雪の軌跡 作:玻璃
難しいね。
そもそも自分自身が名で体を表せてないからね。
では、どうぞ。
ふと、街区の方を見下ろしてアルシェムは絶句した。
「…ふぅ…さーて、街区…は…え!?」
「どうしたの、アル?」
「…特務兵が蛇の手先を狩ってる…」
「そうとも。彼らは…王国の危機に駆けつけたのだよ。」
格好付けているつもりなのだろうか、ただの痛々しい人なのか。
どちらにせよ、黄昏るのはやめろや。
そこで、女王が出て来た。
「…それは、リシャールさん。貴男もです。」
「…アリシア陛下。クローディア姫殿下。ご無沙汰しております。その節は…」
「何も言わずとも良いのです、リシャール殿。貴男は私達を助けに来て下さった。それだけで十分です。」
ほんわりと笑う女王。
流石女王。
「陛下…」
「特務兵の方達も、です。これほど嬉しいことはありませんよ?」
「有り難いお言葉、至極光栄です。」
リシャールの心の中は幸せで満たされていた。
大丈夫かコイツ。
「…さて、結社は動いたし…帝国はどー動くかな。」
「え…どういうこと?」
「エステル…この間聞いただろう?《鉄血宰相》は、少なからず結社に繋がっているんだよ。」
勿論、次に動くのだろう。
そうでなくては、意味がない。
「あ…」
「来るとすれば、導力以外に頼った兵器かな…内燃機関とか…蒸気機関もありか…」
流石に、導力が使えるものを持ち出した時点でアウトなのだが。
「そんな…」
「…すぐに、私がハーケン門へと赴きましょう。」
こらこら、この間の話はどうした。
と思っていると、クローディアが神妙な顔をして女王を見た。
…どうやら、覚悟は決まったようだ。
「…お待ち下さい、おばあ様。」
「クローディア?」
「…私に、任せては頂けないでしょうか?」
思ったよりも早い。
まあ、まだまだ未熟なのは分かっている。
補佐として、重箱の隅を突かせるか…
「…どうやら、覚悟は決まっているようですね。貴女の思うように、お行きなさい。」
「ありがとうございます。」
「あたしも行くわ!…じゃなくて、行きます。遊撃士として、出来ることがあるはずだから。」
目くばせをして、リオに計画を動かすことを伝える。
「…陛下。少しだけ、お待ち願えますか?」
「シスター・リオ…?」
「交渉に1人、連れて行って頂きたい方がいるんです。」
方。
上司、と思わせて別の人。
勿論、一番やりやすいのはヒーナだ。
「それは、どういう…」
「至宝の話ともなれば、アルテリアが内政干渉にならない程度にはご助力できるかと。ただ…アタシは口下手ですので、別の方にお願いしました。」
「…!それは…」
どういう真意があるのか、図りかねているのだろう。
だから、リオは少しだけ建前を教えてやった。
「アルテリアとしては、今エレボニアとリベールに戦争をされるわけにはいきません。ただそれだけです。」
「…受けましょう。すぐに発って頂けるのですか?」
「ええ。それは勿論。」
「では…お願いします。」
リオはそのまま教会へと駆けて行った。
「シスター・ヒーナ。」
「はい。」
「…頼んだよ。ここを乗り切ったら帝国をやり込められる。」
「それは…やりがいがありますね。良いでしょう。」
という会話がなされていたとかなんとか。
王城からヴァレリア湖を船で越え、ボースへと向かう。
その間、リオ達は緊張で沈黙していた。
ハーケン門へとたどり着くと、既にエステル達はスタンバイしていた。
「お待たせ、エステル。」
「リオさん。その人が…」
「初めまして、エステルさん。私、シスター・ヒーナ・クヴィッテと申します。以後お見知り置き願いますわ。」
そう言って、ヒーナは自己紹介して見せた。
ヨシュアが驚いていたのは言うまでもない。
まあ、別人だとしらを切りとおす気満々なのだが。
「初めまして、遊撃士のエステルです。」
「…あの。」
黙っていられなかったようで、ヨシュアはヒーナに声を掛けた。
「どうかなさいましたか?」
「貴女は…一体、何者なんです?僕の情報網には引っ掛かりすらしませんでしたが。」
「ああ…あのネギ上司は下手すぎるんですよ。これでお答えになりましたか?」
妖艶に笑って、ヨシュアにこたえる。
「…そうですか。」
少し怯んだのか、ヨシュアは引き下がった。
「来ました!第三機甲師団と思われます!」
「…ふふ、やりやすくなりましたね。」
「行きましょう!」
ハーケン門から外へ出ると、戦車と共に《隻眼》ゼクスがやってきていた。
「我は帝国軍第三機甲師団所属、ヴァンダール中将である!貴国の危機と聞き、力を貸し参じた!お通し願いたい!」
「…お気持ちはありがたく存じます、ヴァンダール中将。」
ここからは、クローディアの役目だ。
「貴女は…」
「お初にお目にかかります。私はこの度、次期女王に指名された者です。」
「おお…これは失礼した。クローディア姫殿下にあらせられるか。その御髪は…」
「まだまだ未熟者故の決意の現れ、とでも笑って下さい。」
最初から短かったじゃねえか。
そんな突っ込みはなしでお願いします。
「いやはや…」
「それよりも、中将閣下。後ろの方々は…」
押し負けそうになるまで聞き流す。
ぶっちゃけ、どうでも良い。
押し負けるなら、今はそれまでの器だということだ。
そして、今はまだ押し切れなかった。
「支える篭手の名に掛けて誓うわ。」
「だが、それはどう証明するのかね、若き遊撃士よ。」
「それは…」
…さあ。
ここからだ。
次回、ヒーナ女史の独壇場です。
嘘かもしんない。
では、また。