新訳 そして伝説へ・・・   作:久慈川 京

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幽霊船②

 

 

 

 暗闇に支配された廃船の破れた帆が風に靡く中、ようやくサラの状態が落ち着きを見せ、一行は再び幽霊船探索を再開した。

 <たいまつ>で照らし出される廃船内部は、今にも崩れそうな程に脆く、先程の戦闘の傷跡も色濃く残っている。腐りかけの床板を踏み抜いてしまわないように注意深く歩く一行は、下への梯子を発見するが、それを素通りし、船尾へと抜けて行った。

 

「カミュ、先程のあの魔物は、何故この幽霊船に居たのだろうか?」

 

「……解らないが、この船の中にある何かを探していたのかもしれない」

 

 船尾が近づく頃、先程から黙り込んでいたリーシャが徐に疑問を口にする。その疑問は、彼女だけではなく、このパーティー内のメルエ以外の人間が感じていた疑問に他ならない。

 先程葬り去った<ミニデーモン>という存在は、その魔物の言葉を信じる限り、多数の部下を従える程の地位を持っていたのだろう。

 そして、何よりテドンを滅ぼした魔物の一部であり、メルエの母を殺した張本人である事を窺わせていた。また、部下である<ベビーサタン>をアッサラームに派遣し、メルエの母の生死を確認させる命を与え、更に生きていれば始末するようにも命じている。

 それ程の権限を持つ魔物となれば、『魔王バラモス』の傍近くに居た魔物と考えてもおかしくはなく、そう考えるのならば、このような廃船に居る事自体が謎なのだ。

 

「この船の中に、本当にオリビアの岬の先へと進む為に必要な物があるのだとしたら、魔物達はその先にある何かを『人』には渡したくないのかもしれませんね」

 

「ガイアの剣か……」

 

 先程の戦闘を機に、自身の中で何かが弾けたのだろう。先程までのようなか細く震えた声ではなく、しっかりとした口調で話すサラの言葉に、カミュは考え得る物の名を口にした。

 それは、サマンオサの英雄と呼ばれる『サイモン』が所有する神代の剣であり、大地の女神の祝福を受けた聖なる剣。

 カミュの持つ剣もまた神代から伝わる剣ではあるが、全世界に名が通る程の一品ではない。ジパングという国が世界に認識される程の大国であれば、<草薙剣>と呼ばれる神剣も世界に名立たる聖剣となっていた事であろう。

 同じ神代の剣でも、大地の女神に祝福された剣である<ガイアの剣>は、サラの言葉通りだとすれば『魔王バラモス』でさえも意識する程の一品であるようだが、それが剣の切れ味に対する物なのか、それ以外の特殊な能力への物なのかは、カミュ達一行には解らなかった。

 

「いずれにせよ、この船を探索するしかないようですね」

 

「…………サラ………こわく……ない…………?」

 

 結論は、『解らなければ探索するのみ』という物であったが、先程とは打って変わった態度を示すサラを見上げていたメルエが首を傾げる。

 少し前までは、自分の手が潰れる程に強い力で握り締めていたサラが、真っ直ぐ暗闇に目を向けている事が、幼い少女には不思議に見えたのだろう。正直、余りにも変わり過ぎであると言っても過言ではなかった。

 

「メ、メルエ、言わないでください……これでも我慢しているのですから」

 

「…………ふふ…………」

 

 実際、メルエの低い視野に映るサラの足は小刻みに震えていたのだから、不思議がるのも当然の事である。そして、メルエの予想通り、強気な姿勢は完全なる虚勢であり、胸の内に蠢く恐怖を隠し続けていた結果であった。

 情けない顔をして震える声を発するサラの姿に微笑んだメルエは、いつも自分がしてもらっているように、優しく手を差し出し、頼りない姉の手を取る。安心したような笑みを浮かべるサラに対して頷きを返したメルエは、溜息を吐き出して歩き出したカミュの後ろをついて歩き始めた。

 

「むっ……カミュ、何かが居るぞ」

 

「ま、またですか……?」

 

 船尾となる、廃船の最後尾まで辿り着いたカミュ達は、その場所に何もないと感じ、先程発見した下へ続く梯子の場所へ戻ろうと踵を返すが、霊と共に彷徨い続ける船には不釣り合いな花壇のような場所で動く影を見つけたリーシャが、戻り掛けたカミュへ声を掛ける。

 それに驚いたのはサラであった。先程遭遇した<ミニデーモン>の部下達が船の中を探索している可能性もあるが、『幽霊船』と名が付く以上、彷徨う亡霊が姿を見せる可能性の方が高く、痩せ我慢をしていたサラにとっては、恐怖の始まり以外の何物でもなかったのだ。

 

「おや? 貴方達は亡霊ではなさそうですね……さては、貴方達も財宝が目当てですね?」

 

 向けられた<たいまつ>の炎でカミュ達の存在に気が付いた影は、四人の居る方へ歩み寄って来た。

 それはお世辞にも身なりが良いとは言えない男性であり、<たいまつ>と共に持つ大きな袋で両手が塞がった人間。言葉も人語であり、魔物の持つ邪気も感じない。只の人間である事は間違いないが、発したその言葉に、リーシャとサラはあからさまに顔を顰めた。

 この『幽霊船』の噂は、カミュ達が知る事が出来た物であるのだから、世界中で噂になっている事は明白である。ならば、この『幽霊船』を探す者が居ても不思議ではなく、<船乗りの骨>を所持していなくとも、たまたま『幽霊船』と遭遇した者がいてもおかしくはないだろう。

 

「私も運良くこの船を発見し、小舟で乗り移りましたが、この船にいるのは亡霊ばかり……参りましたよ」

 

「ふぇ!? ぼ、亡霊は本当にいるのですか!?」

 

 カミュ達の返事を待つ事無く発した男性の言葉に、サラは素っ頓狂な声を上げる。

 事実、この男性の持っている袋は、殆ど空の状態である事を示していた。それは、この船の甲板上では何一つ発見する事は出来ず、船を彷徨う亡霊との遭遇しかなかった事を示している。

 だが、カミュやリーシャは、男性の発した言葉の中にある異なる部分に意識を止めていた。

 怯えるサラの手を先程よりも強い力で握るメルエも気付いておらず、サラを怖がらせる男性に対して厳しい瞳を向けているが、カミュ達が軽く会釈したきり来た道を戻り始めた事で、完全に興味を失ってしまう。

 その他の会話を一切する事無くその場を離れた一行は、そのまま下へ続く梯子へ向かって行った。

 

「小舟など、この船の周辺にはなかったな?」

 

「ああ……どうやってこの船に入ったのかは解らないが、あの男が戻れる保証は何処にもないだろう」

 

 梯子の場所へ戻り、下のフロアへ<たいまつ>の炎を向けていたカミュへ掛けたリーシャの言葉は、端的な事実を述べるに留まり、そこに他の感情を見出す事は出来ない。それはカミュも同様であり、あの男性の現状を理解して尚、それに同情を示す訳でもなく、その状況から救おうとしているようにも思えなかった。

 何かを言いたげに視線を向けるサラではあったが、財宝荒らしを公言する男性に対し、彼女自身も何か思うところがあったのだろう。何度か口を開閉させたきり、結局声を発する事は出来なかった。

 

「下へ降りる」

 

「わかった。サラとメルエは先に行け」

 

 <たいまつ>を翳して奥を窺っていたカミュは、一度振り返ってリーシャと視線を合わせ、梯子へと足を掛ける。頷きを返したリーシャは、未だに手を繋いでいるサラとメルエを先に行かせ、周囲を警戒するように<たいまつ>を向けた後、最後に梯子を降り始めた。

 下のフロアは、月明かりがない分、甲板よりも更に暗い。船倉の板も腐った物が多く、その穴から細い月明かりが差し込んでいるが、<たいまつ>の炎が無ければ一歩たりとも歩く事は出来ないだろう。

 

「カミュ様……」

 

「…………つめたい…………」

 

 何よりも驚く事は、下に降りた一行の足を濡らす海水であった。

 船倉の板が腐っており、所々に穴が開いているのである。その穴から海水が入り込み、床を濡らすばかりか、一行の脛の部分まで海水は侵食していたのだ。

 そのような船が海に浮かぶ訳はない。一度海水が入り込んだ船は、徐々にその船体を沈ませ、それによって更なる海水の流入を呼び込み、そのまま深海へと引き摺り込まれてしまうのが通常である。

 それにも拘らず、この船は月光の下、大海原を渡り続けているのだ。

 

「……余り時間は残されていないのかもしれないな」

 

「……ああ」

 

 最後に梯子を降りたリーシャは、眉を下げているメルエを抱き上げ、この船の行く末を口にする。それにはカミュも同意を示し、上部にある燭台へと次々に炎を移して明かりをともして行った。

 脛まで海水に浸る事による体温の低下も危惧されたが、気温の下がる夜にも拘らず、船内の海水は生暖かい。これ以上の海水が中に入って来ない為か、それともこの船に残る霊魂の温かみが残っているのか、不快に感じる程の温度であった。

 

「ひぃぃぃ!」

 

 そんな時、下のフロアの仕切りを隔てた向こうから、何か直接脳に響くような音が聞こえて来る。それは、音というよりも歌と表現した方が正しいのかもしれない。禍々しく、恨めしい歌声は、『人』の心の奥底に眠る恐怖心を煽るように、直接響いて来た。

 期待を裏切らないサラの反応にリーシャは溜息を吐き出すが、その歌声自体がとても生者の物とは思えない為、<たいまつ>を握ったカミュへと視線を移す。視線を受けたカミュは、それに返答せずに仕切りの向こうへと歩を進め始めた。

 今にも腰を抜かしそうなサラは、涙目になりながら必死に首を横へと振り続けるが、その願いは天にも仲間にも届かず、悲鳴に近い鳴き声を上げながらリーシャの腕にしがみ付く。

 

「……これがこの船の動力か」

 

 仕切りの向こうへと出たカミュは、そこに広がる光景を見て、何かを感じたように眉を顰めた。リーシャも同様の表情を浮かべるが、その腕にしがみ付いたサラは必死に目を閉じている。

 目の前に広がる光景は、通常の人間であれば到底信じる事など出来ない物であろう。この船が『幽霊船』であるという知識がない限り、この光景を見た人間の誰しもが驚き、誰しもが死の恐怖を味わう筈である。

 この時代の船という乗り物の動力は二つある。

 風力と、人力である。

 風を帆に受け、それを動力として海上を走る物と、人の力で漕ぐ事によって進む物。大抵の船の場合、その二つを有する物が殆どであり、カミュ達が乗船する程の船でもない限り、帆の向きを変える事によって進む物など皆無に等しいのだ。

 そして、この『幽霊船』も例外ではなく、破れ果てた帆の代わりの動力になるのは、漕ぎ続ける事の出来る者達なのだ。

 その行為は、死して尚続くのである。

 

「……惨いな」

 

 リーシャでさえもそう口にしてしまう程、目の前の光景は惨たらしい物であった。船の壁面には数多くのオールが並び、その場所には様々な物が座り込みながら動かしている。それらは様々であり、血肉があるとは思えない骨だけとなった者や、既に肉体を持つ事を許されていないであろう透き通る身体を持つ物など、生者など一人たりともいなかった。

 死して尚、この『幽霊船』の動力として酷使され続けている者達は、己を慰めるように歌を口ずさみ、活力など感じる筈はなく、只々同じ行動を繰り返している。改めて見れば、それは恐怖よりも哀愁を感じる程の物であった。

 

「……奴隷か」

 

「この船は奴隷船なのか?」

 

 その光景を見て呟かれたカミュの言葉にリーシャが反応し、その聞き捨てならない単語に、ようやくサラの瞳が開かれる。

 この時代、奴隷という身分は当たり前に存在し、身分の高い貴族社会では極当然の考えでもあった。現に、彼等と共にいるメルエという少女は、奴隷として売られ、奴隷としての生涯を閉じるところをカミュ達に救われている。だが、メルエのような幸運な巡り合わせを持つ者は多くない。大抵の者は、奴隷としての人生を送り続け、絶望と悲しみの中で死を迎えるのだ。

 この船がそんな奴隷達を運び、身分の高い者達に売りつける奴隷商人の船であれば、その船の動力源となるのもまた奴隷である事は当然であろう。奴隷であれば代わりは幾らでもおり、過酷な労働の中で死を迎えた物は、海へと投げ込めば邪魔にもならない。それは最早『人』の所業ではないが、時代の闇の中に確かにある事でもあった。

 

「そうさ、船を漕ぐのは、奴隷か罪人の仕事なのさ」

 

「ひぃぃぃ!」

 

 顔を上げたサラであったが、突如掛った見知らぬ声に再び悲鳴を上げる。カミュとリーシャが前へと進んでいた事によって、そのリーシャの腕にしがみ付いていたサラもまた、気付かぬ内に亡霊達に囲まれてしまう場所へと移動していたのだ。

 声を掛けて来た者は、既に肉体を失った骨だけの物。それが魔物であれば、サラは悲鳴を上げなかったのかもしれない。骨だけの存在など、ここまでの旅で何度も見てきてはいるし、サマンオサではそんな骸骨相手に戦闘を繰り広げているのだ。

 だが、何とも物悲しい空気を醸し出すその存在は、この世に無念を残して死んで行った霊魂。『魔王バラモス』の魔法力の影響で動いている物ではなく、『精霊ルビス』の許へ逝けない程の無念を残している為にこの世を彷徨う者達である。

 それが、この者達の意思なのか、それとも他者の無念に引き摺られているのかは解らないが、恐怖に引き摺り込まれたサラは、そこから抜け出す手段がなかった。

 

「オラは、村で人を殺しちまったで奴隷に落とされだ……だからどんな死に方をしたって仕方ねぇって思うだよ。でも、そこに居たエリックって奴は、この船の主に無理やり連れて来られたって……可哀相にな」

 

「……エリック?」

 

 肉体を持たぬ者が言葉を話す事など出来はしない。全てその言葉は、一行の脳に直接響いて来るようであった。

 骨だけの者の横にいた透き通る身体を持つ霊魂が続けて言葉を紡ぐ。この者は、自身が暮らしていた村で同郷の者を殺してしまい、村の人間達に取り押さえられた挙句、奴隷商人に売り払われてしまったのだろう。

 村とは『人』の集合によって成り立つ場所である。その中には良き感情や悪しき感情が入り乱れる。だが、それを表面に出し、禁忌である『人殺し』を犯してしまっては、集落で暮らす事など出来はしないのだ。

 そんな男の人生に顔を顰めるリーシャやサラとは異なり、カミュは話の中にあった人物の名前に意識を向ける。そして、男が顎で指示した空席へと視線を移した。

 

「…………あっち…………」

 

 その部分にあるオールを誰も握っていない事を見たカミュは、リーシャの腕の中から声を発したメルエの指差す方向へと視線を動かす。そこには、既に身体越しに床板が透けている男が寝そべっていた。

 最早船を漕ぐ気力もなく、それに縛られる事もないのだろう。ならば、何故この場に霊魂として残っているのかが解らないが、その霊魂がエリックという名の男性に物だとすれば、カミュ達は言葉を交わす必要があったのだ。

 

「おい」

 

「ああ、オリビア……もう船が沈んでしまう……君には永遠に会えなくなるのだね。でも、僕は忘れない。君との愛の思い出を……」

 

 近くに寄ったカミュが声を掛けるが、既にカミュの言葉を聞き取る事などこの霊魂には出来ないのかもしれない。

 うわ言のように口を開いて発した言葉は、波の音に掻き消されてしまう程に小さく、一行は海水が入り込んだ船室の中に屈み込み、その言葉を聞き取るように耳を澄ませた。

 エリックという名のその男の霊魂は、間違いなくオリビアという女性と恋仲だった者に違いない。その胸に輝くロケットペンダントを握り締め、虚ろな瞳を天井に向けて愛しい恋人の名を何度も口にしていた。

 

「せめて、君だけでも……幸せに……幸せに生きておくれ」

 

「あっ」

 

 もはや、霊魂を現世に縛り付ける力も限界だったのだろう。その言葉を最後に、エリックと呼ばれた男の魂は『精霊ルビス』の御許へと旅立った。

 元々肉体は朽ち果てている。消え逝く霊魂はその場に握り締めていたロケットペンダントだけを残し、跡形もなく消え失せる。何一つ情報を得る事が叶わなかった事に、サラが情けない声を上げるが、入り込んだ海水が揺らめく中、銀色に輝くペンダントが浮かんでいるだけであった。

 

「この船の主に会わなければならないな」

 

「は、はい」

 

 ロケットペンダントを拾い上げ、抱いているメルエの手を借りてそれを開いたリーシャは、その中にある物を見て表情を変える。そこにあるのは、明確な『怒り』と『哀しみ』。この船の主が何者で何を求めていたのかを知らない事には引き下がれないという熱い想いだった。

 再び自分の胸の中で燻る勇気を奮い立たせたサラは、そのリーシャの言葉に強く頷きを返す。

目指すは、この船の一番奥に見える船室。

 他の場所とは異なりを見せるしっかりとした造りの船室が、この船の主たる船長がいる部屋である事はまず間違いはない。梯子を降りてからここまでの全ての燭台に火を灯していたからこそ見えたその場所に、四人は歩き始めた。

 

「ここから先は、何があるか解らない。何時でも戦闘には入れる準備だけはしておけ」

 

「……わかった」

 

「わ、わかりました」

 

 船室の扉の前まで移動し、扉のノブに手を掛けたカミュは、後ろに控える三人に気を引き締めるように忠告をする。この船での戦闘は、甲板で遭遇した<ミニデーモン>だけであり、入り込む海水に紛れた<スライムつむり>などとの戦闘は行って来なかった。

 だが、この船室がこの船の主の部屋だとすれば、それが魔物の類である事は否定出来ず、むしろその可能性の方が高いと言っても過言ではない。そして、そこが魔物の住処であった場合、即座に戦闘が開始され、狭い船室内での厳しい戦闘になる事は間違いないだろう。

 各々の武器を構えた一行を確認した後、カミュはその扉を押し開けた。

 

「ひぃぃぃ!」

 

 再び轟くサラの叫び。

 先程奮い立たせた『勇気』が急速に萎んで行く。腰が抜けてしまいそうな程の光景にサラの身体が泳ぐ。だが、しっかりと握られたメルエの手がそれを許さなかった。

 狭い船室の中には、既に白骨化した遺体が所狭しと存在し、その殆どが奥にある一際大きな席を囲むように壁にもたれ掛って座していた。

 中には未だに骨に腐肉が付着している物もあり、異様な臭気が部屋に充満している。先頭のカミュが<たいまつ>の炎を船室の燭台に移した事により、その全貌がはっきりと視認出来るようになったのだが、その異様で奇怪な光景は、更にその恐ろしさを増すだけであった。

 

「なっ!?」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 四人全てが狭い船室に入り切った時、最後尾にいたリーシャが驚きの声を上げる。その声に恐怖心を煽られたサラは、自分の左側にある壁にもたれ掛る白骨にぶつかり、白骨自体が自分に覆い被さって来た事で大きな叫び声を上げた。

 四人全てが船室に入り切ると同時に、その船室へと続く扉が勝手に閉じてしまったのだ。音を響かせて閉じられた扉は、慌てて体当たりをしたリーシャの力でも開かれる事はなく、勇者一行は完全にこの船室へ閉じ込められてしまったのだ。

 <シャンパーニの塔>で白骨化した死体を見ても動じる事はなく、骨だけになっても動く<骸骨剣士>との戦闘も行って来たサラであったが、この船に限ってはその限りではないのだろう。最早顔色は死人と言っても過言ではない程に青ざめており、歯は噛み合わなくなって奇妙な音を立てていた。

 

「久方ぶりの女だな」

 

「ひぃぃぃ」

 

 そんなサラは、自分に覆い被さっていた白骨から突如人語が発せられた事で、再び声を失う程の叫び声を上げる。よくよく見ると、先程まで自分の肩から垂れ下がっていた白骨化した手には、しっかりとした肉が付いていた。

 まるで生きている人間に身体を抱かれているように感じたサラは、目を回さんばかりに身体の力が抜け、座り込みそうになるが、それは手を繋いでいる幼い少女が許さない。<雷の杖>を手に取ったメルエは、サラに覆い被さる男性の霊魂に向かってそれを振った。

 

「…………だめ…………」

 

「おっと、なんだこのガキは!?」

 

 霊魂の身体をすり抜けた<雷の杖>ではあったが、その霊魂はまるで少女を恐れるようにサラから体を離し、不機嫌そうに眉を顰める。舌打ちをして不満をいう霊魂とメルエの間にカミュが立ち塞がり、その行動を止めなければ、この霊魂は間違いなくメルエに害を成したかもしれない。

 サラは既に役立たずに落ち、小さなメルエの背中に隠れるように、その身体を抱き締めている。そんなサラの姿が、この幼い少女の心に火を点し、睨み付けるように霊魂へ視線を送っていた。

 

「カミュ、そんな木端の相手をしている暇はなさそうだぞ」

 

「……あ、あわ……あわ」

 

 一体の霊魂と睨み合うカミュであったが、その行動は最後尾で船室全体を見ていたリーシャによって遮られる事となる。『木端』という言葉を用いて、他者を侮るような素振りを見せるリーシャは珍しい。だが、実際にリーシャやカミュから見れば、この船室にいる白骨化した霊魂など、歯牙にも掛けない程の存在なのだろう。

 リーシャの言葉で船室全体へと視線を移したサラは、満を持してあの言葉を口にする。いや、実際は既に言葉にさえなっていない。言葉にならない恐怖の言葉を口にしたサラに、メルエは先程までの厳しい瞳を緩め、口元さえも緩めて笑みを溢す。

 船室内にあった白骨が霊体化して行き、カミュ達を威圧するように壁へ背を付けたのだ。それは、船室の一番奥へカミュ達の視界を開くようでもあった。

 

「お前等が、アタイの一部を持って来たのかい?」

 

 そして、手前の白骨から徐々に霊体化して順序に従って壁へ背を付けて行き、最後の二体が霊体化を終えると、その奥にある燭台に勝手に火が灯る。その炎が照らし出す物は、一国の城にある玉座のような大きな椅子。そして、その椅子には、一体の白骨化した遺骸が座っていた。

 その遺骸は霊体化する事無く、全てが骨のまま、その空洞化した目をカミュ達へ向ける。カタカタと不快な音を立てながら話す人語は、やはりカミュ達の脳へ直接響くような物であった。

 サラは恐怖の余り膝が笑い続け、まともに立っている事さえも出来なくなっている。その手をメルエが握り、その背をリーシャが押さえていなければ、彼女は腰を抜かしてしまっていたかもしれない。それ程奇怪で異様な光景であったと言えよう。

 

「さっさと出しな! それはアタイの物だよ! アタイはね、奪う事はあっても、奪われる事だけは許せないんだ。それを奪って行ったのはお前等ではなさそうだから、優しく言ってやっているんだ。気が変わらない内に出す物を出しな!」

 

 その声は船室を震わせているのではないかと思う程にカミュ達の脳を震わせる。玉座に座っている白骨死体の怒りが直接伝わって来るだけに、それが一刻を争う事であるという事が理解出来た。

 この白骨化した者達だけであれば、リーシャが考えている通り、只の木端に過ぎない。だが、この玉座に座っている白骨死体の放つ空気は、それの生前が只者ではない事を物語っており、生を失った今となっては、どのような奇術を使うか解らない以上、それに従うのが得策である事は明白であった。

 だが、何を示しているのかが解らない事も事実。震えるサラに、困惑するカミュ、そしてサラが先程発した言葉に笑みを溢しているメルエと、状況が前へと進まない中、この船に入ってから一つも失態を見せていない女性戦士が口を開いた。

 

「カミュ、もしかすると<船乗りの骨>の事ではないか?」

 

「……なるほど」

 

 その助言が的を射た物であり、カミュにしても何故気付かなかったのかと思ってしまう程の物であった為、彼は素直に頷きを返す。即座に思い浮かばなかったという事は、カミュ自体もこの状況に若干の困惑を見せていたのだろう。

 人間の死体を見た回数で言えば、カミュもリーシャもそれ程変わりはない。凄惨な死体を見た回数も大差はないだろう。だが、霊魂という物を見た回数となれば、宮廷という場で生きて来たリーシャの方が若干上であるのだ。

 『人』のあらゆる感情が渦巻くのが宮廷内部である。『嫉妬』や『憎悪』、派閥によって分けられた人間の線引きは、その感情を増幅させ、時には宮廷内の人間の失踪を誘う事もある。そして無念の内に命を落とした者達は、その無念の地である宮廷内を彷徨い続ける事もあるのだ。

 司祭によって払い切れない邪気は、霊魂となって宮廷内に姿を見せる事もある。幼い頃から、宮廷騎士団長の娘として出入りしていたリーシャは、数多くの霊魂を見て来ていた。

 

「よし! それはアタイの物だ!」

 

 袋から取り出した<船乗りの骨>は、玉座に座る白骨死体の声に応えるかのように、カミュの手から離れ宙を舞う。そのまま漂うように宙を滑り、玉座に座る白骨死体の左足へと吸い込まれて行った。

 そして、吸い込まれた<船乗りの骨>が他の左足の骨と骨の間に収まった瞬間、玉座が輝きを放つ。その眩いばかりの輝きは、この船の主の帰還を祝うように鮮やかな物であった。

 

「お頭のお帰りだ!」

 

「おぉぉぉぉ!」

 

 壁にもたれ掛っていた霊魂で、最も玉座近くに立つ者が片腕を上げる。それに呼応するかのように響き渡る叫び声が狭い船室に響き渡った。

 ようやく叫び声が船室の壁に吸い込まれた頃、輝きを放っていた玉座の光もまた、船室の壁へと吸い込まれて行く。そして収束して行った光の中にあるその姿を見たカミュ達四人は、先程までとは異なる驚きを見せる事となった。

 

「アタイの一部を持ち帰った事、褒めてやる。お前達は無傷でこの船から降りる事を許可してやろう」

 

 霊体化を終えたその姿は、周囲の壁にもたれ掛る屈強な男達とは全く異なる姿。

 見目麗しいとまでは行かないが、男好きのする容姿を持ち、鍛え上げられたしなやかな筋肉を持ちながらも丸みを残したその身体の胸部には、リーシャと比べても引けを取らない程の膨らみがあった。

 それは、玉座に座る者が女性である事を示しており、玉座に座す以上、この女性が屈強な男達を従える棟梁である事を物語っている。海は男達の世界であるというのが、この時代では当然の考えと言っても良い。それ程に、この時代の海上は危険に満ちているのであった。

 魔物が蔓延り、海賊が海上を支配する時代である。戦闘が必須である以上、それらを打倒出来る力が求められる。女性であれば、リーシャのように『戦士』と呼ばれる程の技量が必要であるのだ。

 

「これでようやく黄泉への航海が出来るってもんだ。野郎ども、出港の準備をしな! 黄泉の国がどんな所か知らないが、そこにも海があれば、今度こそそこの支配者になってやろうじゃないか!」

 

「おぉぉぉぉ!」

 

 混乱するカミュ達を置き去りにし、船室では話が加速的に進んで行く。玉座に座る女性が命令を口にし、それに応えるように叫び声を上げたカミュ達の周囲にいた霊魂は、次々と閉じられた扉をすり抜けて甲板へと出て行った。

 自分の身体さえもすり抜けて行く霊体に、気を失いそうな程怯えるサラは、言葉にならない声を口から発し続けているが、メルエはサラの状況をからかう事無く、首を傾げて玉座の女性を見つめ続ける。

 

「なんだ? アタイに何か文句でもあるってのかい?」

 

 メルエの視線に気が付いた女性は、挑発的に鼻を鳴らし、幼い少女に向かって威圧するように言葉を掛けた。

 その言葉を聞いたメルエは、先程とは反対側に首を傾げ、困ったように眉を下げるが、何かを思いついたのか、そのまま周囲の霊魂に見向きもせずに玉座へと歩み寄り始める。

 それに驚いたのはカミュとリーシャ、そして手を繋がれていたサラである。メルエが歩けば、手を繋いでいるサラも歩かざるを得ない。踏ん張る力も抜けてしまっているサラに抵抗する事など出来ず、まるで手綱を引かれた馬のようにメルエの後を追って歩くしかなかった。

 一息溜息を吐き出したリーシャはカミュへ視線を送り、彼が一つ頷いた事を確認してから、メルエを護るように屈強な男達の霊魂との間に割り込む。両側をカミュとリーシャに護られたメルエは、そのまま玉座の前へと辿り着いた。

 

「なんだい!?」

 

「…………アン…………?」

 

 目の前に来ても首を傾げたまま見つめるメルエに苛立った女性は、先程よりも威圧的に言葉を発する。直接脳へと響くその声は、苛立ちと怒りを表してはいたが、小さな困惑も含まれている事に、カミュとリーシャは気が付いていた。

 しかし、その後に口にしたメルエの言葉は、カミュやサラを驚かせるのに十分な物であり、唯一人、リーシャだけは何処か納得したように声を上げる。

 それは、メルエの唯一の友の名であり、トルドという敏腕商人の娘の名前。そして、先日再訪したばかりのエルフの隠れ里を治める、エルフの女王の娘の名前であったのだ。

 

「なに!? 何でガキがアタイの名前を知っている!? お前等は何者だ!?」

 

 疑問符が頭の上に浮かぶ程に驚きを示したカミュとサラではあったが、目の前の女性がメルエの発した名を自身の名だと明言した事に尚更の驚きを示す。最早、カミュやサラに至っては、この状況が全く理解出来ないと言っても過言ではなかった。

 だが、リーシャだけは、何かに納得したように頷きを繰り返しており、その瞳には挑発的な色を宿したまま不敵な笑みさえも浮かべている。

 自分が考えていた通りの人物であった事に笑みを浮かべたメルエであったが、アンと名乗った女性は、その笑顔が気に食わない。自分が知らない人間が、自分の事を知っているというのは、あまり愉快な事ではないだけに仕方ない事であろう。

 

「答えろ! 何故、アタイの名を……待て……ガキ、何故お前がそれを持っている?」

 

「…………???…………」

 

 不快感を表したアンという女性は、苛立ちをぶつけるようにメルエへ叫び声を上げるが、その途中で何かに気付いたように、言葉を途切った。

 再び自分が理解出来ない事を言われ、メルエは首を傾げる事となる。だが、アンという女性が指差す先が、自分が肩から下げているポシェットである事に気付き、その中へと手を入れた。

 

「…………これ…………?」

 

「そうだ、それだ。答えろ! 何故、お前がその<レッドオーブ>を持っている!?」

 

 袋の中から取り出したのは、カミュと逸れた三人が辿り着いた大海賊団のアジトで、その棟梁であるメアリからメルエが譲り受けた紅く輝く宝玉であった。

 メルエの手の中にすっぽりと納まる大きさのその宝玉は、確かに<レッドオーブ>と呼ばれる物に間違いはない。ただ、それはルビス教でも限られた者にしか伝わらない程の物。隠遁されている訳ではなくても、それを知る者は数少ないと言って良いだろう。

 しかし、このアンという名の女性はそれを知っていた。

 それが、この女性が只者ではない事を示しており、この宝玉の持ち主であった事を物語っている。

 

「…………メアリ………くれた…………」

 

「なに!? メアリの馬鹿がお前に譲ったというのか? アタイとの誓いの証だぞ? それをお前のようなガキにくれてやっただと?」

 

「その通りだ。メアリは、自身が滅ぼしたお前の海賊団との誓いを遂げる決意の証と、このメルエとの約束を守る証として、このオーブをメルエに託したのだ」

 

 言葉足らずのメルエの言葉に、思わず玉座から腰を浮かしかけたアンの行動を制するようにリーシャが間に入った。

 この譲渡式に立ち会ったのはリーシャだけである。メルエとメアリの誓いを知る人物もリーシャだけであり、メアリが他の海賊と争って世界に覇を唱える海賊となった事自体は知っているサラであっても、このオーブの譲渡に関する話を詳しくは知らなかった。

 再び視線が交差する強者同士。

 共に女性ではあるが、この世界で生きる大半の男性よりも強い力と技量を持ち、男に屈しないどころか、男さえも屈服させる程の女性達である。

 

「メアリが、アタイとの誓いを遂げるだと? あの馬鹿じゃ土台無理だ。魔物が横行するこの時代に、海賊が生き残れる方法は何一つない」

 

「そうだ。だからこそ、メアリは考え続けた。そして今、このサラの知恵を借り、偉業を成し遂げようと奮闘している」

 

 ある程度の力量を持つ者であれば、相手の力量を推し量る事は出来る。力量と技量で敵わない事を理解したアンは、そのまま視線を外し、リーシャの言葉を馬鹿にするように鼻を鳴らす。しかし、小馬鹿にした態度を取るアンに対しても憤る事無く、リーシャは言葉を続けた。

 もしかすると、自身を『筋肉馬鹿』と愚弄したメアリという人物が、他者から更に馬鹿にされているのを面白がっていたのかもしれない。だからこそ、アンが『馬鹿のメアリでは駄目だ』と口にするのに対して、一度肯定を表したのだろう。

 そんなリーシャの言葉に対して、驚いたのはアンである。

 メアリ率いるリード海賊団に敗れ去ったとはいえ、女海賊として、男が率いる海賊団に一度たりとも負けた事のない彼女は、その腕力だけで伸し上がって来た訳ではない。その頭脳は、メアリでさえも認める程に冴え渡り、この先の世界で海賊が生き残って行く道は残されていないという考えを持っていたのだ。

 故にこそ、リーシャが発した『偉業を成し遂げる』という言葉と、その偉業を成す為の助言を行ったという人物の存在に驚いたのだ。

 

「お前のような冴えない女が? メアリの馬鹿に何を吹き込みやがった! 事と次第によっちゃ、お前等もこの船を降ろす訳には行かないよ!?」

 

「サラ……話してやれ」

 

「ふぇっ!?」

 

 アンという女海賊にとって、メアリという女海賊は、敵であるのと同時に友でもあるのだろう。好敵手と言えば良いのだろうか、彼女は自身の敵として認めると共に、仲間に近い程に想いも持っていたのかもしれない。

 故に、自身の夢を託した友に適当な事を吹き込んで踊らせようとする者であれば、生かしてはおかないという意思を口にしたのだ。

 その想いを理解したリーシャは、先程まで事の進行について行けず、呆然と立ち尽くしていた『賢者』を前へと押し出す。押し出されたサラは、突如の事に再び動揺し、素っ頓狂な声を上げた。

 

「わ、私は、メアリさんに当たり前の事を告げただけです。この先の時代で、海の支配権を持つという事は、その海を誰もが自由且つ安全に航海出来るようにするという意味だと考えました。で、ですから、客船を襲うのではなく、客船を護り、その対価を受けるべきだとお話しました」

 

「対価? 海の領有権をメアリが全て有するという事か?」

 

 サラの話す内容次第によっては、四人全てを許すつもりはなかったアンではあったが、その話す内容が予想外の物であり、思わず興味を示してしまう。だが、それはサラの考えていた物とはかなりの差異を生じさせていた。

 アンが死に際にメアリと何を語り合ったのかは解らない。だが、その中身は、現状のアンを見る限り、それ程練られた物ではなかったのだろう。となれば、メアリが考えていたと思われる未来への展望は、アンとの戦闘の後、メアリ一人で導き出した物が大半だったのかもしれない。

 

「いえ、海は誰の物でもありません。ですが、だからこそ危険が付いて回ります。魔物も生きていますし、海を生活圏とする海賊もいます。大きな商人となれば、他の商人が持つ商船を襲う事もあるでしょう。時代が変われば、国の要人が乗る船も多くなる筈です。その時、その航海の安全を護る集団がいれば、多少の利益を削ってでも護衛を必要とする者達もまた、数多くいるという事をお話しました」

 

「……海上の護衛団という訳か。なるほどな、アタイが死んだ今となっちゃ、この世界の七つの海はメアリの物だ。大きくなった海賊団を七つに分け、その海域の航海を護衛させれば、大抵の魔物であれば船を沈められる事はない。法外な金額を要求せずに、安全な航海を実現させれば、再利用しようとする者も増えるだろうな」

 

 だが、やはり腕力と頭脳で一時代を築いて来た女海賊である。サラの短かな説明で、全てを悟った。『一を聞いて十を知る』とまでは行かないが、文官でもなく賢者でもない、一海賊の棟梁であれば、異常な程の冴えであると言っても過言ではない。

 快活な笑みを浮かべたアンは、その威圧感を解き、物珍しそうにサラを見ていた。この女海賊にしても、海賊として忌み嫌われるメアリに対して、そのような知恵を与えたサラという人物に興味を持ったのだろう。

 

「わかった。メアリが認めたお前達をアタイも認めよう。その<レッドオーブ>は、何でも『精霊ルビス』の従者を蘇らせるという伝説がある代物らしい。アタイが全て手に入れ、その従者とやらを蘇らせてやろうと思ったが、結局その<レッドオーブ>しか手に入らなかった。その夢は、お前達に託すよ」

 

 アンの口から明確に告げられた内容に、メルエを除く三人が驚いた。その宝玉の真の名を知る限り、ある程度の情報は持っているだろうという予測はあったが、正確に掴んでいるとまでは考えていなかった。

 世界の海を股に駆ける海賊の棟梁であれば、そのような伝説紛いの話が耳に入る事はあるのかもしれない。だが、それを信じて集めてみようと考える人間は珍しい。このアンという女海賊は、そういう点でも、抜きん出た不世出の逸材だったのだ。

 そしてそれは、その伝説を伝える事無く、メアリという友にオーブを手渡していた事からも推察出来る。『この宝玉に関する情報は、お前が集めろ』とでも言わんばかりの行為であるが、夢半ばにして倒れる事への僅かばかりの抵抗であったのかもしれない。

 

「……一つお聞きしたい事があります」

 

「何だ?」

 

 アンの言葉を聞いたメルエは、大事そうに<レッドオーブ>をポシェットの中へと仕舞い込み、軽くポシェットを数回叩く。その姿にリーシャとアンが頬を緩めた時、先程までの怯えた様子を消し去ったサラが口を開いた。

 重苦しく開かれた口から発せられた疑問に、アンの顔が上がる。その玉座の周囲に残っていた数体の霊魂もまた、何も言わずにサラへと視線を集めた。

 恐怖の対象である大量の霊魂から注目された事で、一瞬戸惑いを見せたサラではあったが、再び拳を強く握り込み、意を決したように言葉を続ける。

 

「エリックという男性を、何故この船に乗せたのですか?」

 

「……エリック? ああ、あの男か? あれは、襲った客船に乗っていた男だが、顔がアタイ好みでね。アタイの飼い犬として可愛がってやろうと思っていたが、よりにもよって、『心に決めた女がいる』とぬかしやがった。このアタイを馬鹿にしやがったのさ。だから奴隷として船を漕がせたが、それがどうした?」

 

 サラが発した名に聞き覚えが無かったのだろう。アンは全く知らぬ名であると言わんばかりに、周囲に立つ部下達の方へ視線を送った。

 その部下達の中でエリックの名とその存在を知っていた者から、誰の事かを聞いたアンは、それほど興味もなかった人物の事を思い出し、忌々しそうに当時の事を語り出す。だが、それは強者の言い分であり、弱者からすれば許す事の出来ない物であった。

 

「そんな惨い事を……」

 

「惨い? 何を言ってやがる。この世界では力こそが全てだ。力が無ければ他者からの圧力に逆らうことも出来ずに、受け入れる以外の選択肢はない。それが嫌であれば、他者に負けぬ力を有すれば良い。お前達もそれ程の力を持っているんだ、それぐらいは理解していると思ったが?」

 

 正に強者の言い分である。他者を虐げる力を有していれば、その力を行使するのは当然であり、それが嫌ならば、自身が他者を虐げる力を有するべきだと言うのだ。

 それは、世界で唯一の『賢者』となり、他者を強制的に死へと導く呪文さえも行使出来るサラであるからこそ、納得も理解も出来ない思考であった。

 サラもメルエも、他者を虐げる力は有している。虐げるどころか、この世界から骨一つ残さずに消し去る事さえ可能な程の力を持っている。だが、だからこそサラは自身の力に酔う事はない。その力を知り、そして恐れ、自重する事はあっても、無暗矢鱈にそれを使用する事はないのだ。

 そして、それはサラから教えを受けたメルエも同様である。彼女もまた、自身の力の強大さを知り、それを行使する恐ろしさを学んでいる最中なのであった。

 

「それは違います。持っている力が強大であればある程、その力を『護る』という方向へ向けるべきです。まずは自分自身を守る為に行使するのも仕方がありません。その結果、自身を攻撃しようとする者を虐げてしまう事になるでしょう。ですが、必要以上に行使された力は、只の暴力となります。暴力となった力は、どれ程強い力であっても認められる事はありません」

 

「はっ! 知ったような口を叩きやがる。そもそも、お前はアタイと解り合えるとでも思っているのかい? そんな事は不可能だ。アタイは悪党さ。悪党には悪党の生き方があり、死に方がある。悪党の死に方はお前の考えている通り、碌な物にはならないだろう。だが、それらを全て受け入れるからこそ、悪党なのさ」

 

 自身の考えを述べていたサラは、全てを話し終わらぬ内に割り込んで来たアンの言葉に閉口してしまう。それは、彼女の言う通り、サラと言う人間と生涯交わる事の出来ない考え方だったからだ。

 自身を悪党と名乗り、悪党としての生き方を否定する事無く、それら全てを受け入れて尚、悪党として死のうとするこの人物に対し、サラは伝えるべき言葉がなかった。理解し合う事の出来ない相手を諭す方法など、年若い『賢者』が持ち合わせている訳はない。

 実際、サラはこの旅を通じて、相手の考え方や価値観を覆した事などない。自分の考えや価値観を押し付ける事に成功した事など有はしないのだ。全ては、相互の譲歩による結果が、ここまでのサラの旅路を支え続けている。相手にも自分にも譲歩する余地がない場合、それは決裂という形で終了を迎えるしかなかった。

 

「悪党は最後まで悪党なのさ。それを全う出来ない奴は、死に際に見苦しく狼狽えるだろう。だが、アタイはこの人生に悔いはない。生きたいように生き、最後は悪党らしく華々しい死に様を晒した。お前等のような人間には理解出来ないだろうし、理解して欲しいとも思わない」

 

「サラ、何を言っても無駄だ。メアリとは根本的に違う」

 

 悔しさに唇を噛みしめるサラに畳みかけるように自論を口にするアンを眺めていたリーシャは、一つ大きな息を吐き出して、サラの肩へ手を置く。主を馬鹿にされたと感じた側近達が勇み立つも、リーシャから向けられる鋭い瞳によって、身動き一つ出来なくなった。

 今のリーシャであれば、例え実体のない霊魂であっても、その白骨を再生不能な程にまで粉々に砕く事など瞬時に出来る。いや、正確に言えば、この幽霊船ごと海の藻屑とする事さえも可能であろう。

 

「最初から用などなかった筈だ。最早黄泉へと旅立つ哀れな弱者に構っている暇はない」

 

 そして、そんなリーシャの言葉に続くように発せられたのは、表情を消し去った青年だった。彼がここまで相手を挑発するような言葉を発する事も久しく感じる。

 ここまで一言も口を開かなかった青年が口を開いた事に驚いたアンであったが、その言葉を口にした青年の瞳を見て不敵な笑みを浮かべる。それは獲物を見つけた猛禽類のようでもあり、その強さに魅かれた女の物のようでもあった。

 

「良い男じゃないか。アタイに喧嘩を吹っ掛ける男なんて初めてだよ。お前であれば、アタイも女として従おうじゃないか。どうだい、共に黄泉の国の海を制してみないか?」

 

「断る」

 

 パーティーの女性三人を護るかのように前へと出たカミュへと声を掛けたアンは、妖艶な女の香りを放っている。大抵の男であればその香りに誘われて、身体ごと全てを喰われてしまう程に強烈な女性の強い引力。

 カミュの瞳を見て、更にその身体に纏う空気を敏感に感じ取ったアンは、彼の中に何かを見たのかもしれない。男達の中であっても一歩たりとも譲る事が無かった海賊棟梁の胸の奥に眠っていた女性としての本能を目覚めさせる何かを感じたアンは、カミュの口にした言葉の内容を無視し、そしてこの男を欲した。

 だが、それは当の本人ではなく、その後ろに隠れた者によって遮られる。アンが口を閉じ終わる前に放たれた言葉は、明確な拒絶であるのだが、それは本来であれば本人が口にする筈の物。

 

「何だ? お前の男だったのか?」

 

「違う!」

 

 カミュ本人が口を開く前に言葉を発したのは、先程アンを小馬鹿にしたリーシャであった。後方から攻撃する事を不得手とし、更にそのような気質でもない彼女ではあったが、アンとその配下の人間からの圧力から護るように立つカミュを押し退ける事も出来ない為、その場から声を発したのだろう。

 リーシャの言葉に若干驚いた表情を浮かべたアンではあったが、即座に厭らしい笑みを浮かべて彼女の顔へ視線を送った。その表情は、楽しむようなからかうような物であると同時に、自身の望みを遮る者への怒りも含まれているような物。

 そして、そのからかいと怒りは、言葉となってリーシャを襲い、その内容に間髪入れずに反応した彼女の声は狭い船室に響き渡った。

 

「ほぅ……ならば、何故お前が拒否する? アタイは、その男に問いかけているんだ。もう一度問おう、アタイならばお前を満足させる事が出来ると思うぞ? その頭の悪そうな女よりも、男が喜ぶ事を熟知しているからね」

 

「なに!?」

 

 最早こうなっては、先程までの緊迫感など微塵もない。リーシャは、メアリだけではなくその友であるアンにまで馬鹿にされた事で憤りを露わにしているし、先程まで相対していたサラは突然の話題転換について行けずに呆然としている。メルエに至っては、話の内容が理解出来ない為、表情を無くしているカミュと、怒りを露わにするリーシャを見て、その対象であるアンへ鋭い視線を向ける始末であった。

 暫し無言でアンへ視線を向けていたカミュであったが、その馬鹿馬鹿しい空気に大きな溜息を吐き出し、踵を返して扉の方向へと歩き始める。

 

「おい!」

 

「……馬鹿であっても、悪党ではない」

 

 女性からの誘いに答えも返さずに去ろうとするカミュに対し、流石のアンも激高しかける。椅子から立ち上がったアンの叫びに対し、一瞬足を止めたカミュは、呟くような一言を告げて扉のノブを回した。

 出て行く青年を唖然とした表情で見つめていた者達の中、真っ先に動いたのは幼い少女であり、『とてとて』と駆け出した彼女は、青年のマントの裾を握り締めて満面の笑みを浮かべる。そんな二人の姿に落ち着きを取り戻したサラもまた、自身とは価値観が正反対であった女海賊の顔をもう一度見た後、扉を出て行った。

 

「残念だったな」

 

「ちっ! あの男を逃したのなら、お前も生涯悔いるだろうよ!」

 

 最後に残ったリーシャは、勝ち誇った笑みを浮かべてアンに対して嫌味を口にした。リーシャの気質からすれば、このような態度を取る事も、このような発言をする事も珍しい事ではあるのだが、その事に彼女自身は気付いていないだろう。

 盛大な舌打ちをしたアンの表情を見る限り、単純にリーシャをからかっていただけではなかった事が窺える。彼女自身、カミュという青年に何かを感じ、それを異性として欲していたのは本心であったのかもしれない。

 

「頭!」

 

 最後のリーシャが扉を潜ろうとした時、船室に一人の男が入って来た。正確に言えば、この男自体が既に生命を持たぬ者であり、男性と称しても良いか悩むところではあるが、触れる事は出来ずとも、はっきりとした身体を視認出来るのであるから、ここではそう呼ぶのが正しいのだろう。

 今までの不機嫌さを隠すつもりもないアンは、その男に対して厳しい瞳を向け、声を詰まらせた男は自分が飛び込んで来た理由を述べる事が出来ず、身体を硬直させるように立ち尽くしてしまった。

 

「何だ!? さっさと要件を言え!」

 

 そんな男の様子に更に機嫌を悪くしたアンは、肘掛けを殴りつけて叫び声に近い程の怒声を上げる。狭い船室を揺らす程の大声に飛び上がった男は、背筋を伸ばすように姿勢を直し、恐怖に委縮した心を奮い立たせて答えを返した。

 

「この者達以外にも船内に不審な男を発見! 魔物ではなく、生きている人間のようです」

 

「ああ? 生きてこの船から降ろすのは、コイツ等だけだ。その他は、黄泉への道連れだ!」

 

 男の報告に対し、不機嫌さを隠す事もないアンは、吐き捨てるように叫んだ。その声は、船室を出ようとしたリーシャだけではなく、既に外へ出ていたカミュ達三人の耳にも届く。

 この場所に来るまでに遭遇した、この船の財宝を目的とする男の事を話しているのだという事は即座に理解出来る。カミュはそれを理解しても表情すら変えず、アンの叫ぶ言葉の意味が解らないメルエは一人で首を傾げるのだが、サラだけはその内容に勢い良く振り返ってしまった。

 船を降りる事が出来ないという事は、既にこの世の物ではない船と共に、死後の世界へと旅立つ事を意味する。それは、生きている者の命の灯を吹き消す行為に他ならなかった。

 

「サラ、戻っても仕方がない。幽霊船の財宝目当てでこの船に乗り込んだ者の自業自得なんだ。死にたくないと考えるならば、あの女海賊が言うように力を備えるか、それとも命の危険がある場所を避けるという二つの方法しかない事もこの世の摂理だと私は思う」

 

「そ、そんな……」

 

 振り返り、船室へ戻ろうとしたサラの肩を、船室から出て来たばかりのリーシャが掴む。その力は予想以上に強く、サラの身体を宙に浮かせた。

 じたばたと動いていたサラではあったが、凡そリーシャとは思えないその言葉に、愕然としたように口を閉ざす。

 リーシャは心優しい女性ではあるが、それと同時に宮廷に仕える騎士でもある。情が強く、弱き者からも慕われる性質を持っていながらも、決断を下す非情さも持ち合わせているのだ。幽霊船内に『オリビアの呪い』に関する物を探しに来たカミュ達ではあるが、その後生還の道を導き出したのは彼等である。だが、財宝目当てで侵入していた男は自力で生還の道を見つける事は出来なかった。ただそれだけである。

 

「魔物やエルフ、そして人間との住み分けという考えも、サラの目指す先にあるのではないか? ならば、生ある者と、ない者も同じ筈だ。『全ての者を救いたい』というサラの考えは立派ではあるが、私達は神でも精霊でもない」

 

「……」

 

 リーシャの瞳からサラは目を離す事が出来ない。何故なら、その瞳は自分一人だけを見つめているからである。サラだけを見つめ、サラだけに伝えられているその言葉は、サラという『賢者』を信じている事を強く示していた。

 信じていて尚、その在り方に関して言葉にしなければならない事でもあったのだろう。

 この問題に正解など有りはしない。だが、『人』とは皆、それぞれの信念の許に生きている。『全ての者を救いたい』という考えは、救おうとする者の自己満足でしかないというのも事実であり、そして『人』の身では身の程を知らぬ思い上がりであると言われようとも反論など出来はしない。

 

「清濁併せ呑む事もまた、これから先のサラの道で必要な事となるだろうな」

 

「し、しかし……」

 

 最早涙目になりつつあるサラの瞳から視線を外さないまま、リーシャは柔らかな笑みを作る。その表情は、サラの全てを包み込むように優しく、サラの道を照らし出してくれるように厳しい。常に傍で見つめ、ここぞという時に引き戻してくれるこの女性を、サラは心から頼りにしていた。

 だからこそ食い下がる。自身の胸の内にある迷いや悩みを振り払ってくれる事を期待しているつもりはないのだろうが、それでも姉のようなこの存在が、自身の歩むべき道を照らし続けてくれる事を信じているのだ。

 

「全ての者を救う事など出来はしない。魔物もエルフも人間も幸せに暮らせる世の中など、私には想像すら出来ない。だが、サラが歩む道のその先には、多くの者が笑顔で生きる事の出来る世界が広がっている事を私は信じている」

 

「……リーシャさん」

 

 だが、この女性戦士の口から、サラが求める答えが出た事など、ここまでの旅路の中で一度もない。正確に言えば、サラの悩みや苦しみを解決する言葉など、何処にもないのだ。

 それでも、この女性戦士の言葉は、サラを前へと歩み出させる。胸の内に燻る火種を、燃え盛る炎へと変えてくれる。それは、アリアハンという小さな島国を旅立ってから今まで、揺るがない事実であった。

 

「その為に、サラは清廉潔白なままではいられないだろう。他者からの妬みや憎しみを受ける時もある。それこそ、己の手を汚さなければならない時も来る筈だ。それでも尚、サラは歩みを止める事は許されない。そして、私も共にその道を歩もう」

 

 零れ落ちる感情は、喜びなのか、それとも苦難への不安なのかは解らない。だが、言葉にならぬ想いだけが、サラの瞳から次々と零れ落ちて行く。

 悪と決めつける事は出来ない。世間が悪とする者も、悪とされた者からすれば、世間が悪となる。どちらが正義で、どちらが悪かなどは、その者の立ち位置によっていくらでも変化してしまうのだ。

 故にこそ、サラが悪評を受ける事もあるだろう。恨みを買う事もあるだろう。それでも彼女が『賢者』としての道を歩む限り、その足を止める事は出来ない。そして、彼女を信じ続ける人間が一人でもいる限り、彼女もまた前へと歩き続けるのだろう。

 

「サラが汚名を被るのであれば、私も共に被ろう。サラが罵声を浴びるのであれば、私も甘んじて受けよう。サラが覚悟を決めるのであれば、私はそれに従おう。だからこそ、サラは自身がやるべき事と、出来る事の違いを考えてくれ。私達は常にサラと共にある。サラの道は、私達の道でもあるのだからな」

 

「……はい」

 

 自己満足は許されない。最早、この『賢者』はカンダタを救った時とは違うのだ。あの時のサラは、理想という現実不可能な道を模索する駆け出しの者であった。だが、あれから数年の旅を続け、彼女は世界を救う『勇者』と共に歩む事の出来る『賢者』となっている。

 それは、サラには理解出来ない違いであろう。だが、年長者として彼女達を見続けて来たリーシャは、彼女の成長と、それを見て来た一人の青年の心の変化を把握していた。

 カミュという青年は、『英雄』とは異なる『勇者』と呼ばれる存在への道をしっかりと歩み始めている。彼の功績は、後の世に語り継がれる程の物となって来ており、リーシャは彼こそがこの世界を救う者だと信じていた。

 そして、その『勇者』となる青年は、この年若い『賢者』の存在を認めているのだ。言葉には出さないし、態度にも出さない。だが、最も早くから青年と旅を始めたリーシャだけは、その胸の内に隠された評価を感じていた。

 昔のように、サラの発言の揚げ足を取る事はない。サラの考えを頭から否定する事もない。全面肯定をする訳でもないが、彼がサラの歩む道を遮る事はなくなっていた。それは、彼女の存在と価値観、そしてその思考を認め始めている証であり、パーティー内での彼女の大きさを信じ始めている証でもある。

 

「……船を降りるぞ」

 

「わかった。今行く」

 

 リーシャとサラのやり取りに口を挟む事無く立ち止っていたカミュは、最後に発したサラの小さな返事を聞き、そのまま上の甲板へ続く梯子を上り始めた。

 苦笑を浮かべてそれに答えたリーシャは、未だに俯くサラの背中を軽く押す。背中を押された『賢者』は、小さな一歩を踏み出し、それを機に再び顔を真っ直ぐ前へと上げた。

 

 『人』として過分な力を有した彼等は、それぞれの立ち位置も大きく変えて行くのかもしれない。

 それは、『魔王バラモス』という諸悪の根源を打ち倒した暁には、どのような形へと変化しているのだろう。

 仲間達の待つ船へと乗り移ったと同時に、霧のように姿を消して行く『幽霊船』を見つめていた一行の胸に、様々な想いが通り過ぎて行った。

 

 

 

 




読んで頂き、ありがとうございました。

予想以上に文字数が多くなってしまいました。
読み辛かったら、申し訳ありません。

ご意見、ご感想を心よりお待ちしております。

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