妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

57 / 74
 二話連続投稿です。
 ようやく皆様お待ちかねの、あの男の登場です。


Trial53 大浴場

 無事に目的のレジャーお風呂に到着したコーネリアは自分と神裂を合わせた二人分の料金を支払い、受付の近くに置かれていたバスタオルを二枚手に取った。

 そしてその内の一枚を神裂に差し出し、

 

「そんじゃ、俺はこっちだから」

 

「あ……はい。それでは、また後で」

 

 おどおどとした様子でバスタオルを受け取った神裂は、きょろきょろとしながらも脱衣所の方へと消えていった。普通に脅えているようにも見えるが、あれは新鮮な状況への興味と学園都市製のお風呂への期待により発生した行動に違いない。言うなれば、小さな子供が遊園地を前にしてとる行動と同じベクトルの行為である。

 「俺もさっさと入るかね」未だに全快ではないもののそれなりに体調は回復しているコーネリアは暖簾を潜り、脱衣所へと足を踏み入れる。半裸や全裸の男が所狭しと動き回るそこはまさに地獄絵図だが、これからその地獄絵図の仲間入りをする身としてはあまり酷い事は言えないので、脱衣所の端の方にあるロッカーを占拠し、目にも留まらぬ速さでパパッと脱衣を済ませる事にした。

 腰にバスタオルを巻き、長い前髪を手で掻き上げながら浴場へと歩いていく。途中、水浸しの子供と擦れ違ったが、保護者は一体何をやっているんだろうか。ちゃんと体の水分を完璧に拭い去ってから脱衣所に戻してほしいものである。

 

(ああ。分厚い壁の向こうじゃあ天国のような光景が広がっているというのに……ッ!)

 

 全国の性欲に素直な男子全員が夢見る理想郷に辿り付けない愚かさを嘆きつつも、コーネリアは大浴場への扉を開く。

 高層ビルの中にあるというのに、浴場に高さは感じられない。その理由は締め切られた窓にあり、強引に閉鎖的な空間を作り出す事で浴場っぽさを醸し出しているのだ。しかし、決して広いとは言えないながらも大きな浴槽が全部で三つほど展開されていて、その中では老若問わず、様々な年齢の男が恍惚とした表情を浮かべていた。

 とりあえずは汗を流す事が最優先なので、コーネリアは扉の近くの蛇口がたくさん並ぶ一角に腰掛け、ハンドルを捻る。――蛇口の根元にあるパネルに『三十六度』と表示されたのは、身体を洗うのに最も適した温度を機械が勝手に導き出してくれるという意味の分からない機能をこの蛇口が搭載しているためだ。

 

「我が家の風呂にもこの機能を搭載しようかな……いや、その前に修理が先決か」

 

 適当な事を呟きながらシャワーノズルを手に取り、金色の髪を水浸しにしていく。背後を通りかかった小学生ぐらいの子供が(姿は見えないので声で判断)「何でこんな所に外国のおねーさんがいるの?」と中々の爆弾発言を放っていたが、コーネリアはあえて無視する事にした。確かにコーネリアの外見はイギリス女性そのものだが、彼はこれでもれっきとした男なのだ。何を言われようともこの浴場から出て行く理由にはならない。

 「あれが最近流行りの男の娘というやつか……」「あんなに可愛いのに男だなんて、世界は広いなぁ」「まさに学園都市における重要文化財と言っても過言ではないのでは!?」周囲から聞こえる好き勝手な言い分にビキビキと青筋が浮かぶが、コーネリアはあくまでも冷静に身体の汗を流していく。とりあえずはさっさと頭と体を洗い、適当な風呂に逃走しよう。これ以上は耐えられん。

 ズガガガガーッ! と目にも留まらぬ速度で頭と身体の洗浄を終わらせ、コーネリアはタオルで身体を隠しながら浴槽の方へと小走りで移動する。男なのでわざわざ身体の前面を隠す必要はないのだが、三百六十度全方位からの奇異の視線を受けてしまっては、タオルで身体を隠してしまうのも極々当然の事だと思う。というか、いくら男だとしても自分の身体をジロジロ見られるのは流石に居心地が悪すぎる。

 十秒ほど歩いた位置にあった洗面器でお湯を掬い、身体にぶっかけて即座に浴槽の中へと軽くダイブ。高い水温と大きな水飛沫で頭が大きく揺られたが、まぁ大した事はなかった。

 ぶふぃー、とようやく落ち着く事が出来たコーネリアは間抜けな声を零し――そこで思わず動きが止まった。

 真横に。

 ちょうど、向いた先に。

 視線の先に、

 

 

 見覚えがありすぎるツンツン頭の少年の姿があったからだ。

 

 

「うおおおおえええか、かかかかかかか上条!? ど、どうしてお前がこんな所に!?」

 

「どうしてと言われましてもね。インデックスが盛大に給湯器を破壊してくれやがったから、仕方なくここまで来ましたー、としか言えないんだけど……」

 

 風呂に入っているのに微妙にツンツン度を保っている髪の上に畳んだタオルを置いた状態で、ツンツン頭の少年こと上条当麻はコーネリアの質問に返答する。

 と、ここでようやくコーネリアは思い出した。

 アックアが学園都市に攻めてくる日。

 上条当麻はインデックスと五和を伴い、第二十二学区の温泉施設に遊びに行く―――という原作知識を。

 

(うっへぇ……流石に覚悟はしてたが、よりにもよって今日なんかよ……ただでさえ体調が悪いってのに最悪だァ……)

 

 っつー事は、この施設から外に出た途端にエンカウントって事になるな。まだ完全に『聖人』の力を制御できるようになった訳じゃないから勝率は酷く低いが、今更逃げられる訳がないんでもうこれはマジで覚悟を決めて立ち向かうしかないっぽいです。

 最悪のタイミングで最悪な現実に気付いてしまったコーネリアは「うあー」と呻きながら頭を抱え、お湯の中に口元を沈める。

 ぶくぶくぶく……、と子供のような真似をする先輩に上条は苦笑を浮かべつつも、彼を見つけた直後からずっと抱いていた疑問をとりあえずぶつける事にした。

 

「というか、先輩が第二十二学区まで来るのって珍しいよな。なに、一人で来てんの?」

 

「いや、残念な事に一人じゃねえんだなぁこれが」

 

「え? でも見た感じ、先輩の友達の姿は見えないけど……」

 

 キョロキョロと、湯気に支配された大浴場を見渡す後輩にコーネリアは「いや、違う違う」と首を振り、

 

「天草式十字凄教の元女教皇。神裂火織ねーちんと一緒に来てんだよ」

 

「何ィッ!」

 

 直後、女子風呂に向かって全力疾走しようとした大馬鹿野郎の首根っこをコーネリアは冷静に引っ掴み、そのまま湯船に全力で叩きつけた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 手荒い新手のプロレス技によって強制的に上条をダウンさせた後、コーネリアはそそくさーっと大浴場を後にしていた。

 現在、彼がいるのは青一色に支配された第二十二学区の夜の地下街。護衛としてこの街にやって来た神裂は未だに風呂を堪能しているようで、五分ほど待機してみたが彼女からの連絡はなかった。なので一応、彼女の携帯電話に『散歩してくる』とメールを送り、今こうして茹で上がった体を冷めさせていたりする。

 ジャージの襟元を仰いで体内に風を送りながら、コーネリアは周囲を見渡す。

 南国に拡がる海のような、それでいて得体の知れない蝶の鱗粉のような、上手く言葉では説明できない青の世界。科学サイドからしてみれば『目に優しい色』という事になるんだろうが、魔術サイドにも深く関わっているコーネリアからしてみれば、頭に思い浮かぶのは別の答えだ。

 『後方のアックア』

 大天使ガブリエルの青を司り、聖人と聖母の二つを兼ね備えた最高ランクの魔術師。それと同時にイギリス最強とも謳われた傭兵であり、更には『神の右席』というローマ正教の最暗部の一角を担う者。

 そして今夜、この街に攻め込んでくる強大な敵の名前である。

 道の脇にあったベンチに腰を下ろし、上を見上げる。地下街だというのに上方には煌めく星空が拡がっていて、それはまさにプラネタリウムを彷彿とさせる。というか、実際にこれは巨大なプラネタリウムのようなものであり、地下街であっても夜空を楽しみたいという人間の欲求を形にしたまさに大発明の一つでもあるのだ。

 そんな擬似的な夜空をぼーっと眺め、そしてコーネリアは気づいた。

 周囲から、人の気配が完全に消失しているという事に。

 

「…………本当、バカでも分かるぐらいに堂々とした登場だな」

 

「前回とは違い、焦ったり驚いたりはしないのだな」

 

 声は、二十メートルほど前方から響いてきた。

 青に支配された地下街。

 その中に佇む、一つの青い人影。

 ゴルフウェアのような青系の服を身に着けた、茶髪の男。石を削り取ったような顔立ちで、目にはあまりにも強すぎる意志が篭っている。――そしてその目は、コーネリアを真っ直ぐと見つめていた。

 何かを持っている訳ではない、全くの無手。しかし威圧感は感じられる。彼は武器を必要としない程に、世界でも屈指の強さを誇っている。

 今にも傷が開いてしまいそうなほどのプレッシャーに押し潰されそうになるが、それでも虚勢を張ってコーネリアはベンチから立ち上がる。

 二人の男の、視線が交錯する。

 

「猶予は与えた」

 

「ああ。だから、お前に宣言した通り、こうしてお前の前に立ってる」

 

「今回は最初から全力で行かせてもらうが、構わぬな?」

 

「当然……と言いたいところだが、個人的にゃあ手加減して欲しいな。……まぁ、言うだけ無駄なんだろうけど」

 

「当然である」

 

 短く、簡潔に、荒々しく。

 無骨な男は無神経な男の前に立ち塞がり、無神経な男は無骨な男に立ち向かう。

 距離は、二十メートル。

 長い袖をギリギリまで引っ張り、ジャージのファスナーを一番上まで上げ、両手の指をパキポキと鳴らす。

 そして首から提げていたケルト十字をズボンのポケットに仕舞い込み、コーネリアは彼を見た。

 男と男の視線が交錯し、二人は同時に言葉を吐いた。

 

「―――行くぞ、我が好敵手」

 

「―――やってみやがれよ、この筋肉達磨が」

 

 後方のアックア。

 そう呼ばれる最強の傭兵に、コーネリアは中指を立てて挑発した。

 

 




月日「やっとそろそろアックアを出せるよー」

友人「――で、人気投票短編はいつ?」

月日「……………………んん???」

友人「いやお前、まだ自分を主人公とした短編書いてないじゃん。『とある魔術の未元物質の人(ネームは自主規制)』に憧れてるって割に、まだやれてないじゃん!」

月日「(何で人気投票もしてねえのに短編を書けと言ってるんだコイツは……)」




 ……ま、まぁ、皆さんの反応次第ですかね、投票云々は!





 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。