After La+ ジュピトリス・コンフリクト   作:放置アフロ

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ギラ・ドーガの脅威

 ホルストの狭い宇宙貨物港。

 その低い天井すれすれを飛ぶ濃紺迷彩色の《ギラ・ドーガ》が宇宙艦船の係留ドックへ向かっていた。先ほど、倉庫から現出した4機のMSの内の1機である。

 

「どこのモビルスーツだ?宇宙港のハッチを押さえるつもりか!?」

 

 《ダイニ・ガランシェール》のブリッジで留守を預かるトムラはモニターのMSのシルエットに呻いた。

 

(まずいな。脱出できなくなるぞ)

 

 トムラは急ぎ、《ダイニ・ガランシェール》後方300mの倉庫に潜伏するアイバンの《ギラ・ズール》にレーザー回線を開いた。倉庫屋上には回線用のアンテナが設置済みだった。

 

「アイバン、《ギラ・ドーガ》だ!!」

 

 すぐに、コクピットで待機中のアイバンが応答する。

 

『敵か味方か?』

「わからん。だが、港を押さえようとしている。なんとか、追い払えないか?」

『やってみよう、とにかく』

 

 アイバンは片膝を付いた姿勢の《ギラ・ズール》を立たせ巨人サイズの鉄扉を開け外に出ると、メインスラスターを吹かし、垂直離陸する。モニターに飛行中の同系列機種《ギラ・ドーガ》のシルエットが映し出された。

 

(どんなマヌケでもこっちの噴射光に気がつくだろ)

 

 そうすれば、相手の意識は係留ドックから、後方のアイバン機へ向かうだろうと予想した行動だった。

 天井近くまで飛び上がったアイバン機は、火星の低重力も相まって、ゆっくりと自由落下する。その間、アイバンはその《ギラ・ドーガ》の武装状態をつぶさに観察していた。

 

(右腕にビームマシンガン。あれをここで撃たれると厄介だな)

 

 アイバンは顔をしかめた。

 最近の《ダイニ・ガランシェール》だけでなく、ゲリラ集団や海賊全体に言えることだが、ビーム兵器の整備とコスト高を嫌い、あらためて実体弾武装を多用する中で、『高嶺(高値)の花』とも言えるビームマシンガンを装備した《ギラ・ドーガ》を羨ましくも思う、アイバンであった。

 

(盾の内はシュツルム・ファウストが4発・・・、ん、バックパックにもさらに2発!?・・・フル装備だな、おい)

 

 先太りの棒状の兵器は、簡易式ロケットランチャーであった。

 地面が近づき、着陸体勢に入ったアイバン機。

 その時、コクピットに突如、ロックオン警告音が鳴り響く。

 

「おいっ!」

 

 叫びながら、わずかにアイバンが操縦桿を引くのが早かった。

 直後《ギラ・ドーガ》のビームマシンガンからグリーンの光弾がほとばしった。

 一瞬前までいた空間を光弾が闇を切り裂き、その下の地面に着弾し、それを瞬時に瓦礫へと変える。舞い上がった瓦礫は周囲の視界を包んでいった。

 それに取り込まれるより早く、アイバン機は後方へ回避機動を取った。狭い倉庫街を超低空で飛ぶアイバン機をグリーンの連続的な光弾が追いかける。

 高度を取れば、被弾する可能性が高い。

 《ギラ・ドーガ》は周囲への流れ弾の被害などまったく意に介していない様子で撃ちまくっていた。

 

「世間話ぐらいしてからにしようぜ、まったく!!」

 

 アイバンは軽口を叩いていたが、余裕は全くなかった。

 両側が倉庫に囲まれた通りをひたすら、アイバン機は飛ばすしかなかったが、

 

(マジかよ!?)

 

 前方がT字路になっていた。

 

(まま、よ)

 

 アイバンは賭ける気持ちで、機体の腰に装備されたグレネードの時限をセットし後方へ投げた。

 

 

「ええい!ちょこまかと!!」

 

 《ギラ・ドーガ》のパイロットは苛立ち、上空からアイバン機を銃撃するのではなく、後方を追撃することにした。

 

「整備の馬鹿どもが!照準がずれてるわ!!」

 

 確かに、照準はずれていたが、狭い通路を直線的にしか逃げられないアイバン機に命中させられないのは、パイロットの技量も関係していた。

 

「真後ろに付けば、照準もクソもないわ!」

 

 機体の高度を下げてアイバン機を追うが、中々追いつけない。加えて、彼はアイバンほど地面すれすれを飛ぶことができなかった。

 

「クソがッ!!」

 

 罵りながら、パイロットはトリガーを引けるだけ引いた。

 だが、ビームマシンガンは虚しく周囲の倉庫や地面を破壊していくだけだった。

 その時、アイバン機の後方、すなわち追撃する《ギラ・ドーガ》の前方で小爆発が起き、すぐさま視界が大量の煙に包まれる。

 

「な、何だ!?」

 

 動転したパイロットは機体に急制動をかけて止まり、着陸するや左腕シールド内のシュツルム・ファウストを前方へ発射する。

 それはロケットの速度で一筋の白線を引きながら煙幕に飛び込み、中で大爆発する。港の天井まで黒い爆炎を上げ、ガラクタとなった部品が四散した。

 

「やったぜ!ざまぁみやがれ!!」

 

 パイロットはコクピットで快哉の声を上げた。《ギラ・ドーガ》の装甲に飛散した小さな部品が当たり、コクピットまで乾いた金属音を響かせる。その音と闇を照らす火炎の揺らめきが、パイロットを勝利の余韻に浸らせた。

 

「いけねぇ。雑魚に手間取ってて、港のハッチを固めなきゃ、お頭にどやされる」

 

 機体を回頭させ、フットペダルを踏み込もうとしたパイロットはそこで固まった。

 背後に倒したはずのアイバン機が立っていた。いつの間に回り込んだのか?いや、それ以前にファウストで撃破したはずなのに。

 

 

「豆鉄砲しかないんだ、今日は」

 

 アイバン機は腰だめに構えたZUXー197mmショットガンをスライドし、初弾を込める。

 

「恨むんじゃねぇぞ、俺を」

 

 アイバンはトリガーを絞る。全天周モニター前面に現れる瞬間的な火球と、轟音。

 100mという至近距離から発射された9粒のルナチタンコート・バックショットが《ギラ・ドーガ》胸部コクピットにめり込んだ。

 アイバン機は次々と排きょう、装填、撃発し続ける。工業用オイル缶並の巨大な空薬莢が、地面にガランガランと激しい音を立てながら落下した。全弾撃ち尽くしたZUXー197のスライドが後退し、エジェクションポートが硝煙を吐き出す。

 合計45粒のバックショットに胸部コクピットを完全破壊された《ギラ・ドーガ》は、まるで糸が切れた操り人形のように膝を付いた。

 

「スモークグレネード1発とショットガンでこの収穫。フルハウスだな」

 

 アイバンは全天周モニターに映る、T字路の突き当たりへ目をやる。そこは破損したMSなどを駐機しておくジャンク・ガレージであった。もっとも今は、

 

(悪いな。ガレージ自体がジャンクになっちまったな)

 

 アイバンは《ギラ・ドーガ》からビームマシンガンと、ファウストが3発残ったシールドを鹵獲すると、《ダイニ・ガランシェール》の方角へ飛び立った。

 

 

 ホルスト地下・市街ブロック。

 【木星ジオン】のパイロット、ヒューは《ギラ・ドーガ》のコクピットの中でくさっていた。なぜなら、主イリア・パゾムの出迎えでもなく、核弾頭の奪取でもなく、逃走路の貨物搬入用エレベーターの確保を命じられたからである。

 それは戦闘から遠ざけられたと言ってよい。

 

(コーディーの野郎。ちょっと手柄を立てたからって、いい気になりやがって)

 

 ヒューはイリアの専用機を送り届けるために総督府へ向かった上官のことを憎んだ。

 

『お前はここを守ってろ。せいぜいしっかりな』

 

 最後に無線で聞いた嘲笑まじりの上官の言葉にヒューははらわたが煮えくり返る思いがした。

 

(お頭の《リゲルグ》に乗ってなきゃ、お前なんか後ろから撃ち殺してやるのに・・・)

 

 ほぞを噛むヒューであった。

 そんな時。

 動くはずのない搬入用エレベーターが、上階の倉庫ブロックから下降してきた。

 

(どういうことだ?ディミアンが降りてきたのか?しかし、奴は港のハッチの確保をしているはず・・・)

 

 ヒューは頭上で彼と同様、つまらない役に回された《ギラ・ドーガ》のことを思ったが、さすがにそれでもディミアンが持ち場を大きく離れて行動することなど考えられなかった。

 エレベーターの位置を示す電光表示板がどんどんと下がり、市街ブロックに迫ってくる。

 ヒューの呼吸は早くなり、全天周モニターの正面、ビームマシンガンの照準レティクルをエレベーターの巨大なドアに合わせた。

 

(あと少しで・・・)

 

 到着する、とヒューが思ったとき、そのドアが内側から発せられたビームに焼かれ、溶けた金属片をまき散らしながら、外へめくりあがる。円形に焼き切られたドア。その直径30mほどの穴から濃紺の巨大なシルエットが飛び出した。

 ドアにレティクルを合わせていたにも関わらず、そのシルエットの素早さにヒューは反応しきれなかった。

 トリガーを引くが、その時にはすでにその機体は緊急回避のロールをかけていた。

 ビームマシンガンの光弾はかすりもせず、後方の残ったエレベーターのドアを完全に破壊した。

 暗い悪魔のようなシルエットが《ギラ・ドーガ》の目前に迫る。

 

「ーーーー!!」

 

 続いて、機体に走る衝撃にヒューは声にならない叫びを上げる。コクピットは警告音が鳴り響き、全天周モニターの別枠には【左マニピュレータ、重大な損傷】の表示がされる。

 《ギラ・ドーガ》とすれ違いざま、そのシルエット、《キュベレイ》はビームサーベルで片腕を切断していた。

 

「な、なんだってんだよぉ!!」

 

 後方に飛び去る《キュベレイ》を追おうと、ヒューは必死に《ギラ・ドーガ》を回頭させる。低い地下コロニーの天井近くを《キュベレイ》は考えられない速度で左旋回していた。

 

「落ちろぉぉ!!」

 

 再度、トリガーを引くが、それは闇を切り裂くバーニアの残光ばかりに弾着し、まったく追いきれていなかった。

不用意にビームマシンガンの銃身を左に振り続けたヒューは、

 

「しまったッ!」

 

 叫んだときは遅く、直近の建物の上階を吹き飛ばしてしまい、反射する衝撃と降りかかる瓦礫に視界を奪われた。

 

「うわーぁあぁ!」

 

 見えない視界に恐慌状態となる。まるで、乗り手の意志そのもののように《ギラ・ドーガ》が後ずさりし、後方の建物に背をぶつける格好となった。

 視界がやや晴れてきた次の瞬間、コクピットに【敵機、急速接近】の警告音。

 全天周モニターの左側を見ると、急旋回してきた《キュベレイ》。モグラとヤギをかけ合わせたような独特の頭部形状、その中で光るディアル・アイ。

 ヒューが最後に見たのは、その不気味な光だった。

 

 

 鮮やかなロールをかけながら、《キュベレイ》が左腕袖口のビームサーベルを形成する。

 建物に背を預けた《ギラ・ドーガ》のモノアイ・センサーが《キュベレイ》を見た時、超低空高速飛行の《キュベレイ》が瓦礫を巻き上げながら《ギラ・ドーガ》のかたわらを交錯した。

 ゆっくりと、腰部で溶断された《ギラ・ドーガ》の上半身が崩れ、地面へ落ちていった。

 

「他の敵はどこだ?」

 

 易々と《ギラ・ドーガ》を1機片付けたアンジェロが呟く。

 

(奥です。総督府に・・・。でも彼女は強い)

 

 緑の光が再びささやく。だがそれは少し恐れ、震えているような響きがあった。

 

「ふっ。肩慣らしにはアレは弱すぎた。もう少し歯ごたえがなければな」

 

 《キュベレイ》をホバリングさせたアンジェロは全天周モニターの下方、地面に横たわる《ギラ・ドーガ》のオレンジ色に焼ける断面を冷たく見やった。

 そして、新たな敵を求め、《キュベレイ》を燃える総督府へと向かわせる。

 

 

 


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