凄くスランプです。
以前もこんな事があった気がするんですが、地の文と会話劇が上手くいきません。
やはり応募用で一人称を、こちらで三人称を、と分けているのが問題でしょうか。……うー、何とかせねば。
コーネリアは震えていた。
――と言っても、別に体調が優れないとか地震が起きているとか、そういう類の震えではない。体調不良に関しては全身に重傷を負っている状態が何日も続いているので完全に違うと言い切る事は出来ないが、それでも現在、彼を襲う震えの原因は少なくとも体の不調によるものではない。
体調は、とりあえずは問題なかった。
自然災害が起きた様子もない。
しいて言うなら――
「……うわーお」
――彼の目の前にある壁が大きく粉砕されている事ぐらい。
場所はいつも通りの地下空間。外からの光と空気が届く事は少ないこの空間にて、コーネリアは虚空に拳を突き出したまま目を白黒とさせていた。……いや、彼が拳を出している虚空は、先ほどまで壁が存在していた。つまり、正確に言うと、彼は壁を殴ったのだ。
右手一つで壁を殴り、
右手一つで壁を粉砕した。
それが、ここまでにおける経緯と結果である。
「…………なんか、自分の身体じゃねえって感じだなぁ」
右手を閉じたり開いたりを繰り返しながら感動したように呟くコーネリアに、傍で見守っていた神裂は腰に手を当てた状態で言葉を返した。
「まだ身体が体内のテレズマに慣れる事が出来ていないんでしょう。身体に小さな異常を感じたらすぐに言ってください。気付いた時には身体が爆発四散してました、なんて事にならないように」
「いや、え? 聖人って下手すりゃそんな悲劇を迎えちまうの? なにそれ怖い」
「あくまでも最悪の事例です。テレズマというものは人の手には余る天使の力。使い方を誤れば身体が破壊されてしまう事など、極々当然の事なんですよ」
「うへぇ」
露骨に嫌そうな顔で声を零す愚か者。
「そういえば、思ったんだけど」
「どうしました?」
「テレズマに身体を慣れさせなきゃならねえって事は分かった。分かったんだが、そこで疑問が一つ浮上したんだが……お前って、普通の状態でも人間離れした身体能力を持ってるけど、それは聖人の力を発動してるって事にはならんのか? 前にお前、『聖人の力は長時間使えません。故に、唯閃は最終手段なのです』みたいなことを言ってたが……」
「この期に及んであなたはとてつもなく初歩な質問をしてきますね……」
まぁ良いでしょう。
顔に手を当て溜め息を吐き、しかしそれでも懇切丁寧な説明を、神裂先生は開始する。
「まずは身体能力についての答えですが。聖人は総じて、常に身体の中にテレズマを浸透させています。肉体はテレズマによって強化を施され、人並み外れた身体能力を実現できるのです。それは聖人の力を発動するというよりも、聖人であるが故の通常モードという感じですね」
「つまり、聖人は力を発動せんでも元からテレズマによって凄まじく強いって事でOK?」
「そして、その通常モードを手に入れる為に、今はあなたの肉体を体内のテレズマに慣れさせているんですよ。分かりましたか?」
「ハイ先生、分かりましたー」
「よろしい。それでは次に進みます」
素直にぶっちゃけると、そこまで完璧に理解できた訳ではない。魔術結社『明け色の陽射し』のボスになる為に育てられていた時に魔術の知識はあらかた頭にブチ込んではいるが、その後に科学の知識を膨大に叩き込まれているのだ。いくら魔術の才能があるとしても、遥か昔に教えてもらった事を覚えている訳がない。それじゃあ何で『とある魔術の禁書目録』の原作知識は覚えてるんだ、と言われてしまうかもしれないが、それはあれだ。『徳川の将軍は覚えられないけど、漫画の登場人物なら百人以上でも鮮明に覚える事が出来る』みたいなのと同じ原理だ。
肉体にテレズマが浸透していく感覚がこそばゆいのか身体をもじもじとさせるコーネリアに構わず、神裂は説明を続行する。
「それでは次に、聖人の力を発動した場合についてです」
「発動しない場合の話だけで大体は理解できてんだけどなー」
「うるっさいですね。これはあなたの肉体がテレズマに慣れるまでの言わば時間潰しなのです。どうせ高校を無断欠席しているんでしょう? 大人しく私の講義を聞いていなさい」
「……なんか、歳食った女教師みてえだな」
「誰が結婚適齢期過ぎた女教師だああん!?」
「言ってない! 誰もそこまで言ってない! そして苦しい! 更には繊細な作業の最中なんだから乱暴な真似はナッシングでお願いします!」
「いっそここで爆発四散してみては?」
「アックアと戦う前に死ねってかこのクソアマぁっ!」
冗談ですよ、と言って襟首から手を離されたが、あまり信用はしていない。だってさっきの神裂の目、本気で人を殺そうとしてる人の目だったもん。本気で俺が爆発四散するのを望んでいるような目だったもん。……女って分からねえ。
ケホケホと咳き込みながらも体内のテレズマに意識を戻し、コーネリアは目を瞑って集中する。
「そういえば、あなたはいつになったら私を下の名前で呼んでくれるんですか?」
膵臓の辺りで何かが破裂するような音が鳴り響いた。
「うぎゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!? い、今っ、今の音は何ィッ!?」
「大丈夫です。ちょっと内臓が傷ついてしまっただけのようです」
「ちょっと!? 大丈夫!? 魔術使用による副作用でも傷つかなかった部分が悲鳴を上げちまってるってのに!? ちょっと神裂さんそれは楽観視しすぎじゃあねえですかねぇっ!?」
「ほら、また名字。いい加減、私の事は『神裂』ではなく『火織』と呼んで欲しいものです」
「別に呼び名なんてどっちでもいいだろうがッ!? しかも別に今じゃなくていいし! 後にしろよ後に! 今は集中させろって!」
「こんな事で集中が切れるようでは聖人の力を制御する事は儘ならないですよ?」
「ちょっとそれっぽい事言ってるし! でも俺は騙されねえ! 今の暴発はどう考えてもお前の爆弾発言が原因だぁっっっっ!」
ビキリと額に青筋を浮かべ、それでも体内のテレズマから意識を外すことなく、コーネリアは渾身の叫びを少女に放つ。このジャパニーズ侍幕末剣客ロマン女は本当に俺の修行に付き合う気があるんだろうか。いやまぁここまで付き合ってもらっといてそんな事を言うのはどうかと自分でも思ってはいるのだが、何故かここに来て神裂が俺の邪魔をしているのではないかと思ってしまっている。不思議だね、凄く不思議だ。
しかし、これ以上、神裂に邪魔をされないようにする方法が無い訳じゃあない。なに、簡単な話だ。
要は、彼女の要望に応えれば良いのだ。
コーネリアは「はぁ」と溜め息を吐き、違和感が止まらない肉体にムズムズしながらも、照れ臭そうな顔で神裂火織に言う。
「とりあえず、そろそろ期限が来る訳だが……修行に付き合ってくれて本当にありがとな、火織」
「――――――。……あ、あなたという人は……そのような言葉と共に言われてしまっては、何も言えなくなってしまうじゃあないですか……このド素人が。いつもいつもいつもいつも私を振り回すのですね、あなたという人間は」
「俺が珍しく素直に本心を吐露してんだからここは素直に喜べよ、火織。そうだなぁ、ここで一丁、満面の笑みでも浮かべてくれれば御の字だぜ、火織。お前の笑顔というお土産がありゃあアックアとの戦いで死なずに済むかもしれねえしな。そう思うだろ、火織?」
「連呼するな恥ずかしい! なんですか、あなたは本当に何なんですか!? コーネリアの分際で私をおちょくるなんて、ふざけているにもほどがあります!」
「ああ? お前が下の名前で呼べっつったんだろうが意味分かんねえ」
「誰が短いスパンで連続的に言えと言いましたか誰が!? 独自解釈も甚だしいわ!」
「あ、なんか身体の違和感が消えたわ。これってあれか? 俺も聖人が持つ身体能力をフルに使えるようになったって事なんか?」
「違ぇよ『荊棘領域』のせいで五分しか使えねぇよケルト十字で『荊棘領域』を抑えている間はもしかしたらそうなのかもしれないけれど付け焼刃の聖人の力でアックアに勝てる訳ないからアックアの天敵である『荊棘領域』を使う他ないしそうなったら結局ケルト十字は外さなくちゃならないしそもそも『荊棘領域』の効果があなたの肉体に働いてしまっているんだから結局のところ上手くいったとしても聖人の力は五分しか使えねぇよって話だったろいい加減に理解しろやこのド素人がッッ!」
「ちょっと神裂さん? 怒りのあまりチンピラモードが解禁されてますよ?」
「誰のせいだ誰の!」
ビキビキビキィッ! と血管が破裂しそうな勢いで鬼気迫る表情の神裂さん。
コーネリアは「まーまーまーまー」と神裂を宥め、
「とりあえず、今までありがとな、火織。お前のおかげで確実に強くなれたとは思うよ」
「……あなたが自分で頑張っただけにすぎません。私は特に……まぁ、強くなる方法を教えただけで、結局はあなたが自分で強くなっただけなんです。なので、別にお礼とか、そういうものは必要ありません」
「まぁ、お前ならそう言うと思ってたよ」
そう言って。
コーネリアは一歩踏み出し――神裂の懐へと流れるように入り込む。
「え?」と驚きの表情で目を白黒させる神裂にニッと笑顔を浮かべるや否や、コーネリアは彼女の顔に自分の顔を急接近させ―――
「この間はお前の不意打ちだったかんな。今度は俺が、こうやって恩返しさせてもらう番だ」
「~~~! 本当、あなたという人間は卑怯すぎます……」
唇を抑えながら悔しそうに言う神裂。
しかし、そんな彼女の顔に浮かぶ表情は、何故かだらしなく緩んでいた。
☆☆☆
準備は整った。
予定通り、あくまでも予定通りだ。綻びが生じまくって今にも崩壊してしまいそうな計画ではあるけれど、この調子なら何の問題もないだろう。
問題なく、アックアに敗北してくれるだろう。
『荊棘領域』という重荷を使って、あの怪物に負けてくれることだろう。
原石と聖人。
科学と魔術。
たった一人で背負うには、あまりにも重すぎる称号。――正確には一人じゃなくて『二人』なんだが、他人から見たらひとりにしか見えないので特に言及する必要はねえ。
とにかく。
コーネリアはアックアに敗北し、自分に絶望し――そして俺と出会う。
最初で最後の、俺とコーネリアとの本気の語り合い。
時間はない。
その瞬間は、すぐそこまで迫ってきている。
痛い思いをしてもらうことになる。死にそうな思いをしてもらうことになる。挫折感を味わってもらうことになる。
だが。
それでも。
今のままじゃあダメなんだ。
元の――俺という存在が排除された状態の『コーネリア=バードウェイ』じゃねえと、後方のアックアにはまず勝てない。
だから俺は――この俺が、全てを背負って消えて引き抜かれて、正真正銘の『コーネリア=バードウェイ』を再び生まれ直させてやらなきゃならねえんだ。
準備は全て整った。
物語は既に佳境。
俺の最後の戦いを、
俺とコイツの最後の共闘を―――そろそろ始めるとしようか。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!