雪の軌跡   作:玻璃

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一章分なんか使うかって。
SCは短いですからね。

では、どうぞ。


四輪の塔

ハーメルの話が終わった謁見の間に、兵士が駆け込んできた。

「報告です!四輪の塔が不可思議な力場のようなものに包まれたそうです!」

「何だと!?」

「また、各地に紅い兵士が出没し、機械人形が塔を守るように徘徊しているそうです!」

「…やる気満々だね。」

結社の仕業に間違いない。

「分かりました、報告ありがとうございます。下がっておやすみなさい。」

「はっ!」

兵士が去った後に、陛下は口を開いた。

「…どう思われますか、ヨシュアさん、アルシェムさん。」

「十中八九、結社の仕業でしょーね。」

「すぐに動くべきだと思います。」

「そうですか…」

取り返しがつかなくなる前に。

被害は、最小限に納めなければならない。

「…おばあ様。私にアルセイユをお貸し下さい。」

「クローディア…分かりました。貴女のことです、何か考えがあるのでしょう。」

「…はい。帰ってきたら、結論を出そうと思います。」

…結論。

それは、まさか…

「行ってらっしゃい。無事に帰るのを待っていますよ。」

「はい!」

エステル達はアルセイユへと続々と乗り込むが、アルシェムは生憎乗る気はなかった。

「…ってあれ、アルは乗らないの?」

「執行者が動いてる。そっちは任せて紅い兵士でも狩っとくよ。ま、殺しはしねーけどね。」

「そう…無茶、しないでよね?」

って待てぇ。

「…いやいやいや、監視とかつけねーの!?」

「え、何で?」

「何でって…はー…」

エステルは、逃げるとは思っていないのだろうか。

このまま姿をくらませることだって出来るのに。

「大丈夫だよ、エステル。アタシが監視してるから。」

「え、リオも?」

「ま、一応ね。…頑張ってきてよ。」

「分かったわ。」

アルセイユが飛び立った。

それでも、まだ出来ることがあるから。

アルシェムは、エルベ周遊道へと向かった。

メルカバに入るや否や、リオに怒られた。

「…もう、しっかりしてよね、アルシェム!」

「今は守護騎士。」

「…分かったよ、ストレイ卿。」

今から、アルシェムはエステル達とは別ルートで四輪の塔へと向かう。

「…裏技使うよ。」

「裏技?」

「紅い兵士の意識だけ凍らせる。」

意識を凍らせてしまえば、もう何もできない。

何もさせない。

「え゛。そんなこと出来んの!?」

「実例を見たじゃねーの。さっきまで、わたしは自分に聖痕使ってたんだよ?」

「…だから、泣き叫ばなかった…?」

そう。

だから、アルシェムは泣かなかった。

叫ばなかった。

心の一部を凍りつかせて。

ただ、あるがままに受け入れられるように。

そうしなければ、心が死んでしまいそうだったから。

「そ。まー、目視が必要だから移動しねーとね。ロレント方面から回るよ、リオ。」

「分かった。」

ロレントへとメルカバで向かう。

エステル達が向かったのはロレントではないのは分かっているから。

「動けねーよーにするだけでいーからね。」

「え、執行者が何するか分からないのにそっちは放置なの?」

「第二結界を消滅させるんだよ?わたしの任務は何、リオ?」

何があっても、果たさなければならない。

一応は、アルシェムは守護騎士だから。

「《輝く環》の回収とリベールへの楔の打ち込み、だよね?…まさか。」

「そ。《輝く環》を出さねーと話になんねーのよ。」

出現させなければ、回収もままならない。

多少の混乱は起こるだろうが、それしかない。

「そう、だよね…でもそれって、一種の賭だよね?」

「まーね。でも、これ以上の手はねーのよ。…ごめんね。」

「…分かった。」

『シエル』の変装をして、メルカバから外へと出る。

見つからないうちに、深呼吸して、そして…

 

「…我が深淵にて瞬く蒼銀の刻印よ。我が命に応え、彼の者共の戦意を凍てつかせよ。」

 

聖痕を、発現させた。

「…あ…」

途端に動かなくなる兵士達。

「…リオ。」

「あいよ、インフィニティ・ホーク!」

大剣型の法剣が、兵士達を蹂躙した。

暫くは再起不能になるだろう。

「相変わらず、凄いね。」

「ま、こんなものだよ。」

「次はボースだね。」

ゆっくりと、メルカバに戻る。

「…うん。急ごーか。エステル達と鉢合わせたくねーし。」

「そうだね。」

メルカバをボースへと向かわせると、塔に《パテル=マテル》が止まっているのが見えた。

「…あれは…確か、《パテル=マテル》?」

「…あー…ここは、レンがいるんだね。…さっさと済まそ。」

「あ、うん…」

メルカバから降り、一気に兵士達の目前に飛び出て聖痕を解放する。

 

「…我が深淵にて瞬く蒼銀の刻印よ。我が命に応え、彼の者共の戦意を凍てつかせよ…」

 

動きが止まったその隙に、リオがクラフトを叩き込む。

「インフィニティ・ホーク!」

「何かリオのクラフトみてー…」

「違うからね!?」

メルカバに戻り、ルーアンへと向かわせる。

「さて、まだまだ…健在だね。」

「そうだね。…ストレイ卿、お願い。無茶はなしで。」

その言葉に首肯し、兵士達の前にその姿を晒す。

 

「…我が深淵にて瞬く蒼銀の刻印よ。我が命に応え、彼の者共の戦意を凍てつかせよ…」

 

最早、無茶をするなと言われても止まれない。

「…インフィニティ・ホーク!」

相変わらずの大威力。

可哀想に、かなり吹き飛ばされていった。

まあ、塔の壁には傷一つ付きはしなかったが。

「…容赦なさすぎねー?」

「これがデフォルトだからね!?」

メルカバをツァイスへと向かわせる。

そろそろ、キツイ。

だが、まだ倒れるわけにはいかない。

「…本当に大丈夫?あんまり顔色良くないけど…」

「ま、精神的な、力だし…仕方ねーのよ。」

「うーん…」

それでも、力を振り絞って。

アルシェムは、兵士の前に立った。

 

「…我が深淵にて、瞬く…蒼銀の刻印よ…我が命に応え、彼の者共の…戦意を、凍てつかせよ…」

 

大分、辛くなってきた。

「やっぱり無茶だよ…」

「…リオ?」

「…っ、インフィニティ・ホーク!」

兵士が倒れたのを見て、アルシェムは漸く一息ついた。

「…よし、状況クリア。戻ろーか。」

「分かった。」

変装を解き、エルベ周遊道へとメルカバを向かわせる。

レーダーでアルセイユの動きを把握しているが、一向に戻ってくる気配を見せない。

「…戻って…来ねー…」

「そうだね…」

「…っ…」

もう、限界だった。

「アルシェム!?」

「…だいじょ、ぶ…だから…」

虚勢を張っているのがバレバレだ。

もう、誤魔化しきれない。

「真っ青じゃん!何が大丈夫なのよ!すぐに人を…」

「…まっ…て。」

「何で!?今アンタがヤバいのは自分でも分かってるでしょ!?」

分かっている。

だけど、今は…

「…側に…いて。…1人に…しないで…お願い…」

「…分かったよ。もう…」

「…ありがと…」

1人に、なりたくなかった。

お願いだから、どこにも行かないでほしかった。

どうか、お願い。

「…思いっきり、泣いたって良いよ。アンタはまだ子供なんだし。」

「2つしか…変わらねーでしょ…」

「2つも変われば変わるから。アタシはお姉さんなんだよ?」

「お姉さん…?どこが…?」

子供っぽいのに?

「胸とか?」

…それは否定できない。

「胸なんて、ない方が良いよ…」

動くのに邪魔だし。

「…アルシェム…」

その時だった。

 

「…っ!あ…」

 

何、この感覚は。

これは…

でも、そんな…

マズイ。

今は、使い過ぎで精神を凍らせられない…!

「アルシェム!?」

「見られて、る…」

怖い。

「え?感じないけど…」

「周りじゃ、ない…上!」

「…まさか…!」

アルシェムとリオは、メルカバから出て…

そして、絶句した。




まだまだ甘いエスエル。
だけど、アルシェムは止まらない。
止まれない。

では、また。

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