After La+ ジュピトリス・コンフリクト   作:放置アフロ

7 / 33
今話の登場人物

エルピー・プル(機動戦士ガンダムZZより)
 ファンネルを自在に操り奇声を上げながら、走り回る恐怖の小学生。
 彼女を見て、モエ~♪となるか、イラッ☆となるかでその人が分かる。
 萌えという文化のない80年代に現れた彼女に、世のロリオタ共は悶絶したが、その
早すぎる登場は、早すぎる死に直結した。
 享年11歳。




エルピーの声

 マリアは全天周モニターに映し出される、数多の星々の輝きを眺めつづけるのも、さすがに疲れ始めていた。

 彼女が乗る《キュベレイ》は《ジュピトリス》脱走後、広い暗礁宙域を突っ切り、その端域の岩石のひとつに隠れていた。

 ちょうど良い大きさのそれは表面の凹凸も相まって、MSの姿をうまく隠蔽させることができた。

 カール・アスベルから脱走の作戦を聞いた後、マリアはすぐに行動へと移した。

 すなわち、バーバラを人質に取って、MSデッキの《キュベレイ》を奪取し、ーバーバラはすぐに解放したーシャッターをファンネルのビーム砲で破壊して艦外へ逃走した。

 

『暗礁宙域に入ってしまえば、追ってこれないだろう』

 

 というカールの予想通り、いや、それ以上に哨戒中のMSはやる気のなさを見せ、一撃の威嚇射撃すらせず、《キュベレイ》の逃亡を許すこととなった。

 スペースデブリや岩石群が無数に浮遊するこの宙域を抜けるのに、2時間。

 さらに、《キュベレイ》を隠蔽させてから星を眺めること、2時間。

 

(もうすぐ、あの敵襲から丸一日経つのか・・・)

 

 マリアは片手でヘルメットを押さえ、眉間に深いシワを刻んだ。

 長時間の行方不明機の捜索、不毛な会議の論争、暗礁宙域内の高速移動。

 疲労はピークに達していた。

 

 

(・・・光?・・・光が見える・・・)

 

 私は緑の光の空間の中を、無重力遊泳のように漂っていた。緑といっても、木々が作り出すような色ではない。

 これは、宇宙から見た極地にかかるオーロラのような輝きだった。

 いつの間にか、愛用の赤黒基調のノーマルスーツもヘルメットも着ておらず、生まれたままの姿で私は浮かんでいた。

 

『やっほー!』

 

 少女の可愛らしい声と、唐突に後ろから、抱きつかれるような柔らかい感触。

 

『マリィ、あそぼっ!』

(あぁ、またこの感覚か・・・)

 

 私はこの現象、この場所、そして、後ろの声が誰なのか理解した。

 精神の交信、現実でも夢でもないどこか、そして後ろにいるのは私の片割れ。

 

「プル姉さん、久しぶり」

 

 振り返ると、私と同じ姿、10歳ぐらいの私のにこにこした顔がそこにあった。

 もっとも、私自身はこんな風に無邪気に笑ったことはない、・・・と思う。

 

『あっれぇ?久しぶりに会ったのに、マリィ全然うれしくなさそうだよ?』

 

 私の正面にふわふわと回り込みながら、プルは口を尖らせる。

 

「色々あったんだよ!」

 

 そんなつもりは無かったのだが、焦りと疲労と余裕の無さが私を苦々しい顔つきと口調にさせてしまう。

 

「プルも知っているんだろう?《ジュピトリス》がジオン残党に襲われて、キアがさらわれたんだよ!」

『うん、知ってる。ずっと見てたよ』

「見てただけ!?役に立たないなっ!気付いたら、私に知らせてくれたらいいのに」

 

 目を三角にして非難する私の言葉に、プルはそっぽを向いて拗ねた。

 

『怒るの嫌っ!』

 

 まるで子供だった。その態度に私もムキになり、

 

「もう死んでる姉さんは適当にそこら辺を浮いてれば、それでいいのかも知れないけど、私たちは体を持ってるんだから・・・・・・」

 

 そこまで言って、

 

(しまった・・・!)

 

 私は言い過ぎたと思い姉を見ると、その小さな肩が震えていた。顔を見れば、彼女の目は大粒の涙を浮かべて今にも泣き出しそうだった。

 

(そもそも、プルをこんな風にしたのは、・・・殺してしまったのは、私じゃないか・・・)

「・・・ごめん」

 

 やっとそれだけのことを言って、私は目を逸らしうつむいた。

 それ以上、自分と同じ泣き顔を見つづけることが辛かった。

 

(きっと、泣き喚いて、どっか行っちゃうだろうな・・・)

 

 予想に反して、プルは私に静かに語りかけてきた。

 

『あたしね、ずっと見てたよ。マリィのこともキアのことも。ずっと前から』

「・・・」

『だから、あたし哀しいよ。あんなに明るかったマリィが・・・。最近変だよ』

「・・・うるさい」

『思い出して!

 大人たちに利用されそうになっていたキアを助けて、《ジュピトリス》までジュドーを追いかけてきたこと。

 ルーに新しい名前をもらったこと。ジュドーの妹にしてもらったこと。

 マリィ、前に言ってたよね?「プルみたいに笑えない」って。

 でも、マリィ笑ってたよ。うれしそうに笑ってたよ。バラの花束もらって「ありがとう!」って』

 

 むしろ、それらの思い出が現実との落差となって私には哀しかった。

 

「・・・姉さんはいつまでも子供のままでいられるから笑えるんだ。

 私は・・・・・・。

 私はね!もう大人になったんだよ!!」

 

 うつむいたまま、魂を絞り出すようなかすれ声で私は抗議した。

 

『違う!違うよ、マリィ。大人になると、笑えなくなる、哀しくなるなんておかしいよ。

 本当は寂しいから笑えないんでしょ?哀しいんでしょ?』

 

 その言葉に私の心臓は寒くなっていくようだった。プルは心配して言ってくれているのに、逆に私自身は追いつめられていくような感じがした。

 

(やっぱり姉さんは知っているんだ、私の気持ちを・・・)

 

 私と同じ顔、声、髪、瞳を持つ存在。

 だからこそ、姉が好きになってしまったあの人・・・。

 ジュドー・アーシタを私も同じように好きになってしまった。

 そして、そのことをプルも分かっているのだ。

 私の中で激情が奔流となり、涙腺が崩れかけてきた。

 

「嫌い・・・」

 

 小さな呟きは、すぐに大きくなった。

 

「みんな嫌いだ・・・。

 いなくなれーーーぇ!!」

『待って、マリ・・・』

 

 その叫び声が衝撃となって、プルを、緑の光のカーテンを、すべてを消し去り私を現実へと引き戻した。

 

 

 ガラス玉のようなふたつの蒼い瞳がモニターの星のきらめきを反射していた。茫然自失となった私はしばらくそのままコクピットのリニア・シートにぐったりと体を預けて身じろぎもしなかった。

 やがて、唇から、まぶた、指先にかけて、段々と痙攣が襲ってきた。

 

(ぐっ!こんな時に・・・)

 

 それはすぐに全身に伝播し、大きな震えとなって行動に支障をきたすはずだ。

 私は、リニア・シート後ろ、小スペースのピルケースを急ぎ取り出し、蓋を開けようとするが、指がふるえてうまくいかない。

 息ができなくなってきた。まるで、肺が膨らむことを忘れ、縮むことしかできなくなってしまったようだ。

 

「・・・く、そっ!」

 

 おもわず、汚い言葉が口をつく。

 次の瞬間、力加減を間違えた私はピルケースの蓋を吹き飛ばし、安定剤のタブレットをコクピット中に漂わせることになった。その中から慌ててつかんだ3錠をヘルメット・バイザーを上げるなり、口に放り込む。すぐに噛み砕くと、大量の苦味に吐き気すら催してきたが、両手で無理やり口を塞ぎ、必死に自分を落ち着かせる。

 

(大丈夫、すぐに、すぐに、良くなる、はずだ・・・)

 

 やがて、肺は呼吸することを思いだし、私は荒れた息を吐き出す。少しずつそれは収まっていった。

 その時、鋭く尖った感覚が私の心の中に入り込んできた。

 

(きたかっ!?正面!!)

 

 すぐに、バイザーを閉じる。

 

「ファンネルっ!」

 

 短いつぶやきに呼応して、リア・アーマーから2つの影が飛び出した。

 ビーム砲を取り除いたスペースに超高倍率望遠レンズを仕込み、有線式偵察カメラにした特殊ファンネルである。

 ファンネルの大きさは、相手からはデブリ程度と認識されるという利点を生かし、《ジュピトリス》で改造を施したものだった。

 先ほどの感覚の方角へ真っ直ぐひとつ、直交する方角へもうひとつの特殊ファンネルを飛ばす。

 一直線に目標へ向かっていたひとつが有線の限界距離になり停止し、レンズのズームを最長にする。

 最大望遠で得られた画像をCGが補正し、さらにデータベース内にある記録から同型船の諸元が引き出される。

 それらの処理が一瞬にして、《キュベレイ》の頭脳で行われ、パイロットのマリアには、全天周モニターの別枠に表示された。

 それは旧式の航宙貨物船だった。全長146メートル、最大積載量500トン超。全体が尖った三角錐形状をしており、先端部にブリッジ、後部三角錐の底面に貨物スペースを備えていた。

 その空力を考慮した形状から、大気圏下での飛行能力も有し、かつては地球と宇宙間で頻繁に利用されている船であった。

 しかし、いかんせん古く、同型船は最近は見かけることは滅多に無かった。ましてや、地球・宇宙往還貨物船が地球から遠く、火星圏を宙航しているのも不自然である。

 マリアは直交方向に飛ばしたもうひとつの特殊ファンネルにも最大望遠をかける。

 船体横、ブリッジの下に船名、貨物スペースの外壁に白抜き文字で社名が書かれているのが見えた。

 

(《ダイニ・ガランシェール》・・・『リバコーナ貨物』・・・間違いないな)

 

 私は確認するようにその名をつぶやいた。

 『リバコーナ貨物』の名は《ジュピトリス》脱走前カール・アスベスから聞いていた、火星までの移動を請け負った民間運輸会社だ。

 

(もっとも、こんな辺境で荷物を運ぼうって酔狂な連中だ。一筋縄ではいかなかったぞ)

 

 私が懲罰房に入れられているときに、どんな方法で連中と連絡を取り合ったのかは知らないが、その交渉はかなりの労力とコストー当然先方に渡す報酬金額もーが相当かかったものらしいことは、カールの顔色を見れば分かることだった。

 そして、彼は警告した。

 

(だが、気を付けろ。何度も言うが、一筋縄の連中じゃない。表立っては民間の会社だが、まずトンネル・カンパニー、偽名だろう。

 実際は、海賊やジオン残党ということも十分あり得る)

 

(分かっているさ、カール)

 

 落ち着きを取り戻した私は別枠モニターを見つづけながら、またつぶやく。

 

(ただの貨物船ならそれでよし。海賊やジオンなら、力で船を奪うだけの話だ)

 

 マリアの蒼い瞳は暗く冷たい『人間兵器』のそれになっていた。

 

(それにしても・・・。《ガランシェール》・・・、フランス語か?気取った名前だな)

 頭の《ダイニ》という意味は私には分からなかった。

 

 

 




あとがき

 ガンダムユニコーン原作者の福井氏は執筆前に、例のあのprprprと言う小学生を見て、

『さすがに仕事とはいえ、(ZZを)見続けるのが苦痛だった』

 と、おっしゃったそうです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。