色々とリアルが忙しく、更新が滞っていましたが、久しぶりに更新できました!
それでは約七ヶ月ぶりの最新話、お楽しみください!
貨物列車から盛大に飛び降りた後、コーネリア達四人は森の中を黙々と歩いていた。碌な街灯すらない森は馬鹿みたいに暗く、上条とコーネリアが持つ携帯電話のライト機能が無ければ足元すら見えない始末。勢いよく川に着水したってのによく壊れなかったな流石は学園都市製か、と携帯電話の対ショック性能と防水機能にコーネリアは素直に感心する。
周囲に気を張り、なるべく広範囲をライトで照らしながら歩いていると、後ろから肩を小突かれた。反射的に振り返った先に居たのは、何処か不貞腐れた様子のフロリスだった。
フロリスは口を尖らせながら、
「……それにしても、よかったのかよ」
「よかったって何が?」
「ワタシを天草式に引き渡さなくてもよかったのかよ、って話だ」
つい五分ほど前、コーネリア達は新天草式の斥候と出会い、そして別れている。その時、火織がフロリスの身柄を斥候に引き渡そうとしたのだが、事もあろうにコーネリアがそれを拒否したのだ。
フロリスが尋ねているのは、その理由について。
何故、敵であるはずの彼女の身柄を拘束せず、あろう事か未だに自分の傍に置いているのか。明らかに異常な彼の行動、その理由について、フロリスは問い質しているのだ。
フロリスの訝しげな表情にコーネリアは眉を顰める。そこに浮かぶのはただ一つ、困惑の表情だけだった。
「よかったのかよ、とか言われても……別に深い意味なんてねえよ? 前にお前、『捕まったら殺されちまうよ!』とか何とか言ってたろ? その事を思いだしたうえで、別にそこまでしなくてもいいんじゃねえの? って思っただけなんだが。お前が期待してるような大した理由は、残念ながら持ち合わせちゃいねえよ?」
「…………は、はあ? て、てー事は何か? アンタはただ『なんとなく』でワタシを庇ってくれたってのか!?」
「まあ、簡単に言えばそうなるな」
「はあ? 何でだよ、意味分かんねえ!」
「意味分からんとか言われても……」
頭を抱えて唾を飛ばすフロリスにコーネリアはただただ困惑する。
しかし、彼の態度に納得がいかないフロリスはまだまだ言いたい事が山積みの様で――
「ワタシとアンタは敵同士だ、分かってるよな? それなのに、アンタは敵であるワタシを庇ってくれた……これはどう考えてもおかしいだろ! 情けをかけたつもりかもしれねーけど、そんなのはアンタの自己満足でしかない! アンタはさっきの斥候にワタシを引き渡しとくべきだったんだ!」
敵に要らぬ情けをかける事。それは戦場において最も愚かな行動と言える。敵には一切の容赦なく接し、捕獲次第捕虜として身柄を拘束する。これがコーネリアが取るべき行動だった訳だが、彼はまず最初にその正しい選択を破棄してしまった。その矛盾とも言える行動に対し、フロリスは怒りを露わにしているのである。
だが、彼女は勘違いしていた。
戦場における当たり前。それは軍人や騎士と言った『戦いを生業としている者』にしか適応されない。上条当麻やコーネリア=バードウェイ……普通の学生でしかない彼らにそれを要求する事自体が間違っているのだ。
だからこそ、フロリスに襟首を掴まれているこの状況においても、コーネリアは首を傾げ、ただただ困惑し続けるのだ。彼女の言っている事の意味が――戦場におけるルールを全く理解できていないからこそ、コーネリアは綺麗事を貫き通そうとする。だって、それが彼にとっての当たり前なのだから。
彼女はそれを分かっていなかった。
分かっていなかったからこそ、直後にコーネリアから告げられた言葉により、彼女はコーネリアの本当の怖ろしさを実感する事となる。
「確かにお前の言う通りかもしれんけどさ、俺がこうしたいって思ったからお前を天草式の斥候に引き渡さなかったんだよ。自己満足? 別にいいじゃんか、自己満足で。俺は自分が満足する選択をした。ただ、その選択が偶然、お前の身柄を引き渡さないって結果になった。ただそれだけの話だろ? 深い理由なんて別に必要ねえよ。俺がこうしたいって思ったから。俺はいつだってそんな単純な理由で動いてきたんだからな」
「っ」
怖ろしい――なんてレベルの話ではなかった。
狂っている――それがフロリスが抱いた素直な気持ちだった。
ただの自己満足? ……いや、違う。それはもう自己満足とかそういう次元の話ではない。無意識の内に綺麗事の方を選んだ。彼女を引き渡すという選択の方が正しいはずなのに、コーネリアはよく考える事もせずに『別にそこまでしなくていいだろ』と彼女の逮捕を断った。
彼は、気付いていないのだろうか?
何の疑問も抱かずに綺麗事を優先する。それは何よりも正しい様に見えて、実はどんな事よりも間違った行動なのだという事を。この世界は漫画やアニメではない。実際に自分が生き、自分が選択し、それが全てを左右する――そんなリアルなのだという事に、彼は気づいているのだろうか?
自己を優先するという点ではフロリスもコーネリアも同じだ。――しかし、根本的なところで何かが大きく違ってしまっている。その違いに気付いてしまったからこそ、フロリスは目の前の少年が狂っている事を理解した。平気な顔をして敵である少女を救おうとしたコーネリアの異常性に気付いてしまったのだ。
頬が引き攣り、背筋に寒気を覚えた。――そして直後、彼の恋人である神裂火織の顔を凝視してしまった。
その理由は至って単純。
神裂火織はコーネリアの異常性に気付いているのか。ただ、ただ、それが知りたかった。
フロリスの視線に気付いた火織は小さく微笑むと、
「彼には何を言ったって無駄ですよ? 彼の言葉に裏はない。彼は正真正銘の大馬鹿者なのです」
「そ、そんな奴に惚れてるアンタも大概だと思うけどな……」
「そうなのでしょうね。……しかし、そんなコーネリアだからこそ、私は本気で惚れてしまったのだと思います」
「……そうかよ」
――ああ、駄目だ。
――この女もまた、相当の大馬鹿者なのだ。
頭のおかしいヒーローとそれに心酔しているこれまた頭のおかしいサムライ女を前にフロリスは引き攣った笑みを浮かべる。……不思議と、考えるのが馬鹿らしくなってきた。
「あーもー……はいはい、分かった、分かったよ! アンタが相当の馬鹿だって事は理解した! だからもう、これ以上は何も言わねーよ。アンタの勝手にしやがれ」
「お前は何をそんなに怒ってんだ……?」
「いや、それで気付けない先輩は流石に鈍感すぎると思うぞ……?」
「口を慎みなさい上条当麻。あなたは今、世界で一番残酷な悪口を言いました。コーネリアへの謝罪を要求します」
「それは上条さんが超鈍感だって言いたいのかな!? 俺は鈍感じゃねえ!」
「「……頑張れ、五和」」
「へ? 何でそこで五和の名前が出るんだ?」
「「いや、別に」」
先ほど再会した時に仲間たちに羽交い絞めにされながら顔を真っ赤にしていた黒髪の少女に思いを馳せる二人。しかし、そんな二人が言いたい事にすら気づけない鈍感野郎こと上条当麻は大きく首を傾げる始末。
そんな感じでシリアスからコメディ路線へと空気がシフトしようとした――まさにその時。
四人の耳に衝撃波にも似た爆音が襲い掛かってきた。
「っ!? な、何だ!?」
「もしかして……インデックスがあそこに……っ!」
「お、オイ、上条!?」
突如、音源へと駆け出した上条をコーネリアは慌てて追う。途中までは舗装された道だったが、ある地点からはそれが亀裂へと変わり、最後には地面をひっくり返したような、歩く事すら難しい、そんな道が続いていた。周囲の木々が倒されている事から、この先で何かが起きている事は明白だった。
街灯の無い森の中を進む。相変わらず灯りはないが、その代わりに小さな光源を発見した。
視界が安定しない中、それが馬車の灯りである事にコーネリアは気づいた。四つある内の車輪の一つが壊れ、不自然に傾いている馬車。彼らから十メートルほど離れた場所にあるそれが、暗闇をぼんやりと照らしていた。
「な、なあ、コーネリア。あれ……」
「あン?」
いつの間にか隣に居たフロリスに促されるがまま、彼女が指で指し示す方向を見る。
そこには、全長三メートルを超す大剣を持った大男の姿があった。
青系の衣装に包まれた屈強な肉体。短めの髪と冷ややかな瞳――そこまで認識したところで、コーネリアの背筋に嫌な悪寒が走った。
無骨な男が、コーネリアを眼球だけで見据えていた。
その男とコーネリアが出会うのはこれで何度目か。九月三十日、命を懸けて戦った。第二十二学区にて、互いの聖人としての力を駆使して激突し、辛くも勝利した。考えるまでも無く、コーネリアにとってライバルとも言える存在だった。
無骨な男は溜め息を吐いた。脅えたように顔を青褪めさせているコーネリアを見ながら、彼は言った。
「ふん。忌々しい顔と出会ったものである」
「アックア……後方のアックア!?」
ローマ正教が最暗部。
神の右席の一つを担う最強最悪の二重聖人との望まぬ再会を果たした瞬間だった。
上条さんなんかもそうだけど、ヒーローってやっぱり頭おかしいよね、ってお話でした。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!