妹が魔術結社のボスなせいで人生ハードモード   作:秋月月日

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Trial16 巨乳好きVS貧乳少女

 レイヴィニアとパトリシアの追撃を全身全霊で回避し、次の競技が行われる会場まで全力疾走したコーネリアは、息も絶え絶えの状態で地面に崩れ落ちていた。

 

「し、死ぬっ、マジで死ぬ……ッ!」

 

「気のせいだと思いたいんだが、君はいつも死にかけているな。なんだ、君は疫病神にでも憑りつかれているのか?」

 

「疫病神っつーか、世界が俺に敵対してるっつーか……」

 

「???」

 

 コーネリアの言葉の意味が上手く理解できなかったのか、彼の親友の一人である苅部結城は不思議そうに首を傾げていた。まぁ別に誰かに分かってもらいたい訳じゃないからそのリアクションでも構わないだが、このやるせない気持ちの行き場がない状態なのは個人的に少しだけ悲しかったりする。

 数分ほどかけてようやく呼吸が整ってきたところで、コーネリアは結城に問いかける。

 

「ンで、次の競技って何だっけ?」

 

「君は自分が出場する競技も把握できていないのか……?」

 

「場所を頭に入れるだけで限界なんだよ」

 

「それでも異能力者(レベル2)だというのだから、やはりこの世は間違っているというか凄まじく理不尽だな。無能力者(レベル0)であるボクの方が頭が良いと思う時があるぐらいだ」

 

「心配すんな。普通にお前の方が俺よりも優秀だよ」

 

 謙遜とかではなく、本気でそう思っているし。

 学園都市の能力者のほとんどは脳内演算の性能で能力強度が左右されるが、生まれついてからの能力者である『原石』――つまりはコーネリアのような例外たちにその常識は当てはまらない。何故なら、『原石』という天然能力者は例外なく、能力の発動に演算式を必要としないからだ。

 はぁ、と小さく溜め息を吐き、結城は眼鏡をくいっと指で整える。

 

「君がこれから参加する競技は『借り物競争』だ。ルールについては説明の必要はないだろう?」

 

「移動以外に能力を使うのは禁止、って感じだったとは記憶してる」

 

「そもそもの話、この大覇星祭では能力の使用は移動と牽制と防御にしか使えないのだがな」

 

 呆れたように言う結城にコーネリアは乾いた笑いを返す。

 能力開発を主とする学園都市の代表するイベントの一つがこの大覇星祭であるが、その中で学生同士で傷つけあう――だなんて真似はもちろんご法度となっている。能力は使えど申し訳程度なもので、基本的には通常の運動会と相違ない。まぁ、『念動使い(テレキネシスト)』や『風力使い(エアロハンド)』などといった使い勝手の良い能力者ならば話は別だが。

 ――そして、数分後。

 

《それでは、次のプログラム、『借り物競争』に出場する選手は、速やかに所定の位置まで集合してください。繰り返します。次のプログラム、『借り物競――》

 競技中に靴が脱げないで良い様にコーネリアが靴紐を結び直していると、近くに設置されていたスピーカーから集合を知らせるアナウンスが響き渡って来た。それを聞いた数人の生徒達は多種多様な表情を浮かべながら、スタート地点へと移動を始めていく。

 「よし、っと」靴紐を結び終えたコーネリアはトントンッと爪先で地面を突き、

 

「ンじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

「一位になれなかったら罰ゲームでも受けてもらうことにしよう」

 

「なにそれ、俺に拒否権とかない感じなの?」

 

「なに、君の事を信じているからこその冗談だ。――応援と期待をしておくよ、親友」

 

「おう! 任せとけよ、親友!」

 

 パァン! と手を打ち鳴らし合い、コーネリアはスタート地点へと移動した。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 この競技に出場する事を三秒で後悔した。

 

「何よ、私と一緒の競技がそんなに嫌な訳?」

 

「上条に対するお前の普段の態度を知ってっから、お前と一緒の競技に出るのが嫌なんだよ! このツンデレールガン!」

 

「誰がツンデレですってぇぇぇぇぇっ!?」

 

 バチバチバチィッ! と前髪から電撃を放つ茶髪の女子中学生から、コーネリアは数メートルほど距離を取る。

 高校二年生であるコーネリアに敬語を使わないこの女子中学生の名は御坂美琴(みさかみこと)と言い、実はこの学園都市の第三位の超能力者だったりするトンデモ電撃ガールである。大きな特徴をあえて挙げるならば、すぐに電撃をバチバチと放つ短気がまず最初に挙げられる事だろう。

 蟀谷をヒクヒクと引き攣らせる美琴。そんな彼女にコーネリアはガシガシと頭を掻き、

 

「お前、上条に会う度に顔を赤くするか電撃を浴びせるかの二択しかねえだろ? 前者はまぁ普通だとしても、後者に関しては照れ隠しか『私に構って構ってー』のどっちかじゃんか。この事を前提として考えりゃ、お前が上条の事をどう思ってるかなんて……分からない訳がないだろぉ?」

 

「ニヤニヤニマニマうざったいのよこの女顔! 金髪とその態度のせいでムカつく第五位を思い出すから更に腹立たしいし!」

 

「俺をあんな運動音痴牛乳女と一緒にすんな、この貧乳!」

 

「アンタも女は胸が一番だと思ってるクチか! 最低! 溝に落ちて海まで流されろ!」

 

「胸がどうでもいい男なんていませんからぁ! 男は全員、包容力のある巨乳が大好きな野蛮人なんだよ! 巨乳サイコー! あの弾力が溜まんないね! ま、お前は一生かかってもあの弾力とは無関係だろうがな!」

 

「殺すわ。炭化のより上まで、アンタを燃やすッッ!」

 

 悪魔のような笑みで電撃を放つ美琴と巨乳の素晴らしさを語り続けるコーネリア。実はこの中継を見ている彼の妹二人が『よし、殺そう』と一致団結していたりするのだが、絶賛口論中のコーネリアはそんな事など知る由もない。昼食時にレイヴィニアとパトリシアからお仕置きされるのを願うばかりである。

 ギャーギャーわーわー! と子供のような口喧嘩を繰り広げる超能力者と異能力者。年齢差としては三歳差だが、精神年齢はどちらも小学生レベルで拮抗している。これで実は二人ともがこの街での重要な歯車の一つだというのだから、この世界はやっぱり間違っていると思う。

 と。

 スタート地点に立っていた運営委員の学生が二人の傍まで歩み寄ってきた。

 

「……あのぅ。既に他校の選手たちはスタートしてしまっているんですが……」

 

『な、なんだってー!?』

 

 そんなこんなで第二種目、借り物競争スタートである。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 場所は変わって某図書館。

 コーネリア=バードウェイに何かと縁がある幕末剣客ロマン女こと神裂火織はくっきりと隈が刻まれた目をギンギンと開きながら、テレビ画面――大覇星祭の生中継を視聴していた。どこから用意したのか彼女の傍のテーブルの上には健康ドリンクの瓶が何本も転がっていて、そう言っている傍から彼女は健康ドリンクをもう一本数秒足らずで飲み干していた。

 美容の大敵であるはずの徹夜をリアルタイムで経験しつつ、神裂はズキズキと痛む頭を両手で抱える。

 

「あのド素人はまったく……全世界に生中継されている中で巨乳談義とか、怒りを通り越して最早呆れの領域です。しかも心の底から本気で巨乳の素晴らしさを語っているし……大馬鹿野郎とはまさにあの少年の事を指すのでしょうね」

 

 そうは言うが、彼が出場する競技から目を逸らせないのが自分でも悲しい。なんやかんやであの少年の事を気にしてしまっている自分に呆れてしまう始末である。

 しかも意味の分からない事に、あの少年の事を思っていると、胸の辺りが妙に暖かくなってしまう。誠に遺憾な事であるが、コーネリア=バードウェイという少年が神裂にとってどうでもいい存在ではなくなっている。恥ずかしさを堪えて言うのならば、大切な者の一人として数えられるぐらいの存在となってしまっている。

 この感情は、一体何なのか。

 そもそも私は、あの少年の事をどう思っているのか。

 今まで感じた事も考えた事もない無理難題に頭を悩ませながら、寝不足で痛む頭を抱えながら、神裂火織は僅かに紅潮した頬を膨らませ――小さな声でこう呟いた。

 

「…………まぁ、巨乳好きというのは評価に値しますが」

 

 結局の所、彼女もある意味では素直ではない人間だった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 小学生レベルの口喧嘩であまりにも遅すぎるスタートを切る事になってしまった借り物競争。既にスタート直後にクラスメイト達から罵倒の嵐を浴びせられたコーネリアは目尻に涙を浮かべながらも、自分が選び取ったメモ用紙を落とさないように気を付けながら学園都市の第七学区を走り回っていた。因みに、同じタイミングでスタートを切った御坂美琴はメモ用紙を選んだ瞬間に「あの馬鹿は何処じゃーっ!」と叫びながら何処へともなく走って行った。これが原作通りであるのなら、彼女の目的は上条当麻ただ一人。こりゃあ流石に負けたかな、とコーネリアは競技開始早々に勝利を諦めるような呟きを零してしまう。 

 

「あーくそ、あのビリビリ女のせいで心に謎のダメージが入っちまった……」

 

 御坂美琴のせい、というよりも完全無欠に自分が原因であるのだが、自分至上主義であるコーネリアは絶対に自分の非を認めない。それが幼稚な行いに繋がる事であるのならば尚更だ。

 呼吸が乱れないように気を付けて走りながら、周囲に視線を張り巡らせる。

 

「にしても、『青褪めた顔の黒髪長髪の少女』がお題って……その少女を見つけたとして、どうやって説明すんだよ……」

 

 「何も言わずに俺についてきてください!」と言って返事を待たずに引っ張っていくか? 全世界に中継されている大覇星祭で誘拐モドキを実行するなんて命がけな行いではあるが、そうでもしないとこのお題をクリアできないような気がするのは俺の気のせいか。原作での御坂美琴のように勢いで押し通す、という案も中々に良いとは思うのだが、『青褪めた顔の黒髪長髪の少女』を相手にそんな野蛮な事が出来るかどうか。……絶対に社会的に死ぬよな、俺。

 

「あーもー、何で俺はこんな無駄にハードルの高ぇお題を引いちまったんだぁ――っ!」

 

 流石に今更だとは自覚しているが、それでも叫ばずにはいられない。せめてアイテムがお題だったらよかったというのに……こういう時に人物がお題となってしまう俺はやっぱり上条に次ぐ不幸者だと思います。

 ――とまぁ、後悔と自虐はここまでにして、だ。

 さっさとお題に該当する少女を見つけてゴールをしよう。ただでさえ上位を狙える学校ではないというのにこんな簡単な競技で得点が得られなかったら、クラスメイト達から罵倒の嵐を浴びせかけられてしまうに決まってる。しかも既にスタートを失敗してしまっているこの状況、流石に自分でもヤバいということは十分に分かっている。

 さてさて、一体どうしたものか。

 罵倒の嵐に傷つく未来と無事にゴールインして喜ぶ未来の二つに頭を悩ませていた――まさにその時。

 

『あ』

 

 目が合った。

 しかも、同時のタイミングで思わず声までもを上げてしまっていた。更に朗報で、目が合ったのは彼が引いたお題の条件を完璧にコンプリートした外見を持つ少女だった。

 まさに幸運、そして強運。

 このチャンスを逃すわけにはいかないとコーネリアは迷うことなくその少女の方へと近寄っていく。コーネリアの目的が自分だと分かったのか、その少女は傍にいた無造作な銀髪とサファイアブルーの瞳、それと少しのそばかすが特徴の少年の背後へと隠れてしまった。

 

(ん? 何つーか、この男、背景みたいな印象だな……)

 

 そこに確かに存在しているのに、注意を向けようとしても存在感を感じる事が出来ないという不思議な感覚。何かの能力かと思ったが、今はとにかくお題をクリアしなければならない為、コーネリアは深く考える事をやめた。

 じーっと警戒の色を示す少女に苦笑しながら、コーネリアは妙な雰囲気を持つ少年に声をかける。

 

「えーっと、あのー……借り物競争のクリアにそこの女の子が必要不可欠となっている訳なんだけど……協力、してもらってもいい?」

 

「あ、コイツ? オーケーオーケー、なーんの問題もねーよダイジョーブ」

 

「……勝手に決めないで」

 

「ダイジョーブだろよー別に、なんかが減るもんでもねーんだしさー。後で焼きそばでも何でも奢ってやるから、ちょっと手伝ってやれってば」

 

「……たこ焼き」

 

「あーはいはい、たこ焼きも追加だな? ダイジョーブダイジョーブ。太っ腹なオレは、おめーのそんな要望にもばっちり応えられるぐれーの懐事情だから、ダイジョーブだ」

 

「……それなら、問題ない」

 

 そう言って、少女はコーネリアに右手を差し出す。

 

「……すぐに終わらせてほしい」

 

「え……あーっ、さんきゅーな、君! そんでそこのアンタも! 競技の後に必ずこの子を送り届けるから、とりあえず何処かで集合しねえか?」

 

「おうよー。そーゆー事なら、この自然公園って所で合流って事でダイジョーブか?」

 

「了解! そんじゃ、とりあえずはまた後でな!」

 

「はいよー。嬢ちゃん、おめーも頑張れよー」

 

「……その呼び名、気に入らない」

 

「相っ変わらず口が悪りーなおめーはよー!」

 

「と、とりあえず、ゴールまで走るぞ!」

 

 常人と比べてかなり変わり者な二人のやり取りに困惑しながらも、コーネリアは青褪めた顔の不健康そうな黒髪長髪の少女と共にゴールに向かって走り始めた。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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