クロス・ワールド――交差する世界――   作:sirena

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第九話

 対戦フィールドを、間近で目にしながら説明したほうが分かりやすい。黒雪姫にそう言われ、ハルユキは彼女と二度目の対戦をすることになった。もっとも、実際に対戦するのでなく――お互いに手を出さずタイムアウトにするということだ。周囲の景色が切り替わり、対戦フィールドへと二人は降り立つ。

 

「ほう……、黄昏ステージか。前回の世紀末ステージといい、レアなのを引くな君は」

「は、はぁ。そうなんですか」

 

 ハルユキと黒雪姫が立っている場所は、一面の草で覆われていた。背の高い、草の群が風の流れに身をまかせて揺れていている。空は夕焼けでオレンジ色に染まり、幻想的な雰囲気を晒しだす。バースト・リンカーとして、先輩である黒雪姫が言うにはレアなステージらしい。今日が初対戦であるハルユキには、イマイチよくわからなかったが。

 

「あれ? 先輩のアバターは……」

 

 ハルユキがあることに気づき、不思議そうに黒雪姫の姿を見る。視界に映っている黒雪姫の姿が、ハルユキと違い変化していなかったからだ。ローカルネットの仮想空間に接続していた時と同じ、蝶の姿をしたアバターのままだった。

 

「ああ――私は訳あってデュエルアバターを封印しているんだ。今は普段のアバターで代用している」

 

 ハルユキの疑問を察し、黒雪姫が答える。

 

「そうなんですか……、僕は先輩のデュエルアバターを見てみたかったです」

 

 先輩のデュエルアバターは、きっと僕のひょろいのとは違って美しく綺麗な姿をしているんだろうな。そんなハルユキの期待を込めた視線を受けて、黒雪は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「期待に添えず残念だが、私のデュエルアバターは醜いよ。君のそのデュエルアバターの方がずっと良い」

「え、そんな……」

 

 珍しく、自身を卑下する黒雪姫にハルユキはどう応えるべきか迷う。そんなことはない、といって否定するべきだろうか――でも、まだ見てもいないのに?

 そんなハルユキの動揺を感じとり、黒雪姫は苦笑をしながら話を戻した。

 

「まぁ、私のことはいいさ。早速だが説明を始めよう。体力ゲージなどはもう既に理解しているだろうから、フィールドが持つ属性やデュエルアバターの特徴から解説していこうか」

「は、はいっ! よろしくお願いします」

 

 緊張した様子のハルユキに頬を緩ませながら、黒雪姫は説明を開始した。

 

 

 

 その後――対戦時間の30分が過ぎるまで、黒雪姫の説明は続いた。ハルユキが黒雪姫から聞いた説明で、特に重要だったのはフィールドの属性、デュエルアバターのカラーが持つ特徴、固有の必殺技やアビリティといった三つの項目だった。そしてハルユキのデュエルアバター、シルバークロウはメタルカラーでかなりレアな色系統らしい。特殊攻撃全般に耐性を持ち、防御に秀でているという。しかし、弱点として打撃攻撃にはめっぽう弱く腐食系の攻撃は天敵だそうだ。

 

 対戦フィールドに関しては、無数に存在する種類の中からランダムで選択されるらしい。フィールドには属性があり、それぞれが特徴を持っているということだ。ハルユキが目にしたのは世紀末、黄昏ステージの二つだが、中には水中のステージもあるという。テージの属性を把握しておくことは、勝つ為には非常に大切なことだとハルユキは強く言い竦められた。

 

 

「あのー、先輩……。パンチとキック、それから頭突きしか項目に表示されてないんですが」

 

 必殺技の説明を受けた時のことだ。ステータスの項目から自身の必殺技を確認するように言われたので、ハルユキは指示されるがままに仮想パネルを操作した。一体どんな必殺技を持っているのかと期待を込めて。しかし――ハルユキの期待に反して、そこに書かれていたのは殴る、蹴る、頭突きという三つの技名だけだった。

 

「ほぅ……?」

 

 興味深そうな黒雪姫の呟きを、ハルユキは失望の声だと感じた。俯いて、今までの自虐的な思考に捕らわれる。憧れを抱く黒雪姫の失意の言葉を聴きたくなくて、気づけば普段なんども口にしてきた弱音を吐いていた。

 

「すいません、期待に応えられなくて。いいんです、なんとなく分かってましたから。僕なんかじゃ、先輩の期待に応えられるはずも無かったんですよ。遠慮せず、見捨ててしまってください」

「何……?」

 

 ハルユキの自虐の発言に、黒雪姫は眉をひそめた。俯いたまま佇むハルユキ。黒雪姫は数秒ほど目を閉じ、息を大きく吸う。そして、激しく叱責した。

 

「この、馬鹿者! 私はどんなアバターにも秘められた能力があると説明した筈だ! 君は、私の話を聞いてなかったのか!」

「ッ!?」

 

 怒声が耳に入り、顔を上げるハルユキ。いつの間に近づいてきたのか、黒雪姫は目の前に立っていた。その美しく流麗な顔を、激しい怒りで歪めながら。

 

「で、でも……。技が三つしかないんじゃ」

 

 尚も弱音を口にするハルユキに、黒雪姫は肩の力を抜いて息を吐いた。

 

「初めから強い者なんていないさ。経験を積んで、Lvを上げて、強くなっていくものだ。それに、そのデュエルアバターは君自身の心が生み出したものなんだぞ、他ならぬ君が信じてあげないでどうする」

 

 優しげな声で、諭すように黒雪姫は言葉を投げかける。信頼がこもった助言を聞いたハルユキは萎えかけていた心を奮い立たせると、黒雪姫に強い意思を込めた視線を送った。

 

「分かりました……僕はまだ自分を信じきれていないですけど、ほかの誰でもない、あなたがそう言ってくれるなら、信じてみます」

「そうか……。まぁ、私の言葉で君が前を向いてくれるならばそれでいいさ」

 

 嬉しそうにふっと笑みを浮かべ、黒雪姫は頷いた。

 

 

 

「さて、大まかな説明はこれで終わりだ。そろそろ食事の再開といこうか」

 

 長い説明が終え、加速の時間が終わる。現実の世界に戻った黒雪姫は、開口一番にそう告げた。

 その言葉に、ハルユキは自身の前に置かれたカレーライスを見る。湯気がほかほかと出ているのを見て、忘れかけていた空腹感が戻ってきた。

 どうせなら人が集まるラウンジではなく、何処な人気のない場所で食べたいのだが――黒雪姫先輩にそれを言っても気にするな、の一言で終わってしまうだろう。ハルユキは極力回りを気にしないようにすることにした。

 

 ――ここに居るのは僕と先輩だけなんだ、他には誰もいない……誰もいない……。

 

 ぶつぶつと自身に言い聞かせてスプーンを口に運ぶ。黒雪姫もまた、自身の昼食――グラタンの具をスプーンで掬い取り、ゆっくりと薄桃色の唇へと運んでいく。そんな食事の姿でさえ、先輩は気品があり優雅な仕草だと思いながら、ハルユキはカレーを食べ続けた。

 

 

 食事が終わり、午後の授業が始まるまでの休憩時間の時だ。そこで、ハルユキは黒雪姫に注意してほしいことがあると知らされた。

 

『一つ、言い忘れていたことがあった。注意してほしい人物がいる、確証はないのだが』

『注意してほしい人物……ですか?』

 

 思わず聞き返したハルユキに、黒雪姫は頷く。

 

『ああ、君もよく知っている人物だよ。この前、私達に助力してくれたスクールカウンセラーの納野サヤ先生さ』

『ええ!? サヤ先生ですか!?』

 

 驚愕し、目を見開く。思いがけない名前が出てきたからだ。納野サヤ――チユリのことや、荒谷達の件でいろいろとお世話になったハルユキにとっては恩のある先生だ。とにかく、理由を聞かなければとハルユキは黒雪姫に尋ねる。

 

『でも、どうしてサヤ先生に注意する必要があるんですか?』

 

 加速の世界を知っているのは子供だけで、大人には知られていないとハルユキは先の説明で聞かされていた。最年長でも、十五、六歳までらしい。サヤ先生の年齢は知らないが、まさか先輩と同い年程度……などということはない筈である。

 

『サヤ先生が、バーストリンカーだとは思っていないさ。その可能性があるのは、周りにいる女子生徒達だ』

『女子生徒……カガリ先輩ですか?』

『そうだ。出灰カガリ、神足ユウ、黒衣マト、小鳥遊ヨミ……彼女達の誰か、もしくは全員がバースト・リンカーの可能性がある』

『それは……でも、どうしてです?』

 

 同じ中学の生徒に、四人のバースト・リンカーがいるかもしれない。ハルユキは緊張して唾を飲み込む。今朝と同じように、対戦を挑まれる可能性がまさかこんなにも身近に存在しているとは。

 

『私も、つい最近までは全く分からなかった。きっかけとなったのは、君もよく知っている荒谷達の一件さ』

『荒谷達ですか?』

『あの時、私達は彼女に助けられたわけだが……不思議に思ったことはないか?』

『えっと……何がでしょう?』

 

 黒雪姫に言われ、事件のあらましを思い返す。ハルユキの記憶では――ラウンジで荒谷達と騒ぎになった昼休み。そこにサヤ先生がさっそうと登場し、助けてくれた。恐らく、前の日にチユリが相談を持ちかけていたんだろう。スクールカウンセラーという指導者的な立場にあるサヤ先生が、問題の多い生徒であった荒谷達を罰したのは普通のことだし、特におかしな点は見当たらなかった。

 

『そうだな、確かに彼女の行動には何も不審なところは無い。スクールカウンセラーという立場上、彼らの問題行動も知っていたのだろう。だが、彼らがラウンジヘやって来たのはただの偶然だ。にも関わらず、彼女は随分と来るのが早かったじゃないか。あの時、加速していた時間を除けば荒谷達が来てから一分ほどしか経ってはいなかっただろう』

『それは、確かにそうですが……。サヤ先生は荒谷達を処罰する為に探していたんじゃないですか?』

『いや、それはないだろう。何故なら、黒衣マトと神足ユウ。この二人があの場に居たからな、荒谷達が来る前からだ』

『……? その二人がどうかしたんですか?』

 

 ラウンジは生徒達に人気の高い場所だ。昼休みにいたとしても不思議じゃない。ハルユキはそう考えたが、彼女は違うらしい。黒雪姫は目を閉じて腕を組み、じっと考え込むような仕草を見せる。

 

『先にも言ったとおり、確証はないんだ。だが……もしかするとあの二人は私を狙っているのかもしれない』

『ええっ、先輩をですか!?』

 

 驚愕するハルユキに、黒雪姫は神妙な表情で肯定する。

 

『黒衣マトに神足ユウ、この二人は随分前からよく目にしているんだ。初めは他の生徒と同じように、生徒副会長である私に色眼鏡を向けているのかと思ったのだが……どうも違うらしい。あの二人が私に向けてくる視線は、興味深い物珍しげな対象を観察しているような……そんな値踏みをされているように感じる』

『それって……』

『恐らく……君の想像のとおりだ。一介の生徒である私ではなく、黒の王にして、加速世界最大の反逆者――黒の王(ブラック・ロータス)としての私を彼女達は見ているのかもしれない』

『ッ!? で、でも……先輩は二年間ずっと外でグローバル接続はせずに対戦を避けてきたはずじゃ!?』

 

 黒雪姫――ブッラク・ロータスは赤の王を騙まし討ちした一件で、加速世界における最大の反逆者として指名手配されることとなった。しかし、その対策として二年間ずっと学内以外でのグローバル接続を避けてきたのだ。

 

『そのとおりだよ、ハルユキ君。それに……私は全校集会の場でマッチングリストを確認することで、私以外のバースト・リンカーが梅郷中に存在しないかは調査済みだった。リストには私の名前だけが表示されていたし、彼女達がバースト・リンカーであるはずがない……その筈だったんだ』

 

 学生達は学内にいる間、必ずローカルネットに接続しなければならない義務がある。朝礼などの場で接続していなければ、すぐに警告されてしまうだろう。つまり、その場に出席する全生徒が接続しているのだ。

 

『だが、その認識は覆された。今から二ヶ月前、私に対戦を挑んできた一人のバースト・リンカーの手によって』

 

 忌々しそうに、眉間を曇らせて語る黒雪姫。

 

『た……対戦したんですか!?』

『ああ、したさ。対戦相手の名はシアン・パイル。Lv4と表示されていたな。だが、本当に問題なのは別にある。その時に、私がダミーアバターを使用していたことだ』

『ダミーアバター……本来のデュエルアバターとは別の、観戦用のアバターですか』

 

 ダミーアバターは、正体を隠して他のバースト・リンカーの対戦を観戦する為のものだ。ハルユキと対戦した時も、黒雪姫はデュエルアバターは使用せずにダミーアバターで代用していた。

 

『そう、私は変更していたダミーアバターで対戦フィールドへと駆り出された。学内のローカルネットで使用している、あのアバターでな』

『じゃ、じゃあ……?』

『そうだ、私はシアン・パイルに正体を知られてしまった。今思えば、私が愚かだったよ。加速世界から遠ざかっていた二年の間に、危機感が薄れていたのだろう。自身が狙われる立場にあるということを失念していた』

 

 悔しそうに、黒雪姫が唇を噛む。ハルユキからすれば、二年間も緊張感を保ち続けるなんて考えられないことだ。多少気が抜けてしまっても、それはしょうがないことだと内心で思った。

 

『その後、私は次の朝礼の場ですぐにマッチングリストを確認した。だが……』

『見つからなかったんですか……?』

『……マッチングリストに表示されたのは、変わらず私の名前だけだった。つまり、奴――シアン・パイルはブロックできるのだ、こちらからの対戦の申し込みを。一方的に対戦を申し込み、相手からは乱入されない……恐るべき特権だよ。一体、どんな手品を使ったのか是非教えてほしいものだ』

 

 憂鬱そうに嘆息し、黒雪姫は真剣な表情を作った。その美貌を凛々しく引き締め、ハルユキを見る。

 

『もう分かったと思うが、私の周りは敵だらけだ。かつて立ち上げたレギオン――ネガ・ネビュラスも崩壊し、今の私は孤立無援と言っていい。厳しい道のりになるのは間違いないだろう』

『そう、ですか……』

 

 黒雪姫の宣告に、ハルユキはごくりと唾を飲み込んだ。緊張で、嫌な汗が流れるのを感じる。

 

 ――でも、先輩がいてくれるならどんな困難な道だって踏破できるはずだ!

 

 確かに、黒雪姫の言うように前途多難なのは間違いない。しかし、ハルユキはそれほど不安は感じなかった。何故なら、憧れの先輩が負ける姿を想像できなかったこと。そして初戦で無事に勝利したことが、大きな自信になっていたからだ。

 

『でも、先輩と一緒ならきっと大丈夫です。一緒にLv10を目指しましょう!』

 

 ハルユキの珍しく強気な発言に、黒雪姫はきょとんとした表情で目をぱちぱちさせる。そして、ちょっと格好つけすぎたかな――と焦るハルユキの前でクスクスと笑った。

 

『な、何も笑わなくても』

『いや、すまない。君がそんなことを言うとは思わなくてな。そうだ、共に目指そうじゃないか。頼りにしているぞ、ハルユキ君』

 

 少しむっとして拗ねるハルユキに、黒雪姫は楽しそうな声で信頼を表す。気恥ずかしくなって、ハルユキは話を戻そうとした。

 

『と、とにかく! サヤ先生と周りの女子生徒――カガリ先輩達に気をつければいいんですよね』

『そうだ。何度も言うように、確証はないのだが気に掛けておいてほしい。シアン・パイルの目的と正体がわからない以上、用心しておくに越したことはないからな』

 

 そこで丁度よく昼休みの終了を告げる鐘が鳴り響き、ハルユキは自身の教室へと戻る事となった。

 

 

 午後の授業は、ほとんど頭に入らなかった。手にした加速の力、黒雪姫先輩を狙うシアン・パイル、今後の方針。考えることが多すぎて、頭がぐるぐると回っていた。

 

 ――もう、後戻りはできないんだ……いや、するつもりも無い。もう、僕は前とは違うんだ!

 

 そう、ハルユキは心中で自身を鼓舞する。現実が壊れることを望み、望んだ通りに新たな非日常が舞い降りてきたのだ。後悔なんてある筈もないし、する必要も無い。前へ進むだけだ。ブレイン・バーストは簡単にいってしまえば、仮想空間を舞台にした対戦格闘ゲームである。ありったけの時間と情熱をゲームに注いできたハルユキにとって、恐れる理由など何もない。

 

 そんなことを考えながら下駄箱で靴を履き替え、昇降口から校舎を出ようとした時。

 

 ――今日、三度目になる加速がハルユキの前で発動した。

 

「ッ!? まさか、シアン・パイル!?」

 

 黒雪姫ではなく、今度は新たしく彼女の配下になった自身を狙ってきたのか! そんな思考がハルユキの中で展開される。

 

 ――慌てるな! これはむしろ好都合じゃないか、僕はあの人を守ると決めたんだ!

 

 先輩の話によれば、シアン・パイルはLv4のバースト・リンカーらしい。同じLv1だったアッシュ・ローラーよりも強敵のは間違いない。緊張に顔を強張らせながら、ハルユキは変貌する世界でじっと身構えた。

 選択された対戦フィールドは、奇しくも今朝と同じ世紀末ステージだった。無造作に置かれた多数のドラム缶から、赤い炎が燃え上がり周囲の廃墟を照らしている。

 

「とにかく、まずは相手を見つけないと」

 

 黒雪姫に教えられた機能の一つ、ガイドカーソルをハルユキは見る。水色の三角形したソレは、対戦相手の位置をおおまかに教えてくれるものだ。さすがに距離までは分からないが、方向だけでも知っていれば奇襲の危険性は少なくなる。周囲を注意深く警戒しつつも、ハルユキはカーソルが示す方向へと歩いていく。

 

 そうして、どれくらいの時間が経過したのか。散策を続けていたハルユキの耳に、つい最近に覚えのある音が聞こえた。

 

「これは、バイクの振動音……?」

 

 地鳴りの如く響く音は、今朝ハルユキが対戦したアッシュ・ローラーが乗っていたバイクの騒音と同じだった。もしかして、アッシュ・ローラーがリベンジを仕掛けてきたのかと一瞬考える。しかし、それはないと即座に否定した。

 

「学内のローカルネットで、アッシュ・ローラーに対戦を挑まれるはずがないんだ」

 

 と、そこでハルユキは重要なことを忘れているのを思い出した。対戦相手の名前は、体力ゲージを表示している青いバーの下に表示されているという基本的なことを。

 そんな当たり前の事実を失念していたことに、思った以上に自身が緊張していたことをハルユキは悟る。一度深呼吸して肩の力を抜き、対戦相手のネームを確認しようとして――。

 

 言いようのない悪寒が背筋に走り、ハルユキは後方へと飛び退いた。

 その判断が正しかったことを示すように、つい先程まで立っていた場所が爆音と共に弾ける。

 

「なッ!?」

 

 目を見開くハルユキの視界で、抉られた地面が衝撃の威力を物語っていた。

 思わず息を呑み、拳をぎゅっと握り締める。ガイドカーソルが示す方向へと目を向け、ハルユキは奇襲を仕掛けてきた下手人を視界に捉えた。アッシュ・ローラーが乗っていた、モンスター・マシンよりさらに一回り巨大な大型バイクに誇る人物を。

 

 黒のジャケットを羽織り、黒髪の長いツインテールを風になびかせている。ハーフパンツとブーツも黒一色で、対照的な白い肌と混じり合って強い存在感を放つ。海のように青い瞳には鮮やかな蒼炎が宿り、酷く印象的だった。そして――何より目につくのが、右腕に装着された巨大な銃身(ロック・カノン)

 

「ブラック・ロックシューター……」

 

 今度こそ、表示されていた対戦相手の名前を見て……ぽつりと呟いた。ハルユキ――銀の鴉(シルバー・クロウ)にとって長い因縁の相手となる、漆黒の少女の名を。

 




 とりあえず、やっとブラック★ロックシューターが登場しました!
 何分、作者が想像力にとぼしい為に筆が遅くなっています。1ヶ月も更新が滞ってしまい、読んでいただいてる方には申し訳ありませんでした。宜しければ、今後も目を通してもらえると嬉しいです。

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