幅があるのかどうかも解らない。更に言えば、その場所で人間が呼吸を出来るのかも解らなければ、危険な魔物が棲み付いている可能性も拭えはしないのだ。

 だが、それでも彼らに足を止めるという選択肢は残されてはいなかった。

 カミュの視線が他の三人に向けられた瞬間、全員が即座に頷きを返す。この洞窟に入る以外、彼等に道は残されてはいない。この場所がどれ程に天からの祝福を受けた場所であろうと、魔物達もまた、天からの恩恵がなければ生きて行けないとしても、彼等の目的は唯一つ。

 それは『魔王バラモス』の討伐なのだ。

 

「サラ、メルエを頼むぞ」

 

 先頭で洞窟内に入ったカミュの持つ<たいまつ>の明かりだけが頼りとなった時、リーシャの声に頷いたサラはメルエの手を取って洞窟内へと入って行く。サラの右手はメルエの手を、左手は<たいまつ>を握っている。魔物の襲来に瞬時に反応は出来ないだろうが、それでもサラはメルエを護るだろう。そして、一撃目を防げば、後は最後尾のリーシャの仕事であった。

 リーシャが慢心している訳ではなく、それだけの自信を持てる場数を彼女達は越えて来ている。何度も積み重ねた経験が、一つの言葉で全てを理解し、実践出来るだけの能力を育てて来たのだ。彼女達が歩んで来た旅は、それだけ過酷な物であったとも言えるだろう。

 

「人の手が入っている様子は微塵もないな」

 

「燭台もないとなれば、常に<たいまつ>の火だけが頼りか」

 

 狭い入り口を抜けると、屈む事無く立つ事の出来る程の広間へと出る。しかし、その空間はある程度の広さを備えてはいても、設備が整っている訳ではなかった。

 灯りを点す燭台がある訳ではなく、壁が整備されている訳でもない。自然に出来上がったと思われる洞窟は、暗い闇に閉ざされており、<たいまつ>で照らし出された僅かな距離だけしか視認出来ない状況であった。

 彼らがこれまで見て来た洞窟は、ある程度人の手が入っていたと言っても過言ではない。このような原始的な洞窟は初めてであり、視界の悪さと漂う邪気に、カミュとリーシャは警戒心を強めていく。

 

「一本道ですが、何が出て来るか解りませんからね……メルエ、傍を離れないで下さい」

 

「…………ん…………」

 

 慎重に歩を進め始めたカミュの後ろからサラとメルエが続く。この洞窟に人の手が入っていないとなれば、太古の昔より魔物の住処となっているという事になる。ならば、サラの言うとおり、不測の事態が起こる可能性もあるだろう。傍にいるメルエは、前方の闇の中で灯る<たいまつ>の灯りへ目を向けたまま、しっかりと頷きを返した。

 足元に注意しながらも、周囲を照らす灯りに映る洞窟内の姿は、やはり自然に出来上がった物である事が解る。剥き出しの岩肌は冷たく威圧的であり、滴る水滴が洞窟内を冷やしていた。

 

「一本道だな」

 

 最後尾を歩いていたリーシャの言葉通り、洞窟の入り口からは一本道が続いている。それ程狭くはない通路であるが、剥き出しの岩肌が閉鎖間を醸し出していた。

 短い一本道には魔物の気配はなく、一行は足元を注意しながらも、ゆっくりと前進を続ける。暫く歩くと、通路は右へと折れ、その先は小さな空間が広がっていた。空間の先には更に上へと上がる坂道が見え、それが上の階層へと続く道である事は明白。立ち止まったカミュの許に集まった三人は顔を見合わせて、その坂を上り始めた。

 

「息苦しくはないな……。魔物も存在するという事か」

 

「慎重に進みましょう」

 

 坂を上りきった場所は、更に暗闇が増している。

 闇は、人間の本能を恐怖させる。それは人間がこの世界に生まれた時に持つ生来の物であり、その本能があるからこそ、人間は火を使い、灯りを求めるのだ。自分の瞳では認識出来ない物を恐怖するのは、生き物であれば当然であろうが、人間は他の種族に比べて夜目が利かない。順応力は多種族に比べて低いのかもしれない。

 <たいまつ>を周囲に翳すと、そこは下の階層よりも広い事が解る。岩肌は相も変わらず威圧的ではあるが、目の前の通路は二方向に分かれていた。つまり、分かれ道がある程に洞窟内は入り組んでおり、それ相応を広さを持つと考えるのが妥当であろう。

 

「……どっちだ?」

 

「そうですね……リーシャさんに聞いてみましょう」

 

「私か!? う~ん……直進かな?」

 

 分かれ道が出て来た場合、このパーティーには『行き止まり探索機』が存在する。常にこのパーティーの探索を陰で支え続け、その信頼度はパーティーの全員が高く評価する人物。その重要度を理解していないのは、当の本人だけなのかもしれない。

 先頭で立ち止まったカミュの問いかけにサラも同調し、最後尾から追いついたリーシャが満更でもない表情で考え込む。そして、いつも通り、彼女が口にした方角とは別の方角へと彼等は歩み出すのだった。

 毎度の事ながら、問いかけたにも拘らず、意見を全否定される事に憤りを感じるリーシャではあったが、<たいまつ>という乏しい明かりの中でも柔らかな笑みを浮かべるメルエに手を取られ、仕方無しにその後を付いて行くのであった。

 

「……どっちだ?」

 

 しかし、その頻度が上がれば、流石のリーシャの機嫌も悪くなる。先程の分かれ道から時間を於かずに現れた十字路に溜息を吐き出したカミュの問いかけに、不満そうな表情をしたリーシャは、口を開こうとはしなかった。

 返って来ない答えに振り向いたカミュの視線を追うように、サラとメルエの視線もリーシャへと移動する。カミュはリーシャの言う事を聞かないが、サラとメルエはリーシャの言葉を待っている事が解った。特にメルエは、彼女の事を心の底から信じているというような澄み切った瞳を向けて来るのだから堪らない。

 

「左だ! それ以外はどっちに行っても同じだ!」

 

「え?」

 

 ぶっきらぼうに答えたリーシャではあったが、その答えを聞いたサラは、間抜けな声を上げ、心底不思議そうにリーシャの顔を見つめる。その姿を見たメルエも可笑しそうに微笑み、リーシャに向かって小首を傾げた。

 顔を背けていたリーシャではあったが、自分に再度集まる視線の違和感に気付き、自分が何か間違った事を言ってしまったかと考え込む。だが、自分が発した言葉に可笑しな所は見つからず、こちらもまた首を傾げてしまうのだった。

 

「……そこまで性能は上がったのか?」

 

「本当に凄いですね……」

 

「何がだ! 私に解るように説明しろ!」

 

 そんなリーシャの姿を呆然と眺めながらカミュが呟いた言葉に、サラも同意する。解らないリーシャにとっては、苛立ちしか募らない物ではあるのだが、それを細かく説明する気は、彼等二人には無いようであった。

 知らぬは本人ばかり。その探知能力の上昇は、魔物の巣窟となった場所を旅し続けなければならない勇者一行にとって、貴重な物であろう。それこそ、サラの回復呪文の増加や、メルエの攻撃呪文の増加よりも、ある意味で重要度は高いといっても過言ではなかった。

 説明する気の無い二人に掴みかかろうとするリーシャの手を握ったメルエが微笑み、改めてこの女性戦士の希少性を認識したカミュは、十字路を右に向かって歩き出す。それは、完全にリーシャの言葉を無視するような行動であるのと同時に、その言葉を無条件に信じている証でもあった。

 

「…………リーシャ…………」

 

「ぐぐっ……ん? どうしたメルエ?」

 

 歩き出すカミュの後姿を悔しそうに睨むリーシャの手が引かれる。手元へと視線を移したリーシャは、後方へと視線を送る幼い少女を目にした。

 その行動の理由を問いかけてはいるが、リーシャの中でその答えは既に出ている。その証拠に、反対の手は既にバトルアックスへと伸びていた。

 メルエという少女がこのような行動を起こす時、何があるかなど、説明しなくとも把握出来る。それだけの時間を共にして来ていたし、それだけの経験も積んで来た。それはリーシャだけではなく、他の二人も同様であろう。何も声を掛けなくとも、先を歩いていた二人がそれぞれの武器を手にして戻って来ていたのだ。

 

「メルエ、こちらに!」

 

 メルエが見つめていたのは、リーシャが指し示した左手の方角。<たいまつ>を向けても奥まで見えない程の闇に包まれた場所から数個の小さな光がカミュ達に向かって動き始めていた。

 手にした<たいまつ>を岩肌の出っ張りに引っ掛けたカミュとリーシャが先頭に立つ。その後方で杖を構えるメルエを庇うようにサラが立った。

 準備は整った。

 何度と無く繰り返して来た、勇者一行の戦闘の開始である。

 

「盾を掲げろ!」

 

 闇の中から突如出現した赤い光を見たカミュは、隣に立つリーシャに向かって叫んだ。咄嗟に反応したリーシャのドラゴンシールドに強い衝撃が当たる。それと同時に、周囲を髪を焦がす程の熱気が広がった。

 それと同時に姿を現した魔物は、重そうな体躯を引き摺るように首を伸ばし、先程の熱気を吐き出した口を大きく開いて雄たけびを上げる。その姿は以前、サマンオサ地方で遭遇した物と酷似した物で、驚異的な防御力を有する事は、魔物を包むような甲羅が示していた。

 

<ガメゴンロード>

サマンオサ地方に生息するガメゴンの上位種と考えられる魔物である。長い年月を経て劣化した龍種である事は変わりがないが、ガメゴンよりも龍種の血の名残を色濃く残している。その証拠に、その亀のような容貌とは異なり、口から炎を吐き出して周囲を焼く事も出来る。最下級であっても、純粋な龍種であるスカイドラゴン同様の火炎は、通常の魔法使いが唱えるベギラマなどを飲み込む程の威力を誇った。更に、ガメゴン同様、生まれた時から背負う甲羅は、鉄製の武器さえも弾く程に強固であり、戦闘時においては傷をつける事さえも難しいと云われている。遭遇した者の中で生き残った者はおらず、伝承にその姿が残っているだけであった。

 

「炎を吐き出すのは厄介だな……」

 

「一体だけなのが救いか……」

 

 前線に出ている二人は、暗闇から出て来た魔物が一体だけである事に安堵する。実際に暗闇から見えた光は複数のように見えたのだが、もしかすると<たいまつ>の光が甲羅に反射したのかもしれないと考えたのだ。

 暗闇から出て来たのはガメゴンロード一体。それ以外は見えず、伸ばされた首は前衛の二人の動きを警戒するように動いている。サマンオサで遭遇したガメゴンと同様の防御力を有しているのならば、カミュやリーシャの攻撃の効果が薄い可能性もあったが、それでも魔物の生態を知る為にも、攻撃を仕掛けてみなくては始まらないのも事実であった。

 故に、カミュが先陣を切った。

 攻撃対象が定まらないガメゴンロードに向かって駆け出したカミュは、それを迎撃しようと開かれた口へ剣を振り下ろす。龍種の爪や牙を加工したと云われるドラゴンキラーは、同じ龍種の鱗さえも斬り裂く程の鋭さを誇る。劣化したとはいえ、龍種であると云われるガメゴンロードの口元を容易く斬り裂き、その傷跡から体液が弾け飛んだ。

 

「ギシャァァァ」

 

 雄叫びのような悲鳴を上げたガメゴンロードは、甲羅に仕舞われた首を最大限に伸ばし、剣を振り下ろした態勢のカミュの横腹を力任せに払う。纏っている魔法の鎧を変形させるのではないかと思う程の衝撃を受けたカミュは、そのまま岩壁まで吹き飛ばされ、身体を強打した。

 カミュの状態を確認するよりも先に、伸び切ったガメゴンロードの首へと振り下ろされたリーシャの斧は、首が瞬時に甲羅へと収納された事によって空を斬る。そして再び顔を出したガメゴンロードが吐き出した火炎を防ぐ為にリーシャは盾を掲げた。

 吐き出された火炎は、龍種の物だからなのかは判らないが、ドラゴンシードを覆う龍種の鱗によって防がれ、その熱気をリーシャの身体に伝える事は無い。再び盾を下ろしたリーシャは、斬り裂かれた口によって、火炎を思うように噴射出来ないガメゴンロードの姿を見て、斧を横薙ぎに振るおうと身構えた。

 

「@%#$&&$」

 

「えっ?」

 

 斧が今にも振られようとしたその時、サラの真横辺りから奇妙な奇声が発せられる。その突然の出来事に、サラは間抜けな声を上げ、その傍にいたメルエは奇声の出所へと視線を動かした。

 その出所は、死の瀬戸際まで追い詰められたガメゴンロードの物ではない。<たいまつ>の灯りが乏しい中でははっきりと視認出来ない闇の中から聞こえたのだ。しかも、魔物の気配には人一倍敏感なメルエでさえも、今の今まで気付く事が出来なかったという事が、サラの心に恐怖を呼び起こさせる。

 

「くそぉ! 何時の間に増えたんだ!」

 

 闇へと視線を向けていたサラは、先程の奇声が魔物特有の呪文行使である事に気付き、その対象が自分やメルエでなかったと確認すると、前線の二人へと視線を戻す。しかし、その先に広がる光景は、とても信じたくは無い物であった。

 闇雲にバトルアックスを振り回すリーシャ。そして、それを嘲笑うかのように虎視眈々と火炎を吐き出す機会を伺うガメゴンロード。それは、このパーティーの主戦力である女性戦士が幻に包まれてしまっている事を明確に物語っていた。

 この旅の中で何度も幻覚系の呪文に惑わされて来たリーシャであるが、今回はカミュが未だに立ち上がっていないからなのか、味方に攻撃をするような事はなく、何度かガメゴンロードの甲羅を打つ場面も見える。それが、幻に包まれたといえども、正確に敵を見抜いている証であり、リーシャという女性戦士の力量の上昇の証でもあるのだろう。

 

「メラ!」

 

 危機的状況を目にしたサラは、即座に先程の奇声の発信源に向かって最下級の火球呪文を放つ。小さな火球が岩肌に衝突し、弾ける事で証明のように周囲を明るく照らした。そして、そこにあった物を見たサラは、怪訝そうに眉を顰めながらも、傍で眉を下げているメルエに視線を移す。

 その視線を受けたメルエは、自身の役割が与えられる事を理解したのだろう。即座に眉を挙げ、雷の杖を握って指示を待つ態勢へと変化する。その姿がサラにはとても頼もしく映った。

 

「メルエ、一緒に。カミュ様を治療した後、リーシャさんを傷つけないように呪文を行使しますよ」

 

「…………ん…………」

 

 頷きを返したメルエと共に駆け出したサラは、リーシャとガメゴンロードの間を縫うようにカミュの許へと辿り着く。

 未だに起き上がる事の出来ないカミュは、打ち所が悪かったのか、内臓を傷つけているのかもしれない。即座にベホイミを詠唱したサラであったが、一度の詠唱では回復しない事に眉を顰め、再度ベホイミを詠唱した。

 サラがカミュを治療している間も、メルエはガメゴンロードと、未知なる魔物の方向を交互に見つめ、呪文行使の機会を伺う。以前までのメルエであれば、カミュが倒れたという非常時にうろたえていたかもしれない。だが、今のメルエはサラという『賢者』を信じているし、自身の役割を正確に把握していた。

 

「すまない……助かった」

 

「カミュ様、リーシャさんはマヌーサの影響を受けています。ですが、マヌーサはあの龍種が行使したのではありません。あちらの方角にその魔物がいると思われます。先にその魔物を倒さなければ……」

 

 起き上がったカミュは、サラの口から出た言葉を聞き、『またか』と小さく呟きながらも現状を正確に把握する。そして、サラの指差す方角に岩肌に掛けた<たいまつ>を放り投げた。

 乾いた音を立てて転がる<たいまつ>の灯りは、その場所にある何かを映し出す。しかし、その何かは、その姿からは想像も出来ない事を起こすのだった。

 <たいまつ>の炎に映し出されたのは、只の袋。薄汚れた袋は、旅人が持つような皮袋ではなく、布で出来たような麻袋に近い色合いをしていた。だが、その袋は、まるで<たいまつ>の炎から逃げるように場所を移したのだ。

 飛び上がるように動く袋が、只の袋である訳は無い。それは生命を持った何かなのだろう。袋の中に魔物が生きているのかもしれないし、袋そのものが生命体なのかもしれない。人喰い箱やミミックという無機質な物体にも命を吹き込む程に魔王の魔法力は強い。ならば、只の布袋に命を吹き込む事など容易いと考えても決して考え過ぎではないだろう。

 

「ヒャダイン」

 

 剣を持ち直したカミュが、布袋の方へ駆け出すその時、サラの詠唱の声が響き渡った。

 未だに幻に包まれているリーシャに向かって、一歩下がったガメゴンロードが火炎を吐き出したのだ。その火炎を今のリーシャが盾で防ぐ事は不可能であろう。故に、その火炎を相殺するようにサラが持ち得る最強の氷結呪文を唱えたのだった。

 ヒャダインという氷結呪文は、ベギラマという灼熱呪文よりも上位の魔法である。古の賢者達が、ヒャダルコの上位魔法を編み出したのか、それとも太古から脈々と受け継がれている物なのかは判らないが、サラはこの氷結呪文が最上位の物だとは思っていない。ベギラゴンという最上位の灼熱呪文に匹敵するような氷結呪文もまた、あの『悟りの書』の中に記されているのだ。

 

「カミュ様、援護はしますが、あの袋が何であるか解らない以上、軽率に呪文を行使する事は出来ません」

 

「わかった……」

 

 リーシャを襲う火炎が全て蒸発した事を確認したサラは、駆け出そうとするカミュに向かって己の考えを口にする。確かに、魔物であるかも定かではない物に呪文を行使するのは諸刃の剣と言っても過言ではないだろう。魔法の効かない魔物とは既に遭遇しているし、精神系の呪文を持つ魔物であれば、マホトーンのような呪文妨害の術も持っているかもしれない。

 それを理解しているからこそ、カミュは大きく頷きを返した後、転がる<たいまつ>の方向へと一気に駆け出した。

 

「クケケケ」

 

 しかし、駆け出したカミュは、横合いから襲い掛かる金属に気付き、咄嗟に盾を掲げる事となる。軋む龍種の鱗と乾いた金属音が洞窟内に響き、身を転がしたカミュが拾い上げた<たいまつ>を掲げる事によって、その未知なる生命体の全貌が明らかとなった。

 嫌らしい笑い声のような声を響かせるその袋の中腹には、巨大な二つの瞳と大きく裂けた口が浮かんでいる。まるで袋の中とは別の次元へと繋がっているのではないかと思う口からは鋭い牙とだらしの無い舌が垂れ下がっていた。

 袋の口を結ぶ紐は緩んでおり、中から飛び出した金銀の財宝や宝石が今にも零れ落ちそうになっている。その金で出来た鎖のような物が、先程カミュを襲った物であった。

 

<踊る宝石>

財宝目当てに洞窟に入った盗賊などが魔物に襲われて命を落とし、袋に入れた財宝が放置された結果、魔王の魔法力で命を吹き込まれたとも、洞窟に逃げ込んだ盗賊達の持っていた財宝が魔物と化し、盗賊達を喰らう事で上位の魔物となったとも云われている。袋は安物の布袋ではあるが、中に入っている財宝は高価な物が多く、この魔物を目的に洞窟に入り、一攫千金を狙う者達も多かった。人間による各地の開拓が進むにつれ、洞窟などでその姿は皆無となり、今では伝承でしか知られていない。

 

「メルエ、リーシャさんの援護を!」

 

 横合いからの攻撃を盾で弾いたカミュが、視界の悪さもあって踊る宝石の姿を見失う。<たいまつ>を掲げて周囲を見渡す間に、サラは杖を握るメルエへと指示を飛ばした。

 頷きを返したメルエではあったが、リーシャとガメゴンロードの距離が近すぎて呪文の行使が出来ない。今のメルエは魔法の威力を調整する事は出来るが、それでも彼女が行使する魔法の威力は規格違いなのだ。

 魔物を攻撃した余波でリーシャが傷つく可能性がある以上、この心優しい『魔法使い』は動けない。それを確認したサラは、行使する機会を探りながらも踊る宝石の横槍に気を配った。

 

「メルエ、今です!」

 

「…………ん………メラミ…………」

 

 リーシャの持つバトルアックスがガメゴンロードの甲羅に弾かれ、彼女が態勢を崩すのを見たガメゴンロードが距離を空ける。その機会を待っていたサラは、隣で杖を突き出したメルエに最終の指示を飛ばした。

 杖を振り下ろした少女の魔法力は、大きな火球となって魔物へと突き進む。距離が空いたとはいえ、ベギラゴンやヒャダインなどであれば、傍にいるリーシャを巻き込む可能性もあり、単体に攻撃が可能な火球呪文を選択したのだろう。

 口を大きく開いたガメゴンロードの顔面に向かって飛んだ火球は、そのまま劣化した龍種の鱗をも焼くかに思われた。

 

「M@H0K@」

 

「えっ?」

 

 サラもメルエも魔物の機能の一時停止を確信していたが、それは露と消えて行く。

 大きく口を開いたガメゴンロードは、その口から火炎を吐き出すのではなく、奇妙な雄叫びを上げたのだ。それは彼女達が何度も聞いた事のある、魔物特有の呪文詠唱。

 サラの驚きの声と共に、ガメゴンロードの身体を光の壁が包み込む。

 暗闇に閉ざされた洞窟の中でも視認出来る程の光の壁は、<たいまつ>の明かりを反射するような輝きを放ち、ガメゴンロードの周囲に完成した。

 そして、人類最高位に立つ『魔法使い』が放った火球は弾かれた。

 

「メ、メルエ!」

 

 『人を呪わば穴二つ』

 相手を呪詛するなば、その相手も自分を呪詛している可能性もあり、その呪いは必ず術者に帰って来る。そんな言葉が一瞬サラの頭の中で渦巻いた。

 弾かれた火球は、術者であるメルエに向かって真っ直ぐ飛んで来ている。魔物の身体さえも融解させてしまう程の熱量を誇る火球である。メルエのような少女がその身に受ければ、骨さえも残らない可能性もあるだろう。

 今の状況を正確に把握出来れば、ガメゴンロードの唱えた呪文が、以前にメルエが唱えたマホカンタである事は直ぐに解る。だが、余りに突然の出来事であった為、サラは困惑していた。メルエが唱えた際に、それを魔物が唱えた時の脅威を考えていたにも拘らず、実際にその場になった時には何も出来なかったのだ。

 

「……あ…ああ……」

 

 サラが正気に戻る暇もなく、呆然と立つメルエに火球は迫って行く。弾かれた事によって速度こそ落ちてはいるが、その威力に陰りはない。

 対抗策としては、ヒャダインなどの氷結呪文をぶつけて相殺する事しかないのだが、この距離では相殺し切れはしないだろう。そして、メルエでさえもその事に思い当たらず、只々迫り来る火球を見つめている事しか出来なかった。

 

「おりゃぁぁぁ!」

 

 パーティー内で最強の呪文使いと魔法使いが呆然とする中、彼女達の胸を振るわせる雄叫びが洞窟内に轟く。そして、その瞬間、メルエに迫っていた大きな火球は、真っ二つに斬り裂かれ、大きな爆発音にも似た音を立てて左右の岩肌に弾け飛んだ。

 真昼のように明るくなった洞窟内で、メルエの前に立った者は、手にした斧を地面に叩きつける。その腕は熱によって焼け爛れ、伸び始めていた金髪の髪は中程まで焦げていた。斧は真っ赤に熱し、それを持つ手もまた、皮膚を溶かす不快な臭いを放っている。それでも彼女の瞳は、目の前の魔物一点に注がれ、怒りを湛えていた。

 

「…………リーシャ…………」

 

「すまなかった。また私は幻覚に襲われていたようだ」

 

 自分の目の前に立つ大きな背中に安堵したメルエは、その頼りになる姉のような存在の名を口にする。その声にも振り返ろうとしない女性戦士は、謝罪の言葉を口にした後、手に持つ斧を何度か振り、その温度を下げて行った。

 真っ赤に熱した斧の色が、金属の色へと戻る頃、サラはその身体を回復させる為に三度目のベホイミを唱える。既に一度や二度の詠唱では、回復出来ない傷を負う事も多くなって来ていたのだ。

 

「リーシャさん……髪が……」

 

「髪などまた伸びて来る。それよりもサラ、あの魔法は術者が死ぬまで有効なのか?」

 

 焦げた髪の毛は、洞窟の床へと落ちている。四年の旅の間でも、何度か伸びた髪を切りそろえる事によって、肩口付近に揃えていたリーシャの金髪は、耳も見える程に短くなっていた。

 髪は女性にとって命にも等しい物である。多少のウエーブが掛かっているとはいえ、リーシャの持つ綺麗な金髪であれば、専門の業者に良い値段で買い取って貰える程であろう。それ程に美しく輝く髪の毛を何でもない事の様に話すリーシャの顔を見たサラは、リーシャ自身でマヌーサによって陥った幻から抜け出した事を知った。

 後方を見れば、先程のメラミの破裂によって明るくなった事で、カミュは踊る宝石の姿を確認し、今まさに止めを刺そうとしている。術者である踊る宝石が生きている以上、リーシャがその呪文の効力から抜け出す事は実質不可能に近く、相当な精神力を必要とした事が伺えた。

 メルエの危機が彼女を呼び戻したのか、それとも魔物への怒りが彼女を正気に戻したのかは解らないが、今のリーシャの目的は只一つという事だけは確かである。

 

「いえ、あの呪文は一度きりしか効果はありません。一度魔法を弾いてしまえば、光の壁もまた霧散します」

 

「そうか……ならば、あの魔物にルカニを」

 

 サラの答えに頷いたリーシャは、手短い指示を口にした後、一気にガメゴンロードへと突進する。ルカニという守備力低下の呪文の詠唱を促すという事は、手に持つ武器で直接攻撃するつもりなのだろう。リーシャのバトルアックスとて、最強の武器である訳ではない。先程のように高熱に曝され、融解しそうな程に熱しきった金属を急激に冷やしたのだ。その構造が脆くなっていても不思議ではないだろう。

 それでも、リーシャという女性戦士は斧を振るう筈。それは、彼女の誇りでもあり、彼女の使命でもあるからだとサラは知っていた。

 

「@%#$&&$」

 

 そんなサラとリーシャの短いやり取りの最中、カミュは踊る宝石を追い詰めて行く。追い詰められた踊る宝石は、浅く斬られた袋の端から小さな宝石をばら撒きながらも詠唱を口にする。それは、勇者一行の中で最強の攻撃力を持つ戦士の精神を蝕んだ呪文であり、攻撃対象を見失う幻覚に陥る魔法。

 しかし、精神呪文というものは、不意打ちでなければ高位の者には効果がない。

 

「あの馬鹿と一緒にするな……」

 

「グキャ」

 

 呪文がカミュを包み込むが、その程度で揺れる勇者の精神ではなかった。

 不敵な笑みと共に振り下ろされた剣は、正確に踊る宝石を頭上から真っ二つに斬り裂き、袋の中身を辺りにばら撒かせる。飛び出した財宝や宝石の輝きは闇に吸い込まれ、断末魔の叫びを上げた踊る宝石は只の布袋へと戻って行った。

 転がる<たいまつ>を拾い上げたカミュは、そのままガメゴンロードと対峙したリーシャの方へと視線を向けるが、そちらの戦闘も終盤を迎えていた。

 

「ルカニ!」

 

「いやぁぁぁ!」

 

「M@H0K……」

 

 駆け出したリーシャの陰に隠れるように身を動かしたサラは、リーシャの到着と同時にその呪文の詠唱を完成させる。呪文の対象を魔物に絞った詠唱は、前方を駆けるリーシャの脇をすり抜け、ガメゴンロードに襲い掛かった。

 死角から詠唱された呪文に対応が遅れたガメゴンロードの詠唱は最後まで続かず、振り下ろされたバトルアックスの小さな刃がその甲羅に吸い込まれて行く。甲羅の中央に突き刺さったバトルアックスは、その威力によって甲羅全体に大きな亀裂を入れた。

 バトルアックスという斧は両刃の武器である。だがその刃は、片方が大きく、片方が小さな物であった。大きな方が面は広く通常の戦闘で使う事が多い。それにも拘らず、リーシャは小さな刃の方で甲羅を打ったのだ。

 それは、小さな刃での一点突破を図ったからであろう。世界最高位に立つ戦士の力が、その小さな刃に全て集中される。その攻撃力は計り知れない物であった。

 

「グギャァァ」

 

 甲羅に深々と突き刺さった斧を引き抜いたリーシャは、間髪入れずにもう一度同じ場所へ斧を振り下ろす。大きな亀裂の入った甲羅は、二度目の攻撃で木っ端微塵に砕け散り、既に形を変えてしまった小さな刃は、ガメゴンロードの本体を抉って行った。

 甲羅と共に砕けたバトルアックスの小さな刃は、鋭い刃へと変化し、劣化した龍種の鱗を突き破り、その臓腑をも壊して行く。断末魔の叫びを上げ、瞳の光を失ったガメゴンロードは、だらしなく首を床へと落として生を手放した。

 

「終わったか?」

 

「カミュ様……鎧が?」

 

 沈黙したガメゴンロードを見下ろすリーシャの後姿を見ていたサラは、近づいて来たカミュの胴体を見て驚きの表情を浮かべる。先程、回復呪文を詠唱した時には周囲の闇の影響でカミュの胴体を護る鎧の具合まで気付く事はなかった。

 カミュが纏う魔法の鎧の脇腹付近は、ガメゴンロードの攻撃を受けた事によって醜く窪んでしまっており、防御力に支障はないだろうが、着続ける事に抵抗がある程の形状となっていたのだ。だが、それでも鎧としての機能がある限り、この場所で鎧を脱ぎ捨てる事は命を捨てる事と同義である。それをカミュも理解していた。

 

「片刃が駄目になってしまったな……」

 

 そんなサラの許へリーシャも戻って来る。斧の刃の部分に顔を近づけるようにして歩いて来た彼女は、その武器にも限界が来ている事を薄々感じ始めていたのかもしれない。

 バトルアックスは、スーの村で購入した武器であり、あれから二年近くの月日が経過している。よくよく考えれば、鉄の斧という武器程の付き合いはないかもしれないが、それでも随分の時間を共にしていると言えるだろう。

 リーシャは戦士である為か、武器の手入れを欠かす事はなく、常にその輝きが失われる事はなかった。その大切にしていた武器を、己の無茶によって潰してしまったのだから、彼女の胸の内は外から見るほど穏やかな物ではないだろう。

 

「…………ごめん……なさい…………」

 

「ん? メルエが何を謝る必要がある? 今回の魔物が魔法を反射する呪文を唱える事を知る事が出来た。それだけでも大きな収穫だ」

 

「そうですね……私の方こそ、申し訳ありません。あのような場面で咄嗟に相殺の呪文を唱えなければならなかったのに……。私もメルエも、もっと頑張らないといけませんね」

 

 少し湿った空気が流れていた事が原因なのか、今まで全く言葉を口にしなかったメルエが、泣きそうに顔を歪めながらも小さな謝罪を口にする。彼女にとって、魔法とは誇りであり、自分が自分である為の大事な戦友である。それが役に立たなかったという事は身を削られる程に辛い事なのかもしれない。

 しかし、そんな少女の謝罪は、髪が極端に短くなった戦士によって一蹴される。そして、それに同調するように口を開いたサラは、自分が突然の出来事に固まってしまった事を謝罪し、罪悪感に苛まれている少女に、まだまだ成長する必要性を説いた。

 姉のように慕う二人から言われた言葉に頷いたメルエは、横から出て来た勇者の手が頭に乗った事で目を細める。ゆっくりと優しく、それでいて力強く撫でるその手は、いつでもメルエの心に強さを生み出す。恐怖に陥った時でも、哀しみに暮れた時でも、そして自信を失ったその時も、この大きな手が何度もメルエを引き上げてくれるのだ。

 

「行くぞ」

 

 自分の頭から離れた大きな手に残念そうな顔を浮かべたメルエであったが、大事な相棒である帽子を被り直し、その後を追うように歩き出す。そんな二人の様子に柔らかな微笑を浮かべたリーシャとサラもまた、岩肌に掛けていた<たいまつ>を再び握り直し、洞窟の奥へと進んで行った。

 暗闇の中へと<たいまつ>の炎が消えて行くと、魔物達の死骸だけが残り、再び洞窟内は深い闇と痛い程の静寂が広がって行く。魔王の直轄地とも考えられるネクロゴンドに生息する魔物達の力量は、ここまでの旅の中でも群を抜いていた。

 僅かな油断が命取りとなり、力任せの攻防であれば身を護る防具や武器さえも失いかねない程に過酷な場所。それは、彼等が目的へと着実に近づいている事の証明なのかもしれない。

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

本当はあの武器の場所まで行きたかったのですが、思っていたよりも戦闘シーンに文字数を取られてしまいました(苦笑)。
ネクロゴンドの洞窟は全部で3話ほど必要なのかもしれません。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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