After La+ ジュピトリス・コンフリクト   作:放置アフロ

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今話の登場人物

バーバラ・ボールドウィン
 30歳。濡れたような美しい黒髪とこぼれ落ちるほど大きな瞳。
 連邦軍・木星船団所属《ジュピトリスⅡ》の航宙長。一等航宙士にしてイリーナの上司。
 古参クルーの一人で、マリア、イリーナのことは亡命当時から知っている。
 仲の良いマリア、イリーナらは通称で『BB』と呼ぶ。





ミネバの影

 【火星ジオン】

 

 私たち《ジュピトリス》のクルーたちは火星圏を活動地域とするジオン残党をそう呼んでいた。単純に火星にいるジオンだからである。もっともその他の組織ー今は瓦解しているものも多いが、ー【デラーズ・フリート】だの【新生ネオ・ジオン】だのと自称したりすることもある。

 

(私にとっては敵の名前なんてどうでもいいことだ)

 

 そう、名前なんてどうでもいい。名前なんてものは対象を認識する記号や番号みたいなものだ。

 

(私は自分の名前だって捨ててしまったのだから。

 問題なのは、連中が・・・)

「キアを・・・、ドルチェ航宙士をジオンの残党はいまさらどうするつもりなんでしょう?」

 

 濡れたような美しい黒髪とこぼれ落ちるほど大きな瞳の航宙長のバーバラ・ボールドウィンが、私の疑問を代弁してくれた。小刻みに揺れる彼女の長いまつげは、キアーラの身を案じた憂いを含んでいた。二等航宙士であるキアーラは、バーバラとは上司・部下の関係であるが、仲も良く仕事を離れれば、互いを「キア」、「BB」と呼び合うほどであった。

 

(そう、『いまさら』だ。何年も何事もなかったのに・・・。なぜ今になって)

 

 私はバーバラの言葉とその表情に心が暗く沈む。

 

「どうするって、・・・テロリストの考えることなんてこっちが分かる訳ないじゃないか」

 

 肘鉄を喰らった脇腹をさすりながら、イイヅカがうめくように言う。

 

「まぁ、でもやっぱり【ラプラスの箱事件】に関係してくるんじゃねぇのか?」

 

 イイヅカの口調は真面目な会議であっても、礼儀も遠慮も無い。だが、彼が口にした内容は私やバーバラ、そして艦長が口に出せなかった疑念の核心であった。

 

 

 【ラプラスの箱事件】。

 

 UC96年、今から2年前に起きた一連の事件はその戦闘規模・地域の大きさも相まって、ラプラス戦争、さらに近年は第三次ネオ・ジオン戦争と呼ばれている。その詳しい経緯について、割愛するが事件の結末は全地球圏に向けてのミネバ・ラオ・ザビの演説放送で締めくくられた。

 ミネバ・ラオ・ザビ。かつてジオン公国を支配したザビ家の忘れ形見。

 そして、一部のジオン残党には再興の旗印と目され、また他方では、地球連邦に対する抗戦を避けようとする邪魔者として嫌われていた。

 その彼女が、地球連邦政府が100年近くに渡って隠蔽してきた謎、【ラプラスの箱】と呼ばれた宇宙世紀憲章の最後の一章『宇宙に適応した人類に、優先的に政治参画させる』という内容を暴露したのだった。

 宇宙に適応した人類とは、広義にはスペースノイドを指し、狭義においてはニュータイプを示しているようにも思われる。

 彼女はその事実を明らかにしただけで、大衆に対して、どうすべき、こうあるべきという具体的な話をしたわけではない。

 ただ、『自分の目で真実を見極めてください』と言った。

 マクロ視点では、彼女の宣言により、ラプラス戦争は表向き終結したように見えた。

 事実、ネオ・ジオン抗戦右派であるフル・フロンタル派はそのリーダーを失い、構成員たる将兵をばらばらに各派閥へ四散させるに至った。

 連邦も無傷ではなく、むしろ、こちらの方が重傷を負ったと言ってもよい。秘密の暴露に伴い、地球連邦最高行政会議(いわゆる内閣)は解散という憂き目に会い、また連邦軍幕僚の吹き飛んだ首も片手では数え切れない。

 先立ち同年5月1日、首都ダカールはネオ・ジオンの攻撃、通称【ダカール襲撃】を受けた。戦後、戦闘の傷跡も生々しい街路は怒り猛る反連邦デモの群集に埋め尽くされた。動員数は主催者発表で数万人だが、アングラネットの呼びかけも功を奏し、実数は誰も把握できないほど膨れ上がっていた。

 デモは地球各地、さらに宇宙へと波及。時に暴動と化した。

 主にジオン残党の蜂起に対応するため配置されていた連邦各コロニー艦隊は、銃口を向ける相手こそ違えど、以前にも増して身動きが取れなくなった。

 くだらぬ法案も議会を通過せず、政府機能は滞った。

 そのまま、連邦という大木は急激に朽ち、枯れ倒れるのかとさえ思われた。

 ところが、数ヶ月もすると日常は平穏を取り戻し、2年も経つと、人々は日々の平凡という現実に流され、ラプラスという単語は別にのぞく価値もないような単なるひとつの事実として、記憶から忘れ去られるようになった。

 また、戦後のマクロ世界でもうひとつの興味深い現象が起きている。

 艦隊まで使用した大規模戦闘は96年以来、この2年間発生していないが、テロやゲリラ戦などのLIC(低強度紛争)は言うに及ばず、MSを使用した中規模紛争は宇宙各地に野火のように拡がっていた。

 『ラプラスの箱』という言葉は時々、ふと思い出したように話題に上るようなことがあったとしても・・・。

 例えば、ミクロ視点の《ジュピトリスⅡ》MS整備長の以下の言葉を借りて言えば、

 

 

「俺は学が無いから、あのお姫さんが何を言いたかったのか、何がしたかったのか、わっかんねーよ」

 

 イイヅカは頭の後ろに手を組み、椅子の背もたれに体を預けた。

 

「いや、まったく俺も同感だ。あの秘密条文を使って、連邦を糾弾するなり、スペースノイドに自治・独立を訴えるっていうなら、まだ納得できるんだが」

 

 そう言って機関長のガンディーも頷く。濃い褐色の肌を持つ彼の表情はうかがい知れなかった。

 

「逆にそんなことをしようって奴をミネバ・ザビは自ら粛正するって言ってるんでしょう?ますます訳が分からない」

 

 腕組みをして考え込むガンディー。

 

「あれでは敵を増やすだけですね」

 

 私の上司カールも平たい顎をこすりながら、腑に落ちない口調だ。

 

「秘密をばらされた連邦はもちろん、あの言い様ではジオン残党の武闘派路線もますますミネバ・ザビと対立するでしょう」

「あれじゃあ、歯向かう奴はぶっ殺す、って言ってるのと変わらないな、お姫さんは」

 

 イイヅカが自分のM字禿頭を叩いて言った。その不穏な言い様に、皆が押し黙った。

 武闘派のテロリストがそんなことを言われ、一体どんな行動に走るだろうか?そして、もしも彼らがミネバ本人を捕らえたりしたら、どんな仕打ちを彼女にするだろうか?

 

「ところで」

 

 神経質そうな中年女性の声、補給長のリンだ。

 私は心の中で舌打ちする。

 

「ドルチェさんがそのミネバ・ザビの影武者というのは、本当のことなんですかぁ?皆さん知っていたんですかぁ?」

 

 その問いかけに一同は今日何度目かになる、視線を牽制しあった。この場にいる全員が知っていたことではなく、その事実は一部のクルーしか知らなかった。仲間を互いに探り合うような雰囲気は不快なものだった。

 

(さかしい女だ)

 

 リンのしゃべり方も何か非難するような響きがあり、私はかねてからこのおばさんが嫌いだった。加えて、こちらを見るときの粘りつくような視線も気持ち悪かった。

 

「確かに似てるとは思いましたけどぉ。

ま、わたしは《ジュピトリス》に乗って3年も経たないただの『新参者』ですので、知らなくて当然のことが多いのですけどぉ。

 まぁ『一言』、言っておいていただければ、こちらとしてもぉ・・・」

 

 独り言を言い続けるようにして、その実、不平不満や当てつけを垂れ流しているリンに私は今度こそ舌打ちした。

 その舌打ちが聞こえたのだろうか、リンは口を閉じこちらを睨んできた。

 

「補給長はジオンの人間がお嫌いなのでしょうか?」

 

 私もリンを睨み返し、慇懃に言った。

 

「とんでも無い。わたしはそんな差別主義者ではありませんよ。ただ、危険な思想を持った人を恐れているだけですよぉ」

 

 ジオン=『危険な思想を持った人』と言っているような口ぶり。怒りがこみ上げてきた。

 私はこれ以上無い作り笑いを浮かべて、

 

「それを聞いて安心しました!私も元ネオ・ジオンのパイロットです。加えて言えば強化人間ですが、仲良くやれそうですね!」

「まぁ!」

 

 私はあえて自ら『強化人間』という忌み言葉を吐いた。

 リンはさも驚いたという感じで右手を口に当てていたが、目はあからさまに嫌悪感を帯びていた。まるで、『こっちを見るな、こっちに来るな』と語っているようだった。

 

「それでいつも薬が必要で医務室に行ってらっしゃるのねぇ?ご愁傷様。強化され過ぎたのね。精神安定剤かしらぁ?」

「いつもじゃないですよ。ひと月に1回ぐらいです」

 

 だが、今は薬を飲んだ方がいいかも知れないな。でないと、

 

(お前の首を折ってしまうよ)

 

 私の蒼い目は殺気を放っていた。

 その気配を知ってか知らずか、

 

「リン補給長、この件は非常に高度な政治的問題をはらんでいる」

 

 バッハ艦長が割り込んでくる。全員に目を移しながら彼は続ける。

 

「まず、ドルチェ航宙士がミネバ・ザビの影武者だった、というのは事実だ」

 

 リンが私から目を離した隙に、私は腰のポーチから出した、タブレットの安定剤を素早く口に含む。奥歯で砕いたそれは普段よりもひどく苦く感じられた。

 ちらりと、上司のカールが私の方を気遣わしげに一瞥したのが分かった。

 

(大丈夫です)

 

 声には出さずに、小さく頷いて応える。

 

「・・・しかし、それは過去の話で、彼女が幼少のころ今から10年も前のことだ」

 バッハの説明は続く。

「第一次ネオ・ジオン戦争終結後、彼女はマリア・アーシタ士長と共にこの《ジュピトリスⅡ》に亡命。それから、今までの8年間、ふたりともジオンとの継がりは一切ない。ご理解頂けたかな?」

 

 バッハ艦長は再びリンを見て言う。

 

「・・・わかりました」

 

 納得しかねる様子であるが、一応リンは頷いた。

 

「それから、補給長のアーシタ士長に対する発言を私は聞かなかった事にする。

 だが、2回目ははっきり聞こえると思うので、そのつもりでよろしく頼みます」

 

 若干の怒気を含ませバッハがそう言うと、リンは何も答えなかったが、マリア当人も含めて、両隣のカール、イイヅカ、さらにはバーバラまでも険悪な視線をリンに向けていた。

 

「さて」

 

 疲労濃く、深く嘆息をついてから、バッハが続ける。

 

「ここいらで小休止。と言いたい所だが、ドルチェ航宙士に対する我々の今後の行動指針を明確にしておかなければ、納得できない者もいるだろう」

 

 バッハ艦長はそれとなく、私の方へ視線を走らせる。

 

「諸君らの遠慮の無い意見を聞かしてもらいたい」

 

 私はすぐに立ち上がった。

 

「救出作戦を具申します。《キュベレイ》以下MS2個小隊で追跡します」

「2個小隊だと!?」

 

 私の発言で会議室中にざわめきが広がった。

 真っ先に反論したのは、通信長のヴァルターだった。

 

「正気かね、士長?元軍属の君が、ましてモビルスーツ・パイロットのエースである君が、現状の《ジュピトリス》のMS稼働状況を理解していない訳ではあるまい」

 

 私は先ほど噛み砕いた安定剤のような苦みが、口に広がるのを感じた。

 

「それは、・・・理解してます。しかし、」

「では、哨戒小隊の損耗率は?」

 

 畳み掛けるように、ヴァルターが続ける。

 

「3機中2機損失。・・・損耗率66%です」

「《アイザック》1機でどうやって《ジュピトリス》の全天を哨戒するんだね?」

「それは・・・」

 

 《アイザック》の頭部と一体化したロト・ドームはパッシブ・レーダー・システムを搭載し、探査範囲は上面194°。つまり全天を監視する際には2機の機体が必要である。

 哨戒小隊3機の《アイザック》は2機が哨戒中、のこりの1機が《ジュピトリス》内で整備・補給を受け、ローテーションにより、パイロットと機体を交代させつつ、24時間体制でソラからの護衛を担っていた。

 単艦でかつての輸送船換算で20隻分のヘリウム3を運搬可能な《ジュピトリス》。これは一年戦争前の地球で消費されるヘリウム3の十年分にも及ぶ。

 地球に住む人々にとって、生命線のひとつとも言えるこのスペースタンカーを警護するために、哨戒機も含めてMS15機、5個小隊というのは決して『過剰』や『十分』といった言葉では語れないであろう。

 言いよどむ私に、ヴァルターがさらに被せる。

 

「2個小隊が《ジュピトリス》から離れた上、2機の哨戒機の穴埋めを他のモビルスーツがしたとして、その稼働率はどうなるのかね?」

「・・・100%、を越えるかもしれません」

 

 ざわめきが大きくなった。

 最後の哨戒機を除く12機のMSのうち、2個小隊6機がキアーラの救出作戦に出払ったとすると、残りの6機のMSは整備もろくに受けられずに、24時間フル稼働で《ジュピトリス》の哨戒・護衛に当たらなければならない可能性は十分あった。

 パイロットや整備員にも相当の負担を強いることになるし、なにより、《ジュピトリス》自体を危険にさらす。

 

「無茶だ!」

 

 誰かが叫んだ。

 

(無茶なことは分かりきっているんだ!それでも、)

 

 力なく椅子に腰を降ろした私は唇を噛んだ。

 

(早く助け出さなければ、キアは・・・)

「通信長、敵からの要求とかはないのですか?」

 

 じりじりした雰囲気に耐えきれない様子で、ボイル副長が尋ねるが、ヴァルターは頭を振る。

 

「ありません。今までも連中が我々の仲間をさらって、何か要求を出したことはありません」

 

 その言葉に私はかつて連中が起こした事件を思いだし、吐き気を催してきた。

 数年前、資源探査中の《ジュピトリス》のスペース・ランチ(小型宇宙船)が【火星ジオン】に拿捕、乗員10名すべてが連れ去られた。

 そして、3ヶ月後、《ジュピトリス》には映像媒体となった全員が送り届けられた。

 その映像ディスクを持ってきたのは、火星圏で活動中の別の資源採取艦であった。火星近くにあるジオン残党がアジトとしている小惑星に潜入していたクルーが持ち帰ったものだった。

 その内容は【火星ジオン】がいかに残虐非道な組織であるかということが収められていた。

 

「やっぱりこういった事件は、連邦軍に任せるべきではないかしらぁ?」

 

 他人事のようなリン補給長の物言いに、イイヅカが噛み付く。

 

「おいおい!連邦がわざわざこんな辺境に、しかも二等航宙士一人を助けるために部隊を送るわけがないだろう!」

「あら、連邦にはなんとかっていう対ジオンの専門部隊があって、すぐに駆けつけてくれるって話よぉ」

 

 リンは人を小馬鹿にしたような口ぶりだが、

 

「それはないでしょう」

 

 その推測を横から口をはさんだヴァルターが否定した。

 

「確かに対ネオ・ジオン掃討任務のエコーズは『人狩り』とも言われる強い権限を持つ特殊部隊だが、宇宙にその二つ名を恐れさせたのは、あの【箱事件】以前だと聞いてますよ。

 むしろ、【箱事件】以降はテロや暴動への対処と、不法滞在者を宇宙に追い出すことに夢中になっていて、活動範囲も地球圏に限られているらしい、と。

 それに、連中は救出専門でもなければ、木星船団の便利屋ってわけでもない」

 

 連邦宇宙軍特殊作戦群。活動場所は問わず、ーE(Earth)、CO(Colony)、AS(Asteroid)の頭文字を取って、通称ECOAS(エコーズ)ーと謳っていた組織も時流には逆らえず、重力に魂を引かれる人たちに振り回された不運な組織と言える。

 最近では、地球とその周囲のコロニーしか守らないことと環境保護をもじって、エコ(ECO)組織、またはエコ団体などと影で皮肉られている。

 

「そういえば、」

 

 加えて上司のカールが思い出したように言う。

 

「シャアの反乱で勇名を馳せた連邦の遊軍ロンド・ベルもあの事件の後、大幅に規模を縮小され、新設部隊に編入されましたな。

 コロニー艦隊が動けない今、暴挙としか言いようがない」

 

 ヴァルターが頷く。

 極端な連邦軍の配備状況は、そのまま偏重した地域不安定をもたらした。

 事実、【箱事件】以後、地球圏における宇宙艦船の襲撃事件は減少したが、火星圏、木星圏、およびアステロイド・ベルトの航路における海賊行為は増加の一途をたどっていた。

 

「あの・・・それは、つまり、」

 

 おずおずといった口調で、航海士のバーバラが遠慮がちに言う。私は彼女の黒い瞳がうるんでいることに気が付いた。

 

「連邦や木星船団はキアを・・・、ドルチェを救ってくれないということですか?」

 

 その場をかつてない沈痛な沈黙が重く垂れ込めた。

 

(情けない・・・。なんて無力なんだ)

 

 私はうつむいて、固めた自分の両の拳を睨みつけることしかできない。

 その時、小さく鼻をすする音が聞こえた。

 見ると、バーバラの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 その顔に別の女性の姿が重なる。

 茶がかかった金髪と、湖のように深いエメラルドグリーンの瞳。うすピンクの頬。

 

(キア・・・)

 

 その金髪が乱暴に捕まれ引き上げられ、綺麗な頬に切れ味が悪そうなナタが押し付けられる。美しい顔は恐怖に震えるが、悲鳴は口に嵌められた猿轡に押し殺され、後ろ手に縛られた彼女は抵抗するすべを持たない。

 そして、ナタが高々と掲げられ、次の瞬間白い喉元に振り下ろされる。

 いや、もしかしたら、彼らは死より恐ろしい恥辱をキアーラに味合わせるかもしれない。

 女に生まれてきたことを後悔させるほどに・・・。

 

(ああ・・・!ダメだそんなこと、絶対にダメだ)

 

 自らの妄想を私は強く打ち消した。

 

(私が、私がやるしかない!)

 

 椅子を蹴って立ち上がり、私は拳をデスクに叩きつけた。

 

「あなたたちは、それでも《ジュピトリス》のクルーかっ!!」

 

 椅子は勢いで壁に激突し、合板製のデスクにはひびが入った。

 私のオレンジがかった栗毛は文字通り逆立った怒髪天となり、蒼い瞳は燃えていた。

 まるで威嚇する猫のような形相である。

 この不毛な会議の途上の全員がーすぐ隣のMS整備長のイイヅカもー私のすさまじい剣幕に一言も発せずにいた。

 

「誰も何もせず、自分たちだけがのうのうと地球に帰還し、キアを見殺しにして助けないと言うなら、私ひとりだけでも彼女を助ける!」

 

 バーバラがぽろぽろと泣きながらこちらを見上げている姿に、私も涙腺が緩みそうになったがなんとかこらえた。

 

「私は、・・・私は何もしないまま、キアが映像媒体の中で、殺されてゆくのを見ているだけなんてことは嫌だ!」

 

 きびすを返し、私は扉へと大股で足を進めた。

 

「待ちなさい、アーシタ士長!」

 

 厳しい口調と表情でバッハ艦長も立ち上がった。

 

「君は我々のことを『それでも《ジュピトリス》のクルーか?』と言ったな」

 

 私は静かに反論するバッハを睨むが、彼も強い眼光でそれを返す。

 

「ならば、艦長として答えよう。私はこの艦の総責任者として、全クルーの生命と財産を守る義務がある。一個人としてのキアーラ・ドルチェの救出のために、艦全体を危険にさらすことはできない。

 さらに、君ひとりで彼女の救出に向かうという、身勝手な単独行動も許されない。優秀なパイロットとしての腕は認めるが・・・、これまでのようだ」

 

 バッハはデスクのインターコムを押すと、室外の屈強な警備要員が入室し、私の両脇を固めた。

 

「マリア・アーシタ。君の階級を剥奪しMSパイロットの任を解く。別命あるまでその身柄を拘束する」

 

 




あとがき

 MS戦闘描写とか難しくて書けない。
 
「ばきゅーん」
「ずどーん」
「ふう、あぶなかったぜ」

 みたいなよく分からん文章にはしたくないなぁ、と思っていたら筆が進まなくなった。自爆。
 明日はキュベレイをちょこっと動かします。


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