妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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 三話連続投稿です。

 今回は新章のプロローグのようなものですので、少し短めとなっております。

 ようやくヒロインとか女性キャラのお色気シーンに本気を出す新章がやって来たようですね……ッ!



Trial43 修業を始めるにあたり

 コーネリア=バードウェイは正座していた。

 彼が九月三十日の戦いで入院してから二日が経ったときの事だった。

 カエル顔の医者の制止を無視して勝手に退院した彼は、痛む体に鞭を打ち、荷物をまとめて学園都市から飛び出した。持った荷物は生活必需品と少しの着替えだけで、学校に休学届を出す事すらしていない。彼の友人が絶対に心配してしまう程に、彼が取った行動は典型的な行方不明だった。

 コーネリアが訪れたのは、イギリスのロンドンはランベス区。レイヴィニア=バードウェイが従える『明け色の陽射し』の拠点がある街だったりするが、今回、彼が向かったのはそこではなかった。

 イギリス清教が『必要悪の教会(ネセサリウス)』。

 そこの女子寮こそが、コーネリアがわざわざ無断退院してまでやって来た目的地だった。

 

「……これは何の真似ですか、コーネリア=バードウェイ?」

 

 そして、「女子寮の前で可愛い顔の少年がキョロキョロしてるわ可愛いー」というどこぞの赤毛シスターの部隊の誰かの言葉を聞き、部屋着である和服のまま慌てた様子で玄関口へと駆けつけた神裂火織はコーネリアの姿を見つけるや否や、腕を組んでの仁王立ちで彼に正座を強要したのだった。下は石畳で彼はまだ入院していなければならない程の怪我人なのだが、ぶっちゃけ今の彼女には関係なかった。

 石畳の上で正座という新手の拷問に顔を歪めるコーネリア。

 そんな少年を上から見下ろしながら、神裂は額にビキリと青筋を浮かべて言う。

 

「何故、学園都市の病院で寝ていなければならないはずのあなたが、よりにもよって『必要悪の教会』の女子寮を訪れてるんですか? しかもあなたは形だけですが『明け色の陽射し』の関係者なんですよ? 関係性で言うのなら、あなたは敵地のど真ん中に武器も持たずにふらふらとやって来たという事になるんですよ!?」

 

「いや、その、これには深い事情がありましてね……」

 

「事情!? ええそうですか、それは今現在腹を立てているこの私の怒りを収める事が出来る程に大層なものなのでしょうね!」

 

「……もしかして、怒ってる?」

 

「見て分からないのかこの鈍感野郎! 自分で暴露するぐらいには私は腹を立てています!」

 

 ゴゴゴゴゴ、という地鳴りは気のせいであってほしい。

 コーネリアとしても自分の行動が無謀で我儘なものであることは重々承知しているので神裂の言葉には何も言い返せないのだが、ここまで来てしまった以上、はいそうですかと学園都市に引き返す訳にはいかない。妹に顔を見せに来た、という言い訳が無い訳ではないが、ぶっちゃけここで諦めきれるほど軟な覚悟であの街を飛び出してきた訳じゃない。

 怒り心頭、怒髪天を衝く。

 神裂のあまりの修羅っぷりに女子寮の住人達が「何だ何だ!?」と奥の方から顔を覗かせているのをあえて意識から外し、コーネリアは地面に両手をセットする。

 そして、頭を地面に着くまでに下ろす。

 それは外国ではジャパニーズDOGEZAと呼ばれる姿勢だった。

 そして日本国内では、心の底からの懇願を表す姿勢として扱われている儀式だった。

 「んなっ!?」と予想外の展開に慌てる神裂に構わず、コーネリアは言う。

 

「聖人であるお前にしか頼めねえ事がある! その為にわざわざここまで来たんだ! 今更帰れと言われたからってのこのこ帰る気はさらさらねえ!」

 

「あ、あの、えっと……え?」

 

「お前にしか頼めねえ事なんだ! だから頼む、神裂! 俺にお前を頼らせてくれ!」

 

「ちょ……と、とりあえず、頭を上げてくれませんかー……?」

 

 周囲の視線が気になりますし、と付け加えるが、彼の頭は上がらない。

 成程、つまりは根気の勝負という訳か。コーネリアが諦めるのが先か、それとも神裂が折れるのが先か。その勝負に勝利した方が、これからの展開を自分で進める事が出来る、という訳か。

 ――と、冷静な分析をしている最中に、神裂は皮肉にも思い出してしまった。

 

(……そういえば、『アドリア海の女王』の一件の時、私に頼れと私自らが言ってしまっていたんでしたっけ)

 

 あの時は感情に任せてわーわーと言葉を並べてしまっていたが、今思えばなんと恥ずかしい事を言っていた事だろうか。私に頼れだとかあなたが傷つくと私が悲しいだとか、おまけにこの間なんかコーネリアに【自主規制】をしてしまった身でもある。なんだ、私は感情に身を任せると誰よりも本能に従ってしまう特性でも持っているのか!?

 とにかく、自分で言ってしまった事がある以上、その言葉を撤回する訳にはいかない。男に二言はない、とは日本のことわざでよく言うが、義理堅い神裂も(女ではあるが)二言はない日本男児の様な真面目な性格を生まれ持ってしまっている。

 これは、私の負けですね。

 疲れたように溜め息を吐き、目の前で土下座をしている少年の前で腰を下ろし、神裂は少年の頭を優しく撫でる。

 「……分かりました」そして複雑な表情を誤魔化すようにぎこちない笑みを浮かべながら、神裂は避けようがない展開に自ら身を委ねる事にした。

 

「あなたがそれで救われるというのなら、気は進みませんが、この手を差し延べる事にしましょう」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 二秒で後悔した。

 とりあえずは寮の前で放置しておく訳にもいかなかったので女子寮の中に彼を迎え入れたのだが、それが非常に不味かった。

 彼が女子寮の中に入った直後に何が起こったのか。

 それを分かりやすく端的に、ダイジェスト込みで説明すると――

 

「なになに? あの神裂火織のボーイフレンド?」

 

「男だというのに女顔……これは新たな可能性が見えてきました!」

 

「んなっ!? あ、アンタは大覇星祭でおっぱい発言していた男じゃねえか!」

 

「あらあら。誰かと思えばあの時の殿方なのですよー」

 

「も、もしかして、神裂さんがいつも話しているお方ですか!?」

 

「シスター・アンジェレネ! 人に指を差してはならないと何度言ったら分かるのですか!?」

 

「うっはぁ。確かに聞いていた通り、どことなくあのツンツン頭の少年に雰囲気が似てやがりますね」

 

 男が珍しいのか神裂が男を連れてきたのが珍しいのか、とにかく女子寮に住んでいる女性陣がわーわーぎゃーぎゃーとコーネリアをもみくちゃにし始めていたのだ。勿論、傍にいたはずの神裂は数の暴力によって絶賛蚊帳の外まで追いやられている。

 「ええっ!? ちょっ、これは一体何事だ!?」九割方シスターである女子の波に密着され、コーネリアが驚きと苦しみの悲鳴を上げる。しかしその中で何か柔らかい――俗におっぱいと呼ばれる女性の魅力の感触に、コーネリアの頭の中は歓喜の声で包まれていた。

 それが面白くないのが、神裂火織という少女な訳で。

 ぶちぃっ! と額の方から何かが千切れる音を放ちつつ、神裂は目を吊り上げて女性陣から引っぺがすようにコーネリアだけを引きずり出し、

 

「私に用があるとか言っておいて結局は女にちやほやされたかっただけかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

「ご、誤解で―――げっぼぉおおおおおおおおおっ!!!???」

 

 完璧なジャーマンスープレックスだった、とシスター・ルチアは後に語る。

 そんな訳でコーネリアの一週間能力制御修行(ポロリもあるよ☆)がスタートしたのだった。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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